AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 20, 1999, Vol.285


マントルの密度を調べる(Constraining Mantle Density)

マントルの組成と対流を調べるためには地球の水平方向と垂直 方向の密度変化を理解する必要がある。地震波イメージングに は通常、密度変化に感度の無い、短周期の横波と縦波(圧縮波) を用いている。最近発生した1994年ボリビア大地震は長時間 の通常モードを励起し、地球の自由振動を発生させ、密度モデ ルを調べるのに十分規模が大きく、深かった。IshiiとTromp は(p. 1231)、その通常モードデータと重力データを組み合わ せマントルの密度構造を計算した。彼らは、太平洋とアフリカ の地下の核とマントルの境界に密度の高い物質が存在すること 等を発見した。ここは従来の対流シミュレーション法では密度 の高い物質がマントル内に集積されたり、より重い核から出て きている、と示唆されていた場所である。(Na)

対形成 対 凝縮(Pairing Versus Condensing)

ある種の高温超伝導体にたいしては、層間伝導率のスペクトル ウエイト(広い周波数範囲に渡る伝導率の実数成分の和)は、大 きな温度依存性を有する。しかし、標準的な総和則に関する議 論は、弱い温度依存性に与するものである。この相違は、超伝 導凝縮体形成に付随する運動エネルギーの変化に関係している 可能性がある。IoffeとMillis (p.1241) は、銅酸化物の超伝 導体における層間伝導率の周波数および温度依存性を解析し た。そして、この見かけの異常に対する理論的説明を与えた。 電子対形成は、超伝導性と磁束排除を生じさせる長距離秩序な しでも生ずることができる。低ドープ材料では、このプロセス は低ドープ材料においてみられる疑似ギャップをも生み出すで あろう。(Wt)

前面で変化する(Broken Up at the Front)

固体表面における液体の薄膜は往々にして不安定であり、その 表面からはじかれる。単一成分の液膜では「スピノダル分解」 によって濡れ性を失う。その分解は熱的な揺らぎ、或いは欠陥 や不純物サイトを核として生じる液膜の破断によってもたらさ れる。Yerushalmi-Rozenたち(p. 1254)は、部分的に混ざり 合う二成分からなる液膜のディウェッティング(dewetting; 濡れた状態が引いて行くプロセス)のプロセスを調べ、その潜 在的な応用に制限を与えている。液膜の外側のふちから内部に 動く界面において相分離が生じ、ディウェッティングが起こ る。ディウェッティングの前面は、「ワインの涙」(註)で見 られるようなマランゴニ効果の流れによって加速されているら しい。(KU)
[註]:ワインを評価するとき利用されるのがこのワインの涙で す。ワイングラスを軽く回すと、ワイングラスの内壁が濡れる が、このときに涙状の液滴が見えます。この液滴の形状がワイ ンの種類によって異なるのだそうです。(An,Tk)

粘着性をスイッチングする(Switching Stickiness)

有機材料の濡れ性や粘着性を永久に変える必要性がある時には、 構造体に非粘着性の材料をスプレー被膜するような塗布方法が 用いられる。更なる挑戦としては、例えば温度変化といった外 部条件に応答して可逆的に表面特性が変化し、一方他の好まし い特性はそのまま維持するような有機材料をつくることである。 DeCrevoisierたち(p.1246;RussellとKimによる展望も参照) は、室温下においては液晶の層としての特性を持ち、35℃近傍 では等方的な固体状態に変化するフッ素化コポリマーを合成し た。35℃の温度領域を越えると、この材料は硬く、かつ撥水性 の特性から粘着性で、かつ濡れ性の状態に変化する。可能性の ある応用の一つとして、クラブやラケットの汚れ防止のハンド グリップ用であろう。(KU)

異物移植安全性を見極める (Assessing Xenotransplant Safety)

人の移植用臓器不足から人以外のドナー(異種移植)の検討が促さ れた。しかしながら、この見通しには、人間の患者が動物のウイ ルスに感染する可能性という重大な懸念を提起した。この懸念は AIDSの流行がチンパンジーから人間の宿主に感染したことから 始まっているという知識により強められた。Paradisたちは (p.1236、Weissの展望も参照)、ブタの生組織を移植された 160人の患者を調べたが、ブタ内在性レトロウイルスが感染した という証拠を見つけることが出来なかった。驚いたことに、彼ら は、従来考えられていたより非常に長期間(最長8.5年)ヒトの血 液の中にブタの細胞が残っていることを発見した。これらの(異 種移植)に対する有望な結果にもかかわらず、このアプローチの 安全性を確立するためには更なるテストが必要である。(Na)

不安定な侵食(Unsteadily Eroding)

いくつかの研究が、農業地帯において広範な土壌侵食が生じてい ることを示唆してきた。Trimbleは、ウィスコンシン州のクーン ・クリーク流域における長期にわたるデータを提供している (p. 1244; またGlanzによるニュース記事参照のこと)。この流域 の堆積物の量の増減は、1850年代以降いくつかの研究によって 評価されてきたが、この期間に農業のやり方は大きく変化してき ている。最近(1975年から1993年にかけて)のデータは、驚くべ きことにそれ以前に比べ台地における土壌の損失がずっと少なく なっていることを示している。そのデータはまた、土壌の多くは 盆地内に再分配されていることを示している。この後者の知見は、 それが代表的なものなら、他の多くの流域における土壌侵食の評 価をも難しくするものである。(KF)

塩分を保持して(Holding the Salt)

塩分の多い条件にも耐えられる植物の開発へのアプローチの一つ に、塩に対する保護性をもった溶質の蓄積を増加させる遺伝子工 学的方法がある。このたび、Apseたちによって、これとは異なっ たアプローチが試みられた(p. 1256; また、Frommerたちによる 展望記も参照のこと)。彼らは、過剰なNa+イオンに よる有害な影響から植物の細胞の大部分を防護する方法を発見し たのである。シロイヌナズナのあるNa+/H+ 対向輸送体の過剰発現によって、中心部の空胞における Na+イオンの蓄積が促進される。結果としてできた 植物は、野生型のものに比べ、かなり塩分の多い成育環境にも耐 えることができるのである。(KF)

エストロゲン効果の過小評価 (Underestimating Estrogen Effects)

環境に放出された化学物質がエストロゲンのもつ生物学的影響と 似た効果をもたらす、いわゆる「環境エストロゲン(ホルモン)」 の影響を評価するために、相当の努力が払われてきた。そのよう な化合物は、潜在的には、それに曝されたヒトや動物の生殖によ る発生と機能に大きなインパクトを与えうるものである。 Spearowたちは、このような化合物の生物に対する影響を見積も るために広く使われてきたあるマウス血統が、エストロゲンに対 してはさほど敏感ではないことを示している(p. 1259; また Helmuthによるニュース記事参照のこと)。一度に多くの仔が産 まれるという理由から遺伝的選択の対象に用いられてきたCD-1 血統のマウスのオスは、他の血統では完全に精子形成を遮断する ことになるエストロゲンの投与量では、ほとんどあるいはまった く影響を受けなかったのである。(KF)

カンジダの秘められた性生活? (Candida's Secret Sex Life?)

カンジダ・アルビカンスは鵞口瘡の原因となるし、免疫無防備状 態のヒトに対して粘膜性や全身性の感染を起こすが、これは最も 普遍的な真菌性病原体である。この類縁のよく研究されている酵 母(S.cerevisiae)とは対照的に、カンジダは有性生殖する能力が 欠如していると思われていた。このため遺伝学研究は複雑な手法 を取らざるを得なくなる。HullとJohnson (p. 1271)はカンジダ ・アルビカンス中に、酵母菌属(Saccharomyces)の接合型座位 に類似したタンパク質をコードすると予想される遺伝子が発現し ていることを見つけた。この遺伝子は他の真菌類の接合型座位と 同様に配置されており、転写抑制においても類似の活性を示す。 カンジダはこれらの遺伝子を有性生殖に利用しているのか、ある いは、感染の他のプロセス制御に利用しているのかはまだはっき りしないが、それは、この生物の生体内での分析には難しさが伴 うからである。(Ej,hE)

HIVへの最初の門戸(The First Doorway for HIV)

ヒト免疫不全症ウイルスが伝達する中で,どの細胞が最初に感染 するのだろうか?Stahl-Hennigたち(p. 1261)は,サルの免疫 不全症ウイルスをアカゲザルのマカクザルの扁桃に塗ったとき, 最初に感染した細胞は,前から予想されていた樹状細胞 (dendritic cell)やまたはマクロファージではなく,CD4+ T細胞であったことを示した。表面上皮は膣や肛門のよう な組織と組織学的に類似しているが,特定の抗原輸送上皮 (antigen-transportingepithelium)が伝達や急性感染に決定 的役割を果たした。(TO)

弛緩を越える(Going Beyond Relaxation)

エポキシエイコサトリエン酸(EET)は、アラキドン酸から由来し た情報伝達分子であり、血管平滑筋細胞を弛緩する能力によって、 心血管系の正常機能を維持することを支援する。Nodeたち (p 1276)は、EETが炎症誘発性の転写制御因子NFkBの抑制によっ て血管の炎症を減少することを示している。この2つの活動のため、 EETは、心血管の疾病に対する新しい治療の大事な目標になるかも しれない。(An)

単にヒッチハイクするだけではない(Not Just Hitchhiking)

シナプス小胞が神経伝達物質の分子を神経末端のシナプス間隙へ遊 離した後、形質膜においてクラスリン仲介のエンドサイトーシスに よって新しい小胞が形成される。非常に活動的なニューロンでは、 このような補充が急速に行こなわれている。HauckeとDe Camilli (p. 1268)は、チロシンに基づくエンドサイトーシス信号をもつ膜 タンパク質がクラスリン被覆小窩の形成およびそれへの取り込みを 刺激することを示唆している。エンドサイトーシス信号のモチーフ をもつペプチドとシナプス小胞の膜タンパク質がクラスリン被膜の 成分AP-2のシナプトソーム膜への補充を増強した。このモチーフ は、AP-2における立体配置的な変化を誘発したが、この変化がシ ナプトタグミンというシナプトソームの膜タンパク質とAP-2との 相互作用を増強した。従って、被覆小窩の形成に関与することに よって、膜タンパク質がシナプス小胞への取り込みを確保している のかもしれない。(An)

化学版の二重スリット実験 (A Chemical Double-Slit Experiment)

分子の光化学的解離において、さまざまな励起状態は、観察される 生成物分布に影響を与える可能性がある。 Dixon たち (p. 1249) は、真空紫外光を用いた水の解離によるOH生成物の回転状態の強度 中に異常な偶奇性振動(odd-evenoscillation)を観察した。H-OH あるいはH-HOのどちらかの型に従い、原子が直線状に並んだ二つ の高エネルギー配列状態により二つの解離反応経路は働く。モデル 計算によると、ポテンシャルエネルギー表面の円錐状の交線におけ るこれら二つの経路間の干渉は、光の干渉に対する「二重スリット」 実験の化学版のような作用をして、それは回転状態の分布における 振動を発生することになる。[Clary による展望記事を参照のこと] (Wt)
[註]:水分子は太陽光でも分解するが121.6 nmの波長でH2O →OH(N)+H(1)の反応が生じる。ここでNは回転量子状態数 である。この121.6 nmの光励起に対して、電子が反結合軌道に遷 移し、H2Oは曲がった構造になる。このとき、H-O-H とO-H-Hの2通りの構造が生じるが、これが量子状態Nが奇数か偶 数かによって変化する。実験によると奇数状態のOHはNが大きいと きに生じやすい。結果としては、同じOHとHができるにもかかわら ず、このような「干渉」が見られるのはまさにヤングの二重スリッ トによる電子の回折現象のようである。

生態学的地位の獲得に間にあった(A Niche in Time)

生物が種分化するプロセスは,進化論研究の中心テーマとして残さ れている。重要な疑問として,種分化(speciation)は,地理学的分 布範囲の大きな変化とは対照的に,生態学的地位(niches)の分化に よるかどうかという疑問が,Petersonたち(p.1265)によって向け られた。1990年代初頭の幾つかの理論モデルは,生態的地位は種 分化の発生する間にゆっくりと変化することを予測していた。これ らのモデルに対する実験によるテストとして,著者たちは,メキシ コにおける動物種の多数の対になる種のペアに関する生物地理学や 生態学のデータを使い,1つの種の生態的地位はその姉妹種の生態 的地位から予測できることを示した。生態学的地位の分化は,属あ るい科の分化というより長い時間スケールにおいて,進化するよう である。(TO)

系統発生、時間を含むデータ、否定的証拠の関係 (Phylogenies, Temporal Data,Negative Evidence)

D. L. Fox たち (Reports, 11 June, p. 1816)は通常利用されてい る分岐論手法(cladistic)(つまり最適仮説を検索するために、初 期の検索から時間を含むデータを除外する)と、このような時間的 データを含むstratocladisticsを比較した。彼らによると、「既 知のシミュレーションされた進化史と同じ進化特性データを試験デ ータとしてstratocladisticsはcladisticsで行われたケースの2 倍以上のケースで真の系統発生」を復元した。J. E. Heyning と C. Thacker はこれにコメントして、「stratocladistics法におい て時間を含むデータを利用することによって否定的証拠を利用せざ るを得なくなる」結果、結論は無効であるとしている。彼らによる と「系統発生学の特質も、、、stratocladisticも、、、その依っ て立つところは、、、比較不能な証拠の羅列であり、従って解析に は含めるべきではない」と述べている。彼らは報告書の中のデータ や解析などの他の「問題点」を議論している。これに応えて、 D. C. Fisher たちは「どんな分布データをもってしても、競合する 仮説を評価するシグナルは、「肯定的」と「否定的」の観察結果を 複雑に混ぜ合わせたものになるだろう」。彼らは、「形態学的デー タと層位学的なデータは異なっていること、cladisticsの範疇でこ れらが「比較不能」であるように見えること」に同意しているが、 「stratocladisticsは系統発生仮説に合致するかどうかを評価する 解析手法として利用できる」という立場を保持している。関連した 形態学的仮説については、[Letters to the Editor, p. 1209.]参照。 このコメントの全文は以下のページ参照 :
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/285/5431/1179a. (Ej,hE)
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