AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 9, 1998, Vol.282


IGF-I と前立腺ガン(IGF-I and Prostate Cancer)

J. M. Chanたちは、調査研究(Reports, 23 Jan., p. 563)の中で、 152人の前立腺ガン患者と、同数の健康な人の血液中のインシュ リン様成長因子-I(IGF-I)と前立腺ガンのリスクの関係について調 査した。そして、「強い正の関連性」が観察された。Schaeferた ちもまた、「IGF-Iと、いくつかの加齢に関連する病気との関連に ついて調査研究を実施」した。45人の患者からの試料データによっ て、彼は、「前立腺ガンと発生割合と、IGF-Iの血清中濃度の間に は関連はない」ことを示唆した。これに反論して、Chanたちは、 両者によって発見されたそれぞれの結果の差異は「2つの研究方 法におけるいくつかの手法の違いによるものであろう」と述べて いる。彼らによれば、もう2つの他の研究によっても、IGF-Iと前 立腺ガン関係性が発見されていると記しているが、「Schaeferた ちの発見は、もっと調査研究が必要であることを強調している」 点には同意している。このコメントの全文は、以下を参照(Ej,hE) :
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/282/5387/199a

水和過程を間近に見る(A Close Look at Hydration)

酸化アルミニューム表面の水和は触媒反応から岩石の風化作用に至る 多くの領域で重要である。このような水和過程の解明は、再現性のあ る、かつ充分にキャラクタライズされた表面を調整したり、その特性 に対する水和の相対的な影響を解釈するうえでの実験的困難さにより 遅れている。しかしながら、より現実的なシナリオは計算手法で取り 扱うのが難しいため、理論的研究は、しばしば小さな系を用いている。 Hassたち(p. 265)は、酸化アルミニュームに吸着された水の複雑な 動きを研究するため比較的大きな単位格子を用いてアブイニシオ分子 動力学計算法を使用している。彼らは水が容易に解離すること、そし てより高い表面カバレージにおいてプロトン移動反応のような集合的 効果が観測されることを示している。(KU,SO,Tk)
訳註:「アブイニシオ計算 」量子化学で経験的パラメータを用いない で分子や原子の電子状態などを計算する方法

痕跡量のトレーサ (Tracing a Tracer)

海洋や海洋沈降物中のオスミウムは大陸風化の重要なトレーサとなる 可能性を持っているが、まず第一に海洋におけるその挙動を更に理解 する必要がある。一つの問題はその存在が測定しがたい微小量(海水 中にppt(1E-18))であり、その濃度や同位体比を測定することが困難 であった。非常に低いブランクレベルの測定を成し遂げることにより、 Levasseurたち(p. 272)は、インド洋においてオスミウムの濃度と同 位体比の二つの深さプロフィルを直接測定した。オスミウム濃度は以 前の研究と異なり深さ方向では一定であり、そして海洋での安定なオ スミウム種は有機相であることを示唆している。(KU)

ボトムアップからの気候変動 (Climate Change from the Bottom Up)

一般的には、微量元素(動植物の組織内に微量必要とされる元素)の 量、安定な同位体のトレーサー元素の変化、あるいは分布した花粉な どが、ある気候の記録の中で過去の温度変化を推察するために使われ る。ここに2つの報告では、地球自体を用いて過去の温度を推定して いる。Dahl-Jensenたち(p. 268)は、グリーンランドで掘削を終 えた数年後熱的に平衡に達したGRIPとDye 3のアイスコアにおける実 際の温度測定から得られた結果について報告している。彼らは、モン テカルロ法を用いて、氷床の堆積と流動、そして熱拡散が時間によっ て温度分布がどのようにシミュレートし、実際の温度記録と適合させ た。約50000年前まで広がりがあるGRIPの記録の分析は、グリーン ランドにおける最後の氷河期の最高潮には、現在の平均気温よりも摂 氏23度も気温が低かったことを示唆している。両方の記録から、小氷 河期を含む完新世において、数℃の変化が明瞭に認められる。広く分 布された測定器による記録では、陸地の気温は、今世紀になって以来 概して0.5度増加している。Pollackたち(p. 279)は、北半球と南 半球における広い地理的範囲をカバーするボーリング穴の温度推定値 (borehole temperature estimates)を解析した。ボーリング穴の データは、気温の記録を一致しており、20世紀は全世界的に、最近5 世紀の中で最も温暖であることを示している。(TO,Nk,Tk)

曲がり角をめぐって(Around the Bend)

フォトニック結晶は、異なった誘電定数をもつ物質の周期的な配列に よって光が伝播されない波長域をも生成するので、鋭い角を曲がると きに放射されるミリ波をガイドするために利用されてきた。Linたち は、高誘電性の材料からなる薄いロッドを方形に並べることで、2次 元のフォトニック結晶を作成した(p. 274; Watsonによるニュース記 事参照)。彼らは、従来の誘電体を用いた導波路では困難であった、 光の1波長分よりも鋭い90度の曲がりでのゼロ-損失伝達を達成した。 (KF)

死んだふりをした海(The Ocean Plays Opossum)

大きな小惑星が地球に衝突したために引き起こされたと考えられて いる、白亜紀末期の種の絶滅(extinction)によって、海洋の生物の 生産性は損なわれてしまった。海の浅いところと深い層との間での、 光合成によって作り出された炭素の自然な移動が止んでしまったの だ。「Strangeloveの海」として知られる、そのような死んだ海洋 は、海洋の深さによらない炭素同位体の均質化が存在したことが記 録に残されている。D'Hondtたちは、化石の記録によれば海洋では 多くの植物プランクトンが急速に(数十万年以内に)回復したとはい え、炭素同位体の記録は、Strangeloveの海が種の消滅以降300万 年続いたことを意味している、ということを明らかにした(p. 276)。 この記録を説明する一つの方法は、大部分は小さなプランクトンは、 それらを食べるものたちよりずっと急速に種の絶滅から回復したの ではないか、というものである。炭素の産生の大部分は、浅いとこ ろで再循環し、それを深いところまで伝達する食物連鎖によらなかっ たのである。(KF,Nk)

予め組織化されたRNA酵素(Preorganized RNA Enzyme)

現代の生物学におけるタンパク質の捉え方の枠にはほとんど収まら ない、反応の触媒となる生物学的RNA分子の存在は、初期の生命に おける代謝性の経路は、RNA酵素によって調節されていたとする考 え方に裏付けを与えてくれる。Goldenたちは、現存しているそのよ うな酵素、すなわち親のRNA分子が成熟するあいだに自分自身を切 り出すテトラヒメナのグループIイントロンの3次元的構造を提示し た(p. 259; WesthofとMichelによる展望記事参照)。彼らは、攻撃 性求核試薬(nucleophile)である遊離のグアノシンヌクレオチドを 捕捉するのに用いる結合部位、そして反応の第一段階で破壊される リン酸ジエステル結合を含む基質、について記述している。この RNA酵素は、基質とグアノシンに適合するよう予め構造化された組 織された活性部位をもっている点で、今日のタンパク質酵素と著し く類似しているものである。(KF)

メタンガスを最小化する(Minimizing Methane)

北方の湿原は温室効果ガスである大気中のメタンの主要な発生源で ある。湿原からのガスの純生産量はメタンを酸化するバクテリアに より調節されていると知られているが、そのようなメタノトローフ (methanotrophs)を追跡することは困難だった。Dedyshたちは (p.281)、西シベリアのピート湿原からメタンを酸化するバクテリ アを分離したことを報告した。これらの分離されたバクテリアは、 中程度の酸性PHに最適化し、メタノトローフの新規に系統発生した グループで構成されている。(Na)

見張っている(On Guard)

植物の孔辺細胞においては、多数の細胞と同様に、細胞情報伝達分 子がホルモンと環境の影響に対する応答を仲介する。Peiたち (p 287;GrillとZieglerによる展望参考)は、ファルネシル化、つま り脂質部分を標的タンパク質に付着すること、がアブシシン酸とい うホルモンに対する孔辺細胞におけるイオンチャネルの応答の制御 に重要であることを示している。アブシシン酸は、葉の表面におけ る気孔を閉じるように孔辺細胞を指示し、これによって乾燥休眠条 件に反応する。(An)

癌抑制遺伝子の候補(Candidate Tumor Suppressor Gene)

多くのヒトの癌で11q22-24染色体における対立遺伝子の欠失見ら れ、このゲノムの領域が癌抑制遺伝子を含むことを示唆している。 Wangたち(p 284)は、この領域にマップする遺伝子のひとつである PPP2R1Bが肺と大腸の腫瘍のサブセットにおいて配列の変化をもつ ことを発見したが、その変化のいくつかが機能を破壊することが予 想された。PPP2R1B遺伝子は、セリンスレオニンタンパク質ホス ファターゼ2Aのサブユニットをコードするが、2Aは、キー情報伝達 タンパク質であり、細胞増殖の制御に関連していることがすでに示さ れている。(An)

死に抵抗(Holding Death in Check)

p53という腫瘍サプレッサーが、転写制御因子としての活性あるいは 転写非依存の機構によって、細胞死を誘発することができる。 Bennettたち(p 290)は、血管平滑筋と線維芽細胞と糸球体間質の株 化細胞において、p53が死受容体(Fasあるいは腫瘍壊死因子受容体1 型)の前もって形成されたプールを表面に補充し、そこで受容体が活 性化されることを発見した。Fas経路の抑制は、p53の誘発した細胞 死を防いだ。このゴルジバ局在化したプールの発見は、なぜp53誘発 細胞死に抵抗する腫瘍細胞の多くが Fas誘発細胞死にも抵抗するかを 説明できるかもしれない。死受容体が細胞内の貯蔵に閉じ込めら、死 を惹起するために表面に移動することができなくなるようである。 (An)

薬物中毒を作るもの(The Making of Drug Addiction)

なぜある人々は長期間に渡り薬物をコントロールしながら用いている ように見えるのに対し、他の人たちは薬物中毒、すなわち薬物をコン トロールできない状態になるのかの理由は明らかにされていない。 AhmedとKoobは(p.298)、毎日1時間程度、すきなようにコカインを 摂取させたラットは長期間持続的な、低く、安定した薬物摂取パター ンを見せた。しかし、もし、6時間まで薬物にアクセス出来る状態にお くと、時間と共にますます大量に摂取する傾向を示す。更に、初めか らより多くの量の薬物を摂取する傾向がある。著者は、この脳内の化 学反応の明確に異なる変化を「快楽値」の変化と記述した。(Na)

選択的遺伝子発現(Selective Gene Expression)

遺伝子発現の制御方法は、たとえば遺伝子治療や遺伝子組換えシステ ムにおいて重要なものである。Werstuck とGreen (p.296) は、巧み に処理された RNA分子を適用する方法に基づく新しい方法を記述して いる。短い RNAアプタマー(aptamer)は、選択された遺伝子の発現を 制御するように薬剤と DNAに結合することができる。(Wt)

二重の責務(Double Duty)

ホスホイノシチド3-キナーゼは、細胞増殖やアポトーシスからの保護 を含む沢山の細胞プロセスの制御機能に携わっている。ホスホイノシ チドと言う名前にもかかわらず、ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K) はホスホイノシチドのリン酸化を触媒するだけでなく、タンパク質の リン酸化をも触媒するが、2つの活性がどのような生物学的結果をも たらすかは、今までよく分かっていなかった。Bondevaたち(p.293)は、 PI3Kの触媒性のコアを、他のPI3Kファミリーメンバーからの対応する 配列で置換したキメラ分子を作製した。この結果できた分子のいくつか は、特異的にタンパク質キナーゼ活性か、リン脂質リン酸化キナーゼ活 性を示す。キメラの解析によると、PI3Kの1つの生物学的作用--タン パク質キナーゼBの活性化--には脂質リン酸化は不可欠であるが、PI3K のタンパク質キナーゼ活性化は、マイトジェン活性化タンパク(MAP)質 キナーゼのErk2の活性化に結びついているように見える。従って、PI3K の2つの酵素活性によって、別の標的に活性化信号を分配することが可 能になるように思える。(Ej,hE)
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