AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 2, 1999, Vol.285


HCVの複製を試みる(Exploring HCV Replication)

世界中でおよそ1億7千万人もの人が感染していると推測されて いるC型肝炎ウイルス(HCV)は、主要な公衆衛生問題の1つと して認識されるようになっている。この問題における最大の障 害の1つは、ウイルスの複製を研究するために不可欠な信頼で きる細胞培養系がないことである(Cohenによるニュースストー リを参照)。Lohmannたち(p. 110)は、HCVゲノムから選択可 能なRNAレプリコンを生成し、これらのRNAが安定して、かつ、 高いレベルで、トランスフェクションされたヒトの肝細胞腫細 胞中で複製することを見つけた。この実験的系によって詳細な HCVのライフサイクルが分子レベルで解明され、新しい抗ウイ ルス治療の試験が可能となるであろう。今のところインター フェロン(IFN)がHCVに対する最も妥当な治療法であろうが、 多くのウイルス単離物はIFNに耐性である。Taylorたち (p.107)は、HCVの外被タンパク質のE2は、IFN-誘導性キナー ゼのPKRと、PKRの標的である翻訳開始因子のelF2a中のリン 酸化部位と同じ配列を含んでいることを示した。培養細胞中で は、E2はPKRのキナーゼ活性を阻害し、タンパク質合成と細胞 増殖を抑制するというその能力をブロックした。このように、 E2-PKR相互作用は、これによってHCVがIFNの抗ウイルス機 能を妨害する1つの戦略であろう。(Ej,hE)

太古の年代(Very Old Ages)

地球規模で堆積岩の年代を測定したり関連する岩石相互の関連 を調べることは、生物の進化と絶滅のペースを正確に評価した り、全世界的な気候や海面水位の変化を測定したりするために 重要である。地層間に火山岩が存在しない場合には年代測定は 不正確になり、そして特に指標化石がほとんど使えない先カン ブリア時代のサンプルに対しては厄介である。多くの場合,顕 生累(るい)代においては数千万年よりも正確に年代を知ること ができず、先カンブリア時代においては数億年よりも正確に知 ることができない。McNaughtonたち(p.78;Whitehouseによ る展望記事参照)は、多くの堆積岩中にある初期の続成作用に よる鉱物、燐酸イットリウム鉱(xenotime)によって、先カン ブリア期から第四紀の岩石から正確なウラン-鉛法による年代 を割り出せることを示した。彼等は,特にオーストリアにある 先カンブリア時代の砂岩が17憶400万年前のものであると年代 測定した。(TO,Fj,Tk)

キャニオンディアブロの名残 (The Remains of Canyon Diablo)

鉄隕石のキャニオンディアブロ(Canyon Diablo)は5万年前に地 球に衝突し、アリゾナに隕石クレーターを作った。そのクレータ の周辺地域は、溶融しなかった鉄の小片である隕石、そして溶融 した鉄の玉である球状物体(スフェロイド)が散乱している。 Schnabelたち(p.85)は、宇宙線によって生成された核種(nuclide) であるニッケル-59の濃度を測定し、そして隕石よりもスフェロイ ドの方が濃度が低いことを発見した。この濃度の低さは、スフェロ イドは宇宙線の被爆から遮蔽されていたことと一致し、そして大気 圏突入の間に溶解が起こったこととも一致する。さらにスフェロイ ドはおそらく、隕石様物体の内部の1.3から1.6メートルの深さから もたらされたことを示唆している。(TO,Tk)

準粒子をピン留めする(Pinning Down Quasiparticles)

超伝導体中では、電子はクーパー対に凝縮し、物質中の至る所を自 由に動く。もし、物質に欠陥があれば、クーパー対が散乱中心と接 触するときに崩壊して、準粒子を形成する可能性がある。このよう な高温超伝導体中の散乱効果は、理論的には予測されていたが、今 までの所、実験的な検証がなされてはいなかった。Hudson たち (p.88; Atkinson と MacDonald による展望を参照のこと) は、走 査型プローブ顕微鏡を用いて、超伝導遷移温度よりはるかに低い温 度においてさえも、そのような原子スケールの散乱中心が多数存在 することを示している。 この結果は、また、超伝導ギャップのd 波の特性を裏付けるものでもある。(Wt)

狭い場所で作業する(Working in Tight Quarters)

微量分析系や微量反応系という更なる小さなデバイスからなるミク ロな合成装置は、大きな技術的挑戦の対象である。Kenisたち (p. 83;表紙,及びHellmansによるニュース解説参照)は一つの挑 戦、すなわち小さなキャピラリ内部に空間的に局在化したパターン 形成方法に関して報告している。希望する場所で化学反応を行なわ させるために、この方法は複数の液体流の層流特性を利用している。 例えば、キャピラリ内に薄い銀線を成長させ、同様にして弾性物質 のチャンネル内部に機能を持った3つの電極系を形成した。(KU)

カーボンナノチューブにおける水素貯蔵 (Hydrogen Storage in Carbon Nanotubes)

バッテリーや燃料電池のエネルギー担体としての水素に大きな期待 が持たれているが、水素貯蔵が困難なため一般消費者用途としては 限界があった。Chenたち(p.91)は、LiイオンやKイオンをドープし たカーボンナノチューブを用いて、大気圧下,及び適温 (200℃〜400℃)条件下で水素を20重量%まで吸収することを報告 している。エネルギー密度はガソリンのほぼ半分ぐらいであり,金 属水素や低温吸着材で得られる値よりはるかに大きい。(KU)

とうとう捕まえた(Caught at Last)

短寿命の化学種を同定したり特徴づけるさいに、質量分析技術に よってその方法は大きく改善されたが、いまだ大きなチャレンジ の対象である。ラジカル種に対しては特別の技術が必要となる。 Cacaceたち(p. 81)は、HO3ラジカルの存在を実証したり、その 寿命を推定するために中和ー再イオン化 (neutralization-reionization)による質量分析法に関して報 告している。この分子は大気の反応プロセスに関与していると考 えられていたが、いまだ同定されていなかったものである。(KU)

イオンチャネルの開閉と浸透 (Ion Channel Gating and Permeation)

生体膜中でのイオンチャネルの機能の根底には、二つの基本的な 過程が横たわっている:浸透、すなわち、膜を横切るイオンの選 択的な移動と、開閉、すなわち、浸透経路へのイオンの接近の制 御である。最近、ひとつのイオンチャネルであるKcsA カリウム チャネルの構造が決定された。Roux と MacKinnon (p.100) は、 静電的モデリング手法を用いて、このチャネルを通しての K+ イ オンの浸透過程を説明してる。そして、Perozo たち (p.73) は、 部位特異的スピン標識手法と電子常磁性共鳴分光学とを用いて、 KcsA チャネルの開閉に関わる立体配置的な変化を決定した。 (Zagrovicと Aldrich による展望を参照のこと)(Wt)

Mg2+ の綿密な制御(Tight Regulation of Mg2+)

腎臓によるマグネシウムの再吸収は主に傍細胞輸送(細胞間の溶 質移動)によって仲介されているが、このプロセスについてはほ とんど分ってない。Simonたち(p. 103;および、 WongとGoodenoughによる展望記事)は、大量のマグネシウム欠 乏症、カルシウム欠乏症を起こす遺伝性の家族について調べ、こ れらの人たちの原因遺伝子であるparacellin-1(PCLN-1)を同定 した。PCLN-1遺伝子は、密着結合タンパク質であるclaudinsの ファミリと配列相同性を有する推定上の膜貫通性タンパク質であ るparacellin-1をコードする。paracellin-1は腎臓セグメント 中のマグネシウム再結合が推定されている密接結合に特異的に局 在している。(Ej,hE)

IP6とmRNAの輸送(IP6 and mRNA Transport)

ホスホリパーゼC(PLC)という酵素がホスファチジルイノシトール (PtdIns)を加水分解することによって、ジアシルグリセロールと イノシトール1,4,5三リン酸(IP3)を生成する。IP3は、情報伝達 分子であり、細胞内に蓄積したカルシウムの放出をさせる。より 多くリン酸化したイノシトール、例えばIP6、の役割については あまり知られていない。Yorkたち(p 96)は、核からメッセンジャ ーRNA(mRNA)の輸出に機能するタンパク質をコードする遺伝子 GLE1の変異対立遺伝子と組み合わせることによって、致死的と なる酵母の変異を同定した。単離した遺伝子の中、ひとつは PtdIns特異的PLCをコードしたが、もうひとつはIP5からIP6へ の変換を促進するイノシトールポリホスフェードキナーゼをコー ドしている。結果は、 核からのmRNAの正常放出にIP6の生成が 必要であることを示唆し、このような放出がイノシトールポリリ ン酸塩によって仲介された細胞情報伝達に応答する可能性のある ことを示唆している。(An)

調節因子をつなぎ合わせる (Bringing Regulators Together)

細胞内の情報伝達経路の成分をつなぎ合わせる骨格タンパク質の 重要性を示す情報が蓄積しつつである。Westphalたち(p 93)は、 N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体に関連している情報 伝達複合体を記述している。NMDA受容体は、制御されたイオン チャネルとして機能する神経伝達物質グルタミン酸のニューロン 受容体である。著者は、yotiaoという骨格タンパク質が受容体に 結合し、調節タンパク質キナーゼとタンパク質ホスファターゼに も結合することを発見した。受容体複合体における1型タンパク 質ホスファターゼ1(PP1)は、構成的に活性であり、受容体のチャ ネル活性を抑制するように作用する。アデノシン3',5'一リン酸 (cAMP)依存性のタンパク質キナーゼ(PKA)も複合体に存在する が、細胞内cAMPの濃度を増加する刺激の後だけに活性化され る。PKAの活性化は、PP1からの抑制信号を無効にし、受容体 に流れる電流の増加を招く。このように、yotiaoは、基質であ るNMDA受容体のすぐ近くに反対の調節作用をもつ酵素を局在 化する。(An)

B細胞への積極的な接近 (A Positive Approach to B Cells)

B細胞とT細胞はリンパ細胞であり、各々の細胞はランダムに生 成される1つの抗原受容体を持っている。T細胞は、正と負の2 つの選別プロセスを経由して、最終的な受容体レパートリを産 生することが知られているが、B細胞中での似たような選別プロ セスについての研究はより困難であった。ほとんどの自己反応 性B細胞が選択的に除外されるように、B細胞は負の選別という 障害を克服しなければならないことが知られている。しかしな がら、ヒトの血清には「生得的な自己抗体」が含まれている。 Hayakawaたち(p. 113)は、自己抗原が、B細胞の生存を促進 することによって積極的にB細胞を選別するかどうかをテスト するシステムを作った。彼らは自己抗原に特異的なB細胞は、 自分たちが集積したり自己反応性抗体を産生するためには、 その抗原の存在が必要であることを見つけた。(Ej,hE)

ゴルジの輸送の仕組み(Golgi Transport Mechanisms)

レビュー論文(p. 63)において、AllanとBalchは、ゴルジ複合 体を介しての、正味の前方への輸送量が、生合成膜の前方への 通過を担う小胞の形成と移動に依るのではなく、ゴルジ常在性 の酵素による小胞の再利用に依ることを示唆する最新の証拠に ついて解き明かしている。また、膜を通っての細胞の中へ、ま た外への出入りの均衡の理解に役立つことがらも解き明かされ ている。(KF)

HIV-1への感受性に対する選択 (Selection Against Susceptibility to HIV-1)

M. Carringtonたちは、「HIV-1に感染しながら、10年以上も エイズの発症を避けることができた28%から40%の白人患者の 生き延びの原因は、彼らがヒト白血球抗原(HLA)クラスI座位に おいて完全にヘテロ接合性であること、彼らがエイズに関係す る対立遺伝子B*35とCw*04を欠いていること、あるいはその どちらでもあること、に帰すことができる」ことを発見した (3月12日号、p. 1748の報告)。C. Willsは、「HLAにおける ほんの一つあるいは少数の対立遺伝子が病気に対する抵抗性を 与えると仮定すると、流行の間には、これら対立遺伝子が集団 に広まる(つまり、こうした対立遺伝子を有する個体の方が、 生き延びやすい)ことになるだろう。この過程によってHLAの 多型性が減少することになる。そうではなくて、少なくともこ の場合には、少数の対立遺伝子が感受性を与え、大多数が抵抗 性を与えるのである。...このような抵抗の仕方であれば、他の 病気に対する防御において本質的である主要組織適合複合体 (MHC)の遺伝子のバリエーションを損なうことがない」とコメ ントしている。これに応じて、S. J. O'BrienとM. Carrington は、HIV-1の場合に、このような「頻度に依存した選択が起こ る」ということに同意し、「どのようにしてより感受性の高い 対立遺伝子が作用するのか」はまだ明確でないが、「新しく使 えるようになった試薬と技術」によって解決される可能性があ る、と述べている。これらコメントの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/285/5424/11a で、見ることができる。(KF)
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