AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 15, 1999, Vol.286


ニュージーランドの下の断層に何がある? (What’s at Fault Under New Zealand?)

ニュージーランドの南島は北西方向へ動くオーストラリアプレート と南東方向へ動く太平洋プレートを分けている大規模な走向移動断 層であるアルパイン断層により引き離されている。地殻上部の断層 はその下のマントル岩石圏の中にまで続いているのか、又はこの地 殻下部の領域は引き伸ばされて剪断されているのだろうか。Molnar たちは(p. 516)、南島のマントル上層地震波の異方性とP地震波(圧 縮波)の遅延時間(それらは各々、歪と水平方向の不均質性の物差し) を測定した。その結果は、島の下のマントルは連続しており、地殻 の変形でせん断されていることを示唆している。このように地殻の 断層はマントル内まで連続しているわけではない。(Na,Og)

拡張するネットワークのモデル(Expanding Networks)

ネットワークとは辺でつながった複数の頂点(ノード)から構成さ れている。Barabasi とAlbert (p. 509)は、いくつかの非常に大き なネットワークについて解析した;例えば、World Wide Web (300,000頂点以上)上のページ、俳優協力ネットワーク(200,000 頂点以上)、およびアメリカ合衆国西部の電力配信ネットワーク (powergrid)(5000頂点以上)について。彼らは、ネットワークのト ポロジー的性質として次のような累乗則が成り立つことを見つけた :ある一つの頂点がk個の頂点につながっている確率は、
P(k)=k
で表される。ここで、γは2.1か ら4の間の定数である。通常のネットワークを解析した場合には、累 乗則ではなく指数関数則が成り立つことから、非常に大きなネット ワークでは1つの頂点に非常に多く接続された頂点は存在しないこと が想定される。しかし、ここで分かったモデルでは、新しく頂点が追 加されることによってネットワークが成長して行く場合、新たに接続 される頂点は、すでに多数点と接続されている頂点が好まれる。これ は、現実世界では既に人気のあるWebページに接続したがる傾向があ ることを物語っている。(Ej,hE)

磁気トンネル接合における障壁制御 (Barrier Control in Magnetic Tunnel Junctions)

トンネル接合は、ある絶縁性の障壁によって隔てられた二つの接近し た電子からなっている。もし二つの電子が強磁性体であれば、トンネ ル電子のスピンは、分極することができ、トンネル率は主には、絶縁 体として何を選択するかではなく、それぞれの強磁性体層の磁気モー メントの方向に依存するはずである。De Teresa たち(p.507)は、こ の単純な描像が正しくないことを示している。彼等は、種々の絶縁材 料に対して異なる結果を(選択的にトンネル効果を生ずる電子スピンが 逆転しているものに対してさえ)見出した。そして、直感とは反対に、 金属-酸化物の界面の電子の状態密度こそが、いかにトンネル接合が 働くかを決定するものであると述べている。これらの結果は、磁気ト ンネル接合を最適化するための新しい道筋を与えるものである。(Wt)

金メッキを施す(Plating Out Gold)

パプアニューギニアのLihir島の沖合に巨大な金の海底鉱床が存在す る。McInnesたちは(p. 512)、金が富化している由来を調べるために、 この海域の海底からマントル起源のゼノリス(捕獲岩)を採取した。 彼らはオスミウムと酸素の同位体濃度を測定し、金を含む殆どの微量 元素がマントルに由来することをつきとめた。微量元素がLihir島の近 くに集中しているのは、太平洋プレートのオーストラリアプレート下 への沈み込みがこの領域で失速しているためである。そのためマント ルからの流体やマグマ流によって、マントルの微量元素が抽出され、 海洋地殻の岩石に濃集したのである。(Wt,Na,Fj,Og)

径時的な反復(Back and Forth Over Time)

北大西洋振動(NAO: The North Atlantic Oscillation)は、その地域 の海洋対流と空気と海面間の力関係に主要な影響を与えていると考え られている海面近くの大気圧の大規模な反復現象である。古気象研究 者にとって、過去の大気循環のバターンと気候とがよりよく関連付け 出来る可能性があるので、NAOを代表するような現象を探すことは非 常に興味深い対象である。KeigwinとPickartは(P. 520)、ニュー ファウンドランドの南方に位置する2ヶ所の堆積物掘削コアから現象 を示すものを発見したようだ。これらのコアはNAOと反対の周期で南 北に流れるガルフ海流(メキシコ湾流)の小規模な分岐の変化により 起きる海面温度変化の記録を提供する。この情報は、暖かい、間氷期 気候における、海洋-大気循環のパターンを明らかにする助けとなる だろう。(Na,Og)

5nmのラインの間に描く(Writing Between the Lines)

雑誌にカラー印刷したり、集積回路を作る際に用いられているリソグ ラフィーの方法は、オリジナルの基板を繰り返し用いて表面に既に描 かれている図形上にレジスト法で付加的な図形を印刷する。Hongたち (p. 523:Serviceによるニュース解説参照)は、ナノスケールのライン やドットを表面上に描くために”浸漬ペン(dip pen)”ナノリソグラ フィーという最近実証された走査プローブの手法を用いて、基板表面 に何回も様々な”色(color)”を描くことが出来ることを示している。 表面上に重ねあわせの記録が可能であり、既にある異なる化学成分の ラインの間に最初のパターンを乱すことなく有機分子のラインを形成 することが出来る。新たなラインを5nmの既存ラインの間に描くこと ができる。(KU)

細菌の侵入を食い止める(Holding Off Bacterial Invasions)

微生物の侵入を防ぐ最初の防御ラインの一つがディフェンシンである。 この研究論文、及びレポートの目的は、無脊椎動物や脊椎動物でつくら れ、そして殺菌性や細菌静止作用(Ganzによる展望参照)によって最初の 障壁をもたらす低分子ペプチドのディフェンシンに関してである。 Tangたち(p. 498)は、霊長類アカゲザルの環状ペプチドθディフェンシ ン-1というめずらしいディフェンシンを同定した。遺伝子解析により、 この環状ペプチドが二つの離れた遺伝子座に由来することが明らかになっ た。二つの前駆ペプチドがつくられ、最終的にはその一部を切り取って、 つなぎ合わせることにより活性をもつ環状のディフェンシンを形成する。 動物ペプチドにおけるこの異常な形成には、この環状化反応を触媒する酵 素が存在している事、そしてこれが事実とすると、この酵素のこれだけで はない基質という事を示唆している。Yangたち(p. 525)は、ヒトβ-ディ フェンシンがCCR6ケモカイン受容体(その唯一知られている他のリガ ンドはLARC(MIP-3αとも言われている)である)を利用して未成熟の樹 状細胞やT細胞を引き寄せる事を報告している。このようなペプチドは初 期の抗菌防御としてだけでなく、適応する免疫細胞を引き寄せて更に有効 な免疫応答を提供するものである。(KU)

シナプスの死(Death of a Synapse)

神経伝達物質受容体は神経筋肉接合部分で高密度クラスターを形成する --すなわち、シナプスを情報伝達が通過し終えるまで。As Akaaboune たちが示したように(p.507; およびSalpeterによる展望記事参照)、シナ プス後細胞側にシグナルが明らかに欠如していると、アセチルコリン受 容体が接合部位からまず離れて行き、次に劣化する。結果として、数時 間の内に明らかな変化をする。従って、神経活性がシナプスにおける受 容体の密度を制御していることになる。(Ej,hE)

人類はアジアからも発生した(Out of Asia, Too)

類人猿霊長目の発生地域はどこであるのか、そして、どんな原始霊長目 から派生して来たのか? これらの疑問点は、何十年にも及ぶ古人類学 者の大きな論争点であった。Jaeger たち(p. 528)はミャンマーに中期 始新世(約2千万年前)に生きていた霊長目の新発見の化石について記 載している。この発見によって、アフリカと同様にアジアも人類の祖先 が存在した可能性が強くなるとともに、別の霊長目ではなく、メガネザ ル近縁種の存在可能性を示唆している。また、人類は、多分始新世より 以前の非常に早い時期に、他の霊長目から派生したことも示唆している。 (Ej,hE)

尾部がチャネルに影響する(Tail Wagging the Channel)

嚢胞性線維症膜貫通制御因子(CFTR)というクロライドチャネルが不正 に機能することがヒトにおける衰弱疾病に関与する。チャネルのコンダ クタンスは複雑に制御されている。制御機構のひとつは、チャネルのい わゆる制御(R)領域におけるリン酸化を必要とするが、これによってこ の領域のチャネル機能への抑制効果を解放する。Narenたち (p 544;Hagmannによる記事参照)は、もうひとつの領域であるチャネ ルのアミノ末端の尾部も重大な制御効果をもつ証拠を報告している。ア ミノ末端の尾部は、R領域との相互作用によって、チャネルのリン酸化 誘発のコンダクタンスを促進するようである。この結果は、CFTRチャ ネル活性の修飾を狙っている薬開発の新しい可能のある標的を示してい る。(An)

遺伝子発現によるト腫瘍の同定 (Identifying Tumors Through Gene Expression)

腫瘍を異るカテゴリに分類する能力は、治療方針を決定することに重大 な影響をもつ。Golubたち(p 531)は、癌のクラスを分類するために遺 伝子発現パターンを利用できることを示す原理証拠の研究を報告してい る。クラス予測の手順は、患者の骨髄を用い、急性の骨髄球性白血病と 急性のリンパ芽球性白血病を区別できた。このクラスの存在が以前に知 られていなくても、この手順を用い、区別する可能性もある。(An)

競争とコミュニティ(Competition and Community)

生態学的コミュニティの安定性は、そのコミュニティに含まれる種の数 とそれらの間の相互作用の強さに依存すると考えられている。複数の理 論的アプローチを組み合わせることで、Ivesたちは、競合的相互作用と 種の数がコミュニティの回復力に与える影響が、内因性の集団成長率や さまざまな種に影響する外来性の要因の相互相関などのパラメータにど のように依存しているかを示している(p. 542)。彼らが発見したのは、 種の数や種間競争は、総生物量などのコミュニティ・レベルの属性の分 散にほとんど影響しないということである。むしろ、コミュニティの総 生物量は、コミュニティを構成する種が環境のゆらぎに対してどのよう に反応するかということだけに依存しているのである。(KF)

可塑的な脳(Plastic Brains)

最近出てきた証拠が示唆するところでは、霊長類の成人脳における特定 の領域、たとえば海馬や嗅球にあるニューロンには分割できる能力があ る。Gouldたちは、組織化学的研究によって、古世界(Old World)サル の前頭葉前部皮質、劣性および後側側頭皮質(学習や記憶に関するニュー ロンの可塑性にかかわる領域)で、新しいニューロンを発見した (p. 548)。この新しいニューロンは副脳室(subventricular)領域に生 じ、白質を通って新皮質まで遊走して、そこで成熟ニューロンに分化し、 軸索を伸ばしてそこの局所回路網に統合されると、彼らは示唆している。 (KF)

DNAの再封印(Resealing DNA)

トポイソメラーゼI(topo I)はDNA複製において重要な酵素であり、DNA の骨格を解き、DNAのねじれを戻し、それから再び解いた骨格を封じる ように働く。このプロセス中に、topo IとDNA基質の間に共有結合性の 中間物が形成される。この結合がうまく切れないと、細胞は死んでしま う。Pouliotたちは、酵母におけるこの結合を加水分解する酵素の遺伝子 をクローン化し、それがより高度な真核生物においても保持されている ことを示している(p.552)。この酵素、チロシン-DNAホスホジエステラ ーゼは、共有結合性のtopo I DNA複合体を安定化することで働く、ある 種の癌の化学療法的薬剤、たとえばカンプトセシン、の効力を増す可能 性をもっているかもしれない。(KF)

糖の配列(Sugar Sequences)

細胞表面に存在する複合多糖の新しい役割が次々に発見されているが、 この分子は、ポリヌクレオチドやタンパク質のように簡単に配列が明ら かにされていない。その理由の一つは、それぞれの糖環上の潜在的修飾 部位の数が多いことである。Venkataramanたちは、重要な多糖のクラ ス、ヘパリン様グリコサミノグリカン(HLGAG)の配列を決定する方法を 提示している。マトリクス-補助レーザー脱離イオン化質量分析と酵素分 解を結びつけることで、いくつかのHLGAGを、ほんの少量(ピコモル・レ ベル)の試料から急速に配列決定できたのである。(KF)
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