AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 2, 1998, Vol.282


古代の動物の痕跡 (Traces of Ancient Animals)

伝説的なおよそ5億4千万年前のカンブリア紀の生物の爆発的発展よりはるか以前 に動物の発生はあったのだろうか。わずかに早い起源を持つと示すいくつかの小 さな化石が発見されたが、それより古い化石は残されていず、このような早期の 起源は疑わしいと主張する意見も多い。Seilacherたちは(p.80、表紙とKerrのニ ュース解説も参照)、インドのChorhat砂岩の中の成層面(bedding plane)に保存されてい る、虫が移動のために掘ったトンネルの痕跡化石と思われる構造について記述し た。これらの岩はおよそ10億年前のものであり、著者は動物が藻類のマットの下 を掘ったことで形成された痕跡であると示唆した。(Na)

全飛行中に捉えた (Caught in Full Flight)

洋の大気化学上のある重要な問題は、微小なエアロゾル(煙霧)の粒子の核形成条 件と関連がある。そのような粒子は、雲の凝結核として雲の形成に重要な役割をして いる。そして、どこでどのように新たな粒子が形成されるかを発見することが大切で ある。Clarkeたち(p. 89)は、海洋の境界層における核形成の発生を直接観測でき る、空中計測(airborne measurements)を行って、このような現象が起きるために必 要な条件に制限を加えることに成功した。その結果はまた、現在の粒子の核形成理論では説明しきれない現象があることを示している。(TO,Nk)

両極での同期 (Synchronicity at the Poles)

氷河期のような、主要な古気候(paleoclimate)の気候変動は、北半球と南半球の間で 同期したりずれたりしているかもしれない。グリーンランドや南極大陸で採取したい くつかのアイスコア(氷層掘削試料)からの証拠は、応答が非同期的であることを示 してきた。Steigたち(p. 92;Stockerによる展望記事参照)は、ある別の南極大陸の アイスコアから得られた過去2万年のデータを報告している。彼等は、この時期にお ける北大西洋での最も顕著な出来事が、この南極大陸のコアに同時期に記録されてい るということを見つけた。したがって、南極大陸内あるいは周辺の気候変動のパター ンは、地域的に不均一であり、それまで考えられていた以上に複雑である。こうした 影響は、モデルにおいても認められてきた。(to)

スピン分極に注目して (pointing out spin polarization)

スピンのバルブのように、新しく出現してきたデバイスの種類は、電子の電荷ではな くスピンに基づいたものである。soulen たち (p.85) は、金属のスピン分極(上向き と下向きのスピンの比率)を測定するための簡単な方法を、二酸化クロムのような材 料の測定も含めて報告している。この材料は、他の方法ではこれまで測定が困難なも のであった。ニオブのような超伝導体の先端は、金属と点接触を形成する。この方法 によって、極低温における超伝導電流(電子対)から通常電流への変換は、フェルミ面 近くの金属中の少数スピンの個数に依存することがわかる。(wt)

煙で燻された稲妻 (smoked lightning)

雲から地上へ走る稲妻の殆ど(殆ど90%)はマイナスの極性を持っている、この電位差 の理由と雷の荷電プロセスについては不十分にしか知られていない。しかしながら、 lyonsたちは(p.77、ironのニュース解説も参照)、1998年の4月から6月までの、米国 中部上のストーム(嵐)ではプラスに帯電した稲妻の割合がずっと高く あるストームの例では59%にまで達した。著者はこの違いを、 この地域ではメキシコの山火 事からかなりの量の煙が流れ込んでいたことと関連付けた、この煙によってストーム 中の極性が変化されたことが明らかである。(Na,Nk)

大気圧下でアンモニアを合成 (Ammonia at Ambient Pressures)

工業化学における初期の大成功の一つはハーバー(Haber)のアンモニア合成であつ た。鉄触媒を用いることにより反応は適度な温度(430〜480℃)で進行する が、好ましい生産量をうるには高い圧力(150〜300気圧)が必要である。 MarnellousとStoukides(p. 98)は電気化学セルを用いて大気圧、かついくぶん高い温 度(570℃)で水素と窒素からアンモニアを合成した。水素はPd陰極で解離し、プ ロトン伝導のセラミックチューブ(SrO-CeO2-Y2O3ぺロブスキ−石)を通ってPd陽極に 移動し窒素と反応する。この反応系においては圧力よりもむしろ電気的仕事が反応を 促進させており、移動したプロトンの殆ど80%がアンモニアに変わっている。 (KU)

可溶性ナノチューブ (Soluble Nanotubes)

カーボンナノチューブの化学や分光学は、それらが有機溶媒に可溶ではないため、こ れまで制約が大きかった。Chen たち (p.95) は、精製され短くされた単一壁カーボ ンナノチューブ(SWNT,長さ 100〜300 nm)を、SOCl2 を用いて1日間、そしてオクタ デシラミン(octadecylamine,別名、オクタデシル)中で6日間加熱することにより、それらの末端を誘導体 化した。結果として得られたナノチューブは、多くの一般的な有機溶媒に可溶とな り、分光学的な研究を用いて、ドーピングされないもの、およびヨウ素と臭素でドー ピングされた SWNT のバンドギャップが測定できるようになった。著者たちは、ま た、SWNT の壁面も誘導体化することができ、その壁面の炭素原子のわずか2%を飽 和することにより、電子バンド構造中に大きな変化が生ずることを見出した。(Wt)

褐色矮星における最近の自転 (The Latest Spin on Brown Dwarfs)

褐色矮星は、惑星よりは重いが、恒星のように中心部において核融合反 応を継続させて明るく燃え盛るほど重くもない暗い天体である。1995年以来、 宇宙に存在するはずだが未検出の質量の幾らかをそれ(褐色矮星)で説明し、 さらにかつては見失われていた惑星と恒星の間をつなぐ天体を詳しく知る ための有力候補として、褐色矮星を確実に見つけようと言う作業が始 まっていた。Neuhauser と Comeron(p. 83; Schillingによるニュースストーリも参照)はレントゲン (Roentogen)衛星を利用して、恒星を誕生させつつある星雲であるカメレオン I(Chamaeleon I)中の、きわめて若い、超低質量の褐色矮星(Cha Hα 1)からのx線放 射を検出した。彼らは、このx線放射はCha Hα 1中の対流に関与したものであるか、 あるいは、褐色矮星の自転に関係していると信じている。他の低質量の若い恒星のよう に、高速回転によってダイナモが形成され、磁気コロナを継続的に生じさせるからで ある。(Ej,Nk)

微生物の酵素モジュール (Microbial Enzyme Modules)

微生物体は、エリスロマイシン、ペニシリン、シクロスポリンのように驚くほど多様 な医学的に重要な分子を合成する。このような分子はモジューラ酵素の複合体により カルボン酸、或いはアミノ酸の単純なモノマーから作られる。Caneたち(p.63)は、 このような複合体がどのように作用しているのか、そして 分子のレパートリを広げ るための未来のモジュール操作法を理解した上で最近の進歩に関してレビューしてい る。(KU)

寒さに強いニンジン (Cold-Tolerant Carrots)

氷点下の気温で、ある種の植物は壊滅的な打撃を受けるが、寒さにより強い植物もあ る。Worrallたちは、ニンジンから、氷の結晶の成長を制限することで、低温による ダメージを限定する一つのタンパク質を分離した(p. 115)。動物で同定された凍結防 止の性質を有するタンパク質と同様、このニンジンのタンパク質にはある配列の繰り 返し(leucine-rich repeats)が見られる。(KF)

葉緑体への移入 (Import into Chloroplasts)

葉緑体内部で発見されたタンパク質の多くは、核の中にある遺伝子の転写によるもの である。プラスチド(色素体)隔室へのそうしたタンパク質の移入は、部分的に、葉 緑体膜にあるトランスロコン複合体(translocon complexes)の機能によっている。 Jarvisたちは、シロイヌナズナの葉緑体トランスロコン(translocon)の構成要素の一 つの遺伝子を同定した(p. 100)。関連するタンパク質との類似性から、トランスロコ ンには、おそらく機能が異なった1つ以上の種類が存在しているだろうと、いうこと が示唆される。(KF)

注視を保つ (Holding Our Gaze)

我々は、多数の視覚的刺激によって、まるで、サインをねだるファンに攻めたてられ るかのように、頻繁に攻めたてられている。そうした刺激のうちのあるものは、自動 的に背景に追いやられるようにみえるが、我々の注意を捉える刺激も存在する。こう した選択はどのようになされるのだろう。Kastnerたちは、ヒトを用いた脳のイメー ジングによって、選択がアクティブな過程であるという提案を支持する結果を示して いる(p. 108; KanwisherとDowningによる展望記事参照)。我々が、視野にある特定の モノにアクティブに注意を払っていないときには、多数のモノが互いに競合し、そう したモノのうちのどれかが誘起するようなニューロンの活性が全体として抑制される のである。我々が注意をフォーカスするときには、その結果はこの抑制効果に対して 反作用し、関心のあるモノをハイライトするように全体としてのニューロンの応答を 鮮鋭化するのである。(KF)

眼も持っている (The Eyes Have It, Too)

眼における光の検出は、ロドプシンの光受容がトランスデューシンというヘテロ三量 体のグアニンヌクレオチド結合タンパク質(Gタンパク質)を活性化する過程によるも のである。トランスデューシンがグアノシン 3',5'一リン酸ホスホジエステラーゼ (PDE)という酵素を制御する。Gタンパク質の活性化が応答の開始に重要であるが、こ れと他の多くの過程において、Gタンパク質の不活性化も制御の重大な点である。 Tsangたち(p 117)は、PDEgサブユニットがトランスデューシンと相互作用しないよう に変異させたマウスを分析した。不活性化にやはり寄与しているRGSタンパク質(Gタ ンパク質情報伝達の制御因子)が正常に機能しても、トランスデューシンの不活性化 が障害を受けた。結果は、効率的な情報伝達に寄与する可能性のある機構があること を示唆している。RGSタンパク質がロドプシンを不活性化するのは、Gタンパク質が標 的の酵素を結合し、活性化した後にしか行われないようである。(An)

対の各部を区別 (Telling Pairs Apart)

DNAの4つの塩基(A,C,G,T)がそれぞれ、DNA二重らせんにおける相補的塩基対形成に 利用される水素結合のドナー(N-H)とアクセプター(C=O)を区別して提示する。しか し、多数の生物学的イベントが二本鎖DNAの配列を特異的に認識することに依存する ので、塩基対の各塩基を区別できる小分子の治薬の設計に用いることが望ましい。 Kielkopfたち(p 111)は、二重らせんDNAにおけるより狭い小溝の中で、合成ポリアミ ドがT・A塩基対とA・T対との差をどう掴めるかについて構造上の根拠を報告してい る。(An)

C型肝炎感染へのインターフェロンαの影響 (Effects of Interferon-alpha on Hepatitis C Infection)

以前の証拠は、インターフェロンαが肝炎ウイルスが細胞を感染することを遮断する ことを示唆したが、Neumannたち(p 103)の動力学的分析は、インターフェロンαがウ イルス粒子の産生あるいは遊離の段階で作用することを示している。著者は、分析の 精度を上げ、ウイルス粒子の半減期と感染した細胞の死亡率および様々なインター フェロン用量の抗ウイルス効力への影響を解析した。より攻撃的な早期治療が患者の より長期的な成功を生じることを示唆している。(An)

細菌に逃げ道なし (No Escape for Bacteria)

細胞溶解性Tリンパ細胞(CTLs)は、ウイルスや細胞内細菌に感染した細胞を破壊す る。この破壊によって、細胞は溶解されるが、細菌も自由になることもある。CTLsの うち、感染した細胞を殺すために顆粒(granule)を遊離するサブセットは、細胞中に 潜伏している細菌にダメージを与えることもできる。Stengerたちは、顆粒の成分で あるタンパク質granulysinが、結核の原因となる細胞内に隠れているマイコバクテリ アなどの細菌を殺すことができることを示した(p. 121)。T細胞顆粒に含まれている 天然の抗菌性物質のこの同定によって、T細胞が細胞内病原体を排除するために用い ている機構が同定された。(KF)

チベット高原の裂け目 (A Tear in the Tibetan Plateau)

インドとアジアが衝突する形で出来たチベット高原は最大の高原であり、厚くて、褶 曲し、断層を含んだ地殻である。ヒマラヤのテクトニック進化を理解するためには この地殻の構造を決定することが必須条件である。不幸にも、この構造のほとんどは 地下にあって,人間の目で確かめることができないので、地震波データによって遠隔から解読するしかない。Wittlingerたち (p.74)は、チベットの北部境界を横切るように直線状に臨時に設置された遠隔地震波 観測装置の記録データを利用し、深部の地震波速度の構造を断層画像(いわゆる トモグラフィー)として得た。こ の画像によれば、北部チベット境界に沿う1800キロメートルに及ぶ主要な走向滑り断 層であるAltyn Tagh断層の下において、異常な地震波速度低下領域が見られた。この 異常は約140キロメートルの深さにまで達しており、走向滑り断層が垂直方向に延び た部分を示しているのであろう。この結果から、地殻は地表から地殻の底まで剪断変 形しており、もしかしたらマントルにまで変形が伸びているかも知れない。このよう な大きな裂け目は、断層の両側の主要な地殻ブロックの変形を制御することになり、 大陸の衝突によって生じた歪みが狭い断層帯に集中した可能性がある。(Ej,Og)
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