AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 22, 1999, Vol.286


半導体レーザ:一つのレーザから二つの波長 (Semiconductor Lasers:Two in One)

印可電圧の極性に無関係に動作する--双方向性--モノポーラな デバイスは通常のバイポーラのデバイスより有利である。 Gmachlたち(p.749)は、双方向的に作用する量子カスケードレ ーザを設計した。更に、レーザの注入領域を形成する一連の量 子井戸の注意深い設計にもとずき、著者たちは非対称性の形成 により、極性によって異なる二つの波長を発振するレーザが得 られることを示している。このような2波長レーザーは、2つ の異なる吸収スペクトルによる微量成分ガスの遠隔分析などの 応用に強力な手段となるであろう。(KU)

アミロイド(とセクレターゼ)の秘密が暴かれる (Amyloid Secret(ase) Revealed)

アルツハイマーは脳内へのアミロイドβペプチド(β)を含む不 溶性物質の蓄積が進行的に形成されることが特徴である。この ペプチドはアミロイド前駆物質タンパク質 (amyloid precursor protein: APP)がプロテアーゼβ-とγ- セクレターゼの2つの異なる、長い間探求されいた酵素により 切断されることで生成される。Vassarたちは (p. 735、Pennisiによるニュース解説も参照)、β-セクレター ゼの特徴を全て持つβ部位APP切断酵素である、膜貫通アスパ ラギン酸プロテアーゼ(beta-site APPcleaving enzyme: BASE)を同定した。BASEを特異的に抑制する物質が将来開発 されると、アルツハイマーに対する動物モデルでのアミロイド の果たす役割の実験が可能となり、この病気の新しい治療法の 可能性を拓く可能性がある。(Na)

溶液から無機の電子デバイスをつくる (Electronics from Solution)

現在用いられている無機電子デバイスの多くは、無機物質をガス 状態にして薄膜を作るという一連のステップで製造される。この ようなプロセスはかなり高い温度で行われ、かつ時には非常に高 価なものになる。Ridleyたち(p.746)は、ナノ結晶の低い融点を 利用した溶液のみによる製法という別の、潜在的に安価な方法を 用いている。沃化カドミウムとセレン化ナトリウムの混合によっ て得られるセレン化カドミウム(CdSe)のナノ粒子をピリジン中に 懸濁した。得られた溶液を基板上に印刷し、その後低温でのアニ ール処理によりピリジンを蒸発させるとCdSeの薄膜が形成され る。著者たちは優れた電気的特性を示す薄膜トランジスターを作 ることにより、このようなプロセスの可能性を実証している。 (KU)

氷漬けの海(Iced Seas)

最終氷河期最盛期(Last Glacial Maximum)の頃に氷床が集積し ていく長い期間に、突然の気候の変化が繰り返し起こった。こう した出来事やそれらの海面温度にあたえた影響の詳細な海洋の記 録は非常に少ないが、これは、急激な気候の変化をメカニズムや その程度を理解するために重要である。SachsとLehman (p. 756)は、最近3万年から6万年前の期間に広がっている海面温 度のBermuda Riseから高解像度な海洋記録を示した。その記録 は海面温度が突然2°Cから 5°Cに上昇した場所の幾つかのケース を示していて、それは最後の氷河期最盛期から完新世までに観測さ れた変化に匹敵する大きさである。これらの出来事は、グリーンラ ンドの記録に見られる出来事と類似している。温暖化の期間は不安 定が続き、急激かあるいは連続した氷河期の冷却が続いて起こった。 こうして、氷の掘削コアの記録に見られる急激な気候の変化は熱帯 海洋に影響を及ぼした。(TO,Nk)

進化に伴う複雑化の速度は低下している (Slowing Getting More Complex)

生物が進化に伴って複雑化するという議論は生物学で興味を持たれ ているテーマであるが、化石の記録からこの複雑化への変化を測定 することは極めて困難であった。Saundersたち(p. 760)は、デボ ン紀から三畳紀にわたる1億4000万年以上の間、588属の絶滅し たアンモナイトの仲間の軟体動物の隔壁構造が進化して複雑化する 様子について記述した。この時期は3つの大量絶滅があったときで ある。大量絶滅は、より複雑な構造を持つ種を、より高い確率で減 少させる傾向があるものの、大まかには進化と共に複雑度が増加す る傾向があることが分かった。このように、同じ系列では、複雑度 は進化と共に増加するが、生物的危機状態では、より複雑な種が絶 滅しやすい、と言う2つの有意な反対方向の進化傾向が分かった。 (Ej,hE)

最古の恐竜?(Oldest Dinosaurs?)

三畳紀の中期から後期は(およそ2億2500万年前から2億3000万年 前)恐竜進化初期における重大な期間であるが、当時の動物相の構成 については殆ど知られていない。Flynnたちは(p. 763)、マダガスカ ルにおける、新しく特定された恐竜とeucynodont(哺乳類に似た爬 虫類)を含む動物の化石群の発見について報告している。この発見は、 世界中でも非常に少ない当時の陸生脊椎動物の化石を提供するもので あり、特にこの恐竜の化石は最古のものであろう、又、eucynodont の発見はこの地域における1億7000万年という空白期間を埋めるもの である。(Na,Og)

成熟に伴う安定化(Stability with Maturity)

膜貫通タンパク質のノッチ(Notch)による情報伝達は、発達中の細胞 の運命を決定するために、色々な種類の組織で起きている。 Scurve estan たち(p. 741; Chenn とWalshによる展望記事も参照) は、ノッチの情報伝達は、大脳皮質の成熟して分化した神経細胞に とっても重要であることを示した。情報伝達経路の色々なタンパク質 成分は、樹状突起や制御樹状突起伸展(control dendrite extension) にも見られる。(Ej,hE)

フィードバックを提供(Providing Feedback)

概日時計の制御に関する新たな手掛りを主題とする2つの報告があった。 植物と昆虫において、クリプトクローム(CRYs cryptochromes)が光に よって活性化されるが、ショウジョウバエにおいては、CRYがPER-TIM 複合体のネガティブフィードバック作用を遮断する。Griffinたち (p 768)は、CRY1とCRY2が哺乳類時計の中心役割をはたしているが、 活性化因子とそのフィードバック抑制因子の両方と接触することによっ て、光に依存しないようにPer1の転写のサイクリングを制御するようで あることを示している。ショウジョウバエにおいて、period(per)と timeless(tim)とDrosophila Clock(dClk)という3つの決定的な時計遺 伝子がリズミカルに発現される。dClkのサイクリングの研究において、 Glossopたち(p 766)は、ショウジョウバエにおける分子時計は、 per-timループとdClkループという2つの連結しているネガティブフィー ドバックのループから構築されていることを発見している。per-timルー プは、dCLKとCYCLEタンパク質によって活性化され、PER-TIMによって 抑制されるが、dClkループは、これらのタンパク質が逆の効果をはたす。 (An)

TGF-βの邪魔になる(Interfering with TGF-Beta)

制御されていない細胞増殖の結果が腫瘍生成となるので、細胞増殖を制御 する発生因子を同定することが重要である。トランスフォーミング増殖因 子β(TGF-β)は、Smadタンパク質の受容体経由のリン酸化によって、細 胞の増殖と分化を制御する。続いて、このSmadタンパク質は、タンパク 質の複合体を形成し、細胞の核に入って、標的遺伝子の転写を活性化す る。Stroscheinたち(p 771;Vogelによる記事参照)は、TGF-β情報伝達 の新しい因子として、SnoNを同定した。TGF-βの非存在下では、SnoN 腫瘍性タンパク質は、Smad2/Smad4複合体に結合し、転写の補抑制物質 を補充することによって、転写の活性化を抑制する。TGF-βの存在下で は、Smad3がSnoNの分解を起こすことによって、転写の活性化が回復す る。最終的に、TGF-βがSnoNの生成を刺激することによって、Smad複 合体の転写活性化機能を再び抑制するネガティブフィードバック機構が存 在する。SnoNが多様な癌に発見されている。従って、TGF-βの細胞増殖 を抑制する役割を阻害することによって、SnoNの変換活性を説明できる。 (An)

生きるか死ぬに任せるか(To Live or Let Die)

細胞内カルシウム(Ca2+)の遊離がトリガーとなって、細胞が生き延びる か、死ぬかを左右する信号が出されることがある。骨格筋の分化において 機能する同じ転写制御因子MEF2が、どのようにしてニューロンとT細胞の 生存において異なった役割を果たしうるのかを、2つの報告が示している。 哺乳類の脳の発達過程において、適切なシナプス結合を形成し、他の細胞 から信号を受け取るニューロンは、細胞内Ca2+の増加を経験する。この Ca2+の流入は、細胞の生き延び、すなわち細胞死への抵抗を増進するので ある。Maoたちは、ラットの大脳皮質から得られた培養ニューロン細胞が 生き延びに有利なCa2+の効果を仲介している証拠を提示している(p. 785)。 Ca2+の増加は、明らかにp38分裂促進因子によって活性化されるタンパク 質リン酸化酵素の活性を引き起こし、これが直接的にMEF2をリン酸化し、 活性化するらしい。ニューロンの生き延びは、このように、細胞死機構の 種々の成分の翻訳後の変化を介して調整されるだけでなく、MEF2による転 写調節によっても調整されているらしい。成熟T細胞は活性化することで、 最終的には、自分自身が消滅するに到る。転写をCa2+や脱リン酸酵素カル シニュリン、転写制御因子MEF2に依存しているNur77オーファン・ステロ イド受容体の発現が、このアポトーシスを仲介していると考えられている。 Younたちは、Nur77発現とT細胞アポトーシスの制御を解明し始めたところ である(p. 790)。内在性のMEF2は、カルシニュリンの阻害薬の一つである Cabin 1に結びつく。細胞内Ca2+が増加すると、カルモジュリンが、MEF2 と同じ部位でCabin 1と結び付こうと競合し、MEF2の遊離を強制するが、 これがMEF2を転写性複合体へと組み立てる材料とすることになるのである。 (KF)

いささか分解が必要(Some Disassembly Required)

有糸分裂紡錘体のダイナミクスは、部分的にカタニン(katanin)によって調 整されている。これは中心体に局在する酵素である。しかし、このAAA-型 アデノシン・トリフォスファターゼがどのようにして紡錘の微小管を切断す るかについては、はっきりしていなかった。HartmanとValeは、このたび、 カタニンが安定な多量体の環を形成する機構を明らかにしている(p. 782)。 カタニン・オリゴマー形成はその基質や微小管への結合によって、またヌク レオチドATPへの結合によって駆動される。そのため、紡錘体を構成する微 小管は、カタニンがその上で組み立てられていく骨格に自分自身がなること で、自分自身の分解を助けていることになるのかもしれない。(KF)

加齢とともに損傷を蓄積して (Accumulating Damage with Age)

加齢の原因の一仮説は、突然変異がミトコンドリア DNA(mtDNA) に蓄積す るというものである。しかし、これまでの探索研究は、一般的には、 mtDNA のタンパク質あるいは RNAコーディング領域の研究であり、加齢に 関する突然変異の数多くの型を生み出してきた。しかし、これらの変異は、 ほんの低い頻度(数パーセント)しか発生しない。Michikawa たち (p.774; Pennisi によるニュース解説を参照のこと) は、mtDNAの複製にお ける主たる制御領域を研究し、正常な若いヒトでは見られなかったが、老齢 の正常ヒトでは頻繁に点突然変異が起きることを見出した。特に、 TG トラ ンスバージョン(転換)は、14の老齢のヒトのうちの8個からは、50%まで の mtDNA 中に見出された。それらは、13の若いヒトの mtDNA 中には見出 されなかった。3人の長期的な研究は、これらの突然変異が遺伝しないことを 示すのに役立っている。(Wt)

鉄の代謝についての構造的てがかり (Structural Probe into Iron Metabolism)

トランスフェリン受容体(TfR)は、トランスフェリン結合鉄を、細胞増殖など の種種の生理学的プロセスにおいて用いるために、細胞内へ供給する。この 受容体はまた、北ヨーロッパ起源の人間の300人に1人に見られる鉄の貯蔵に 関する病気、ヒト遺伝性血色素症において欠けているタンパク質HFEと結合す る。Lawrenceたちは、TfRの細胞外領域の3次元結晶構造を決定した (p. 779)。この構造は、3つの領域からなる単量体を明らかにしたが、このう ちの一つの領域は、カルボキシ-及びアミノペプチダーゼと類似している。こ の研究は、細胞内での鉄の取り込みと遊離のされ方に関する将来の研究の構 造的基盤を提供するものである。(KF)

中央海嶺の電気抵抗(Mid-Ocean Ridge Resistance)

中央海嶺は、そこでは海床(海洋プレート)が引き離されつつある、直線的な 構造を持っている。それは、プレートが反対の端で沈み込むことで、プレー トが海嶺の両側に引き離され、その結果溶融体(マグマ)が上昇し、そして 冷やされて新たな海洋地殻が形成される。中央海嶺のマグマ溜まりの構造を 解明することが困難なため、マグマの上昇メカニズムは、ほとんど理解され ていない。Evansたち(p.752)は、17°Sの東太平洋海膨(東太平洋海嶺) (East Pacific rise)での電気抵抗を測定した。彼等の発見によると、海嶺 の西側は電気抵抗は低く、このことは嶺の一方の側に非対称に分布している、 広域に分布する低溶融マントルの存在とつじつまがあうようだ。部分溶融マ ントルの非対称な分布は,この地域の海洋底拡大が非対称であり,海嶺軸が 西方への移動している事実と整合的である。[Buckによる展望記事を参照] (TO,Fj,Og)
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