AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 4, 1999, Vol.284


退氷の不釣合いな効果(Uneven Effects of Deglaciation)

グリーンランド掘削アイスコアは、更新世から完新世に入る頃 (15,000 年前から5000年前)にかけての、年単位の分解能を 持つ貴重な気象の記録をもたらして来た。しかし、気象の変化の 原因となるプロセスの解明を助けるであろう低緯度地方の気象記 録との比較は、これまでできなかったが、それは、年代がはっき りとしておりかつ同等に精度のよい記録が他に十分になかったか らである。von Grafensteinたち(p.1654)は、南ドイツの硬水 湖Ammerseeの掘削コアから酸素同位体の記録を示した。それ は、およそ11年の時間分解能がある。気象変化のタイミングは、 グリーンランドの氷層試料と10年、100年のスケールで比較し たところ、ぴったりと一致した。しかし、違っていることが1つ あり、それは酸素同位体は数千年スケールでずれが生じる傾向が あることである。そのことは、おそらく退氷に応じた北大西洋循 環(circulation)が北方へシフトしていることを反映しているの であろう。(TO,Og)

細胞外マトリックスを食べる (Eating the Extracellular Matrix)

マトリックス・メタロプロテアーゼ(MMP)は、正常な結合組織の 代謝回転や細胞遊走の最中に細胞外マトリクスを分解する酵素で ある。MMPはまた、腫瘍の転移や退行性の病気においても主要な 役割を果たしていると考えられているので、薬の開発の重要なタ ーゲットになっている(Hagmannによるニュース記事参照のこと )。MMPの中には、不活性の前駆物質として分泌され、他の酵素 によってタンパク分解されて部分的に活性化されるものもある。 こうした活性化の分子レベルでの詳細が、Morgunovaたちによっ て報告されたヒトのproMMP-2の結晶構造を通じて明らかにされ た(p. 1667)。プロペプチド領域にある外にさらされたループを タンパク分解すると、MMP-2の触媒作用領域が剥き出しになる。 アグリカン(aggrecan)のようなある種の生物分子の分解などか ら、MMPの特性がどのようなものであるかが示される。アグリカ ン(aggrecan)は、軟骨において見出される大きなコンドロイチン 硫酸プロテオグリカンで、骨関節炎や関節リューマチ、その他の 関節炎のある状況で、衰えるものである。これは関節における ショック・アブソーバーとして機能するが、タンパク分解性切断 によるその分解は、不可逆的なプロセスなのである。 Tortorellaたちは、このプロセスに関与している一つの酵素、 aggrecanase-1を雌ウシから単離したことを報告している (p.1664)。彼らはまた、ヒトの酵素のクローニングと発現につ いても報告し、治療のための化合物を設計することを睨んで、 aggrecanase阻害薬の作用の強さによる順位付けも行なってい る。(KF)

利己的なスリカタの番兵(Selfish Suricate Sentinels)

危険に対して集団が番兵(sentinels)を配置することは、人間社 会の特徴である。幾つかの動物社会においても、個体が捕食者に 対して高い位置から見張りの働きをする。明らかに自己献身的な 振る舞いは、同類選択(kin selection)やあるいは互恵的な利他 現象(reciprocal altruism)によって、長い間説明付けられてい た。しかし最近、番兵の振る舞いは利己的なアンチ捕食者の動機 から起こっていることを示唆するモデルによって、この自己献身 性は疑問視されている。Clutton-Brockたち (p.1640;Blumsteinによるカバー記事と展望記事を参照)は、ス リカタ(ミーアキャット)における見張りに関するこの説明の6つ の予測を実験的にテストを行ない確認した。この高度に社会的で 協調的な哺乳動物において、番兵の振る舞いは個体の栄養状態に より説明される、つまり見張りをすることは、満腹になったとき に最適な振る舞いなのである。(TO)

遺伝と環境と行動(Nature and Nurture and Behavior)

行動についての遺伝の影響の研究は、しばしば、ある種の一貫し た行動特性を示すマウスの近交系血統を使用することに頼って行 われる。しかし、Crabbeたちは、ささいな環境的差異が思いも よらなかった、困惑させるような変数として働いている可能性を 証明した(p. 1670; また、Enserinkのニュース記事参照のこと)。 近交系血統のマウスたちは、探索活動および歩行運動、空間学習、 不安、さらにコカインとアルコールに対する行動面での差異を見 るために、地理的に離れた3つの実験室でテストされた。環境条 件や実験プロトコル、装置を標準化するために厳密な努力をした にもかかわらず、実験室に依存した有意な差が観察されたのであ る。差異は、セレトニン1B受容体をコードする遺伝子を欠いた ことに起因する表現型の特徴の出方においても観察された。これ らのデータは、環境に対する感受性がない遺伝子の同定、環境変 数の同定と制御、複数の実験室における反復実験の必要なことを 強調するものである。(KF)

1/4畳(乗)の住まい(Living Quarters)

生物体重Mは、10の-13乗(微生物)から10の8乗グラム(鯨) にわたって広範囲に存在しているが、Mの1/4乗(M^(1/4)と表 す)と、他の任意の生物学的変数の間には比例関係が成り立つ ;例えば木の幹の直径や動脈(aorta)直径はM^(3/8)の比例関係 が成り立ち、細胞代謝率とはM^(-1/4)の関係が、血流循環時間 や寿命とはM^(1/4)の比例関係が成り立つ。Westたち (p.1677,およびMackenzieによるニュースストーリ)はこの現 象に次のような一般化した説明を与えた:生物は環境適応し、 他の生物の隙間を埋め尽くして進化した結果、フタクタル的構造 を持った、大きさによらない機能単位を末端に持つ階層的構造で 表すことができる。生物は生命を維持するための食物や資源を取 り込むための表面積を最大化する一方、物質輸送やエネルギー効 率を最大化するために、自身の形状を最小化する。著者たちは生 物のフラクタルネットワークを第4空間軸になぞらえ、これに よって1/4乗則が説明できるとしている。(Ej,hE)

疾走するトカゲと咽喉ポンプ (Running Lizards, Gular Pumping)

トカゲは一般的にはチョロチョロと短距離の移動を繰り返し、こ れによって肺に送り込む酸素の必要量を制限している。これがま た、トカゲが長時間の疾走を困難にしている。Owerkowiczたち (p.1661)は、疾走中に呼吸困難が生じないように見える四足獣の 一種(genus Varanus)を監視して、運動中の呼吸メカニズムをつ かむために一連の実験を行った。彼らは、監視しているトカゲは、 首のところにある咽喉ポンプで肺換気を強化しており、この結果、 普通のトカゲのような呼吸困難がないことを見つけた。(Ej,hE)

岐路の基礎(The Basis of Branch Routes)

哺乳類の器官の多くは、液体を体のある部分から別の部分へ輸送 するが、これをするために、複雑な上皮管の分岐システムが利用 されている。哺乳類の肺とショウジョウバエの呼吸(あるいは気管) システムという2つの見たところ別物の構造における分岐システム の発生の特定に関与する遺伝的プログラムが説明されつつある。 MetzgerとKrasnow (p. 1635)は、このプログラムを指示する遺 伝的成分をレビューしているが、両方のプログラムが線維芽細胞 成長因子の情報伝達経路に依存している。肺と気管システムはかな り異なっている構造を示すが、これらは多くのよく似た組織的、お よび分子的な成分を利用する。このことは、他の器官においても分 岐形態形成のための共通の生物学的プログラムがあることを示唆し ている。(An)

ウイルス活性化因子の構造(Viral Activator Structure)

ヒトの子宮頸癌に関与するヒトパピローマウイルス18型の生活環 中のウイルスタンパク質の量の制御は、E2タンパク質によって制 御されている。E2は、転写およびDNA複製の活性化因子である。 HarrisとBotchan (p.1673)は、2.1オングストローム解像度で活 性化領域の結晶構造を測定した。この領域は、予想されていたよ りも秩序ある構造をしていた。この領域は、珍しい折たたみ構造が あり、この構造は、グルタミンに豊むαらせん体をコアの表面に詰 めこんど腎臓形を形成する。変異アッセイによれば、表面に現れた 領域において、複製と転写のための重複決定要因が含まれているこ とが明かになった。(An)

伐木された熱帯雨林の樹木種の多様性 (Tree Species Diversity in Logged Rainforests)

C.H.Cannonたちは(p. 1366、8月28日のレポート)、商業伐木がイ ンドネシア領ボルネオの熱帯雨林の樹木種の多様性に与える影響に ついて研究した。彼らは、過去8年間選択的に伐木された森林では、 種の構成上の過酷なダメージにもかかわらず、豊富な種の多様性が 見られた、と結論つけた。D. Sheilたちは、このレポートの中で行 われた比較は、「全ての群生において幹の数が増加すると、種の数 と個体数の比は減少するので、群生毎の幹の数の違いによって 結論が混乱している」、とコメントした。彼は、より重大な問題点 は、異なる種は等価ではないこと、そして種の数は固有の保存値や 生態系の完全性の基準を示すものでもない、とコメントした。その コメントに対し、Cannonたちは、彼らのデータに「べき関数を直 線化する変換式を応用し」、伐木されている森林の方が、伐木さ れていない森林よりも「樹木の種の数が多いことを発見した」、と 応えた。侵入種や帰化種はこの現象の原因ではない。彼らは、これ らの選択的に伐木された森林は「近い将来、他に見つけることの出 来ない保護や研究機会を与えるものである」、と結論つけた。これ らのコメントの全文は
www.sciencemag.org/cgi/content/full/284/5420/1587a でみることが出来る。(Na,Nk)

月の極の影(Shadows at the Lunar Poles)

クレメンタインとルナープロスペクター宇宙探索機からのデータは、 月の極では、直接の太陽光を受けないクレーターの内部に長年にわ たり貯えられた水の氷が隠れている可能性があることを示唆してい る。Margot たち (p.1658) は、ゴールドストーン太陽系レーダー による地上基線レーダー干渉計を用いて、月の南極・北極の高分解 能地形図を得ている。彼らは、クレーターのある極領域に達する太 陽光の光線追跡を行ない、太陽光照射サイクルが完結する間、決し て太陽光を受けない領域を決定した。南極領域の影となる面積は、 北極の二〜三倍と見積もることができる。ルナープロスペクターに て見積もられた水素量は、水を成分とする氷に完全には結び付ける ことはできないか、あるいは氷は表土層と混合していることを示し ている可能性がある。著者たちは彼らの地形図を用いて極の氷の量 を評価することに焦点を当てているが、これらの地図はまたクレー ターの力学や月の内部構造を理解することに用いることもできるし、 計画されている宇宙船による衝突に対して、精密に標的とするクレ ーターの位置を狙うことにも用いることができる。(Wt,Og,Tk)

ストライプをつくる(Earning Your Stripes)

陰イオンと陽イオンが分離した一次元カラムを含めて、有機電荷移 動錯体の薄膜は異常な電気的特性を持っている。Kumaiたち (p. 1645)は、カラムの軸に沿って高い電圧をかけるとその物質が 高抵抗の絶縁状態から低抵抗の状態へと可逆的にスイッチングする 事を見出した。この現象は錯体における絶縁破壊と関連している。 その破壊はバルクな物質全体ではなく局在化して起きており、そし て電流の方向に垂直に配列した金属と絶縁状態が交互にストライプ した形状をつくる。(KU,Tk)

励起して切断する(Excited to the Breaking Point)

化学反応を開始するさいに、化学者はフォトンで用いて分子を励起 させるが、そのプロセスはしばしば分子の結合(電子構造)を変える。 化学反応において分子に大きな振動エネルギーを与えて結合を切断 するという例は、特に表面反応の場合非常に稀である。表面反応で は、分子のエネルギーは結晶の振動(フォノン)となって急激にエネ ルギーを失うと考えられている。それにもかかわらず、Houたち (p. 1647;Hollowayの展望参照)は、基底状態のNO分子を高い (13番と15番)振動状態にすると銅の表面との反応確率がほぼ 1000倍、約1に近い値まで増加する事を見出している。(KU)

潤滑剤にくっついて(Stuck on Lubricants)

Amontons の法則は、摩擦に打ち勝つのに必要な力(静止状態か らあるいは運動中のどちらでも)は、荷重に直接的に比例し、接 触面積には依存しないと述べている。これらの知識は 300年も前 のものではあるが、微視的な説明を逃れてきた---シミュレーショ ンでは、完全に平らな表面は、通常、相互に滑るように動く。He たち(p.1650) は、対置する表面の間に第3の物体(吸着された 炭化水素分子のようなもの)が存在すると、これは静止摩擦を説 明しうると議論している。彼らは分子動力学シミュレーションを 行ない、吸着された炭化水素は、現実的な負荷圧力に対して原子 レベルで平滑な表面の間に引力となるポテンシャルの最小を作り 出すうることをこのシミュレーションは示している。(Wt)

火山性のイオウ(Volcanic Sulfur)

詳細に記述されている1991年に起きたピナツボ山の噴火は大気 中に17メガトンの二酸化イオウを放出した。二酸化イオウは酸化 して硫酸塩ガスとなり地球表面へ届く太陽光を減少させ、地球規 模の低温化を引き起こす。ある量のマグマ噴火から放出される二 酸化イオウの量の計算値は、実際に観測された値から1桁から2桁 少なく見積もられていた。Kepplerは(p. 1652)、水を主体とする (火山性)流体含水とマグマ間のイオウの分配の様子を決定する ための実験室において実験を行った。大きな分配係数は、少量の 流体でも存在するとマグマ溜りから殆どのイオウを抽出してしま うことを示唆している。噴火によりこの流体が放出されると考え ると、火山ガス中の二酸化イオウの量が過剰であるようにみえる ことも説明できる。(Na,Og,Fj)
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