AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 25, 1999, Vol.284


デザイナ脂質(Designer Lipids)

葉緑体を構成し、光合成の機構を包囲する膜は、主にガラクト脂質 からなる特有の脂質組成をもつ。Dormannたち(p 2181)は、シロ イヌナズナにおけるガラクト脂質の構築に影響する遺伝子のひとつ であるDGD1をクローン化した。遺伝子と生化学的な研究は、ガラ クト脂質が2つの合成系から由来していることを示唆している。こ の合成系は、ひとつがプラスチドにあり、もうひとつが小胞体にあ る。クローン化した遺伝子の配列からの構造予測は、DGD1タンパ ク質がプラスチド外被に関連していることを示唆している。(An)

鯨における文化と遺伝的進化 (Culture and Genetic Evolution in Whales)

H. Whitehead (Reports, 27 Nov., p. 1708)は、クジラの4つの 種類において「母系によって文化的特徴が選択的に伝達され、これ に乗って中立のミトコンドリアDNA(mtDNA)の対立遺伝子が  ’ヒッチハイク’する結果、遺伝的な多様性を著しく狭める可能性 がある。その結果、人間以外のほ乳類と比較して、母系のクジラに とっては、文化は進化の大きな牽引力であるのかも知れない」。い くつかの異なる研究結果から集められたこれらのデータは、 Whitehead の提案を支持するに足りるほど信頼に価するものなの か、という4つのコメントが寄せられている。S. L. Mesnickたち は、「大洋間での低い多様性を維持することに作用している選択的 進化(それが文化に関するものであれ、他のものであれ)の存在を 想像することは困難である」と述べている。C. Schlottererは、 「調べた種の個体数が他の種よりも少なかったためにmtDNAの多 様性が低くなったに過ぎないのではないか」と言う。 R. TiedemannとM. C.Milinkovitchは、「空間的および時間的に、 どんな確率的不均一性が繁殖力に存在しても、その結果母系の個体 数におけるmtDNAの多様性が著しく減少することになる」と述べて いる。W. Amosは、「出生グループからの分散が無いか、少ない」 部分群では、「生活史を単位とする群の集合」と見なせるという仮 説が、測定データに当てはまるのではないかと言う。Whiteheadは、 これら各コメントに、より詳しい解析や新たな計算を実施ながら応 えている:「クジラの多数の種の社会的構造についての長期的デー タを現在集め、解析しているところであり」、「この現象に対する 1つの進化仮説を示したのであり、データは結論を出すには早過ぎ る状態であり、すべての可能性のある説明を提案して頂けるよう強 く呼びかける」と述べている。この全文は、以下を参照(Ej,hE) :
www.sciencemag.org/cgi/content/full/284/5423/2055a Plants Under Attack

攻撃にさらされている植物(Plants Under Attac)

地球規模の温度上昇の危険一つは、昆虫による植物の摂取が増加す るかもしれない、ということである。WilfとLabandeiraは (p. 2153、Coleyの展望も参照)、化石の記録によりこの可能性に 注目した。彼らは始新世と暁新世、およそ5000万年前、地球の気 候がかなり暖かくなったころの植物の昆虫による捕食を調べた。北 アメリカ西部のいくつかの地域の植物化石データによると暁新世の 温暖気候の間に昆虫による捕食が非常に増加していることを示して いる。(Na,Nk)

地球規模の気候のリンク(Global Climae Links)

歴史的な気候の記録によると、インドの夏季モンスーンとエルニー ニョ振動(ENSO: El Nino-Southern Oscillation)とは関連がある。 一般に弱いモンスーンと暖かいエルニーニョとは同時におこる。イン ディアンモンスーンに影響を与えるもう一つの因子はユーラシアの気 温と相関のあるヒマラヤの積雪である。Kumarたちは(p.2156)、歴 史的記録を分析し、エルニーニョとモンスーンとの関連は過去数十年 間弱くなっていることを示している。可能性のある一つの説明は、最 近のユーラシア地方の温度上昇である、これにより暖かいENSOにお いてもモンスーンの降水を持続している可能性がある。(Na,Nk)

このような岩石には金がある(There’s Gold in Those Rocks)

主要な金鉱脈地帯の起源は定かではない;金は変成岩の石英鉱床中で多 く見出されており、具体的には剪断帯の断層中に入り込んだ熱水が、 400~300℃で、圧力の下がった所に金属として沈着し、緑色片岩と角 せん石が特徴的な共生鉱物として存在する。金がどのようにして鉱脈 形成中の流体中で濃縮し、そして堆積したかを推論するには圧力と温 度に対する金の溶解度に関する知識が極めて重要である。Loucksと Mavrogenes(p. 2159;Kerrichによる展望参照)は金の溶解度を調べ、 石英中で金に富むインクルージョンを作った。石英は実験用の圧力容 器として用いられた。データによると、液体中の金の化合物の溶解度 は高圧,高温下では非常に高いが、しかし冷却したり圧力を下げると 急激に低下する。金を含む液体の圧力を急激に下げると経済的にも成 り立つような沈殿物が得られた。(KU)

三次元画像の復元 (Reconstructing Three-Dimensional Images)

多くの分野でデータを記録するさいに二次元の光学画像を用いている が、しかし多くの場合対象物体の三次元的画像はより有用である。三 次元画像を得る方法の多くは物体の一つ一つの点を走査したり、或い はホログラフィのようにコヒーレント光(レーザー)を用いて照明する 必要がある。Marksたち(p.2164;Radovによるニュース解説参照)は、 インコヒーレントな白色光を用いた方法に関して報告している。物体 の個々の点から散乱された円錐形に発散する光は個々のピクセル(画素) 全体の強度に寄与し、その強度は二次元のセンサーアレイで測定され る。こういった相互の強度函数を光学干渉計とX-線断層写真で開発さ れたアルゴリズムを用いて解析する事により、著者たちは照射物体の 三次元画像を正確に復元する事が出来た。(KU)

エチレン応答の統合化(Integrating Ethylene Responses)

珍しいタンパク質が植物におけるエチレンホルモンに対する情報伝達 を固定し、またその他の揮発性化学物質の情報に対する応答も調整し ているらしい。Alonsoたち(p.2148)は、シロイヌナズナから得た このEIN2遺伝子をクローン化し、性状決定した。配列分析からは、 12個の膜貫通ヘリックス構造をもつ1つの領域と、エチレン情報伝 達で機能するがその他の公知の情報伝達タンパク質とはほとんど類似 性のない第2の親水性領域とが予測された。EIN2と、むしろこれとは かけ離れたエチレンやジャスモン酸経路との間に相互作用があること は、情報伝達応答の調整を分子レベルで説明できることを示している。 (TO)

閉じられた閉鎖磁区(Closure Domains Closed)

電子スピンは磁性材料中で整列させられるにつれ、エネルギーを最小 化しようとして、その材料は、個々の磁気モーメントがすべて同じ方 向を向いた巨視的な領域に分裂する。ドメイン間あるいは膜の表面近 傍において、平面内磁化を有する領域は閉鎖磁区と呼ばれる。この領 域は、通常の磁気散乱手法による可視化が困難な傾向がある。Durr たち(p.2166; Hillebrecht による展望記事を参照のこと)は、円偏光 X線の散乱に基づく可視化方法について記述している。平面内閉鎖磁 区が見られる鉄-パラジウム薄膜中の磁化プロファイルが得られてい る。(Wt)

匂いと反応(Smell and Response)

分子生物学における嗅覚受容体についての膨大な進歩にも関わらず、 嗅覚系に伴って生じる信号の処理に関するわれわれの理解は、いまだ 限られたものとなっている。Duchamp-Viretたちは、ラットの嗅覚 受容体ニューロンにおける匂いについての調整を、鼻の粘膜から得ら れた電気生理学的記録を分析することで検査した(p. 2171)。彼らの 結果が示しているのは、嗅覚受容体ニューロンの反応は、たった一つ の匂いに対して特異的であることはきわめてまれだ、ということであ る。細胞の大多数は、広い範囲の物質に反応するのである。この知見 は、一つのニューロンが表現するのはたった一つの嗅覚受容体である、 という仮説に対立する。むしろ、特定の匂いへの反応においては、複 数のニューロンが並んで活性化されるらしい。(KF)

まるで時計仕掛け(Like Clockwork)

ヒトの概日時計は、25時間を平均とする、かなり幅をもった周期で働 くと考えられてきた。25時間というのはヒト以外の動物に比べればか なり長いが、これは加齢とともに短くなり、これによって高齢者が早 起きになるというよく知られた現象が説明できるとされる。Czeisler たちは、このたび、こうした説明がいずれも正しくないことを示した (p. 2177; またMooreによる展望記事参照のこと)。彼らが用いた実験 のプロトコルは、若い被験者と高齢の被験者とを、内在性時計のリズ ムとは大きく懸け離れていて概日時計の周期に影響を与えないような リズムで、環境によるキューにさらすものであった。この条件下では、 若い被験者においても高齢の被験者においても、自由活動状態でのヒ トの概日時計の周期は24時間と11分であり、ヒト以外の動物と類似 したものであったのである。(KF)

あるメチル基転移酵素による転写の加速 (Accelerating Transcription with a Methyltransferase)

染色質のタンパク質-DNA複合体は、転写プロセスにおける重大な関 門となっている。細胞は、ヒストン・アセチル転移酵素 (histone acetyltransferases)、すなわちHATなどの染色質-改変 因子を用いることで、この構造上の関門を処理することができる。 いくつかの活性化補助因子(coactivator)には、HAT活性があること が知られている。Chenたちは、このたび、核のホルモン受容体活性 化補助因子と相互作用して転写活性を増加させる、いわゆる二次的活 性化補助因子を一つ同定した(p. 2174)。この二次的活性化補助因子、 CARM1は、もう一つ別の酵素活性、すなわちメチル基転移酵素とし ての酵素活性をも示すものである。CARM1は、HAT同様、ヒストン を改変することを介して、染色質の構造に影響しているのかもしれな い。あるいは、これとは違って、転写複合体における他の因子の活性 を変調することでCARM1は転写に影響を与えているのかもしれない。 (KF)

脳の発達を指令する(Directing Brain Development)

脊椎動物の後脳や周囲の鰓弓(branchial arches)の発達は、2つのタ イプの組織間での複雑な相互作用に依存している。異所性発現と正所 性移植を巧妙に組み合わせることで、Bellたち(p.2168)は、これらの 組織の中で、Hox遺伝子がどのように位置的な同一性を特定するのか を明らかにした。ヒヨコの胚におけるこれらの研究の結果から、異な る組織間の相互作用を指令する認識キューをHox遺伝子が調節してい ることが示される。(TO)

胃腸管を静かに(Calming the GI Tract)

モチリンは、胃腸(GI)管において、栄養素の輸送(運動性)を刺激する ペプチドホルモンとして長い間知られてきた。Feighnerたち(p 2184) が行った大規模なスクリーニングによって、ヒトのモチリン受容体が 同定された。この受容体は、エリスロマイシンにも結合するので、該 抗生剤の不快な 副作用を説明できるかもしれない。結論として、モチ リン受容体はGタンパク質共役受容体であり、ヒトの成長ホルモン分 泌促進物質の受容体と同様である。モチリン受容体が今回解明された ので、胃腸管の運動性の複数障害を治療するためのもっと有効な作動 薬と拮抗薬を設計できるであろう。(An)
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