AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 23, 1998, Vol.282


数ミリ秒で数ヶ月に及ぶタンパク質の折りたたみ (Protein Folding over Millseconds and Months)

タンパク質の折りたたみの詳しいシミュレーションは計算によって 集中的になされており、通常ナノ秒に対応した時間間隔で行われて いる。しかしながら,タンパク質は一般的にマイクロ秒の時間スケ ールで折りたたみ構造となる。DuanとKollman(p. 740;Berendsen の展望も参照)は、36残基のタンパク質を完全に変性した状態から 出発してミリ秒のシミュレーションを行なった。タンパク質は中間 的な構造を形成し、その一つは100ナノ秒以上の寿命をもち完全 な折りたたみ構造に似ている。並列処理を用いたにも関わらずその シュミレーションにはクレイのスーパーコンピュータの中央処理装 置をほぼ4ヶ月間も必要とした。(KU)

胞子形成の複雑さ(Complexities of Spore Formation)

酵母において、胞子形成は単相体胚細胞を産生する生殖の重要な過 程である。出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)のゲノム配列が 完全に分かったので、Chuたち(p 699)は、DNAのミクロ配列技術を 用い、胞子形成過程に関連している遺伝子の数を一桁増やすことが できた。変異体および野生型細胞における発現パターンと共通配列 の研究によって、以前に予想されなかった遺伝子と制御因子との関 連が発見された。(An,SO)

ソマトスタチンの作動薬を探索 (Stalking Somatostatin Agonists)

通常はペプチドホルモンと結合する受容体を活性化する非ペプチド化 合物の生成が困難であったが、このような化合物が受容体の生物学的 役割の研究および治療薬の開発に重要であることが以前から認められ ている。Rohrerたち(p 737)は、ソマトスタチン受容体の特定サブタ イプに特異的な高親和性非ペプチド作動薬を同定した。(ソマトスタ チンは、下垂体と膵臓から他のホルモンの放出の制御に関与し、類似 体が癌と他の細胞増殖障害の治療に応用される。)著者は、知られてい るペプチド作動薬をモデルしたことによって発見した相互作用を模倣 するように作成したコンビナトリアル(組み合わせ)ライブラリをス クリーニングした。新しい化合物が、5つの異なるソマトスタチン受 容体サブタイプ中の2つの生物学的役割を探索するために利用された。 (An)

コレステロール対策(Combating Cholesterol)

無βリポタンパク質血症の患者においては、血漿リポタンパク質量が 非常に低い。この障害は、ミクロソームのトリグリセリド輸送タンパ ク質(MTP)の遺伝性欠失によるものであるが、MTPはリポタンパク質 粒子の構築と分泌に必要である。Wetterauたち(p 751)は、MTPの 阻害薬がコレステロール低下薬として治療的な価値があるかもしれな いことを仮定した。著者は、化学物質の高処理量スクリーニングによっ て、既存薬に耐性である高脂血症ウサギモデルを含むいくつかの動物 モデルにおいて、血漿リポタンパク質量を低下した経口で活性なMTP の阻害薬を単離した。MTPの阻害薬は、高コレステロール量にアテロ ーム性動脈硬化症の危険に晒されている人のための新しい治療法を提 供することになるかもしれない。(An)

古代の曲技飛行(Ancient Aerobatics)

古代(古世代)のトンボに似た昆虫の中には、羽に「賢い」構造を有す るものがある。Woottonたちは、こうした古代の昆虫が、現代のトン ボに見られる、空力学的負荷に反応して変形する羽に似た機構を有し ていたことを示した(p. 749; Vogelによるニュース記事参照)。似て いるとはいえ、この二つの構造は、相同ではない。たとえば、ある例 で(三角形-小さな三角形からなる複雑な構造)は、それらは逆方向に 効果的に構成されており、まったく異なった形態学的な経路を通って 同じ機能的解決が達成される適合の鮮やかな例となっている。(KF)

サルも数えられる(Don't Count Them Out)

サルは数を数えられるか? BrannonとTerraceは、2頭のサルを訓 練し、タッチ・センシティブな画面を使って、画面にいくつのモノが あるかによって、順番をつけさせるようにした(p. 746; Careyによる 展望記事参照)。サルは、最初に、モノを1個(色付きの背景の上にあ る、色や大きさの違う幾何図形かクリップ・アートが一つ)含む画像に 触り、次にモノを2個含む画像に触り、そうしてモノを4個含む画像 まで触るようになった。それぞれに、モノを5個から9個含む画像の ペアを提示されると、サルは、より多くのモノを含む画像を選ぶこと ができた。(KF)

驚くべきクラミジア(Surprises in Chlamydia)

クラミジアは、眼や生殖器官の病気の原因となりうる細菌性の病原体 である。このゲノムの完全な配列の報告において、Stephensたちは、 クラミジアがもっているとは誰も思っていなかった遺伝子を発見する と同時に、すべての細菌にとって必須であると考えられていた遺伝子 を発見できなかった(p. 754; Hatchによる展望記事参照)。彼らはま た、この生物体の病源性に役割を果たす可能性のある候補となるタン パク質を発見している。(KF)

TBの分泌(秘密)兵器(Secreted Weapon of TB)

毎年300万人が、ある菌株の放線菌の感染症である、結核(TB)で死ん でいる。宿主細胞の中で、これらの細菌はファゴソームと呼ばれる特 殊な細胞室内で複製し、ファゴソームを再構築するセクレチンタンパ ク質を分泌することによってファゴゾーム中での分解から逃れている、 と考えられている。Berthetたちは(p.759)、結核とハンセン病を引 き起こす菌株の中にのみ見られるERP(exported repetitive protein) と呼ばれる分泌された放線菌タンパク質がファゴソームの中に存在し、 細胞内複製に必須のものであることを示した。(Na)

徐々に変化するスティショバイト (Smoothly Varying Stishovite)

スティショバイトはシリカ(SiO2)の高圧多形(polymorph)であり、通 常の石英においてシリコン原子が酸素原子に対して4配位であるのに 対して、6配位である。Andraultたち(p.720)は、スティショバイト にマルチアンビルの高圧装置で120ギガパスカルまでの圧力をかけ、 第3世代のヨーロッパシンクロトロン放射光によるX-線回折測定によっ て、構造解析を行った。彼らは、スティショバイトが54ギガパスカル においてCaCl2変形を起こし、それ以上の圧力で相変化を起こすよう な顕著な構造変化を見つけることは出来なかった。スティショバイト が、圧力上昇に伴なってスムーズな体積減少を示すことから、科学者 達は、地球のマントル中でのスティショバイトの振る舞いと安定性を 予想することが可能になった。(Ej,Tk)

物理的になりつつある(Getting Physical)

ヒトゲノムの物理的地図は、複雑な遺伝子の特性の研究のためにや疾 病遺伝子のポジショナル・クローニングのために、本質的な助けとな る。Deloukasたちは、以前にあったものよりも2倍も緻密で2から3倍 も正確である発現遺伝子の新たな地図を公開した。30000以上の遺伝 標識が位置付けられ、それらはヒトの遺伝子のほぼ半分に近くに相当 しているであろう。(TO)

シロイヌナズナにおけるセルロースの生合成 (Cellulose Biosynthesis in Arabidopsis)

T. Arioliたちは、アミノ酸1個が変化した温度感受性の対立遺伝子を 持つrswl変異体を利用して(Reports,30 Jan.,p.717)、シロイヌナズ ナ(Arabidopsis、カラシナの類)でセルロース生合成の分子解析を行っ た。R. H. Atallaはこれにコメントして、「この発見は重要である」が、 「rswl遺伝子変異体の存在下に、可溶性のβ-1,4-結合グルカンが集 積していることについての2つの異なる解釈」を除外するものではない と述べている。彼は、「Arioliたちの観察から暗示されるものを十分展 開させるには、、、慎重に過メチル化による分析が大切であろう」と述 べている。この全文は、
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/282/5389/591a参照。 (Ej,hE)

本当のテレポート(Truly Teleported)

量子状態が、相互に離れた場所にあって相関することがある。もつれ (entanglement)と呼ばれるこの効果は、量子領域と古典力学的領域と の違いをなす基本的なものの一つである。Furusawaたちは、連続的な 量子変数、この場合は光学的場の振幅(amplitude)と位相(phase)とが、 送信側と受信側のステーション(station)の間でテレポートされる(古典 的チャネルで送られる)ことがある、と報告している(p. 706;Cavesによ る展望記事参照のこと)。信号は、第3のシステムを介して、独立に、送 信側、受信側のステーションに入ったり、出たりしており、測定プロセ スによって破壊されることはない。もつれ(entanglement)がなければ、 伝達の忠実度は50%を超えないが、もつれた状態を利用することで、著 者たちは、忠実度は58%を達成した。(KF)

核とマントルの境界での異常 (Core-Mantle Boundary Anomalies)

鉄に富んだ液体からなる核の外側の部分と、ケイ酸塩に富んだ固体から なる、核とマントルの境界(CMB: core-mantle boundary)のすぐ上の 1000キロメートル領域にあるマントルの深い部分(D"領域と呼ばれる)と の間では、何らかの混合が起きているが、D"領域が明確に識別できる層 であるのか、それとも単なる異常な物質からなる孤立した領域なのか、 決めることは難しかった。BregerとRomanowiczは、中部太平洋の下に あるD"領域を通るさまざまな地震による横波の到達時間の差を測定した (p. 718)。彼らは、それから、D"領域のモデルにおける速度構造を変更 することで、この実験データを説明した。彼らが詳細化したモデルは、 CMBにあるハワイのホットスポット・プルーム源と関連するゆっくりし た速度のゾーンと、化学的不均一性と関連する高速度のゾーンを示して おり、これは、D"領域がきちんと定義できる層ではなく不均一であるこ とを示している。(KF)

温度の記録に水も追加 (Adding Water to Temperature Records)

氷河期の温度に関する情報の多くは酸素同位体の記録の分析に由来して いる。しかしながら、その記録は一般的に温度,及び巨大な氷床の中に 水を蓄えた結果として海洋と沈殿物の組成変化という二つの影響を受け ており解釈は複雑である。Beyerleたち(p. 731)は,スイスにおける帯 水層中の地下水の変化の調査により酸素同位体と温度の関係、及び氷河 に覆われた地域の下部からの古気候の記録の二つの調査に関して記述し ている。地下水は帯水層を通ってゆっくりと動いており、より古い水は 大気と平衡に達して以来の情報を記録している。地下水に溶けた希ガス と酸素同位体分析を結びつけることにより,氷河時代の温度はその地域 では現在より5℃低いことを示している。(KU)

気候予測には限界がある?(Limits on Climate Predictability?)

2−3日後の天気はかなりの正確さで予測することが可能である、しかし、 ある気候モデルに与える初期状態のほんの小さな変化もほんの短期間で 指数関数的に拡大してしまうため、長期の気候予測は殆ど不可能と考えら れていた。気候観測の精度と観測のカバーする範囲が限られているために は、5日から15日を超えるような予測を不可能としている。しかしながら、 最近のエルニーニョ現象予測の成功が示すように、このルールにも例外が ある、この例外は熱帯性太平洋から高緯度、例えば北太平洋や北米などへ もある程度拡張が出来そうである。Shuklaは(p.728)、気候モデルケース スタディを用い、これらの気候特徴の予測性について実証し、その根底に ある理由、特に海面温度が大気の気候に対する可変性の影響を減少する役 割について議論した。(Na)

生体無機物形成をクローズアップ(Biomineralization Close-Up)

方解石(CaCO3)のような生体無機物の生成には表面ステップや有機物の 存在を含めて多くの因子が影響している。Tengたち(p. 724)は原子間顕 微鏡を用いて溶液から方解石の成長に関する熱力学、及び動力学的制御 因子を定量化した。その実験は,ステップに沿った結晶面の成長を溶液 の過飽和と結びつけるGibbs-Thomsonの関係式を確認するものである。 アスパラギン酸の添加により,その系のステップモフォロジ−とフリ− エネルギ−は大きく変化した。(KU)

成長する量子ドットの結晶(Growing Quantum Dot Crystals)

量子ドット、つまり電子を閉じ込めるナノスケールの構造は、もし適切 な基板上にある種の物質が蒸着されると、表面は自然に形成される。そ れらのサイズと形状は、2つの化合物間の格子ミスマッチ (lattice mismatch)に依存している。Springholzたち(p. 734)は、 Pb1-xEuxTe層のマトリクス中にPbSe量子ドットの層が順次蒸着される と、その粒子は、蒸着面内と同様に垂直方向にも整列し始め、3次元量子 ドットの結晶を形成すということを示した。こうした結晶は光電子工学 のナノデバイスにおいて関心を引くと思われる。(TO)
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