AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 8, 1999, Vol.283


電荷を制御する(Controlling Charge)

生体分子の質量分析のための帯電イオンを生成する主たる方法の 一つである、エレクトロスプレーイオン化(ESI)は、大きな電荷を 有するイオンを生成する。これらのイオンは、バラバラになりや すく、それらは組成分析に有用な情報をもたらすが、しかしまた、 非常に複雑なスペクトルであるため、混合物の解析にESIを用いる ことはかなり制限されていた。Scalf たち (p.194) は、α粒子源 が、いかにイオンの荷電状態数を減少させることができ、スペク トルを簡単化しうるかを示している。(Wt)

カロリー計算(Counting Calories)

過食をしながら、かつ運動も行わなくても体重の増えにくい人が いるのはなぜだろうか。Levineたちは(p. 212、Ravussinと Danforthの展望も参照)、正常な体重の16人の志願者に2ヶ月の 間、過食を続けさせ、この個人相互のばらつきの基礎について調 査し、さまざまなエネルギー消費の要素を注意深く観察した。体 脂肪増加のばらつきを説明できる唯一の要素は、そわそわしたり、 姿勢を維持するなど日々の生活に関連するエネルギー消費として 定義される、非運動活動による熱生産 (NEAT: nonexercise activity thermogenesis)である。この ように、過食後のNEATの増加が起きないと体脂肪が増加し、肥 満の素因となりやすい。(Na)

暖かくなる夜、エコロジーの変化 (Warmer Nights, Altered Ecology)

全世界的な温暖化による温度の上昇が、昼夜のサイクルで一様に 影響を与えているわけではない。夜間での最低温度は、日中の最 高温度や平均温度よりも、大きく上昇している。Alwardたち (p.229;Melilloによる展望記事参照)は、コロラドにおける shortgrass(短茎イネ科)のステップ(草原)生態系から得た長期間 のデータセットに基づき、この違いの生態学的な重要性を評価し た。そして気象測定と植物種の発生量や生産性との相関がいくつ か見つかった。その1つに、春季の最低温度と負の相関がある優 占草の顕著な衰退があった。他の植物種は発生量の増加が見られ、 このことは生態系の構造やダイナミクスが大きく変わったかもし れないことを示唆している。(TO)

受精のためには死ぬまで戦う (Fighting to the Last to Fertilize)

"恋愛と戦争では手段を選ばない"ということわざがあるが、雌雄 共に仲間を上回る生殖優位性を持とうと競い合っている。Clark たち(p. 217)は、ショウジョウバエ(fruitfly Drosophila)の交 配研究の解析から、雌の生殖系においても異なる雄の精子が、異 なった受精成功率を持つことを示している。雄と雌の遺伝型の複 雑な相互作用に起因されるが、この種の潜在的な選択性は進化の 当然の帰結に影響を及ぼすものであろう。(KU)

より冷たい先祖たち?(Cooler Ancestors?)

現在の系統発生樹では好熱性微生物(100℃近辺で生息する生物) を最も深い分岐点に置いてあり、真核生物、細菌、および始原菌(古細菌) の最も新しい共通の祖先は好熱菌であることを示唆している。 Galtierたち(p.220、およびVogelによるニュースストーリ参照) はヌクレオチド置換の非均質モデルを使って、この祖先は50% G+Cに近いリボゾームRNA (rRNA)を含有しているということを 提唱している。G-C塩基対は、A-T対の2つの水素結合に比べて 3つの水素結合を持っているので、高温で一本鎖のrRNAを安定 化させるには、ずっと高いG+C 含有量 (60 〜 65%)が必要とな ると思われている。従って、この解析から、最も新しい共通祖先 を中温細菌(中程度の温度の)起源に置ける可能性が出てきた。 (Ej,hE)

T細胞活性化のSTAT(The STATs on T Cell Activation)

STAT(信号トランスデューサと転写の活性化因子)タンパク質が、 細胞表面の受容体に結合する多様なサイトカインに応答するリン 酸化によって、活性化される。Welteたち(p 222)は、STAT5と いうタンパク質が、T細胞受容体に抗原を結合することにも応答 し、活性化されることを報告している。STAT5は、活性化した T細胞受容体に物理的に結合し、その後のSTAT5のチロシンリン 酸化にはチロシンキナーゼLckを必要とするようであった。 STAT5ドミナントネガティブ変異体の発現は、抗原の刺激した T細胞増殖を抑制した。このように、STAT5は、T細胞受容体が 遺伝子転写の変化を誘発し、細胞分裂を刺激する情報伝達機構の 成分なようである。(An)

耳を同調する(Tuning the Ear)

内耳の有毛細胞は機械的振動(音)を電気的信号に変換するところ である。内耳の有毛細胞の共鳴周波数は、 calcium-activated potassium(BK)チャンネルのゲート開閉 機構に依存している。Ramanathanたち(p. 215)は,BKチャン ネルのゲート開閉機構がslo-subunitと一緒に発現したとき,50 倍近く遅くなるということを示している。この付随的サブユニッ トは、カメの蝸牛殻の有毛細胞において徐々に発現する一つのパ ターンを持っている。それ故、この種のサブユニット発現の勾配 を利用すると、内耳の有毛細胞を電気的に同調することが可能と なる。(KU)

ペプチド以上を認識(Seeing More than Peptides)

免疫学者は「抗原」について議論するとき、タンパク質の部分を 一般には指しているが、ナチュラルキラーT(NKT)細胞はより広い 観点から抗原を認識する。Schofieldたち(p 225)は、NKT細胞は、 マラリア原虫あるいはトリパノソーマ属という寄生虫の膜における 普通の表面タンパク質に対する抗体生成の「助け」を誘発したこと を発見した。NKT細胞は、表面にタンパク質をひっかける役目をす るグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)脂質尾部を認識し た。認識は、そのようなリガンドに適応できる非古典的CD1dタン パク質上に抗原を提示することによるものである。このように、こ の珍しい細胞の主要な機能が寄生虫に対する宿主防御であるかもし れない。(An)

花と昆虫進化(Flowers and Insect Evolution)

B.D.Farrell(7月24日p. 555)は、DNA配列と形態形質を用い、食葉 群昆虫(Phytophaga)系統発生つまり最大および最古の草食性カブ トムシの放散を再構築した。結論は、カブトムシの進化成功が顕花植 物の出世によってできたものなようである。B.N.DanforthとJ.Ascher は、ミツバチの多様化も、昆虫多様性が白亜紀における被子植物の出 現と多様化と密接に関係しているという仮説を指示するものである、 とコメントしている。S.Andersonは、産卵部位の整備と掘削のために ゾウムシの雌成虫が鼻部か額角を利用するというキー新機軸がゾウムシ ファミリの多様化に影響するかもしれないと議論した。これに応答して、 FarrellがDanforthとAscherに合意し、カブトムシ多様性に関する被 子植物に基づく説明が他の草食昆虫グループについても説明できるかも しれないといった。Farrellは、Andersonの産卵額角仮説に対して最も 重大な困難は、Chrysomeloideaというゾウムシの関連グループには、 産卵額角に対応する部分はないことであると反論した。 Chrysomeloideaは、ゾウムシと同様に様々な植物の部分を利用してい る。(以上のコメントについては、
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/283/5399/143a参照) (An)

波をつかむ(Catching a Wave)

多くの湖そして地球の大気や海洋では、孤立波はよく見られるが、そこ ではこうした波は混合を増進する。しかし、これらの波がどこに発する かはよく分かっていない。FarmerとArmi(p.188)は、音響測深器と航 空写真を使って、ブリティッシュコロンビアにあるナイト入り江におけ る、孤立波の形成と維持について調べた。孤立波は、入り江のずっと上 流岩床において、潮汐流が入り江の底の出っぱりを越える際に二つに分 離すると、その二つの流れの境界が不安定性になり、乱れが流れのかな り上流へと伝わって孤立波を形成する。(TO,Nk)

昔のヒトの影響(Early Human Impacts)

初期のヒトの集団と動物の生態系の相互作用が、2つの報告での主題と なっている。初期のヒトの集団の成長をトレースすることは難しいこと が多い。1つの手段は、ヒトの捕食が生態系と動物相に与えるインパク トを評価することである。Stinerたちは、現在のイタリーおよびイスラ エルに相当する地域での初期のヒトによる小さな動物の食物としての利 用を検証した(p. 190)。4万年くらい前までは、容易に捕えることのでき るカメや海の甲殻類が中心であり、それから次第に、ウサギやウズラな どの鳥、捕まえるのがむずかしい小型動物が狩猟されるようになった。 残されているカメの大きさも急激に小さくなった。このデータは、その とき人口が急激に増加し、食物資源が使い果たされたことを意味する。 さらなる増加は、その後、氷河期のピーク以降に見られる。更新世の初 めにオーストラリアには、育児嚢をもつ動物や、巨大なとべない鳥など を含むその他の動物など、さまざまなものが生息していた。これら、オ ーストラリアに生息していた中型あるいは大型の動物の大部分は、しか し、過去10万年のうちに絶滅してしまった。この大量絶滅の原因が気候 変化によるものか生態系へのヒトの影響によるものかは、絶滅の年代が 明確になっていないのが大きな理由で、はっきりしていない。3カ所の別 の場所でのさまざまな鳥の卵の殻や堆積物の年代から、Millerたちは、 このたび主要な鳥の種の絶滅がおよそ5万年前、つまりヒトがオーストラ リアに最初にやってきた時期に起きたことを示している(p. 205; また、 Flanneryによる展望記事参照のこと)。(KF,Og)

氷河の歴史は繰り返す(Glaciation History Repeating Itself)

もっとも最近の氷河期の終わりは、顕著な低温の時期と氷河の溶解の停止、 そしてYounger Dryasとして知られる海水の上昇からなる急激な気候の反 転によって特徴づけられる。1対となっている報告で、Esatたち(p. 197)と McCullochたち(p. 202)は、その前の間氷期が、13万年前に、これと同様 のやり方で始まったことの挑発的な証拠を提供している。彼らは、急速な上 昇を経験したことで過去の海面の高さを帯状の裁断されたリーフに記録する こととなったパプア・ニュー・ギニアのHuon半島のサンゴを調査した。波 に削られた洞窟のサンゴは、海面の高さが、前回の間氷期の初めに突然、 ひょっとすると60から80メートル下がったことを記録しているようにみえ る。これらのサンゴにおける酸素同位元素の記録とストロンチウム-カルシ ウム比もまた、このとき海の温度が数度下がったことを示している。この記 録は議論を呼んでいるDevil's Holeの気候記録と一貫しており、それを説明 する助けになる可能性がある。(KF)

欠陥により安定化する(Stabilized Through Defects)

欠陥があると通常材料の強度は弱まる。しかしながら、ある液晶材料に少量 の固体粒子を追加することで、内部の欠陥ネットワークが安定化し、実際に 強固となることがある。Zapotockyたちは(p. 209)、急速な冷却により形成 されるコレステリック液晶内部の欠陥を光学的に観測した。材料内の線形欠 陥が節点で接続されており、これらの線形欠陥は張力が与えられた時に材料 を支持する。せん断力が加えられたときにコロイド粒子がこの節を安定化し、 さらに線形欠陥も安定化したのである。(Na)
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