AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 23, 1999, Vol.285


宇宙空間の自転する断片(Spinning Fragments in Space)

Ostroたちは(p. 557)光学的且つ、レーダーによる観測で、地球に接近する軌 道を持つ小惑星KY26の特徴を調べた。ほぼ球状の(直径およそ30m)小惑星は炭 素質コンドライトいん石と類似のスペクトル特徴を持ち、およそ10分間という 短い自転周期を持っている。これらの特徴から推定するとKY26は衝突によりもっ と大きな天体から飛び出した断片であることを示唆している。又、その時期は 過去10^7年か10^8年前に起きた可能性が高い。(Na,Nk)

エロスのクローズアップ観察(A Closer Look at Eros)

近地球小惑星ランデブー探査機(NEAR: the Near Earth Asteroid Randezvous) は1998年12月に小惑星433エロスから4000Km以内に近づいた。Yeomansたちによ り収集された探査機の追跡とドップラーデータ(p. 560)は、Veverkaたちによ り完成されたイメージングデータ(p. 562)と組み合わされ、細長いクレータで 覆われたエロスの質量などのバルク特性を決定した。その密度はおよそ1立方 センチあたり2.5gで、アイダのそれと類似で、Cタイプの小惑星マチルダより はるかに大きい。エロスは明らかにそのスペクトルで決定されるクラスに整合 しており、マチルダより構造的に凝集している。(Na,Nk)

天文学的な力が及ぼす気象への影響(Astronomical Forcing of Climate)

地球軌道の周期的変化による,長期間の地球の気象システムの影響を焦点にし た,2つの研究報告(Kerrによるニュース記事参照)がなされた。幾つかあるは ずの周期性が気象記録から欠落しているが,満足のいくこの説明を見つけるた めに研究者は取り組んできた。Rial (p. 564)は,周波数変調理論を使うこと で,もしかすると、あるべき413,000年の(気候の)周期性が見られないことの 鍵は,他のより短い周期を起すことに寄与しているかもしれないと仮定するこ とで,不可思議な周期欠落を説明できることを示した。この仮説に基づきモデ ル化された周波数は,観測したパターンと一致している。しかし,この説明の 元となる物理的なメカニズムは,まだ知られていない。約275万年前の北半球 における氷河期の発端となった原因は,不明である。地球の気候は,この期間 に何らかの理由により,軌道変動に基づく日射の変化に影響を受け易くなって, 氷床が成長した。Willisたち(p. 568)は,ハンガリーのPula maarから積層し た湖の互層堆積物を分析して,この期間の様子をおぼろげながら示した.その 結果は,花粉によって260万年前から300万年前までの高解像度(2500年毎)の記 録をもたらした。約15,000年以下の周期的な気候の変化は,北半球の氷河作用 の開始の少し以前から現れている。これらの周期は,通常のMilankovitch軌道 周期(これ以前では顕著に見られる)以下であり,大きな氷床の安定化を促し て来た。(TO)

超放射Rayleigh散乱(Superradiant Rayleigh Scattering)

光子のRayleigh散乱は,白色光を散乱させるため,空の色を青にする。その基 本プロセスでは,光子の吸収があって,その後に1つの原子から自発再放射 (spontaneous re-emission)が続く。その放射は,あらゆる方向に対して起こ り、その結果原子にランダムな反動による運動量を与える。Inouyeたち (p. 571)は,コヒーレント光(レーザー光)と相互作用するコヒーレント原子 群--Bose-Einstein凝縮(ここでは原子群は同一量子状態に凝縮している)に よるRayleigh散乱を研究してきた。光子が,この凝縮に運動量を与えるので, 跳ね飛ばされた原子は,原子回折格子を形成する。このプロセスは,結果とし て高い方向性を有する光子のRayleigh散乱を引き起こし,それは1つの原子か らではなく原子の集団によって発生する超散乱(superradiant)--放射であるい。 (TO,Nk)

より低い炭素の吸収源(A Smaller Carbon Sink)

人類がもたらした炭素排出の総てが大気中に滞留している訳ではないが、しか し陸地と海洋の炭素吸収量、及び両者がどのように炭素を取り込んでいるのか そのメカニズムに関しては議論の余地がある。Houghtonたち(p. 574;Fieldと Fungによる展望記事参照)は、炭素吸収に関して合衆国における長期にわたっ ての土地利用の変化の影響に関して研究をした。著者たちは、吸収量は合衆国 の化石燃料による排出量の10〜30%のオーダであり、大気測定に基づいた以前 の研究で見出された値よりはるかに低いという事を結論づけている。 (KU,Nk,Og)

免疫不全のチャレンジ(The Immunodeficiency Challenge)

癌や移植の治療においては、しばしば、ヒト免疫不全症ウイルスなどの感染媒 体が起こすような、免疫系の破壊という問題が生じることがある。Greenberg とRiddellは、細胞の免疫系を再構築するために試みられている各種のアプロー チ方法について、それぞれの方法の限界や、今後の可能性や問題についてレビュー を行なっている(p. 546)。(KF)

二重の義務(Double Duty)

感光性タンパク質クリプトクロム(cryptochrome)は、植物や昆虫、哺乳類など の内因性概日性時計の不可欠な要素であると示唆されてきた。それはまた、時 計をリセットする光信号を伝達する光受容器である、ということも提案されて きた。ショウジョウバエ(Drosophila)の概日性時計の一部分を試験管内で複製 することで、Cerianiたちは、クリプトクロムが実際にどちらの働きもする可 能性があることを示している(p. 553 ; Barinagaによるニュース記事参照の こと)。クリプトクロムのタンパク質は、主要な時計要素であるタイムレス (TIMELESS)と相互作用し、それを細胞核に閉じ込める。この生化学的作用は、 光によって引き起こされる。(KF)

酵母感染の手がかり(A Handle on Yeast Infections)

カンジダ種は、病院での感染全体の8%以上の原因である。酵母種がどのように して上皮性細胞に接着するかを明らかにすることは、病原性の理解にとって重 要であり、より効果の高い薬物療法を設計する助けとなる可能性がある。 Cormackたちは、単純な単相体の性質をもったカンジダglabrataゲノムを開発 し、さらにsignature-tag付き変異原性と呼ばれる技法を組み合わせて、それ が高い割合で含まれる非相同的組み込み(nonhomologous integration)を開発 することで、分析に使えるタグ付きの挿入変異体(insertion mutant)からなる ゲノム・プールを作り出すことができた(p. 578;また、Goldmanによる展望記 事参照のこと)。スクリーニングの後に、病原性の真菌から一つのアドヘシン (adhesin)、EPA1がクローン化され、このレクチンのリガンド特異性が部分的 に決定された。(KF)

花開く前に(Before the Bloom)

美しい花を咲かせるためには、まだ未分化の増殖細胞小グループである新芽頂 端分裂組織が、引き続き新芽組織を作るのではなく、花序と花組織を作るよう に方針転換することから開始する入り組んだ分子制御が必要である。これには 頂端分裂組織を同定するLEAFYのような遺伝子が関与している。Busch たち (p. 585; 表紙の写真) およびWagnerたち (p. 582)は、シロイヌナズナを使っ て、このLEAFY遺伝子が、これら多様な運命をどのように制御しているのかを 調べた。それによると、LEAFYはホメオティック遺伝子のAGAMOUSのすぐ上流の 制御遺伝子であるだけでなく、AP1遺伝子の初期機能の直接の制御遺伝子でも ある。(Ej,hE)

宿主を欺く(Tricking the Host)

腸管病原性大腸菌(EPEC)の大腸への感染は幼児下痢の主要な原因の一つであ。 EPECの外膜タンパク質intiminはその受容体Tir(細菌は上皮細胞を狙ってTirを 放する)や、T細胞上のβ1-integrinsに結合する事ができる。変異intiminを用 いて、Higginsたち(p. 588)は、粘膜T細胞への結合が感染を引き起こす決定的 な要因である事を突き止めた。intiminがT細胞抗原受容体と結合しているT細 胞に結合すると、そのT細胞は相乗的な形で活性化され、そして粘膜Tヘルパ- 細胞1型の免疫応答を多量に引き起こす。結果として粘膜を厚くし,陰窩細胞 を過形成し、そして炎症へと導く。宿主-免疫応答に関するこのような上方制 御によって、継続的なEPECの定着や生存にふさわしい環境が形成されるのであ ろう。(KU)

細胞内のペプチドのスクリーニング (Screening Peptides Inside Cells)

生物学的情報伝達経路の抑制物を同定することとその経路の新しい成分の機能 的な役割を明らかにするために、強力な遺伝的選択とスクリーニング方法を組 み合わせることができる。Normanたち(p 591)は、発芽酵母における担体タン パク質の表面に露出したループ中の16アミノ酸からなる無作為の配列をもつペ プチドを発現させた。遺伝的選択を用い、無作為ライブラリからペプチドを単 離し、そのペプチドがフェロモン情報伝達か転写性サイレンシングか細胞分裂 周期の紡錘チェックポイントを抑制した。次に、このペプチドを用いて、相互 作用タンパク質をスクリーンするための2ハイブリッドスクリーンを行い、こ れによって紡錘チェックポイントの新しい成分の同定ができた。全ゲノムDNA ミクロアレイ分析による転写パターンの分析によれば、このようなペプチドの 発現は、知られている遺伝的修飾と同様な特異的効果を現した。このような抑 制性ペプチドは、細胞の情報伝達経路の分析に有用であったり、特異な情報伝 達経路に特異的に影響する薬の開発の出発点にもなりうる。(An)

補体と脳卒中(Complement and Stroke)

焦点脳虚血と再灌流の動物モデルにおいて、Huangたち(p 595)は、体の非特異 的な防御機構のひとつである補体カスケードの役割を分析している。虚血性脳 におけるニューロンにおいて、C1qタンパク質の発現が増加することを示して いる。この増加によって、この細胞が補体仲介の発作の標的になるのかもしれ ない。糖鎖形成によって修飾された補体受容体sCR1の細胞外領域を含むハイブ リッドタンパク質を投与すると、血小板と好中球細胞の蓄積を効率的に抑制し た。この治療は、脳卒中の動物モデルにおいて、脳ダメージを減少した。(An)

接続の形成(Forming Connections)

末梢感覚器からの入力信号は、脳の高次処理中枢の発生期間中、発火信号パター ンを形成する中心的役割を果たすと考えられてきた。Weliky と Katz (p. 599; McCormickによる展望記事も参照)は、発生中のケナガイタチ (ferret)の視覚経路中の重要な中継局である外側膝状核からのマルチ電極記録 データを示した。これによると、外側膝状体内の活性は、単なる神経細胞から の入力を反映しているだけでなく、視覚野は異なる膝状体層での相関活性を形 成するために大きな役割を演じている。(Ej,hE)

自己相関関数と、人間活動の気候への影響 (The Autocorrelation Function and HumanInfluences on Climate)

T. M. L. Wigley たち (27 Nov.の報告 p.1676) は、人間活動が地球の気候へ 及ぼす影響の徴候を探索した。彼らは、「太陽の強制力だけでは、[半球の平 均温度の]観測とモデル化された制御実行データとの間の自己相関構造におけ る相違を解消することはできない」ことを見出した。これは、人間活動に起源 を有する影響の存在を示唆している。A. A. Tsonis と J. B. Elsner は、 「確かに、気候に対する人間活動の影響は存在している可能性がある。しかし、 そのような比較のための道具として自己相関関数を用いることには問題がある」 とコメントしている。彼らは、その報告書で用いられた自己相関関数は、「無 意味な」結果を与えることがあることを数学的に示している。その返答として、 Wigley たちは、そのコメントの技術的正しさには賛成している。しかし、彼 らはそのコメントは、「私たちの報告のどの結論をも無効にするものではない」 と述べている。これらのコメントの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/285/5427/495a にて見ることができる。 (Wt)
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