AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 21, 1998, Vol.281


遺伝子の差異を評価する方法(Assessing Genetic Differences)

ゲノム間の変異を迅速に、かつ効率的に同定できることが、微生物、 植物、あるいはヒトの個々の違いを分子レベルで、理解する上に極 めて重要であり、多重遺伝子や、定量的見地からの正常な特徴や、 病気に関与する遺伝子を特長を同定するための基礎となるであろう。 Winzelerたち(p.1194;表紙、及び、Serviceによるニュースストー リも参照)は、高密度オリゴヌクレオチド鎖を利用して、2系統の酵 母間における対立遺伝子間の差異を直接、かつ効率的に走査し、マッ プ化し、スコアを採ることを実証した。従来では、対立遺伝子の変 異特有な特性を知り、新たな系列を作りだしたり、対立遺伝子に特 異なポリメラーゼ連鎖反応を利用する必用があったが、この新たな 手順では、前もって変異の特性を知っておくことも、増幅ステップ も必用ない。(Ej,hE)

ヘムの付添い役(Heme Chaperone)

多くの酵素は活性のため必須補助因子として鉄含有ヘムを含んでい るが、ヘムがどういうふうにして標的蛋白にとり込まれるのかその メカニズムは知られていない。Schulzたち(p.1197)は、バクテリ アの周辺質においてヘムが標的にとり込まれるさいの重要な蛋白質 を見つけた。CcmEは付添い役(シャペロン)として働いているよう で、最初ヘムと結合しその後標的酵素にヘムを送り出しているらし い。(KU,SO)

ラボと土壌中での”グリーンラスト” ('Green rust' in the Lab and in the Soil)

S.C.B.Myneniたち(レポート、7vol.,p.1106)は、”グリーンラス トと呼ばれる酸化鉄の存在下における”非生物的Seのレドックス転 移”を研究した。Myneniたちは、無酸素の沈殿物の中でSe還元種 の形成に対する直接的証拠を見つけたと報告している。 R.S.Oremlandたちは、レポートで(述べられた)の実験は”極めて 特殊な実験条件下でなされており”、”速度定数データーの一致” は土壌中で見い出されたグリーンラストが非生物的なものであって ”バクテリアの直接的介在ではない”という結論に対する”単なる 偶然的証拠”を与えているにすぎないとコメントしている。これに 応えて、Myneniたちはグリーンラストは”多くの微生物”によって つくられることに同意しているが、現在の研究方法によれば沈殿物 中でのグリーンラストの形成の”他のメカニズムを排除するもので はない”と述べている。こういったコメントの全文に関しては
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/281/5380/1111a で見ることが出来る。(KU)

母親をごまかす(Tricking Mother)

ドナーからの組織移植は、ホストのT細胞が、移植組織片の外来の 主要組織適合性抗原(MHC)に強く反応するため、この免疫系が抑制 されない限り、拒絶される。では、父親からMHCを半分もらってい る胎児は、半分が母親にとってよそものであるにも関わらず、なぜ 即座に拒絶されないのか? Munnたち(p.1191;およびGuraによる ニュースストーリ)は、マウス胎児自身が母親のT細胞からT細胞の 活性化に不可欠なトリプトファンを奪うことを見つけた。胎児酵素 のインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ、即ちIDOは、トリプト ファンを異化する。IDOを抑制すると胎児の武装解除がされて、母 親のT細胞が受胎産物を拒絶するようになる。(Ej,hE)

海洋生物の多様性:局地的多様性と地球規模の多様性 (Marine Diversity:Local to Global)

カンブリア紀(約 5億 5千万年前 )以後の全地球的な海洋動物相の 多様性についての、長期的かつ徹底的な記録については、多様性を 説明する2つの異なる解釈がなされてきた。1つは、大量絶滅によっ て多様性の傾向がリセットされ、有力占有種属が生きていた場所を、 より劣位の種属が占め得ると言うもの。2番目は、長期的多様化傾 向は生物の相互作用に関連しており、大量絶滅は、長期的には影響 ないとする説である。Miller(p.1157)は、海洋生物の記録を元に、 これらの解釈を見直し、第3の説にたどり着いた。これは、局地的 な海洋生物相の詳細な研究によって支持者を増やしているものであ るが、これによると、急速な局地的環境変化は多様性を加速させ、 その極端な場合が、大量絶滅である。1地域における多様性は急速 に生じ、これが、より長期にわたり地球規模で伝播していくことに よって、海洋動物相に見られるように、次第に多様性を増加させる。 (Ej,hE)

ダイアモンドダスト中の星ガス (Starry Gases in Diamond Dust)

始原的隕石中に発見されるダイアモンドは、太陽系が形成される以 前に作られた個体粒子があり、従って、太陽系が出来る以前の状態 を教えてくれる、と考えられていた。Verchovskyたちは(p.1165)、 超遠心分離により、Efremovka隕石から集められたダイアモンド粒 子を、4段階の粒径に分類した。不活性ガスの量は粒径が大きくなる につれて増加したが、それらのうち、窒素と炭素の量には変化がな かった。これら粒子内に存在する不活性ガスは粒子が恒星間媒体中に 漂っていた時にイオンとして埋め込まれたものであり、そのプロセス は粒子が大きいほど効率が良い。(Na,Tk)

チベットの階段(A Step in Tibet)

チベット高原は、インドとユーラシアの衝突によってできた、厚くて 褶曲し、断層を有する最大で最高の高原地殻である。そびえ立つヒマ ラヤ山脈から、この衝突によって極端な地殻の変形が生じている徴候 は得られるが、地殻と最上部マントルとの境界面であるMoho面が、 このテクトニクスの活動で影響を受けたかどうかはよく分かってない。 ZhuとHelmberger(p.1170)は、チベット高原北部境界の地震観測所 で記録された圧縮波の遠距離地震波中に特異な対のパルスを見つけた。 彼らのモデルによると、高原北部のマントルと、薄くて高強度の地殻 で出来た垂直の壁に並列した、高原下の肉厚で低強度の地殻によって、 Moho面がジャンプしたことを示唆している。このモデルによるMoho 面のジャンプから推測できることは、地殻が側方に変形することを妨 げる障壁が存在し、これが高原地殻を垂直方向に変形することになっ ているらしい。(Ej,hE)

レーザー衝撃を与えられた金属重水素 (Laser-Shocked Metallic Deuterium)

高圧下での水素の挙動を理解することは、圧倒的な部分が高圧下の水 素からなる木星型惑星や太陽系外の巨大惑星、褐色矮星、低質量の星 などの構造と進化を決定する上で基本的なことである。Collins たち (p.1178; Kerrによる解説記事も参照のこと)は、最近開発された手 法を用いて、強力なレーザー光線により 22から340 GPA に至る圧 力まで液体重水素に衝撃を与えた。重水素は、水素の同位体であるが、 それらの密度差を考慮して修正することにより重水素の特性を水素の 特性にスケール変換できるため、水素の状態方程式の代用として用い ることができる。絶縁性の分子流体から光を反射する金属流体への重 水素の遷移はおよそ 100 GPaで発生した。彼らの仕事は、水素が理 論によってこれまで予言されてきたものより、50%ほど大きな圧縮 性を有することを示している。(Wt)

化石を有機的に同定(Identifying Fossils Organically)

渦鞭毛藻類は、重要なプランクトンのグループであり、第三紀(約2億 4000万年前)まで広く認定されているが、いくつかのデータによれば、 起源がもっと前であろうことが示唆された。渦鞭毛藻類のより古い起 源の証拠を見つけるために、MoldowanとTalyzina (p. 1168)は、 渦鞭毛藻類における特定の生化学的マーカーを単離し、カンブリア紀 堆積岩の不可解な化石と有機残留物を検査した。このデータによれば、 カンブリア紀初期(約5億4000万年前)には大量の渦鞭毛藻類があった ことが示唆される。(An)

生命から粘土へ(From Life to Clay )

バージェス頁岩は,カンブリア紀における後生動物の爆発的な種の発 生時期に形成され,最も見事に保存されたかなりの化石や、更に、こ れらの初期の動物からの有機物を含んでいる可能性がある。これらの 化石がどのようにして保存されたかについては,議論されてきた。 Orrたち(p.1173)は,これらの化石のいくつかの元素の分布が、生物 の解剖学的特徴の違いに応じて違っており、これらに隣接した母岩を 使って,粘土鉱物が軟部組織部をコピーし置き換えたことを実証した。 以前には認識されなかったこの保存メカニズムは,化石の歴史や後生 動物の生命活動についても,私たちの理解を促すことであろう。なぜ ならこの保存方法は異なった軟部組織部を区別することができる能力 があるからである。(TO,Tk)

プレートのところで圧迫(Squeeze at the Plate)

サブダクションゾーン(沈みこみ帯)とは,あるプレートが別のプレー トの下に潜り込んでいる,プレート境界の衝突縁である。震源の傾斜 ライン,つまりベニホフ帯(震源面)は,これらのプレート間の境界 に沿っている.BilekとLay (p. 1175)は,本州の下に潜り込んでい る海洋地殻に沿った地震を用いて,深く下降するに従って圧迫され暖 められる地殻の特性を明らかにしようとした。深い震源の地震ほど破 壊速度の増加が見られるか、あるいはより大きなストレス下降 (stress drop)を示す傾向から,浅いところのやわらかな堆積物はよ り深いところで固い玄武岩に代わるように,プレート境界はより深く なるほど強固になることを示している。(TO,Nk)

はめをはずした電子たち(Electrons on the Loose)

電子が、平面や鎖のようなより低次元の系に閉じ込められた時、金属 状態を形成するのに必要な条件ははっきりとは判っていない。Vescoli たち(p. 1181;BourbonnaisとJerome による展望も参照のこと)は、 絶縁的あるいは金属的特性のどちらかを示すさまざまな直線的な鎖状 の有機導体(Bechgaard salts )の光学的特性を研究し、これらの結果 をその磁気的挙動と比較した。絶縁性から金属性の挙動への乗り換え は、電子が鎖の間をホッピングして束縛されなくなる確率の増加と相 関がある。金属状態は特異であるように見える。すなわち、その特性 はフェルミ流体の標準理論とはつじつまが合わず、むしろ強い相関を 有する Luttinger 流体のほうがよいモデルである。彼らは、また、 これらの金属における電荷励起に対するエネルギーギャップが存在す るが、スピン励起に対してはギャップが存在しないことを見出した。 (Wt)

運動の極性(Motor Polarity)

分子モーター(運動タンパク質)であるキネシンファミリは、微小管 上を滑走して細胞内貨物を運ぶ。ほとんどのキネシンファミリーメン バーが特定的に微小管のプラス端(不安定な端)へ移動する。このプラ ス端は、細胞の中心から末梢へ向かう端である。しかし、Ncdという ひとつのキネシンは、逆の極性で移動している、つまり微小管のマイ ナス端へ向かっている。EndowとWaligora (p. 1200) は、運動の極 性を特定するモーターの分子的特徴を検査した。著者は、このモータ ーにおいてNcdの異常な極性を守ることに重要である小さな領域を決 定した。(An)

窒素の運搬(Nitrogen Delivery)

マメ科の植物とその結節形成細菌との相利共生相互作用は、すぐ利用 できる固定窒素を植物に提供している。Kaiser たち(p 1202)は、固 定窒素をバクテロイドから植物へ運ぶと推定した輸送タンパク質をク ローン化した。このタンパク質は、小結節に位置しており、膜一回貫 通領域と思われる領域を含んでいる。(An,SO)

記憶を作るもの(Memory Makers)

なぜ我々はある事柄を覚えているのに、他の事柄は忘れてしまうの だろうか。Brewerたち(p.1185)とWagnerたち(p.1188)は、脳の 前頭葉前部と海馬傍回領域に強い活性化を引き出した写真や言葉を より強く記憶する傾向があり、一方、忘れてしまった経験は、これ らの領域の活性化が低かった(Ruggによる展望参照)ことを示した。 (Na)
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