AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 12, 1999, Vol.283


ゼオライトの誕生(Birth of a Zeolite)

マイクロポーラスなゼオライトを作り出す プロセスを追跡することは、とりわけ熱水反応の条件下では困難で あった。Mintovaたち (p.958) は、室温において空孔誘導型の鋳型 を用いた合成法によるゼオライト形成を可視化することができた。 透明な溶液と光散乱を用いて粒子径分布を求め、低照射量の高分解 能透過型電子顕微鏡により、先駆体であるゲル粒子中でのゼオライ ト粒子の形成を明らかにした。(Wt,Og)

巨大高分子(Polymer Heavyweights)

ポリブタジェン(PB)のような炭化水素系高分子の短いチェ−ンへポ リエチレンオキサイド(PEO)の短いブロック(モノマ−単位で数十個) をつけることによって界面活性剤が得られる。Wonたち(p. 960)は、 より大きなPEO-PBブロック・コポリマ−(個々のブロックあたり約 50個のモノマ−からなり分子量としては数千位)が、低濃度(5重量%) の水中で長い”虫のような(wormlike)”ミセルとなって集合するこ とを示している。フリ−ラジカル重合による化学的架橋によってその ミセルを縫い合わせると、その形態は維持されるが、液状からゴム状 物質へと変化する。一般的な合成ポリマ−の分子量は数百万であるが、 このようにして得られた単一ポリマ−の分子量は数十億となる。(KU)

ポリマ−の孔を注文にあわせてつくる(Polymer Pores to Order)

ナノメ−トルスケ−ルの高分子粒子は多孔性無機材料の鋳型として有 用であった。Johnsonたち(p. 963)は、規則的な格子中にシリカ粒子 を融解し、ナノポ−ラスなポリマ−の鋳型として用いられることを示 している。孔の大きさは、ポリマ−の混合物質(一つは鋳型の間隔を 維持するポリマ−,一つは鋳型を除去した後に収縮するポリマ−)を用 いることにより連続的に変えることが可能である(15〜35nm)。”収 縮したポリマ−”は、最初のシリカ粒子鋳型より、より小さな孔のレ プリカを作る鋳型として使用される。(KU)

不安定な気候条件(Unstable Climate Conditions)

最後の氷期(およそ10万年から2万年前)は,大きな氷山の放出 (discharge)や動物相のシフトと共に,千年スケールでの気温の変動 という特徴がある。この変動の振幅は,現在の間氷期よりも,最後の 氷河期の方が大きい。McManusたち(p.971)は,北大西洋の海洋堆積 物を分析して,50万年前にあった氷河期や間氷期においても同様な変 動が起こっていたことを示した。そして,その変動は,間氷期よりも 氷河期のほうが大きい傾向があることを示した。彼等は,気候変動の 大きな振幅に対して,氷の量と海面高との条件に臨界値が存在してい るモデルを提案した。これらの条件は,今日の氷床と海面レベルの条 件からほんの少しばかり異なっているだけである。(TO,Nk,Og)

超音速の転位(Supersonic Dislocations)

材料が変形すると、転位が形成され、その材料の中を移動する。通常 の変形条件下では、転位挙動は熱的に活性化されたプロセスによって 決定され、比較的ゆっくりした動きに留まる。しかし、高張力下では 転位は顕著に速くなる可能性がある。弾性論によると、それらが動く 速度は材料の特徴的な音速バリアによって制限される。理論は単一の 超音速状態を予言しているが、音速バリアがその状態に到達するため には克服されるべきものかどうかも不明であった。Gumbsch と Gao (p.965) は、結晶状態の固体中における、エッジ型の運動性の転位の 分子動力学シミュレーションを実施した。彼らは、材料が高張力下に ある時、転位が生成されると、その転位は核形成の後、高速で移動し て音速バリアを乗り越えることを示している。転位は単一の超音速速 度ではなく、むしろ音速バリア以上のある範囲に渡って動きうる。そ して、実際に適用された張力場からエネルギーを汲み出すことが必要 である。(Wt)

極上空の成層圏雲(Polar Stratospheric Clouds)

極(北極、南極)上空の成層圏におけるオゾン損失は、極上空の成層 圏雲(PSCs: polar stratospheric clouds)の形成と関連付けられて いる。成層圏雲表面における反応が、オゾン破壊を媒介することを助 けるのである。PSCは、極の春にみられるごく低い温度においてのみ 形成される。その相と組成についての洞察は、実験室における研究や モデルだけでなく、地上からの、また航空機やバルーンに測定器を搭 載しての間接的な測定によって得られるが、直接の化学分析は難しい ことが分かっていた。Schreinerたちは、最近開発された分析用機器 を気球のゴンドラに搭載して用い、PSCの粒子を捉え、それを気球が 空中を漂っている間に質量分析を行なった(p. 968)。その粒子組成に ついて洞察することで、PSC形成のモデルの検証を助ける重要な情報 が得られる。(KF)

海底の鉱石鉱床(Undersea Ore Deposits)

大洋のただなかの中央海嶺に沿った(シリカに乏しい)玄武岩性の海底 火山や熱水が活発に噴出している領域で金、銀、亜鉛、鉛と硫化銅が 大量の鉱床を形成していることが発見されている。Iizasaたちは (p. 975)、日本沿岸の海底火山(東京の南400km、明神礁)でシリカ の豊富な同様の多種類金属の硫化物の黒鉱鉱床を発見したと報告した。 その鉱床は海面下およそ1400mの大規模なカルデラの中心に位置して いる。海底での観測では、鉱床の成長はカルデラへの火山灰が鉱床を 形成し続けることにより維持されていることが暗示される。海底の表 面に見えている鉱石でさえ、現在までに世界で知られている最大の硫 化鉱床の一つである。他の海底火山にも同様の金属鉱床が存在してい ることだろう。(Na,Nk,Og)

細胞エネルギーとインシュリン分泌 (Cellular Energy and Insulin Secretion)

血液中のグルコースの濃度制御は、脾臓細胞からのインシュリン分泌 に大きく依存している。これらの細胞からのインシュリンの放出は、 これらの細胞のサイトゾルやミトコンドリア内のグルコースの代謝に 感受性を持っている。Eto たち(p. 981)は、脾臓小島におけるこのプ ロセスについて研究し、正常であればNADH(nicotinamide adenine dinucleotide = ニコチンアミド アデニン ジヌクレオチド、これは細 胞質中で解糖によって作られている)をミトコンドリア中に運び込む (そこで、酸化的代謝とアデノシン三リン酸の生成を行う)シャトル としての機能を停止させた。このシャトル系は、脾臓細胞からのグル コースによって刺激されるインシュリン放出に不可欠である。この発 見は、NADHシャトル系の欠陥が、非インシュリン依存性(2型)糖尿 病に関係している可能性を示している。(Ej,hE)

拡がっているメディエ−タ(Extended Mediators)

生物作用を媒介するタンパク質複合メディエ−タは、酵母RNAポリメ ラ−ゼllによる転写を活性化する重要な物質である。メディエ−タは ほぼ20個のタンパク質からなる。Asturiasたち(p. 985)は、電子顕 微鏡を用いてメディエ−タ単独とそのホロ酵素(RNAポリメラ−ゼllと の複合体)の構造を決定した。メディエ−タ単独ではコンパクトな形を しているが、ホロ酵素では、メディエ−タがポリメラ−ゼを抱きかか えるような拡がった形を示している。関連した哺乳類の複合体でも似 たような構造が観測された。(KU)

銅はエチレン受容体への補助因子 (Copper Cofactor for the Ethylene Receptor)

ガス状のシグナル分子は,植物や動物における広範な生理学的かつ発 生学的な過程に影響を与える。Rodriguezたち(p.996)は,植物にお けるエチレン受容体の挙動を調査して,銅イオンが決定的な補助因子 となっていることがわかった。植物葉緑体の原子の前駆体と関連して いると考えられる有機体であるラン藻類の同様なたん白質は,そして エチレンと結合している。2つのたん白質の比較により,受容体の構 造が示唆された。(TO)

プロテアソームのパートナー(Proteasome Partner)

プロテアソームは、細胞タンパク質を分解することによって、多くの タンパク質の寿命の制御に関与し、クラス1主要組織適合性タンパク 質のペプチドの原料を提供している。Geierたち(p 978)は、哺乳類 の細胞株の原形質において、タンパク質を分解できるもうひとつの大 きな構造があることを発見した。トリペプチヂルペプチダーゼII (TPPII)だけから構成する長さ50nm(ナノメートル)桿体がエキソタ ンパク分解性およびエンドタンパク分解性の活性をもっている。プロ テアソームが不活性化されたとき、この複合体が細胞生存に関与する であろう。(An)

作用の準備(Poised for Action)

エリスロポエチン(EPO)というペプチドホルモンが赤血球の成長を制 御する。EPOは、2つの膜結合型EPO受容体の細胞外部分に架橋する ことによって作用する;すなわち、EPO受容体の細胞質に突き出た部 分が隣あって並んでおり、この突き出た部分に架橋することで細胞内 リン酸化経路の活性化をする。Livnahたち (p 987)は、普通のEPO 結合に利用されているEPO受容体の非リガンド化二量体の結晶構造を 記述したが、この界面接触の多くは向き合って接触している。この二 量体においては、細胞内の領域が互いに反対方向を向いている。この 不活性な二量体が無傷細胞の表面に存在し、EPOの極めて低い循環濃 度に見事に応答しているのであろうか。Remyたち(p 990)は、酵素 活性回復アッセイを用い、この細胞内領域の分離を測定し、このあら かじめ形成された二量体に関する証拠を報告している。(An)

深海での狩猟(A’Hunting Down Below)

海洋哺乳類の捕獲行動、特に南極の生物も棲まないような海底での行 動については殆ど知られていない。このトピックスに光を当てるため、 Davisたちは(p. 993)、近赤外線に基づくビデオ観測システムを開発 した。Weddellあざらしの背中に取り付けたシステムはビデオシステ ムによりあざらしの頭部と近傍の画像を撮影し、データ記録装置で時 間、震度、海水速度、方位、ヒレ運動の周期と音などを記録する。こ のデータ収集の手段は海洋性肉食動物の進路決定と狩猟行動をよりよ く理解するのに役立つだろう。(Na,Og)

カメの位置づけ(The Turtle's Place)

は虫類の系統発生学や鳥類との関係は、今まで不十分にしか解決され てこなかった。は虫類の中でも、カメをどう位置づけるかが、4つ足 の動物の進化を考える上で、とくに問題かつ重要であった。というの も、一般にカメこそが、もっとも初期のは虫類と考えられてきたから である。HedgesとPolingは、は虫類の主要なグループすべてについ ての多様な分子データの解析結果を提示している(p. 998; また、表紙 とRieppelによる展望記事参照のこと)。この結果が意味するのは、カ メとクロコダイル(と鳥類)は、密接に関係していること、またカメは、 は虫類の基礎となったものではない、ということである。(KF)

二量体ダメージを克服する(Overcoming Dimer Damage)

チミンチミンダイマーは、DNAにおける変異原性破壊であり、紫外照 射によって誘発される。DNA鋳型において、この破壊に出合うと、ほ とんどのDNA重合酵素が複製を中止する。Johnsonたち(p 1001)は、 酵母において、RAD30遺伝子にコードされる新しいDNA 重合酵素を 発見した。このDNA重合酵素は、二量体の反対側に正いヌクレオチド (アデニン)を挿入することによって、破壊された部分を飛ばしながら、 驚くほど効率よく DNAを複写する。この酵素がDNA重合酵素と呼ばれ、 環境的に誘導されたDNAダメージに対する細胞自分の防衛機構でもあ るかもしれない。(An)

1997年から1998年にかけてのエル・ニーニョ (The 1997-98 El Nino)

エル・ニーニョ南方振動は、熱帯太平洋における気候振動で、およそ3 から7年におきに生じる現象である。1997年から1998年にかけての エル・ニーニョは、機器による測定が始まって以来最大のものであり、 世界的に気候に影響を及ぼした。洪水や干ばつが、世界各地で生じたの である。McPhadenは、熱帯性海洋グローバル大気(TOGA)プログラム によって前例のない詳細さで監視されていたこのエル・ニーニョの進化 についてレビューしている(p. 950)。気候振動についての観察結果とモ デルの比較によって、エル・ニーニョの背後にある機構についてのより 良い理解への方向性が示されている。[Uppenbrinkによる注意も参照の こと](KF,Nk)

Science News:最古の美術に光を (New Light on the Oldest Art,p.920)

考古学者たちはフランスのGrotte Chauvetの最古の洞窟壁画のみなら ず、洞窟の床を詳細に調べ、最古の芸術家たちの生活跡について研究を 始めた。これらの壁画では、すでに洗練された画法を駆使しており、美 術史ではずっと後の時代に発明されたとされている陰影法や遠近法が、 現代人種がヨーロッパに現れた32,000年前にすでに使われている。(Ej)
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