AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 9, 1999, Vol.284


低温におけるセラミックの合成(Cooler Ceramic Synthesis)

多くのデバイス用途では、多結晶材料の粒子境界が、特性に 悪影響を与えるため、単結晶フィルムや材料が好まれている。 Switzerたちは(p. 293)、電気化学的な手法で金の基板上に 立方ビスマス酸化物の単結晶フィルムを室温環境で生成でき ることを示している。この、通常、摂氏730度以下では不安 定な、燃料電池用途に向く優れたイオン輸送特性を持つ材料 は、動力学的には安定な製品として形成される。(Na)

顔について(About Face)

ヒト科の系統発生は、多くの場合顔や頭蓋(最も一般に保存さ れた診断上の化石)の特徴における違いから定義される。 McCollum (p. 301;Morellによるニュース記事参照)は、強 健なアウストラロピテクス類(ヒト科化石の不可解なグループ) のケースについて、これらの特徴の多くが、どのくらい発達 の基礎(developmental basis)となる歯のプロポーションの 比較的単純な変化のせいと見なせるか、その程度を調べてい る。その結果、このグループの分岐学的定義は、系統発生で あること示してはいない可能性がある。(TO)

遠くに波をつくる(Waving in the Distance)

池に石を投げたり心臓へ電気的パルスを送ったりすると媒体 中に波が発生するが、通常そのような波は刺激された地点か ら伝幡していく。Christophたち(p.289)は、トリガー地点 から離れた場所で波をつくる電気化学的な系に関して記述し ている。白金電極上でのギ酸の酸化反応は不活性(OH-触媒 毒)な状態と活性(高電流)な状態を持ち、そして適切な電圧 パルスによって環状に移動する二つの波面をつくり、不活 性な状態を活性にする。しかしながら、反対符号のパルス をかけると不活性な状態を更に強めるものと予期されるが、 逆に活性化の波をしかもトリガーパルスの反対側の地点か ら作る。離れた地点でのこのような作用は、波の伝幡が遠 い場所でその符号を反転させるというイオン移動に対する 結合作用によって生じる。(KU)

太陽照射のカスケード(Solar Cascade)

幾つかの気象指標や環境的あるいは生態的な現象はおよそ 11年周期を示し、それは太陽活動周期と類似しているよう である。しかし、太陽活動周期と関係している照射量 (irradiance)の変化は、とてもかすかなもので、それらの 関連の仕組みを立証することは困難であった。Shindellた ち(p. 305;Kerrによるニュース記事参照)は、オゾン量の 変動と波長に依存した照射量(irradiance)とを取りこんだ 気象モデルを用いて、太陽活動周期は対流圏の気象への影 響があるかもしれないことを示した。その関連とは、太陽 照射の働きで引き起こされる成層圏のオゾン量の変化が、 成層圏の循環に影響を与え、さらにその循環は対流圏のエ ネルギーや地域的な表面温度に影響を与えるというもので ある。(TO,Nk)

折りたたみをそのままにしている(Leaving the Fold)

1つの変異が起きたとしても普通はタンパク質の構造は比 較的小さく調整されるだけであり、二次構造や三次構造が かなり変化するためには、もっと大きな配列変化、例えば 大きな挿入とか除去、が必要であると思われている。 Cordesたち(p 325)は、小さなArcリプレッサタンパク質 二量体において、2つの残基だけの交換によって、βシー トからαらせん状構造への局所変化が起こることを示して いる。二次構造要素の結合性による制限のため、このよう な変化が配列パターンから理解できる。このように、比較 的小数の変異がタンパク質の折りたたみを変化させること ができる。(An)

NF-κBの制御(Controlling NF-κB)

NF-κBは、炎症応答と免疫応答に必須である多数の遺伝子の 主な転写制御因子であるが、NF-kBの活性がI-kBという抑制 性タンパク質によって制御されている。腫瘍壊死因子(TNF) あるいはインターロイキン-1(IL-1)に曝露した細胞において、 I-κBがリン酸化され、分解される。I-κBのリン酸化が、類 似のIKKαとIKKβ(IKK1とIKK2)プロテインキナーゼサブユ ニットを含むI-κB リン酸化キナーゼ複合体によって仲介さ れていると考えれている。IKKαあるいはIKKβを欠くマウス 表現型を記述する4つの報告は、この酵素の生理学的役割につ いて新しい洞察を提供している。Liたち(p 321)は、IKKβを 欠乏するマウスの細胞において、TNFとIL-1に対する応答が 確かに減少することを示している。マウス自身は、肝臓にお けるアポトーシスの増加のため、誕生前に死亡する。IKKα の欠乏は、全く異なっている表現型を現した。Huたち (p 316)とTakedaたち(p 313)は、IKKα欠乏マウスは、誕 生直後に死亡し、皮膚の発生と増殖および肢と骨格の形態形 成における異常を現すことを発見した。IKKβの欠乏するマ ウス細胞において、TNFとIL-1に対して応答するNF-κBの 活性は完全なままであった。Delhaseたち(p 309)は、リン 酸化による活性化の部位を欠乏するIKKの変異形の分析を用 い、IKKαは、TNF-αとIL-1からの情報伝達を仲介する酵 素である新たな証拠を提供している。更に、著者の結果は、 IKKβが、タンパク質カルボキシ末端のセリン残基クラスタ ーの自己リン酸化によって、不活性化され、炎症性情報伝達 の持続時間を制限するかもしれないことも示唆している。 MayとGhoshの展望記事では、IKKβのはっきりした生物学 的役割を定義する結論によって、NF-κBの活性を制御する 情報伝達機構に関する最近の考え方を概説している。(An)

栄養分のバランスをとる(Balancing Nutrition)

植物の種子には、タンパク質や脂質、デンプンが、いろいろ な組み合わせで貯蔵されており、それによってその種子が食 糧として価値をもったり、油の資源として価値をもったりす る。Linたちは、油を含む小さな種子をもつ植物、シロイヌ ナズナにおける一つのタンパク質SSE1を同定し、そのSSE1 における変異が、タンパク質や脂質の貯蔵をうまくいかなく させ、デンプンを貯蔵させることになることを発見した (p.328)。このように、貯蔵される物質を集積させる多様な 代謝経路は、複雑に絡み合っているので、物質の究極のバラ ンスは、再調整を蒙りやすい可能性がある。(KF)

父と娘(Dads and Daughters)

哺乳類においては、両方の親がその子孫に対して遺伝的な材 料を提供するわけだが、どちらかの親に特異的なゲノムの刷 り込みによって、片方の親のもつ対立形質が他方のそれを上 回って寄与して、発現することがある。Liたちは、刷り込ま れたマウスの遺伝子Peg3について詳しく調べた(p. 330)。 この遺伝子は父側の対立遺伝子によって排他的に発現するも のなのだが、これが母性的な行動や養育、子孫の成長の調節 の役に立っている。Peg3の変異があると、オキシトシン・ ニューロンのレベルが減少する。オキシトシンは、すでに、 母性的な養育や授乳に影響することが明らかにされていたも のであったので、母性的な行動が父の側で表現された遺伝子 Peg3によって調節されているということが、いまや生理学 的に以前より良く理解されることとなった。(KF)

自然におけるパターン(Patterns in Nature)

Harteたちは、自己類似の集団とコミュニティのもつ特性に ついて検証している(p.334;また、Rosenzweigによる展望 記事参照のこと)。彼らが実証したのは、いくつかの基礎的 な生態学的一般性、すなわち種-領域(species-area)曲 線、種-量(species-abundance)分布、そして新しい領 域-風土性(area-endemism)関係は、概念的には単一の 枠組みに結び付けることができる、ということである。こ の研究はまた、二つの広く受け入れられているパターン、 すなわち対数基準となる種-量(species-abundance)分 布とベキ法則となる種-領域(species-area)曲線とが、 互いに矛盾するものであることを示している。(KF)

傷害を与えるイオン(Injurious Ions)

細胞死においてイオンが演じる役割に関する2件の報告がある。 ストローク(発作)の間、神経伝達物質受容体のNMDAクラスの 過剰活性によってニューロンの一部が死滅すると考えられてい る。これらの受容体はカリウムを含む多様なイオンに対してチャ ンネルを形成する。Yu たち (p. 336 )は、カリウムが細胞から 流出することがニューロンの死滅に関与しているのではないか という仮説について検討し、ストロークに見られる環境を模倣 した条件下で、培養したニューロンはNMDA-受容体を介したカ リウム流出に応答してアポトーシスに至ることを見つけた。 古典的なアポトーシス性の細胞死の例としてはカルシウムのニュ ーロンへの流入によるものがあるが、これはカルシニュリンと呼 ばれる脱リン酸酵素を活性化させる。しかし、カルシニュリンが どうやって死を引き起こすのかはわかっていない。Wang たち (p. 339)は、カルシニュリンがプロ-アポトーシス性タンパク質 であるBADと会合して、かつ、これから抑制性リン酸を除去する と報告している。このプロセスはニューロンのサイトゾルから BADをミトコンドリア内に移動させ、そこで抗アポトーシス性タ ンパク質のBcl-xLと二量化し、また、不活性化させる。このよ うに、Ca2+を増加させる脳障害や条件が、アポトーシス経路の 鍵となるタンパク質のリン酸化状態を変調することができる。 (Ej,hE)

食糧問題(Commons Problems)

Hardinが"食糧悲劇(The Tragedy of the Commons)"を発表し てから30年経つが、共通に維持されるべき資源の明らかに不可 避的な濫用をいかに解決すべきかという問題提起は、ますます 注目を浴びている。Ostromたち(p. 278)は、共通に維持される べき資源の管理に関して局所的なケースの失敗(と成功)に関して 再検討し、そして生物の多様性や大気,及び海洋といった地球 規模の資源に関する戦略を論じている。(KU)

CCR5 プロモータ対立遺伝子と特異的DNA結合因子 (CCR5 Promoter Alleles and Specific DNA Binding Factors)

M. P. Martin たち (Reports, 4 Dec., p. 1907)は、「5群の後 天性免疫不全症候群(AIDS)をもつヒトに対して遺伝的集団分析 を実施し、プロモータ対立遺伝子CCR5P1を含むCCR5制御領域 の多部位ハプロタイプについてホモ接合性である感染者は、他の CCR5プロモータ遺伝子型のヒトよりも、とくに感染初期におい て、より急速にAIDSが進行することを明らかにした。 J. H. Breamたち(原論文では、数人の共著者があるが)は、 「彼らは核内結合(転写の可能性がある)因子に対する別々の CCR5P対立遺伝子の配列モチーフの特異的結合親和性に相違の あることを見いだしたのであり、これはCCR5P1/P1の疫学的結 論のメカニズムを示している」とコメントを寄せている。 これらのコメントの全文は
www.sciencemag.org/cgi/content/full/284/5412/223a を参照。(Ej,hE)

極小スイッチ(Tiny Switch)

大容量のメモリーを持つ高速コンピュータの要求が高まるに従 い、論理素子のサイズを縮める要求がある。しかしながら、リ ーク電流のため、通常の動作を行える範囲でトランジスタの寸 法を縮めるには制限がある。ナノメートルサイズの素子を作る ための一つのアプローチは、電荷以外の特性を利用することで ある。Amlaniたちは(p.289、Smithによる展望も参照)、電荷 ではなく極性が素子の状態を決定する量子ドットのセルオート マトンに基づくアプローチの一例を示した。たった2ヶの電子の 位置により極低温における状態が決定される論理的なANDとOR ゲートが作られた。(Na)

フェルミオンを詰め込まないで (Don't Crowd the Fermions)

ボース−アインシュタイン統計に従う粒子(光子のような粒子) は、同じエネルギーレベルを占有する---ボソンはいっしょにい るのが好きである。40年以上も前に、Hanbury Brownと Twiss は、これらの粒子の基本的な特性の一つを実験的に示し た。すなわち、熱的なボソンのソースから放出されるときは、 ボソンは一群となって放出する(Buttikerによる展望記事を参照 のこと)。Henny たち (p.296) とOliver たち (p.299) は、二つ の異なる独立な実験により、ボソンとは対照的に、フェルミ- ディラック統計に従う粒子(電子のような粒子)は、群にはなら ない特性(antibunching)を示すことを確かめた。この振舞は理 論的には予言されていたが、現在に至るまで実験的検証を逃れ てきた。(Wt)
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