AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 8, 1999, Vol.286


プロトンを押し上げる(Shifting Protons Uphill)

細菌の膜タンパク質であるバクテリオロドプシンは、1個のプロトンを 膜の反対側に輸送することによって、単一フォトンエネルギーが電気化 学ポテンシャルエネルギーに変換するための触媒として働いている。こ のプロトンの勾配は、他の輸送タンパク質を経由して栄養物を蓄積した りアデノシン三リン酸を直接合成するために使うことが可能である。 Leuckeたち(p. 255 ; およびGennis と Ebreyによる展望記事参照)はこ のタンパク質がフォトンを吸収する前と、触媒サイクルの途中の二状態 について、2オングストローム以下の解像度を有する構造を記述した。 彼らが観察したことによれば、単一化学結合の異性化によって立体配置 (コンフォメーション)が変化し、その結果タンパク質の一部と特定水 分子の間で水素結合のパターンが順次シフトして行くというものである。 これらのシフトによっていくつかのカルボン酸の酸性度を変化させ、一 つプロトンが細胞膜の外側で遊離する一方、細胞質表面では他方のプロ トンが吸収される。(Ej,hE)

非線型弾性と地震(Nonlinear Elasticity and Earthquakes)

砂岩や花崗岩のような岩石は構造的に不均一であり、非線型的弾性挙動 を示す---張力下のそれらのヤング率は、試料が圧縮状態にあるときに 測定された値のおよそ半分である(すなわち、それらは引っ張り状態より も圧縮状態のほうが強靭である)。Peltzer たち (p.272) は、衛星によ る開口合成レーダー干渉計を用いて、1997年チベットで起きたマグニ チュード 7.6 の地震後の表面変位量を測定した。彼等は、断層の両側の 変位量は非対称であることを見出した。そして、この変位は、非線型な 弾性応答を考慮したときのみ、うまくモデル化できるのである。著者た ちは、この場合の非線型挙動は、断層のどちらかの側の不均一に分布し た浅いクラックが存在することに原因があると考えている。数百kmの スケールに渡るこのまれな非線型挙動の例は、地震のモデリングは、通 常でもこのような効果の考慮が必要である可能性を示唆している。(Wt)

厚い氷を踏みしめる(Treading on Thick Ice)

南極西部氷床(The West Antarctic Ice Sheet)は後退し続けてきたが、 どの位速く、また、どのくらい長い間続くのだろうか?その氷が完全に崩 壊すれば海表面水位を数メートルも押し上げるかもしれない。この重要な 氷床の過去の後退や現在の動きに関して、3つの報告が出された。Ackert たち(p.276)は、この氷床の初期の退氷履歴を調べて、Mount Waesche上 の氷成堆積物(moraine)の側部堆積物の年代測定することで、過去の隆起 を測定した。そこで高い位置にあった1万年の年数は、南極西部の氷床は 完新世の間に顕著な海面上昇に寄与しなかったことを、氷床モデルと共に、 示している。Conwayたち(p.280,カバー記事参照)は過去数千年間のロス 海湾の海底と接する氷床の接地ラインの後退を、露出している隆起した浜 やデルタを年代測定することによって調べた。ほとんどの氷床後退は,約 7500年前に始まり,接地ラインはルーズヴェルト島を3200年前に通過し た。後退する速度は、気象温暖化によるいかなる最近の加速によってでは なく、むしろ長期間のコントロールを反映しているようだ。そして、おそ らく温暖化がなくとも後退しつづけたであろう。最後に、Joughinたち (p.283)は、レーダー干渉計を使って、現在4つの南極の氷の流れに注ぎ 込んでいる内陸の氷の流れ(ice flow)を広範囲に観測して、これらの結果 を氷床下の地形と関係付けた。こうした結果は、間断なく続く流れ (streaming flow)はより小さな支流(tributaries)のネットワークによっ て送りこまれること、そして支流は堆積物や水が発生した氷河下床の谷と 一致しており、共通の供給地域を源にすることを示す。これから、個々の 氷の流れに対して別個に集水域を割り当ててきた、氷の流れの重量バラン ス計算法は改められるべきであろう。(TO)

2つの安定相をもつラジカルな磁石(Bistable Radical Magnets)

多くの有機分子は対になった電子スピンを持っているが、対でないスピン を持っている種類もある。対でないスピンにより発生する磁力特性は一般 的に室温で利用することは難しい。しかし、FujitaとAwagaは(p. 261)、 有機基1,3,5-trithia-2,4,6-triazapentalenyl (TTTA)がほぼ室温より ほんの少し高い温度で急速に常磁性相へ切り替わる低温の反磁性相を持つ ことを示している。冷却すると、この材料は230度Kまで反磁性特性を保 持し、広範囲のヒステレシスループを持っている。この一次の磁力性相転 移は分子の色の変化も伴うスタッキング(積層構造)の変化と構造上の遷 移と関連している。(Na)

ナノチューブの伝導率を制御する (Control of Nanotube Conductivity)

最近の2つの超伝導接点を横断して接続した単層ナノチューブを用いた実 験で、十分低い温度で、超電流が片方の超伝導電極から他方へ近接効果に よりこのナノチューブを通って流れることが明らかになった。Morpurgo たちは(p. 263)、ナノチューブの直下に設けられたゲート電極により供給 されるバイアス電位により、このナノチューブの伝導率を高伝導率と低伝 導率の間の状態をスイッチング出来ることを実証している。(Na)

超伝導状態の銅塩が線状になる (Superconducting Cuprates Get Into Line)

アンダードーピングの層状の銅塩からなる超伝導材料が、温度が遷移温度 以下に低下するにつれ、反強磁性の絶縁領域によって分離された整列した 伝導性一次元ストライプを形成するということについての実験的および理 論的証拠は、強固ではあるが間接的なものである。二つの報告が、これら の材料の一次元整列に対する直接的な証拠を示している(Zaanenによる展 望記事を参照のこと)。Noda たち (p.265) は、方向別の電気的測定(抵抗 とホール測定)データを与えている。Zhouたち (p.268) は、角度分解能を 有する光電子分光法によりその電子構造を精査している。(Wt)

たんぱく質の模倣(Protein Mimics)

病原性の細菌やウイルスは、生存のためには宿主の防御をかいくぐらない といけない。宿主のタンパク質機能の模倣によって、細胞への侵入を助け たり、免疫系の応答を妨害できるそのありさまを、二つの報告が示してい る。偽結核症を引き起こす細菌性病原体(Yersinia pseudotuberculosis) の真核生物細胞への侵入を仲介するのは、細菌性外膜タンパク質インベイ シン(invasin)だが、これは、宿主細胞のインテグリン(integrin)に、フィ ブロネクチンなどの自然な基質よりもより高い親和性で結びつくものであ る。Hamburgerたちは、インベイシンの細胞外領域の構造を原子レベルの 分解能で提示している(p. 291)。この構造をフィブロネクチンと比較する と、収束進化の一例が示される。これらは異なった畳み込み構造を有して いるが、双方とも縦列領域からなる長く伸びた構造を形成しており、イン テグリン結合するのに重要な残基を同様の位置にもっている。こうした構 造比較によって、さらにインベイシンとフィブロネクチンの違いが明らか になったが、それは細菌性病原体がいかにして宿主タンパク質と競合して 宿主細胞の受容体を利用するかを説明することになるかもしれない。EB ウイルスは上皮性細胞およびB細胞に感染し、さまざまの癌やBリンパ腫と 関係している。このDNAウイルスは潜伏期をもち、形質転換に必須な LMP1などの潜伏性膜タンパク質を発現する。LMP1は、B細胞の重要な活 性化シグナルであるCD40に通常結合する多くのシグナル分子と相互作用 することができる。Uchidaたちは、LMP1が構成的に活性なCD40分子を 模倣することができ、それによって、B細胞の抗体分泌や増殖において助 けとなる連結を必要としない、と報告している(p. 300)。しかし、LMP1 は、B細胞が親和性成熟と記憶B細胞の産生のための部位である胚中心を 形成するのをブロックし、ウイルスの生存しやすさを増加させる可能性が ある。(KF)

ラジカルなやり方(Radical Steps)

酸素のフリー・ラジカル(遊離基)の過剰産生は、細胞にダメージを与え ることがあり、多くの病気と関連している。これらフリー・ラジカルは、 われわれの体内では、通常スーパーオキシド・ジスムターゼ(SOD)酵素に よって、除去されている。Salveminiたちは、非ペプチド性のマンガン・ ベースの複合体を合成したが、これは機能的にSODを模倣するもので、 生体内で安定なものである(p. 304;また、Straussによるニュース記事 参照のこと)。この複合体を、炎症と虚血性障害のモデル研究において齧 歯類に注射すると、その動物は組織のダメージから保護されることになっ た。このような複合体のグループは、炎症から癌にいたるさまざまな病 気に対する治療的な潜在力を持っている可能性がある。SODが好気性生 物に提供する保護は、生成物が酸素であるので、嫌気性生物に対しては 不適切である。Jenneyたちは、超好熱性嫌気性菌 Pyrococcus furiosusから、新規な酵素、スーパーオキシド還元酵素 (SOR)を精製した(p. 306; また、Lloydによる展望記事参照のこと)。 SORはスーパーオキシドを還元して過酸化水素にし、これが次にペルオ キシダーゼによって還元されて水となる。SOR同族体をコードしている 遺伝子は、手に入る限りの嫌気性ゲノムのシーケンスのほとんどに見出 されるが、好気性生物のゲノム・シーケンスでは見つかっていない。 (KF)

タグを作成(Making the Tag)

受容体タンパク質チロシンキナーゼは、細胞外リガンドの結合に応答し て活性化され、多くの生物学的過程を制御する。正常な細胞制御に、こ のような受容体の精密に制御された活性化が必要であるのと同様、この ような信号の終結がしっかり制御されることが必要である。多くのキー 情報伝達タンパク質の分解がユビキチンという小さなタンパク質が共有 結合的に付着することによって制御されるが、このユビキチンがタンパ ク質の分解標的となる。タンパク質c-Cblは、血小板由来増殖因子受容 体や上皮増殖因子受容体のような活性化した受容体と会合し、受容体の ユビキチン化と分解を起こす。Joazeiroたち(p 309;Barinagaによる 記事参照)は、c-Cblもユビキチンタンパク質リガーゼあるいはE3酵素 であることを報告している。c-Cblタンパク質がE2ユビキチン抱合酵素 から基質タンパク質へのユビキチン伝達を促進することが示されている。 (An)

フィルタの失敗(Filter Failure)

糸球体という腎臓内の領域は、尿の形成時に血液を濾過する。有足細胞 という糸球体の上皮細胞は、突出部を広げていき、これが相互作用をし て細隙隔膜という目のつんだウェブを形成することによって濾過関門を 構築する。Shihたち(p 312;Wickelgrenによる記事参照)は、CD2AP という細胞質のタンパク質を発現しないマウスは、この有足細胞の接触 の欠損のため、腎不全によって死亡することを報告している。CD2APは 最初に、免疫系における抗原提示細胞へのT細胞接着を補助するタンパ ク質としての性質を記載されていた。著者は、腎臓における有足細胞の 過程にもCD2APが局在化したことを報告している。CD2APは、 nephrinという膜タンパク質とも相互作用したが、nephrinが細隙隔膜 の完全性を維持すると考えられている。従って、CD2APは、特定の細 胞と細胞の接着複合体を促進する一般の役割的な役割をはたすのかもし れないし、また、ある種のネフローゼ性症候群に関与するのかもしれな い。(An)

タンパク質を通じてエネルギーを追跡 (Tracking Energy Through Proteins)

タンパク質の結晶構造が高分解能で決定されていたとしても、ある種の タンパク質-タンパク質相互作用において、その決定的役割を果たす残 基がどれであるかを予想することが出来ない場合がしばしばある。それ は、相互作用を生ずる接触が分子の中に埋もれていたり、あるいは遠隔 部位であったりするからである。LocklessとRanganathan (p. 295)は タンパク質-結合モチーフのPDZ領域ファミリーにおいて、アミノ酸の 位置間のエネルギーカップリングが進化の過程でどのように保存されて きたかを、構造面から研究した。彼らの観察したエネルギーカップリン グのパターンは、異なるアミノ酸部位が変異した場合の実験と一致して いた。このような研究から、シグナル伝達やアロステリックな制御が起 きるためのプロセスにおいて、タンパク質を通してどのようにエネルギ ーが伝達されるかの予想を可能にするであろう。(Ej,hE)

PIN1の場所を見つける(Locating PIN1)

植物の成長や、ある種の環境シグナルに対する応答に極めて重要なオー キシンの方向付けられた輸送は、PIN1輸送体が非対称に局在化している ことによる。Steinmann たち(p. 316)は、グアニン-ヌクレオチド交換 因子であるGNOMの働きによって、PIN1が細胞膜の特定領域に偏在して いることを示した。その分析によれば、小胞を制御して輸送する結果、 PIN1を有効に局在化できるらしい。(Ej,hE)
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