AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 10, 1998, Vol.281


負の圧縮性の材料 (Materials with Negative Compressibilities)

R. H. Baughman たちは、圧縮されたときに「一次元的にあるいは それ以上の次元方向に膨張するような、まれな結晶相」について記 述している。(5月6日の記事 (p.1522)を参照のこと) そしてそれ らの「ポアソン比は負」であることを示している。J. A. Kornblatt は、「生物学の文献では、蛋白質や他の生物学的に重要な種が圧力 を受けるときに、この現象が生じている可能があることを認識しは じめているところである」とコメントしている。E.B. Sirota と H. E. King Jr. は「この現象は、.... アルキル鎖を含むかなり広範囲 な通常の化合物においても見られる」と論評している。返答の中で、 Baughman たちは、彼らの「静的格子」モデルについて、さまざま な結晶の温度依存性とともに議論している。彼らは次のように述べ ている。「この特性が回転相(rotating phase)に対して観測できた ことの重要性は、報告したような負の線形圧縮性に至るメカニズム と、材料を実際的応用に有用か見極めるためにこのメカニズムを一 般化できるかどうかの可能性にある」。これらのコメントの全文を
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/281/5374/143a にて見ることができる。(Wt)
[訳注] マイナスのポアソン比を持つための構造として著者が提案し ているものはワインラックのように長方形の枠が格子状にならんだ 構造対である。ワインボトルが無いときに、ラックがたためるよう な構造であるとするとに、各格子が平行4辺形に変化しうる。そう すると1方向から圧力がかかると、内部の体積は圧縮され、表面間 の距離が縮むことになる。類似の性質はカーボン繊維の複合材料で も知られており、日本が打ち上げた人工衛星のカメラのフレームの 主要部品としてすでに応用されている。(Wt,Ej)
[訳注2] 繊維強化複合材料製の積層材の面内の連成変形を考えると,ポアソン 比をマイナスにすることができる。犬の肺組織も応力レベルにより 負のポアソン比をもつことが報告されており、機能との積極的な対応付 けも可能になるかもしれない。もっとも、生体とは全く無関係に凹角ハ ニカムセルモデルをもとに、延伸PTFEでポアソン比が負になること が実現されている。[岡本秀穗:日本ゴム協会誌,65(3),158-168(1992)](Ok)

小さなG-CSFの模倣(Small G-CSF Mimic)

治療薬の潜在的な標的として、膜貫通性受容体があるが、この可能 性を実現するには、通常では比較的大きなタンパク質リガンドに よって結合されるこのような受容体の活性化を模倣する小さな非ペ プチド化合物を開発する必要がある。Tianたち(p.257)は、このよ うな分子が見つかる可能性があるという証拠を提供している。サイ トカインである顆粒球-コロニー刺激因子 (G-CSF)に特徴的な転写 活性化を模倣すると思われる化合物をスクリーニングする過程で、 SB 247464と称される小分子が分離された。このSB247464は、 G-CSF受容体の細胞外領域と結合するが、G-CSFそのものが結合し ている部位とは異なる部位に結合しているように見える。 SB247464は、培養中の細胞に使うとか、マウスに注入した場合に G-CSFと同様の効果を発揮した。この化合物はかなり強い特異性を 有しており、関連する他の受容体を活性化することはなく、マウス のG-CSF受容体を活性化したが、相同であるヒトの受容体は活性化 しなかった。(Ej,hE,SO)

太古の火を消す(Putting Out Early Fires)

中国の周口店(Zhoukoudian)について報告されている、最大50万年 前に溯る炭化した骨、灰や変色した土などは、初期の原人が火を 管理して使い始めたことの最初の確かな証拠であるとみなされてき た。Weinerたちは(p.251、p.165のWuethrichのニュース解説と、 p.180のGoubsblomによる関連書の書評も参照)、これらの土壌や 骨の分析を再度行った。彼らは灰も、木炭も、その他たき火により 変化した土も検出できなかった。骨はたしかに焼かれてはいたが、 ここで焼かれたのではなかった。このように、この地点は、火が管 理状態で用いられていたことの決定的な証拠を提供はしていない。 (NA,Nk)

海洋の 窒素(Oceanic Nitrogen)

海洋で最も還元された窒素は溶存された有機窒素 (Oceanic Nitrogen)(dissolved organic nitrogen :DON)の形態 であり、その特性を明らかにすることが困難である化合物の混合物 である。ろ過手法の限界により生体起源の有機物の混入が、その分 析を複雑にしており、、そのため海水のこの重要な成分について発 生源や循環のメカニズムの大部分は依然として未知のままであった。 McCarthy たち(p. 231)は、海表面水や深海水など、いろいろな海 盆から取ったデータを示し、あるアミノ酸の鏡像異性の比率が、こ れら全ての場所で類似した特有のパターンを示していることを明ら かにした。観測は、細菌の細胞壁の成分であるペプチドグリカン(注) が主要なDONの源であることをさし示している。(TO)
注:ムコペプチドともいい大部分の原生核生物(蘭藻類をふくむ) の細胞壁成分をなす糖ぺプチドのポリマ−を指す

太平洋の気候(Pacific Climate)

太平洋の気候は、1970年代中頃に変化が現れ、エルニーニョ現象 の頻度と強さが増加してきたように見える。このエルニーニョは, 北太平洋の数多くの海洋生物のコミュニティに影響を与えた。 GuildersonとSchrag (p.240)は、ガラパゴス諸島における珊瑚中 の炭素14から得られる湧昇の記録を用いて、この変化の幾つかの 可能性のある原因と影響を調べた。そしてその変化は西太平洋の湧 昇流の少ない場所における変温層(海水で、その層を境に、上下で 温度が大きく異なる層)が深くなることと一致する。McGowanた ち(p. 210)の記事では、北太平洋全域にわたって、この気候シフト が海洋の生態系に与える影響を考察している。(TO,Nk)

海洋の生産量を見積もる(Assessing Ocean Productivity)

海洋の生産量に影響を与えるプロセスについてどの程度理解でき ているかを評価する一つの方法は、鍵となる成分の生成と吸収源 (シンク)とが平衡にあるかどうかを評価することである。 (Falkowski たちの記事(p.200)を参照のこと) 全体的な海洋の生 態系は、CO2 に対して消滅として働く、すなわち、CO2 の総生 産量と総消費量は呼吸の速さを超過していると考えられている。 一つの懸念事項は、海洋の大部分は「非生産的」であり、CO2 は これらの生態系から放出されるであろうということである。 Duarte と Agust? (p.234) は、これらの非生産的な生態系に対 してその群落全体の呼吸と生産の割合を比較した。炭素の流れの 代用として、酸素放出量を用いて炭素の収支を定量化した。彼ら は、海洋生態系の多くは確かにCO2 を放出しているが、海洋の 1/5は非常に生産的であり、それらにより、CO2 交換作用に対 して全体としては近似的平衡状態となっていると結論づけている。 生物圏全体(海洋および陸生両構成要素を含めて) としての正味の 主要な生産量は、生物圏を通しての炭素の流れに影響を与えてい る。(Tansによる展望(p.183)を参照のこと) 代謝回転の時間スケ ールや主要な制限 (光や水、栄養物)の相対的重要性のようなもの に対して、海洋と陸地では類似性も相違も存在している。現存す るモデルでは相違に力点を置く傾向があり、これまで海洋と陸地 の両構成要素を統合する試みはほとんどなかった。Field たち (p.237) は、並列的な衛星の一群のデータを用いて、両構成要素 を記述できるモデルを考案した。そして、海洋および陸生の両生 態系に対して主要な生産量を評価した。このような生物圏全体に 渡るモデルは、全地球的な炭素サイクルとそのダイナミックスを 理解するのに本質的に重要である。(Wt,Og)

溶液反応でダイアモンドを(Solution Route to Diamonds)

ダイアモンドは普通高圧下、あるいは化学蒸着方法で合成される。 Liたち(p.246)は,ハロゲン化アルキルをNaで還元してアルカンと 塩をつくるウルツ(Wurtz)反応を改良した化学反応を報告してい る。彼らは反応物として四塩化炭素を用い、類似の反応により炭素 原子が四面体ネットワ−ク中でつながっていくのではないかと期待 した。その反応は700℃で、かつNi−Co触媒のもとで進行する。 ダイアモンドの収率は低いが(2%)、反応の本質は触媒反応であ り、更なる改善が期待される。(KU)

β−シ−ト型のみの蛋白質をデザインする (All-Beta-Sheet Protein Design)

シ−ト型とヘリックス型という蛋白質の基本的二次構造のうち、 シ−ト型はその形成や安定性を支配している法則を知るうえでは 取り扱いずらい構造である。小さなペプチドと蛋白質の研究は、 ヘリックス型に関して多くの知見を提供したが、小さなシ−ト型 はS-S架橋による安定化以外には水溶液中では会合してはじめて 安定化するようである。Kortemeたち(p.253)は、モデルと実験 を結び付けた階層的デザイン方法を用いて、20個のアミノ酸残基 からなる蛋白質−中央部の16個の残基は三本鎖の逆平行のシ−ト 型構造を形成する−をデザインした。その小さな蛋白質は、天然 蛋白質の主要な特性である協同的な折り畳み(folding)とほぐれ (unfolding)型の構造転移を示す。(KU、SO)

MALDIとゲノムの分析(MALDI and Genome Analysis)

大規模の核酸を分析する新しい技術は、ヒトやモデルシステム からのゲノムの分析を非常に促進するであろう。マトリックス 補助レーザ脱離/イオン化(MALDI)がゲル電気泳動の代替として 考慮されているのに、2000ヌクレオチド長さ程度のDNA断片に 適用できる証拠はいままでなかった。Berkenkampたち(p 260) は、適切な液体マトリックスを用いれば、DNA(2200塩基)ある いはRNAの質量を1%精度で決定できることを示している。 (An,SO)

タンパク質の標識と染色(Tagging and Dyeing Proteins)

生細胞における特異的なタンパク質の可視化を可能にする方法は、 細胞生物学に多くの応用がされている。Griffinたち(p 269)は、 興味のあるされたタンパク質を、小さな透過性蛍光リガンドに高 親和性で結合する6アミノ酸からなるペプチドで、標識化できる 方法について報告している。三価のヒ素化合物と、タンパク質中 で空間的に近い位置にあるシステイン残基対との間で可逆的共有 結合反応が起こることを発見した。著者は、有機分子中に適切な 間隔で配置された複数の三価ヒ素と4つのシステインとの間の至 適な相互作用を供給するペプチドを設計した。内在性細胞性ジチ オールとの結合を減少するための小さな近接ジチオール化合物が 存在すると、標識したタンパク質の高特異性検出が可能であった。 この方法は、生細胞におけるタンパク質の標識化および迅速なタ ンパク質精製のための親和タギングなどに幅広い有用性をもつこ とが期待される。(An)

RNAポリメラーゼの構築(Assembling RNA Polymerase)

大腸菌において、DNAの配列情報をRNAに転換する酵素である RNAポリメラーセは4つのサブユニット、つまり2つの同一の aサブユニットとbとb'という2つの関連しているサブユニット、 から成っている。後者の2つのサブユニットは、リボヌクレオチ ドの鋳型依存重合を触媒するが、aサブユニットの対は、複合体 の構築を開始し、どの遺伝子が転写されるかどの遺伝子が不活性 のままになるかを決める他のタンパク質と相互作用する。Zhang とDarst(p. 262)は、aサブユニットのアミノ末端領域の高分解 能構造を提示し、この構造図と配列の比較を組み合わせることに よって、このサブユニットの真核生物におけるありそうな同族体 を同定している。(An)

非感染性HIVによる免疫の抑制 (Immune Suppression by Noninfectious HIV)

ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)によりコードされるVprタンパク質 はウイルス性粒子(ビリオン)に詰め込まれており、マクロファージ などの非分裂性細胞への感染に寄与している。以前より、VprはG2 期における細胞周期の静止を誘発することが知られていたが、Poon たちは(p.266)、その誘発は、Vprが非感染性のHIVを含んでいるウ イルス粒子と関連している場合であることを発見した。感染している 個体の中のウイルス粒子の殆どは非感染性であり、これらの粒子は、 抗レトロウイルス薬剤治療後であっても、免疫機能障害に寄与してい るものと思われる。(Na)

マントル下部の融点(Lower Mantle Melting Points)

マントルの下部は固体である。それがどれだけ簡単に変形するか、 さらにその際のダイナミクスがどのようなものかは、その物質の 温度がそれが融解しはじめる温度(固相線)との近さに依存する。 Zerrたちは、マントル下部においておそらく主要と考えられる3 種の無機化合物(マグネシオヴュスタイトとMg-Siペロブスカイ ト、Ca-Siペロブスカイト)を含む系の融解温度を、ダイアモンド のセルの中で、圧力が59ギガパスカル(核とマントルの境界までの およそ真ん中での圧力)に達する範囲で決定した。固相線は、マン トルの温度とおぼしき温度より高い摂氏1500度以上のところにあ るが、外挿していくと、核とマントルの境界では、マントルの温度 に近づくことになりそうである。(KF,Tk,Nk,Og)

機能の枝分かれ(Forkhead Function)

細胞には、DNAが損傷していたり複製されていなかったりした場合 に細胞分裂が起きないようにするチェックポイントと呼ばれる情報 伝達の経路がある。Sunたちは、究極的に細胞分裂周期を停止させる そのようなさまざまな信号の統合において、酵母(Saccharomyces cerevisiae)のタンパク質リン酸化酵素Rad53が果たす役割を記述 している。DNAの損傷に応答してタンパク質Rad9はリン酸化され、 Rad53と相互作用する。この相互作用は、フォーク状の相同性関連 (FHA; forkhead homology-associated)領域として知られるRad 53の領域を介して行なわれる。この領域は、DNA損傷への応答とし てのチェックポイント機能には必要だが、DNA複製の抑制に対する 応答としてのチェックポイント機能には必要とされない。FHA領域 は、他のタンパク質リン酸化酵素や転写因子のある種のものにも見 い出されるが、タンパク質とタンパク質の相互作用を仲介するもの であるように見える。[Walworthによる展望記事参照のこと]。(KF)

水のスピンによる機能のイメージング (Functional Imaging with Water Spins)

磁気共鳴イメージングには、コントラストを作り出すための何らか の方法、たとえばスピン密度や緩和時間の変化が必要であり、しば しばコントラストを増すための特殊なコントラスト剤の利用が必要 になる。Warrenたちは、イメージングに分子間の複数の量子干渉 が利用できることを示している。たとえば10から1000マイクロメ ートル離れた位置にあり逆向きに動いている2つの水分子のスピン は、酸素の集中などの生理学的影響に対して感度の高いシグナルを 与える。彼らは、ラットの脳の腫瘍をイメージングし、この方法と スピンエコー法とによって得られたコントラストを比較した。(KF)
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