AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 5, 1999, Vol.283


コロナホールからの高速の太陽風(Fast Winds from Coronal Holes)

コロナホールは太陽のコロナの中で密度と温度の低い領域である。1970年代と1980年 代の観測で磁力線の開いている場所であるコロナホールから高速の太陽風が噴出し ていることを示していた。Fassierたちは(p. 819、表紙も参照)、 SOHO(Solar and Helliospheric Observatory)宇宙船により観測された、極と赤 道のコロナホールか ら放出されるNe7+のドップラー速度計測値を示した。コロナホールからの高速なNe7+ イオン(およそ20Km/秒)の放出は、コロナの下側の彩層中のシート状、又は、その シートに交差する強力なシリコンIIの放射に相関を持っている。殆どのNe7+は強力な Si II領域にはさまれた赤道部分に下向きに流れ込んでいる。このようにエネルギー は彩層境界又は交差部分から上昇しコロナホールらの磁力線に沿って加速している。 (Na,Nk)

太陽系星雲の化学(Solar Nebula Chemistry)

隕石中の非常に難揮発性のカルシウム-アルミニウムに豊む包有物 (Calcium-aluminum-rich inclusions CAIs)は、太陽系星雲中でガスやダストから集積 した最も原始的な残存物と考えられてきた。Hiyagon と Hashimoto (p.828) は、 Yamato-86009 と Murchison コンドライト(球粒隕石)中の、より難揮発性でなく、CAI より後に集積してきた、カンラン石包有物(olivine inclusions OIs) の 酸素の同位体の量を分析した。OI は、CAI に類似して酸素16 が豊富であり、これは 異なるタイプの包有物が同じ酸素環境下で形成されたことを示している。この予期せ ぬ類似性は、太陽系星雲中において酸素16 を濃縮する共通の化学プロセスが存在し たという考え方を支持するものである。これは、CAI中にのみ存在する酸素16 が豊富な特別な相 が存在したという今までの考え方よりも有利なものである。(Wt,Tk,Nk)

ナノディスク形成(Nanodisc Formation)

陰イオンおよび陽イオンの界面活性剤を混合すると、低濃度では小胞あ るいは柔軟な円柱形となりうる分子二重層を形成する。通常、溶液中の 過剰な塩は、それらの静電気的な相互作用を遮蔽して凝集物を不安定化 する傾向がある。Zemb たち(p.816)は、過剰な塩の存在しない系で、 3ナノメートルの厚さの硬いナノディスクが自然発生的に形成されたこ とを示している。これらは、H+ と OH- のみを対イオンとして用いる ことにより達成されたものであり、また、彼らはそれらの強く湾曲した 端に高い電荷密度を有することを示している。ディスクの直径は数μm から30nmまで変化させることができる。その構造は、分子配向や無機 重合の鋳型として用いうる可能性がある。(Wt)

中心体複製異常(On the Double;大急ぎで)

ガン細胞には中心体が過剰に複製されていることがあるが、正常細胞の 場合には細胞分割の際に中心体の複製は厳密に制御されている。もし、 2つ以上の紡錘極が現れると染色体分離異常が生じるからである。 Hinchcliffe たち (p.851; Pennisiによるニュースストーリも参照)に よると、中心体の複製はサイクリン依存性キナーゼ2-サイクリンE (Cdk2-E)複合体の活性を通じて制御されている。アフリカツメガエル の卵の細胞周期のS期に分裂静止したものからの採取した抽出物におい ては、中心体はCdk2-E複合体の活性に厳密に依存する複数回の複製を した。この結果から、1回の中心体複製は、細胞分裂周期を通じてその 進行を制御する機構と連携している分子レベルの機構解明に役立つであ ろう。(Ej,hE)

酸化物ゲートを持つ有機トランジスタ (Organic Transistors with Oxide Gates)

全ての有機トランジスターは安価な部品コストと製造コストの可能性を 持っているが、通常スイッチングに(数十Vレベルの)高電圧が要求され る。Dimitrakopoulosたちは(p. 822、Hellemansのニュース解説も 参照)、室温でプラスチック基板上に製造できるペンタセンベースで、 バリウムジルコン酸塩チタン酸塩アモルフォスの絶縁ゲートを持つ電界 効果トランジスターを示した。シリコン素子の典型的な動作電圧(5V)で 高いキャリアモビリティが達成できると考えられる。(Na)

長い歯を持つ若葉を食する動物(Long-Toothed Browsers)

歯の山が高い(High-crowned)、化石になった馬の歯は、主として磨耗 性のある草(C4 plants)の食餌を示唆しており、それは熱帯あるいは温 和な広々とした草原で草を食べる動物(grazers)の典型である。それに 対し、低い山の歯は、柔らかく葉の多い植物(C3 plants)の食餌を示唆 しており、それは樹木の茂ったあるいは水性の環境にいる若葉を食べる 動物(browsers)の典型である。MacFaddenたち(p.824; Morrellによ るニュース記事を参照)は、生態系が変化していた時期のフロリダで、 5百万年前の馬の6種から歯のエナメル質の炭素同位体を計測した。これ らの絶滅した種は、高い山の歯を持っていた。しかし、同位体のデータ はこれらの種の5つは、草と若葉を食していたか、あるいは完全に若葉 を食していたかのどちらかであったことを示している。著者たちは、 いったんこれらの種が高い山の歯に進化したならば、彼等の食餌に変化 が起こっても、低い山の歯には戻ることはなかった、そしてその原因は おそらく急激に環境が変化したためであろう、と指摘している。(TO)

熱水による生命の醸造(Hydrothermal Brew)

生命誕生に必要な化学合成の場として、その可能性の一つは海底の熱水系である。そ こでは、海底の地殻中を海水が循環し,化学反応をおこす。Imaiたち(p.831)は、この 熱水系のプロセスをシミュレートする実験を行った。流れの反応場をグリシンを含む 海水を繰り返し循環させ、温めるとオリゴペプチドができた。銅イオンを添加すると ペプチド連鎖はさらに促進された。(KU,Nk)

一緒につなぎ合わされて(Hooked Together)

ステライル(sterile)のαモチーフ(SAM:sterile alpha motif)領域は、 タンパク質や脂質キナーゼから転写因子に至るまでの多様なタンパク質 に見られる。この多様性は、このモジュールによって仲介されるホモタ イプやヘテロタイプのタンパク質の相互作用にも波及している。 Thanosたち(p.833)は、SAM領域のモノマーが、もう1つのモノマーと 2通りの特異な方法で相互作用していることを報告している。これらの 反復する界面の組み合わせによって、より高次のオリゴマーを形成し、 これが他のタンパク質を漸加する舞台になっている可能性がある。この 相互作用メカニズムによって、タンパク質がどのようにしてSAM領域を 利用して異なる細胞プロセスを制御しているを説明できるであろう。 (Ej,hE)

診断:鉄の欠如(Diagnosis :Iron Limitation)

海洋における光合成を制限する要因を理解するうえでの問題は、対象と する領域が極めて大きく、かつ簡易な分析法が無かったことである。 BehrenfeldとKolber(p. 840;Mullineauxによる展望記事参照)は、鉄 欠如の指標として用いられる植物プランクトンの生理反応を調べた。広 大な海洋と実験室での海の藍藻類Synechococcusの栽培 において、鉄 −欠如の条件が、特異的な蛍光変化の日周パターンと関連していた。こ のようなパターンは、鉄が増えると消滅する。この方法を適用すると、 大西洋と異なり、南太平洋のほとんどは鉄ー欠如の海であることが示唆 される。(KU)

珊瑚礁の白化現象(Coral Bleaching Basics)

珊瑚礁が白く枯死しているということが、人間活動と自然環境や自然の 多様性との関わりの証拠であるのだろうか? 珊瑚礁の白化はゾーサン テラ(珊瑚虫類の体内に生育する、相利共生の藻類)の放出で特徴付け られる。Fagooneeたち(p.843)は、モーリシャスの浅いラグーン(礁 湖)での6年に及ぶ珊瑚Acropora formosa中のゾーサンテラの野外研 究結果を報告している。白化は複雑な因果関係がある;硝酸塩の負荷の ような環境の影響に加えて、季節的周期や生息密度に依存した効果のよ うな、かなりの(そして予想外の)自然なゾーサンテラ数の変動が原因 となっている。(Ej,hE)

帰巣シグナル(Homing Signals)

造血系を補給する幹細胞は骨髄にあるが、移植した幹細胞では自分自身 と同じ幹細胞を複製する自己再生が樹立できず、成熟血球を再増殖もで きない場合が多い。SDF-1因子は強力なケモカイン(炎症性細胞遊走因 子)であり、SDF-1の受容体CXCR4を発現する細胞を誘引する。ヒトの CD34+幹細胞移植のin vivo(生体内)モデルにおいて、免疫不全性 NOD/SCIDマウスにヒトの骨髄細胞を移植した。Peledたち(p 845)は、 SDF-1-CXCR4システムをブロックすると、移植片で生成したヒトの 細胞によるNOD/SCIDマウス造血細胞の再増殖を抑制することを報告 している。幹細胞の移植前に、CXCR4発現をex vivoで高度に誘導して おくと、移植の成功する幹細胞数が増加した。この技術は、ヒトの骨髄 移植片の効率を上げることになるかもしれない。(An)

放線菌の毒素(Mycobacterial Toxin)

分泌した毒素によって細菌病原性が仲介されることが多い。結核やハン セン病などを引き起こす放線菌のうちで、今までに毒素が抽出された種 はMycobacterium ulceransだけである。M. ulceransはBuruli潰瘍と いう苛酷な熱帯皮膚病を引き起こす。Georgeたち(p 854)は、この毒素 ミコラクトン(mycolactone)を精製し、12員環をもつポリケチドとして 同定した。モルモットにおいて、この細胞変性毒素が類似の皮膚病変を 誘発する。この結果は、他の放線菌毒素の同定の助けとなるかもしれな い。(An)

CD8によるHIV-1制御(CD8 Control of HIV-1)

ヒト免疫不全症ウイルス1型感染を制御するために、細胞仲介性の免疫 応答が重要であることを証明する状況証拠があったが、決定的証拠の提 供には、ノックアウトのような実験が必要である。Schmitzたち (p 857)は、抗体を用い、アカゲザルの血液とリンパ節からCD8+のT細 胞を枯渇することによって、そのようなデータを提供している。一次感 染の場合、このT細胞の除去は、ウィルス複製の増加および疾病の急速な 進行に関与する。慢性感染の場合にもウイルス血症が増加するが、CD8+ 細胞が再現すると、ウイルス血症が抑制される。この結果は、細胞免疫 の誘導を用いるワクチン設計の戦略を是認する。(An)

カリストの大気(Callisto's Atmosphere)

木星のガリレオ4大衛星の最も外側にある衛星、カリストは、地質活動が ないと考えられている。Carlson(p.820)は、近赤外線マッピング分光計 によるカリストのoff-limb走査を使用することで、大気光(中・低緯度 地方の上空の発光現象)の放射から、二酸化炭素の大気を探索した。彼は、 地表100キロメートル上空に、地表温度とほぼ同じ温度のかなり希薄な CO2が広がっていることを発見した。この観測は、他の太陽系の惑星や 衛星におけるCO2の発生源と関連しているであろう、カリストのCO2の 源について、いくつかの可能性を導く。おそらく,カリストのCO2は、 カリストの内部から発生したガス(outgassing)から生成されたか、ある いは、単に表面で、荷電粒子の衝撃(bombardment)や照射による、集 積した彗星のCO2(accreted cometary CO2)の放出から来たのかもし れない。(TO,Ym,Tk)

偏光電子の散乱(Scattering Polarized Electrons)

キラル分子は偏光光の偏光平面を回転させることができる。同様の非 対称散乱が、ガス相中における偏光電子と分子の相互作用においても 予想され、観察されていたが、その効果は小さい場合が多かった。し かし、方向性のある分子では、より大きな非対称効果が予想されてい た。Rayたち(p.814)は、整列したキラルな有機分子薄膜を使って、 これまでのガス相の研究で得られていた値に比べて3−4桁も大きな 非対称散乱結果を示した。これは非対称性を増強する超分子効果を示 している。(Ej,hE)

病原体と流行病(Pathogens and Epidemics)

近年、感染症と進化の分子レベルでの研究分野の間で相乗効果が見ら れるようになってきた。Levinたち(p.806)は、この両者によって収 束してきたことがらについてまとめた。病原体集団の遺伝学的知識に よって流行病の方向性の理解が深まり、病気に対するより効果的な手 法を予測することが可能になる。(Ej,hE)

チャンネルを変化させる(Changing the Channels)

T細胞の活性には、細胞内Ca2+の濃度増加を介しての信号を必要と する。最初、Ca2+は細胞内の貯蔵庫から開放される。このような蓄 えの減少によって、原形質膜にあるCRAC (calciumm-release-activated Ca2+)チャンネルとして知られて いるカルシュームチャンネルが開く。類似のチャンネルが, 同じよう に他の細胞でも作用する。このようなチャンネルがCa2+を導くとき、 電流が小さすぎて単一チャンネルを記録することが出来ない。 KerschbaumとCahalan(p. 836)は、電流坦持イオンとしてNa+を 用いて、単一チャンネルを記録することが出来た。彼らの測定による と、チャンネルのコンダクタンスは以前推定された値よりはるかに大 きい。このように、細胞あたりのチャンネルの推定数は、以前考えら れた数よりはるかに小さい。(KU)

増殖を促す(Propelling Proliferation)

T細胞が活性化されるときには、増殖に関与する情報伝達経路が始動 されるだけでなく、環状アデノシンーリン酸(cAMP)-依存性のタンパ ク質キナーゼ(PKA)の活性化のような増殖を阻害する経路も始動する。 では、T細胞が活性化の適性な信号を受け取って「経路に留まる」の はどのようにしているのであろうか? Liたち(p.848)は、フォスフォ ジエステラーゼ(PDE)、特にT細胞特異的アイソフォームPDE-7、も また活性化され、cAMPレベルを低く留めている。PDE-7との干渉は T細胞増殖を阻止するが、これは、治療のためにT細胞活性を制御す る別の方法となりうる。(Ej,hE)

ニュージーランドのヤンガードライアス(Younger Dryas)期間の 温度変化 (Temperature Changes During the Younger Dryas in New Zeland)

C. Singerたちは(8月2月号、p. 812のレポート)、ニージーランド  ネルソンの北西の退氷サイクルにおける花粉の記録を研究し、当地のヤ ンガードライアス(Younger Dryas:およそ10,000年前)に関連した、有 意な温度低下はなかったことを発見した。R.Newnhamは、このレポー トには退氷後の花粉記録の「常識的な限界」すななわち、「経時的な分 解能の低さ」や「花粉の状態や由来に関連する不確かさ」、などを考慮 に入れていないとコメントした。彼は、Younger Dryas冷却の存在は明 確に肯定も否定もされていないとコメントした。それに応えて、 J. Shulmeisterたちは、「現場の陸水学効果」とHalocarpusの花粉の 「温度指標」という用語の詳細について議論した。退氷花粉記録の全体 は明らかに、ニュージーランドの大規模な温度に関する事件である Younger Dryasと矛盾する、と記述した。これらのコメントの全文は、
www.sciencemag.org/cgi/content/full/283/5403/759a に掲載されている。(Na)
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