AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 30, 1999, Vol.285


エチレン合成へのきれいな道は?(A Greener Route to Ethylene?)

エタンの水熱分解で合成されるエチレンから無数の化学薬品や 材料が作られ る。エチレンの生産量は膨大なもので(合衆国では年間250億kg)あるが、しか しその合成の際の必要な熱量は少なくとも投入材料の10%の燃量を必要とし、 かつ温室ガスであるCO2を多量に出す。Bodkeたち(p. 712; Pereiraによる展望記事も参照)は、エタンと酵素からエチレンを参加的に合成 する経路について述べている。白金―錫触媒を用いて,950℃のもとで反応系に 過剰の水素を添加すると転換率70%,85%を越える選択性が得られた。水素添加 により、全体としてのCO2やCOの生成が5%以下に押さえられ、そし て付随的な反応により導入した水素量を超える水素が実際に発生した。その化 学反応に関しては、いまだ説明できない幾つかの事象がある--爆発性を持つ水 素-酸素の混合系をどうしてエタンが押さえているのか? そして高温にも係わ らず平衡状態からはるかにずれた反応混合物がどうしてその反応から出来るの か?(KU)

量子ドットになみなみと注ぐ(Filling Quantum Dots to the Brim)

量子ドットへの電子付加に関する最近の計測によると、はしごのように離散状 態へ電子一個一個を挿入するという問題ではなく、そのプロセスは相当に複雑 なものであることが明らかとなってきた。Zhitenev たち (p.715) は、容量分 光法による量子ドットの電子構造を報告している。低電子密度では、電子は局 在化された状態を占有する。さらに電子が付加されるにつれて、ドットは二つ の異なった領域に分裂する---非局在化状態(金属に類似した)からなる内部コ アと外縁部の局在化状態である。より高い電子密度においては、全ての波動関 数がドット領域全体に広がる。そして、非局在化に遷移する極限においては、 最終の局在化状態はドットの縁に存在する。(Wt)

深い断層の動き(Deep Fault Movements)

ある断層の滑り面において滑った割合を直接計測することはできるが,地下で その割合を決めることは困難である。NadeauとMcEvilly(p.718;Tullisによる 展望記事参照)は,カリフォルニア,パークフィールドにおけるサンアンドレ アス断層に沿って,小規模な地震の再発間隔からこの滑りの割合を推定した。 これらの小さな地震は,数ヶ月から数年の間隔で,同じ地域内において同じ地 震波形を伴い発生した。そして,これらの出来事は,流動学的(レオロジー: rheology)な変化なしに,地殻の圧縮によって断層がじりじりと動いていく様 を示していると考えられる。4つの巨大地震が連続して起こった結果,地震の 再発間隔が変化した。そして,これらの変化を利用して,約10kmの深さまでの 滑り率を推定した。(TO,Nk)

乳がんにおけるDNA修復(DNA Repair in Breast Cancer)

BRCA1遺伝子は、遺伝性乳がんのおよそ半数のケースで突然変異している。 Zhong たち(p.747) は、BRCA1遺伝子生成物の機能を研究するため、BRCA1結合 タンパク質を探索した。種々の結合パートナーのうち、Rad50が同定された。 これは、Mre11 と p95と多機能性複合体を形成し、DNA二本鎖の破損や相同的 組換えの修復に関与するタンパク質である。野生型 BRCA1 は、細胞へのX線照 射の後に形成される核のフォーカスにおいて、Rad50-Mre11-p95 複合体と共に 集まる。そして、野生型 BRCA1 でトランスフェクションすると、通常はDNA損 傷薬剤に対して過敏である細胞を守る。これらのデータは、BRCA1は、Rad50 仲介によるDNA損傷に対する細胞の応答において重要であることを示唆してい る。(Wt)

深海における脱塩化(Underwater Desalination)

海洋における塩の組成には、河川からの流入やいくつものプロセスによる損失 などが影響するため、その定常含有量をモデル化することは困難だった。今回 de VilliersとNelsonは(p. 721、Kerrのニュース解説も参照)、かつては一様 と思われていた海洋のマグネシウムイオン濃度がそうではないことを示してい る。このマグネシウムイオン濃度は中央海嶺の上部で顕著に減少しているが、 ここでは熱水系を通じ、イオンが玄武岩と海水の反応によって濾し取られる。 この減少の度合いから、中央海嶺付近の海水の低温循環は考えられていたより もかなり大きいことが示唆されている。この事実を海洋中のMg2+ と他の主要なイオンの発生源と減少の計算に取り入れることでより良く全体の バランスを理解することが出来るであろう。(Na,Nk)

古代の温室効果による温暖化(Ancient Greenhouse Warming)

5500万年前の急激な温暖化現象は、その急激さにおいて、最近の人為的な気候 変化にもっとも近い類似な現象であろう。その温暖化は急激な温室効果ガスの 大気又は海洋への放出によるものと考えられてきた。Bainsたちは(p. 724)、 この現象の過程の詳細なデータを2ヶ所の非常に離れた海洋の掘削コアのデー タを用いて提示している。これらの掘削コアの記録には多くの共通の特徴が見 られ、気候の変化は地球規模だったことを示唆している。地球の気候は温室効 果ガスの放出パルスにタイミングを合わせ段階的に温暖化しているようだ。そ の放出はおそらく海底または海泥中のメタン水和物の偶発的な崩壊によるもの だろう。(Na)

ストレスをコントロールする(Controlling Stress)

nonclassicalクラスI-様タンパク質であるMICAとMICBは,腸管上皮のストレス によって誘発され,多くの上皮性腫瘍上に発現する。こうした分子は,免疫系 応答に対する細胞をマーク付ける。しかし,ナチュラルキラー細胞(nk)上のこ れに対応する特定の受容体は,未知である。Bauerたち(p.727;Hagmannによる ニュース記事参照)は,MICA受容体をNKG2Dであると識別した。NKG2Dは,C型レ クチン様受容体ファミリのオーファンメンバーであり,NK細胞やほとんどのγ δT細胞,そしてCD8+αβT細胞において見つかる。NKG2Dの Ligationは,こうした細胞が行う,MICAでトランスフェクションされた細胞や 上皮性腫瘍に対する殺傷活動を誘発した。Wuたち(p.730)は,NKG2Dと非常に関 係が深いDAP10と呼ばれる膜貫通タンパク質を見つけてクローン化した。DAP10 中のリン酸化モチーフは,PI-3キナーゼのP85サブユニットと会合するように なる。そして,このP85サブユニットは,効果的な殺傷に至るまでのシグナル 伝達経路を活性化する。殺傷性細胞に対するストレス誘発メカニズムの解明は, 腫瘍を治療する新たな治療学アプローチを提案するかもしれない。(TO)

エストロゲンをブロックする(Blocking Estrogen)

エストロゲン受容体は、多くの乳癌に関わり合いがあるとされてきた、ある種 の核ホルモン受容体であるので、その受容体と天然のリガンドが結合するのを ブロックするために抗エストロゲン剤が広く処方されてきた。エストロゲンと そのアゴニストやアンタゴニストが、どのようにしてエストロゲン受容体と結 合するのかをよりよく理解するために、Norrisたちは、ファージディスプレイ アッセイを用いて、さまざまなリガンド結合をしたエストロゲン受容体を区別 して結合するペプチドを同定した(p. 744)。これらの結合複合体は、エストロ ゲンと部分アゴニストであるタモキシフェンが、エストロゲン受容体とさまざ まな機構を介して、相互作用することを示している。(KF)

パートナー・タンパク質の予測(Partner Protein Predictions)

タンパク質は、しばしば他のタンパク質と相互作用することで、代謝の、ある いは情報伝達の経路における役割を果たす。Marcotteたちは、二つのタンパク 質が相互作用しそうかどうかを、複数の生物体における配列情報をもとに予測 する方法を案出した(p. 751)。二つのタンパク質が、ある生物体においては別 のもの、すなわち別々の遺伝子によってコードされているものであるにも関わ らず、第2の生物体においては単一のタンパク質における二つの領域を形成し ている(一つの遺伝子でコードされている)ことが見出される場合には、第1の 生物体においてもそれらは機能的な相互作用をする可能性がある、というのが 彼らの考え方のベースである。彼らは大腸菌(E. coli)において、6809通りも のタンパク質同士の相互作用がありうると推定し、酵母においては、45,502通 りの相互作用がありうると推定している。(KF)

神経移植のための基部細胞の制御 (Harnessing Stem Cells for Neural Transplants)

胚の幹細胞(stem cell)は、非常に多様な細胞のタイプに分化しうるが、この 分化プロセスを操作することは、きわめて困難な課題であった。あらかじめ用 意した成長因子と培地の系列を用いて、Brustleたちは、胚の幹細胞がもって いる多様な可能性を絞り込んで、中枢神経系の髄鞘形成を担う細胞などを含む 特定の神経細胞タイプを産生するように仕向けることができた(p. 754; また、 Steghaus-Kovacによるニュース記事参照のこと)。この細胞を髄鞘形成に遺伝 的欠陥のあるラットに移植することで、中枢神経系に対する機能的移植片細胞 の組込みの将来性が示された。(KF)

カモフラージュを剥ぐ(Stripping Away the Camouflage)

細菌の表面タンパク質は、侵入していくその病原体と宿主細胞との相互作用を 促進するだけでなく、宿主側からの免疫応答による検出をかわすための手段に もなっている。それらのタンパク質は、トランスペプチド化 (transpeptidation)に似た、細胞壁選り分け(cell wall sorting)として知ら れる機構で、細菌の細胞壁に共有結合的に結び付いている。Mazmanianたちは、 遺伝的アプローチを用いて、黄色ブドウ球菌においてこの結び付きを形成する 酵素を同定し、それに対応する遺伝子が他の病原性グラム陽性菌にも存在して いることを明らかにした(p. 760)。ソルターゼ(sortase)と呼ばれるこの酵素 は、新しい抗菌性薬物の開発において有効なターゲットとなるかもしれない。 (KF)

複製とシグナルの伝達(Replication and Signal Transduction)

第2のメッセンジャーという概念はサイクリックAMPを発見したことに起源があ るが、このサイクリックAMPはアデニリルシクラーゼによってヌクレオチドア デノシン三リン酸から合成される化合物である。サイクリックAMPはタンパク 質キナーゼの活性化因子の1つであり、従ってシグナル伝達経路の活性化因子 ともなるが、では、どうしてこのような異常な環状構造を持っているのであろ うか? Tesmerたち(p.756)は、2つのアスパラギン酸側鎖と、2つの二価金属イ オンのマンガンと亜鉛が基本的に関与しているこの酵素の活性部位を構造解析 し、その結果を示した。彼らは、アデニリルシクラーゼが、ゲノム複製にとっ て重要酵素であるDNAポリメラーゼに、構造的、かつ、機構的に相同であるこ とを利用して、これら現代細胞の主要構造は、共通の先祖酵素から進化したの であろうと推測した。(Ej,hE)

警報を響かせる(Sounding the Alarm)

体の生得的免疫反応は、望まざる微生物の侵入を防いだり、特定の型のリンパ 球によるより洗練された適応型免疫反応に警報を発するように設計されている、 非特異的反応として定義されている。細菌が侵入すると、初期の免疫反応でイ ンターロイキン-12(IL-12)を産生し、これによって細胞を基盤とする適応応答 を開始する。Brightbillたち(p. 732)は、細菌の特異的構成要素であるリポタ ンパク質がマクロファージ上でToll様受容体2(TLR2)に結合し、急速に情報伝 達経路を誘発してIL-12の産生に導くことを報告している。Aliprantisたち(p. 736)は、TLR2を経由したリポタンパク質による情報伝達によってマクロファー ジのアポトーシス性死が起きること、これによって、それ自身が適応系に警告 を与えるだけでなく、炎症で生じるホストの最終的な損傷を制限することを示 した。(Ej,hE)

残念ながら、より強固な凝固(More Potent Clotting, Unfortunately)

加齢に伴う血液凝固の増加によって、高齢者の心血管と血栓病に対する感受性 が増加すると思われていた。Kurachiたち(p. 739)は、遺伝子組換えマウス系 列の血液凝固因子IX遺伝子の様々なセグメントを削除し、その変化に伴う分子 レベルでの研究を行うとともに、これによって動物の全寿命にわたる血液凝固 能力を継時測定した。これによって彼らは年齢に伴って凝固が増加することを 司る2つの調節領域を同定した。その1つはPEA-3結合エレメントであり、これ は遺伝子の年齢に対して発現が安定になるよう制御している。他の1つは、3' 非翻訳領域中にあるジヌクレオチド反復領域であり、年齢に伴ってメッセンジャー RNA(mRNA)レベルの増加を制御しているが、その方法はmRNAの安定性に影響を 及ぼしているのであろう。これら年齢によって制御される領域が分子レベルで 同定されたことによって、薬物治療の標的部位になり得るし、類似のメカニズ ムで操作されていると思われる年齢とともに減少する現象の理解に方向付けを 与えるものである。(Ej,hE)

使ってみな、ダメなら捨てろ(Use it or Lose it)

脳の中のいくつかの神経伝達物質の作用は、その物質の分解ではなく、実際の 輸送によって作用が止められる。多くの薬剤は中枢神経系に対して、輸送体タ ンパク質を阻止することで、その効果を発揮する。RamamoorthyとBlakely (p. 763)は、セロトニン自身やアンフェタミンのような、セロトニン輸送体の輸送 可能な基質が輸送体のリン酸化を抑制する証拠を見つけたと報告している。そ の結果、セロトニン輸送体は細胞膜中に局在し続けることになる。コカインの ようなセロトニン輸送体のアンタゴニストはこのリン酸化を阻害せず、輸送体 はその後原形質膜から除かれる。この結果は、神経伝達物質の不活性化が使用 に依存して調節されるという証拠を提供するものであり、セロトニン作動性の 伝達を含む多くの精神医学的現象に重要な意味をもつものかも知れない。 (Ej,hE)

神経伝達系に必要なエネルギー(Energy for Neuro-Transmission)

P.J.Magistrettiたち(展望,22Jan., p. 496)は、「機能的な脳画像化技術によっ て検知された代謝信号により、活動電位や神経伝達物質の放出といった神経プ ロセスがどのようにしてある決められた脳の活性化や、その結果としての行動 状態を引き起こすのか、を理解する上でいかに重要な知見をもたらすか」を報 告した。彼らはその発見に関して「エネルギー代謝と結びついたニューロンの 活性化に関するその特異的な細胞、及び分子機構を同定し、そして定量化」出 来る事を述べており、そしてグルタミン酸放出を含む活性化に重要な役割を与 えている。L.HertzとS.A.Robinsonは「[グルコース利用とグルタミン形成の間 の]関係は[展望で示唆されているほど]単純なものでない」とコメントしてい る。J.L.Griffinによると、Magistrettiたちは「脳における活性化と代謝の間 の複雑な関係に関し興味ある説明を与えているが、しかしながら彼らが記述し ていない当惑するような課題がたくさんある」ことを述べている。 Magistrettiたちは「我々の結果は生体内での神経伝達物質系の幾つかに関し てエネルギーの役割に機会を与えるものである」と応えている。にも関わらず、 彼等が述べているように相対的な割合が「生体内で定量化される」まで「我々 の説明と食い違うような」別個の代謝経路を「受け入れる事は出来ない」。こ のようなコメントの全文が
www.sciencemag.org/cgi/content/full/285/5428/639a で見られる。(KU)
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