AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 21, 1999, Vol.284


隕石母天体の急速な形成(Rapid Parent Body Formation)

隕石は、太陽系初期の最も原始的な構成物質で、未分化な隕石と、 さらに加熱や分化を経験したより大きな隕石母天体のかけらであ る、分化した隕石の、いずれかに分類される。全ての隕石は溶融 物から形成され、1950年代にはこの溶融の熱源は放射起源核種 アルミニウム-26(26Al)の崩壊であると言われていた。近年、未 分化な隕石の中からは26Alの存在していた証拠が見つかっている が、分化した隕石の中からは見つかっていなかった。Srinivasan たちは(p. 1348、Stokstadのニュース解説も参照)、 Piplia Kalanという1996年にインドに落下した、およそ46億年 前に形成された、分化した隕石の中から26Alの証拠を発見した。 Piplia Kalanの中に26Alが存在するということは、その隕石母 天体(小惑星4 Vestaと推測されている)は、太陽系形成後500万 年以内に集積、溶融、分化が行われたことを示唆している。この 結果は、微惑星の形成は非常に高速であり、時間スケールを縮め る必要があることを示唆しており、少なくとも我々の太陽系にお いては、考慮すべきであろう。(Na,Tk)

電気化学経由の磁気抵抗 (Magnetoresistance via Electrochemistry)

磁気センシングにおいては、最近は、スピン依存型の磁気抵抗 (MR)材料(この材料は、磁場中で抵抗を変化させる)が非常に注 目されてきているが、ビスマス金属は、その電子が誘導サイクロ トロン軌道中で印加された磁場中で非常に早く進むため、スピン 依存型磁気抵抗を明瞭に示す。しかしながら、その応用において は、薄膜化が必要であり、電子を散乱しない高品質の薄膜の製作 は高価につくことが判ってきた---超高真空下のプロセス条件が 必要となる。Yang たち (p.1335) は、電気化学的デポジション により、大きな粒径の薄膜を作ることができ、この薄膜は単結晶 薄膜へアニーリングできることを示している---どちらの膜も室 温で良いMR特性を示す。(Wt)

ナノチューブに馬力を与える(Giving Nanotubes the Push)

モーターは電気的力を機械的仕事に変換するありふれた物である が、多くの微視的なシステムにおいて、強誘電体や導電性ポリマ −のような材料は印加電圧によって機械的歪みが発生するが、こ のような電気機械変換アクチュエータはより単純なモーターの代 替物である。Baughmanたち(p. 1340;LnganasとLundstrumに よる展望参照)は、単層(single-wall)のカーボンナノチューブ が有望なアクチュエータ材料となる事を示している。絶縁層で分 離し、かつ塩水で浸積したナノチューブ”ペーパー”の平行なシ ートに電荷を注入したり、空にしたりすると低電圧(通常1V) で片方のシートは伸び、もう一方は縮まるため大きなたわみが発 生する。シート内部のナノチューブはイオン・インターカレー ションのような電荷を持つ必要がないので、更に小さなナノチュ ーブの集合体で得られる仕事密度は本質的により高くなるであろ う。(KU)

高速の亀裂(Fast Cracks)

亀裂が物質を伝搬する時、その進行速度はその材料固有の性質に よって制限されている−即ち剪断波(S波、つまり横波)の伝搬 速度より遅い−と長い間信じられていた。Rosakisたち(p. 1337) は、脆性のポリエステル樹脂における亀裂の成長は、その物質の 剪断波速度の2倍の平方根に近い係数の速い速度で伝搬する事を 示している。類似の現象が地震の事象においても観測されるかも 知れない。(KU)

磁場と高温超伝導 (Magnetism and High-Tc Superconductivity)

高温超伝導の原因については論争が続いている。この問題を実験 的に取り組む上での一助として、Dai たち (p.1344; Scalapino による展望を参照のこと) は、銅塩の超伝導体(YBa2Cu3O6-x)に ついて、広範囲に渡る中性子散乱と核磁気共鳴測定を行なった。 かれらは、磁気的ゆらぎと電子比熱に関する熱力学の間に、定性 的に良い一致を見出した。これらの結果は、高温超伝導が生じる ためには磁気が重要な役割を果たしていることの証拠を与えてい る。(Wt)

スピンドルをセットする(Setting Up the Spindle)

小さなグアノシントリホスファターゼのRanはRNAや巨大分子を 核膜を通して移入や搬出するときの制御を行う。このRanの紡錘 体形成の制御に関する役割を証拠立てる2つの報告がなされてい る(Pennisiによるニュースストーリ参照)。Wilde とZheng (p.1359)は、グアノシン3リン酸(GTP)に結合した活性のある野 生型Ranか、または、変異体で、Ranの活性化型のいずれかがア フリカツメガエルの卵抽出物に加えられたときに微小管星状体の 形成を刺激することを報告している。添加された精子の中心体に 関連して星状体が形成されるだけでなく、精核と独立にも形成さ れることが観察された。Ohbaたち(p.1356)は、Ranのヌクレオ チド交換因子であるRCC1タンパク質を操作することによって Ranの機能を変えた。アフリカツメガエル卵の抽出物からRCC1 を除くと星状体の生成が減少した。しかし、このような抽出物に RanGTPを添加すると星状体の生成が復帰した。このように、 Ranは、明らかに有糸分裂が始まるときと核膜が壊れるときに核 から放出されるが、これは微小管の重合とスピンドルの形成を促 進する。このような役割と一致して、Ranに結合するタンパク質 のRanBP1と、RanGTPase活性タンパク質のRanGAP1は、中心 体と有糸分裂スピンドルのそれぞれに局在している。(Ej,hE)

ガンの監視能力を高める(Improving Surveillance)

免疫系を操作することで癌を治療したり予防する数多くの努力が 行われている。「ガン・ワクチン」は理論上、存在する全ての腫 瘍に対する高度の反応性を免疫系に持たせることで個人の免疫系 を強化する可能性がある。しかしながら、ワクチンを開発するた めには、抗原を特定することが一般的に必要である。主要組織適 合遺伝子複合体(MHC: major histocompatibility complex)の クラスIに結合する腫瘍の抗原を特定する方法はある。Wangたち は(p. 1351)MHCクラスIIタンパク質に結合する抗原を見つける 方法を考案した。MHCタンパク質がどの腫瘍ペプチドをT細胞に 提示するかという知識があれば、患者自身の免疫系を有利に活用 してワクチン開発や治療法が開発出来るだろう。(Na)

BRCA1とエストロゲンの情報伝達 (BRCA1 and Estrogen Signaling)

乳ガンに感受性のある遺伝子BRCA1によってコードされるタンパ ク質はDNA修復や転写のような通常の細胞プロセスに関与するこ とが暗示されているが、腫瘍形成におけるその役割はよく分かっ てない。培養基中のトランフェクションしたガン細胞による実験 で、Fanたち(p.1354)はBRCA1がエストロゲン受容体-aによっ て、エストロゲンに誘起される情報伝達を阻止すること、そして、 受容体の転写活性化機能を阻止することを示した。これらの観察 から、BRCA1は部分的には、乳房上皮細胞の増殖に関係している エストロゲン依存性転写経路を抑圧するように働くという仮説が 示唆されるが、これは現在動物モデルでテスト中である。(Ej,hE)

コレステロールについてのループを閉じる (Closing the Loop on Cholesterol)

体内の脂肪の蓄積を防ぐために、コレステロールが酵素学的に胆 汁酸へ分解される。このコレステロール副産物は、体内から食事 性脂肪を清掃するだけではなく、どうかして消化器系においてコ レステロール代謝と胆汁酸輸送を制御する。Parksたち(p.1365) とMakishimaたち(p. 1362)は、ファルネソイドX受容体 (farnesoid X receptor FXR)というオーファン核内受容体によっ て胆汁酸がこの2つの生理学的過程を制御するかもしれないことを 報告している(Gustafssonによる展望記事参照)。胆汁酸に結合す ると、FXRがもうひとつの核内ステロイド受容体と相互作用でき る。この複合体は、2つの遺伝子の転写を制御できるが、ひとつの 遺伝子は、胆汁酸合成の調節酵素をコードし、もうひとつの遺伝 子は、胆汁酸輸送体タンパク質をコードする。従って、核内胆汁 酸情報伝達がコレステロール恒常性を制御しているのかもしれな い。(An)

連続的と平行的(In Series and in Parallel)

微生物の酵素複合体が天然生成物の合成に関与するが、この生成 物にはテトラサイクリンなどのような重要な多環抗生物質が含ま れている。一般的にこれらの化合物は、単純なC2炭素ユニットと C3炭素ユニットが繰り返し連結し、脱水か、または還元によって 修飾され、そして環化することによって生成する。複合体には2 つのクラスがある。ひとつのクラスでは、連続的に配置された酵 素活性部位が基質に対して非常に特異性をもち、各ユニットが追 加される毎に異る修飾反応が行われている。もうひとつのクラス では、成長中の高分子が比較的非特異的な活性部位からなるコア の周りで反復的に繰り返される。Kennedyたち(p 1368)は、天 然の真菌生成物であるロバスタチンというコレステロール低下薬 がこの連続的と反復性モードの組み合わせから生成されているこ とを発見した。(An)

くっつける(Sticking with It)

全ての真核生物の細胞表面は、炭水化物部分によって修飾されて いるタンパク質や脂質で覆われている。このような修飾は、細胞 接着に関与する分子にとっては特に重要である。Kepplerたち (p.1372)は、造血細胞系列においてシアル酸残基を特定の細胞表 面分子に添加できるかどうかは、シアル酸の生合成を制御するエ ピメラーゼに依存することを示した。エピメラーゼの活性は、接 着分子が白血球に結合するときに必要である。従って、エピメラ ーゼの発現は細胞活性化や免疫系の接着を制御しているようだ。 (Ej,hE)

古生物の証拠を評価する (Evaluating Evidence of Ancient Animals)

A. Seilacherたち(レポート,2 Oct. 1998, p. 80)は、中央イン ドの"Mesoproterozoic Chorhat砂岩"における"堆積岩内部の層 理面の特徴"を研究した。彼等は、これらの痕跡化石を、虫に似た アンダーマット穴掘り(undermat miners)の穴であると解釈し、 そのことは三胚葉性の動物が10億年以上前に存在していたことを 示している。V.RaiとR.Gautamはこれらのマーキングは,幾つか の理由により、擬似的トレース化石あるいは巨大な藻類が型にと られたものであることがよりもっともらしいと述べる。そして、 同じ地層より、藻類のグリパニア(Grypania)種の化石を見つけた、 "その連続した少し上に...."これに応答して、Seilacherたちは、 "擬似的化石は先カンブリア時代の古生物学における、主要な問題 であることに同意見である"、しかし彼等のレポートに書かれてい るその構造は、"Grypaniaのような巨大藻類、あるいは収縮亀裂 (shrinkage cracks)、あるいは何か他の既知の物理的構造には当 てはまらない"と述べる。彼等は、現在別のグループが確定しよう としている、火山灰層からの新たな放射線年代に期待している。 これらのコメントの全ての内容は以下に見ることができる。
www.sciencemag.org/cgi/content/full/284/5418/1235a (TO,Nk)

細胞性鉄の取り込みにおけるセルロプラスミンの役割 (Role of Ceruloplasmin in Cellular Iron Uptake: Addendum)

C. K. Mukhopadhyayたち(Report, 30 Jan. 1998, p.714)は、セ ルロプラスミン(Cp)は「HepG2細胞による鉄の取り込みを」増加さ せていることを見つけた。Cp合成は転写によって制御されている。 さらに、P. L. Foxたち(共著者)は、「抗トランスフェリン受容体 のモノクローナル抗体H68.4[これが研究に利用されたもの]は、無傷の 細胞が鉄を取り込むのに受容体の果たしている役割を決定するには 好ましい試薬ではない」ことを記し、彼らはI. S. Trowbridgeがこ のことを取り上げてくれたことに感謝した。より効果的な抗体であ る42/6を使った対照実験では、もとの発見を支持している。彼ら の相補的な研究は、「Cpで刺激された鉄の取り込みはトランフェリ ン、および、トランスフェリン受容体に依存しない確固たる証拠を 示している」。この全文は、以下を参照。
www.sciencemag.org/cgi/content/full/284/5418/1235b (Ej,hE)
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