AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 12, 1999, Vol.286


D" における固体-固体相転移 (A Solid-Solid Transition at D")

鉄からなる液体の外核のすぐ上には、固体ケイ酸塩マントル中に D" と呼ばれる薄い層が存在し、その層は地震波解析によると特異なも のである。このコアとマントル間を結合する重要な層は、十分には 解明されないまま残されてきた。Sidorin たち (p.1326) は、全地 球的なトモグラフィーのモデルと D" をサンプリングする地震位相 の波形解析とを結び合わせて、その構造と整合性のあるモデルを導 いた。コア-マントル境界上部およそ 200km に於ける固体-固体相 転移現象と考えると、彼らが解析したデータに対して一番もっとも らしい説明を与えることができる。彼らは、D"はコア上部で高さが 変化しており、第3の主要な不連続性を表している領域であると示 唆している。この提案された相転移に伴う鉱物を特徴付けるには、 さらに追加の実験データが必要であろう。(Wt,Og)

急速な融解の発現(Rapid Melting Revealed)

固体を融解するとき、普通、表面の欠陥あるいは包有物において、 液相の結晶生成核が生じる。しかし、もし十分な高エネルギーで急 激に熱せられると、半導体表面は、熱によってプロセスが緩和され る前に、完全にそして同質に融解する。結晶性の規則性が喪失する 状態を直接観測するためには、極端に速いX線回折法が必要である。 Sidersたち(p.1340;Nelsonによる展望記事参照)は、ピコセカンド (10の-12乗秒)のX線パルスを用いて、ゲルマニウムの単結晶薄膜に おけるこうした非熱的融解を観測した。(TO)

HIVが入ってくる(HIV Moves In)

Zhangたち(p.1353)は、異性間ウィルス伝達の動物モデルから、ヒ ト免疫不全症ウイルス-1型感染の初期に発生することについて、2 つの驚くべき報告を行っている。彼等は,ウィルスを膣内接種した (inoculated intravaginally)ときに、マクロファージあるいは樹 状突起細胞よりもむしろリンパ球が最初に感染することを見つけた。 さらに、増殖を示す初期の分子マーカーが存在しないという証拠に より、感染した細胞の多くは活発に分裂せず、むしろ無活動である。 感染した休止細胞は、抗レトロウイルス治療を行った後のヒト患者 のリンパ節生検でも見られることがある。細胞保有宿主からのウィ ルス根絶に向けた努力のためには、この感染細胞集団の状態を理解 することが重要である。(TO)

竜脚類の変異(Sauropod Variation)

サハラから新たに発見された幾つかの白亜紀時代の竜脚類恐竜が, Serenoたち(p.1342)によって報告されている。グループとして見 た場合、1億3千万年前から1億年の範囲に渡るこれら竜脚類は,他 の大陸における竜脚類と比べて進化が比較的遅れている。こうした データや他の竜脚類との比較は,巨大恐竜においては骨格的進化の 割合はかなり不均一であることを示している。(TO,Og)

周辺でも効果あり (Effective Even on the Fringe)

磁気トンネル接合は電源が切られても、オンやオフの状態を保持す る不揮発性のダイナミックメモリー素子を提供する。磁気的にハー ドな基準レイヤーとスイッチ可能な磁気的にソフトなレイヤーで構 成するスピンに依存する磁気トンネル接合では、ハードレイヤー全 体をスイッチするより非常に低い磁界でも、ハードレイヤーの磁化 がスイッチングサイクルの増加により減衰する。McCartneyたちは (p. 1337)、磁気イメージング技術を用い、磁気的にソフトなレイヤ ーの磁区の壁に発生する大きな周辺磁界が磁化減衰の原因であるこ とを発見した。この発見により、より効率の良い磁気メモリーの開 発が可能になるだろう。(Na)

タグを作成(Making the Tag)

タンパク質の標的分解は、多様な細胞過程の重要な制御機構である と分ってきた。タンパク分解は、タンパク質にユビキチンで共有結 合性タギングをすることによって開始するが、これはが、分解機構 に認識されるシグナルである。ユビキチン添加を触媒する酵素は、 ユビキチンタンパク質リガーゼと呼ばれ、そのひとつE6APが、ほ とんどの頸部癌において、腫瘍サプレッサーp53の分解を仲介する。 Huangたち(p 1321)は、単独のE6APおよびリガーゼに活性化ユビ キチンを提供するユビキチン結合性酵素とE6APとの複合体の触媒領 域の結晶構造を記述している。(An)

活躍しているミトコンドリア(Mitochondria in Action)

細胞内カルシウム貯蔵は、興奮性細胞の機能において重大な役割をは たす。このカルシウム貯蔵システムの重要な部分は、細胞にエネルギ ーを供給するミトコンドリアである。Jonasたち(p 1347)は、細胞 膜の興奮とミトコンドリアの電気的活性との生理学的な関係を生体内 で証明した。著者は、ヤリイカの巨大シナプスのシナプス前の無傷 boutonにおいて、ミトコンドリアからの信号を記録することができ た。ニューロン刺激後、ミトコンドリアのイオンチャネル活性のカル シウム依存増加を 観察した。(An)

Rskを突き止める(Pinpointing Rsks)

発生の間、ある種のニューロンでは成長因子が奪われた場合細胞死と なる。このような、成長因子に依存した生存に寄与するシグナルは、 少なくとも部分的には分裂促進因子に活性化されたタンパク質キナー ゼ(MAPK)によって活性化されて仲介される。しかし、MAPKの本当の 標的はよくわかってはいない。Bonni たち(p. 1358)は、タンパク質 キナーゼRsk2(pp90リボゾームのタンパク質S6キナーゼファミリー の一員)は、MAPKによってリン酸化され、活性化され、脳に起因する 神経栄養性因子にさらされた小脳顆粒ニューロン (cerebellar granule neurons)中の細胞の生存に影響を及ぼすことを 仲介しているらしい、と報告している。 Rsk2は細胞の生存に2通りの 方法で影響を及ぼしているらしい:Rsk2はリン酸化することで、アポ トーシスを促進するタンパク質であるBADの効果を抑圧する。Rsk2は また、転写制御因子のCREB(cAMP応答性エレメント結合タンパク質) をリン酸化して活性化する。CREBの活性化は順次Bc l2の発現を増強 する。このBc l2は細胞生存を助けるタンパク質である。展望記事にお いて、NebredaとGavinはこれらの発見について、また、Rskが細胞周 期の制御にかかわっているもう1つの役割についての2つの報告につい て議論している。受精の前は、ほとんどの脊椎動物の卵は減数分裂IIの 中期にある。細胞分裂停止因子 (CSF)と言う名前はこのような卵に存在 する酵素活性に与えられたもので、これが分裂中の胚中に注入されると 中期における有糸分裂が静止する。このような"CSF 静止"はタンパク質 キナーゼMosによって始まるが、これはMAPKキナーゼMEKやp42MAPK の一連の活性化を引き起こす。p42 MAPKの決定的標的はタンパク質キ ナーゼのp90Rskであることが分かっている。BhattとFerrell (p. 1362)は、アフリカツメガエルの卵からの抽出物からRskを除くと、 活性化Mosに応答した有糸分裂の静止を妨げることを示している。 Grossたち(p. 1365; および表紙)は、Rskの活性化にはp42 MAPKと 3-ホスファチジルイノシトール-依存性キナーゼ-1(PDK-1)によるリン 酸化が必要であることを実証した。彼らはまた、Rskの構造的活性型を 作り、アフリカツメガエルの2細胞幼胚の分割球中に感染させて中期静 止を生じさせた。Rskの活性化はこのようにCSF静止に必要十分である。 (Ej,hE)

必要になったらおこしてくれ(Wake Me When You Need Me)

一般的に調節タンパク質は構成的に活性であると考えられていた。 Pugserverたちは(p. 1368)、活性化補助因子は、実際には、補助DNA 結合タンパク質と結合していない場合には不活性であることを示してい る。一旦、転写制御因子とその活性化補助因子が結合すると、その活性 化補助因子に立体配置的な変化が起き、ヒストン-アセチル基転移酵素 であるSRC-1(steroid receptor coactivator-1)とp300/CBP (CREB binding protein)などの付加的な活性化補助因子の補充につな がる。このように転写制御因子のドッキングは特異性機構を提供する。 (Na)

ショットを記憶しているものは?(Remember Those Shots)

ワクチン接種により、病原体が侵入したさいにはすばやい免疫応答が開 始され 。この迅速なる応答性は適切なリンパ球に残されている「記憶」 の結果である。T細胞の記憶保持には、T細胞の抗原受容体が抗原か、或 いは少なくとも主要組織適合性複合体 (MHC:major histocompatibility complex)タンパク質のどちらか を覚えていることが必要と考えられている。Swainたち(p. 1381)は CD4 T細胞の記憶必 要因子を研究し、そしてMurali-Krishnaたち (p. 1377)もCD8 T細胞に関して同様 のことを研究した。いづれのサブ セットも記憶を保持するためにはMHCタンパク質や抗原を必要としない。 このような記憶をつくり出しているのが何であるのか 、そしてどのよう に維持されているのかを理解することが、より有効なワクチン 接種の方 策を考えるうえで基本となるであろう。(KU)

一つの親から(A Single Parent)

炭素質コンドライトは、原始的な隕石、おそらくは太陽系星雲において形 成された最初の主要な構成物が、微惑星(すなわち母天体)の上に集積し たものである。この炭素質コンドライトは、その鉱物学的特徴と酸素同位 体の組成から、いくつかのサブ・グループに分類され、これらのさまざま なサブ・グループは太陽系星雲の異なった天体に由来するものと考えられ ていた。最近の研究によって、酸素同位体の違いは、母天体上での二次的 な水質変成と関連する可能性があるとされている。Youngたちは、架空の 母天体についての有限差分流体フロー・モデルを開発し、母天体上での熱 勾配に沿った液体の水の放射状の流れによって、炭素質コンドライトの3 つの特有なタイプ(CV, CMおよびCIの各Oループ)の酸素同位体の特徴を説 明できることを示した(p. 1331)。つまり、炭素質コンドライトの酸素同 位体のいろいろな特性が、単一の母天体から進化した可能性がある。この 可能性は、太陽系形成のシミュレーションをより精密にする助けとなるか もしれない。(KF,Tk,Og)

泥まみれの事実(Dirty Details)

土壌中の有機物の多くは、ひっくるめて「腐植物質(humic substances)」 、すなわち、植物や動物の遺体が腐敗によって形成される天然の有機的高 分子電解質、と呼ばれる。この特徴付けるのが難しい物質は、土壌におけ る炭素サイクルから土壌の生産性までのさまざまな問題を理解するカギを 握っている。Myneniたちは、生体内原位置での分光測定によって土壌中の 腐食物質の構造の分布が明らかにできることを示している(p. 1335)。彼ら のデータは、酸性土壌においては腐食物質はコイルになっており、アルカ リ性土壌では延びた形状をしている、という単純な図式は不完全であるこ とを示している。(KF)

マラリア寄生虫のマップ作成(Mapping the Malaria Parasite)

マラリアをひきおこす熱帯熱マラリア原注(Plasmodium falciparum)の ゲノムの遺伝連鎖マップが、Suたちによって作成された(p. 1351)。マー カーは、25から30メガベースのゲノムの中で平均30キロベースの間隔を もっていた。このマップは、組換えの潜在的なホットスポットを正確に位 置付けているので、配列決定の試みや、病原性と薬剤抵抗性の遺伝的基礎 の理解に有益となろう。[Pennisiによるニュース記事参照のこと](KF)

代謝と自己制御(Metabolism and Self-Control)

アミノ酸生合成は、環境と細胞の条件変化に応答しての緊密な制御を要求 する基本的な代謝プロセスである。細菌や酵母についての研究によって、 おもしろい制御機構が明らかになってきたが、植物についての研究はほと んどなされてこなかった。Chibaたちは、遺伝学を用いてシロイヌナズナ のメチオニン(Met)生合成を検証した(p.1371)。Met生合成におけるキー となる酵素であるシスタチオニン・ガンマ合成酵素が、過剰なMetに応答 してそれ自身のメッセンジャーRNAを不安定化することが明らかになった。 この機構は、動物細胞におけるβ-チューブリン遺伝子の制御で用いられて いるものと同様のものである可能性がある。(KF)

各々の役割(A Role of its Own)

p44分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ (p44 MAPK:p44 mitogen-activated protein kinase)とそのアイソ フォームp42 MAPKは、広範囲の 細胞型に対して多くの様々な刺激に対 応した信号伝達に関与している。二つの酵 素の各々が特異的な作用をす るのか、或いは両者がお互いに相償って作用するの か明らかでなかった。 Pagesたち(p. 1374)は、p44 MAPKの欠如したマウスの表現 型に関して 記述している。p44 MAPKの欠如したマウスは生存可能であり、そして 繁殖性であるが、しかしながら胸腺細胞の成熟と増殖に特異的な欠陥を持っ てい た。p44 MAPKは生命にとって必須のタンパク質ではないが(多分、 残存している p42 MAPKが完全なる機能の欠如を防いでいる為)、免疫系 の発生に対して明瞭な役 割を持っているらしい。(KU)

第21染色体のダウン症候群領域におけるBACEに相同なBACE2 (BACE2, a Homolog of BACE, in the Down Syndrome Region of Chromosome 21)

Vassar たち(Research Articles, 22 October, p.735)は、β-分泌酵素 の活性によってアミロイド前駆体タンパク質(APP)を切断する膜貫通性アス パルチルプロテアーゼのBACEを同定し、その特性を決めた。遊離された生 成物の1つは39-から43-アミノ酸からなるアミロイドβペプチド(Aβ)で あり、これはアルツハイマー病(AD)の特徴である脳プラークの鍵となる成 分である。ADに特異的なβ分泌酵素を同定することは、この病気を治療す るためのプロデアーゼ阻害剤を開発することにつながるかも知れない。
SaundersたちはBACEの染色体上の局在化を見つけることによって、さら に研究を進めている。彼らは、BACEの配列と同一のアミノ酸配列である4 つの発現した配列タグを同定した(AI290317, AF150387, R55298, そ して H60581)。R55298は以前に第11染色体q23.2-11q23.3にマップさ れており、今回H60581は第11染色体上の集約マップ上の121.037センチ モルガン位置にマップされた。これとは別個にFanたちは照射ハイブリッド 分析によってBACEを染色体11q23.3 に局在化した。Saundersたちは Genbankデータベースを探索し、染色体21q22.3上に存在するBACE相同体 (BACE2)をコードした相補的DNA(AF050171, AF117892)の配列を検索し た。BACE と BACE2 は52%のアミノ酸配列の一致を示し、68%の類似度を 示す。BACE2はBACEと類似の位置に2つのアスパルチルプロテアーゼ活性 部位を持っており、このことからBACE2もまたβ分泌酵素であると推定され ている。これに応答して、Fanたちは、HEK 293細胞 におけるBACEアンチ センスオリゴヌクレオチドを使った実験から、BACE2は、少なくともこれら の細胞においては主要なβ分泌酵素ではないであろうと示唆している。更に 面白いことに、BACE2は不可避にダウン症候群(DS;トリソミー21)領域に マップされる。このように、DS患者のAPP遺伝子の余計なコピーの寄与に 加えて、BACE2の染色体局在化がβ分泌酵素の活性強化も中年のDS患者の 脳中のAβの産生増加とその豊富な沈着に寄与しているらしい。これらのコ メントの全文は以下を参照。(Ej,hE)。
www.sciencemag.org/cgi/content/full/286/5443/1255a
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