AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 26, 1998, Vol.280


Gタンパク質のRhoとのカップリング (Coupling G proteins to Rho)

受容体にカップリングしたヘテロ三量体のグアニンヌクレオチド 結合性タンパク質(Gタンパク質)と、小、または単量体グアニ ンヌクレオチド結合タンパク質Rhoの間の情報伝達のメカニズム が確立された(Hallによるコメントを参照p.2074)。Hartたち (p.2112)とKozasaたち(p.2109)は、情報伝達経路へRhoが関与 するには、Gタンパク質のG12サブファミリのαサブユニットに よって活性化されることを示した。このような情報は、形質悪性 転換から細胞死に至る過程の色々な細胞機能に影響を及ぼしてい る。活性化されたGα13は、p115RhoGEF(Rhoの活性化因子)と して知られているRhoのグアニンヌクレオチド交換因子に直接結 合すること、そして、これを刺激することが分かった。 p115RhoGEF タンパク質は、RGSタンパク質(Gタンパク質情報 伝達のレギュレータ)中の領域と類似した領域を通じてGαタンパ ク質と相互作用をしていた。更に、p115RhoGEFは、Gα12とGα 13に対する特異的なグアノシントリホスファターゼ活性刺激を示 した。この結果から、p115RhoGEFはGタンパク質をRhoと直接カッ プリングさせる働きをし、RGS領域を持つ他のタンパク質もGタン パク質情報伝達経路のエフェクターとして機能しているらしいこと が示唆される。(Ej,hE)

カイパーベルトの重さを海王星で計る (Neptune weighs in on the Kuiper belt)

カイパーベルトは、海王星の外側に広がるキロメートル級の天体 から、より小さな天体を含む幅の広い円盤である。このベルトは 初期太陽系から巨大ガス状惑星によって放出された砕片を含むと 想像されており、また、短周期彗星の供給源であると考えられて いる。このカイパーベルトに属する多数の天体の発見が最近報告 されてはいるが、ベルト全体の天体数と全体の質量の推測がある に過ぎない。WardとHahn(p.2104;およびMorbidelliによるコ メント参照、p.2071)は、海王星とカイパーベルトの相互作用に よって海王星の小さな離心率を説明することができる、渦巻き状 の密度波を持ったモデルを作った。このモデルを海王星の離心率 に合わせることによって、カイパーベルトの質量を推測した:そ れによると、地球の質量に相当する砕片が、約75天文単位にまで 広がっている。(Ej,hE)

核の近くのペロブスカイト(Perovskite to the core)

マグネシウムと鉄に富むペロブスカイト((Mg,Fe)SiO3)は底部 マントルの主要成分であると考えられている。しかし、以前の高 圧高温実験によれば、ペロブスカイトは、MgおよびFeに富んだ 酸化物((Mg,Fe)O)とシリカ(SiO2)に分解することが示唆され ていた。このような分解は分解が起きるとすると底部マントルの レオロジー(流れの特性)を変えることになり、底部マントルの 組成モデルの変更も必要になる。Werghiouたち(p.2093)は、こ のような分解を観察するために、3000ケルビンにおける75から 100ギガパスカルに至る3つの異なった実験を行った。その結果、 彼らは、この実験の温度と圧力限界までペロブスカイトは単独の 安定相として残り、分解しないと結論づけた。従って、底部マン トルの組成モデル、レオロジーモデルではペロブスカイトを主要 成分とみなすことができる。(Ej,hE)

沈泥から石(From silt to stone)

何千年も前、メソポタミア人は、チグリスとユーフラテス川の間の、 殆ど天然資源のない砂漠に住んでいた。Stoneたち(p.2091)は、紀 元前2000年の初期のMashkan-shapir(バクダッドのおよそ80Km 南)の表面調査を実施し、玄武岩の破片とスラブを発見した。岩石分 析と岩石モデリングを通し、彼らは玄武岩が火山性の地域から輸送 されたというより、メソポタミア人により合成されたと結論づけた。 著者は「合成玄武岩」は道具の目的で故意に生産された、と仮定し た。又、合成玄武岩の生産には当時の冶金学とセラミック産業の革 新的な相乗作用が必要だった。(Na)

2Dから3D(From 2D to 3D)

微小な3Dオブジェクトは、複数の2Dパターンからソフト・リソグ ラフィと電気化学の組み合わせで形成されてきた。Jackmanたちは (p.2089、表紙も参照)、複数の微小なコンタクト印刷されたパター ンをガラスシリンダーに転写し、その後パターン上に電気メッキで 金属を形成した。エッチングでガラス基板を取り除いた後、残った 金属構造に更に加工を加えた。あるケースでは、構造体を引っ張っ てワイヤーの立方体を形成した、又、他のケースでは、2つの基盤 を用いて連結したリング(鎖)を形成した。(Na)

分子それとも金属?(Molecule or metal?)

金属原子の小さなクラスターは、サイズが大きくなるにつれて、 大きな分子としての挙動から金属的な挙動への遷移を示す。 Chen et al.(p.2098) は、有機材料からなる単分子層で保護 された、境界の明確な金のクラスター(直径 1.1〜1.9nm)に 関する電気化学的な研究においてこの現象を観測した。小さな クラスターはレドックス挙動(酸化還元挙動)と、ポテンシャル エネルギーのゼロ付近に、大きなエネルギーギャップを示した が、大きなクラスターは、金属二重層的なキャパシタンスとク ーロン的なステップ応答を示した。(Wt)

変形する高分子(Flexing polymers)

電歪材料は、例えば圧電性結晶と同じく電圧下で変形(大きさが かわる)する。アクチュエータへの応用にさいして、大きな力を うるには大きな変位(数%)と高いエネルギ−密度が必要である。 Zhangたち(p.2101)は強誘電性のポリ(フッ化ビニリデン−ト リフルオロエチレン)共重合体が電子線照射により、その電歪特 性を飛躍的に改善できることを示した。彼らは照射により強誘電 領域が壊れその物質を伸びた(relaxor)強誘電体へと変換するこ とを示唆している。(KU)

衝撃波パターン(Shock patterns)

材料の複雑な変形に関する大規模な原子論的シミュレーションは、 大規模並列スーパーコンピュータが使えるようになったため、 ほんの最近になって可能となってきた。このような変形過程は実 時間で実験的に追跡することもまた難しいため、シミュレーション はとりわけ重要である。Holian と Lomdahl (p.2085)は、数百 万の原子から構成される結晶セルを通過する衝撃波の進行をシミュ レートした。かれらは、進展する積層欠陥(スタッキングフォー ルト=stacking fault)パターンは、モデリングしたセルの大き さの関数ではないこと、長く伸びた欠陥を人工的に導入すると、 欠陥形成のエネルギー障壁が低下することを示した。(Wt)

汚れた氷(Bug ice)

南極には、乾燥渓谷(dry valley)の中に万年氷に閉ざされた いくつかの湖がある。Priscuたち(p.2095)は、これらの湖 を覆った氷の中に、微生物の生態系が存在していることを報 告している。微生物は氷に取り込まれた含有水(水胞)中に 生き延びている。この微生物の食物は、有機物を含む堆積物 が氷上に吹き飛ばされ、ゆっくりと氷の表面が消耗するに従っ て沈降することで供給される。コメントの欄で、Psennerと Sattler(p.2073)は、しばしば凍結する他の湖の環境と比較 している。(Ej,hE)

細菌対昆虫(Bacteria versus insects)

毒素は、宿主と病原体との競争による産物の一部であるが、 農業の害虫をコントロールするためのものでもある。 Bowenたち(p 2129;Straussによる記事参考p 2050)は、 害虫抵抗性植物を遺伝子組み替えによって作成するときに 役に立つ細菌性毒素を同定した。この毒素はある細菌によっ て合成されるが、この細菌は昆虫と相利共生関係にある線 虫によって昆虫体内へ運ばれる。その後、昆虫体内に放出 された細菌が致死の毒素を合成し、細菌から放射される生物 発光で宿主昆虫が光る。その後、線虫は、細菌および昆虫の 死体を大食する。関連している遺伝子複合体のグループに よって、強力な毒素がコードされている。(An)

腸内の細菌病原(Bacterial virulence in the gut)

特定の腸細菌はひどい下痢を引き起こす。Bieberたち (p 2114;Wiedenbachによる記事参考 p 2048)は、疾病原因 になる大腸菌の表面から突出する線毛の病原性における役割を 研究している。線毛の存在は、大腸菌が腸壁に結合することを 補助し、吸収を妨害する腸細胞の変化を起こすことによって、 下痢を引き起こす。さらに、細菌の運動性を促進できない線毛 をもつ大腸菌の病原性はもっと低かった。この結果は、細菌の 粘着およびその後の腸内細菌移住が病状の重症度の増加の因子 であることを示唆する。(An)

葉酸による保護(Protection by folic acid)

胎児の成長時、母に十分な葉酸摂取があれば、神経管欠損が 発生する危険性を大きく減少させる。FlemingとCopp (p 2107)は、神経管欠損を促進する変異をもつマウスを用い、 添加した葉酸による保護効果を分析した。この結果は、補充 葉酸はピリミジン生合成における代謝欠損を補正するが、 メチオニンは悪化させる効果があることを示す。(An)

神経と筋との関係(Connecting brain to brawn)

早期の胚形成における神経系の結線においては、軸索突起が、 未知の領域へと延長されていく。少なくともある場合には、 軸索突起は、最終的に結合するための一般的な領域にだけ それを導いてくれる手がかりに従って伸びていく。Shishido たちは、正しい結合についての最終的な詳細を明らかにする こととなる、こうしたメカニズムのいくつかを解析した (p. 2118)。ショウジョウバエの神経筋の接合を解析して、 彼らは、気まぐれな遺伝子(gene capricious)によってコード 化されたある膜貫通タンパク質が、特定のニューロンによって どの筋の神経を発達させるかを正確に限定していることを発見 した。(KF)

翌日まで覚えておく(Forgetting after a day)

長期増強(LTP)とは、ニューロン間のシナプス伝達の強さの増加 のことである。ラットでは、海馬として知られる脳の領域の主要 な機能の一つに、空間的環境をコードするということがある。 Kentrosたちは、LTP(この場合はNメチルDアスパラギン酸 (NMDA)受容体を介した伝達に依存するタイプのLTP)が、学習 (この場合は空間学習)に関与しているという推論を支持する新た な部分的証拠を提供している(p. 2121)。NMDA受容体を薬理的に 遮断することで、著者は、このシナプス伝達のモードは新しく 学んだ環境を長期(24時間)にわたって保持するには必要だが、 短期(1.5時間)の保持や古くから知っている馴れ親しんだ環境を 動き回るのには不要だ、ということを実証した。(KF)

地獄の淵(Edge of the abyss)

いったいどんな要因で、小さな群れ、時には細かく分かれた群れ、 をなして暮らしている大型の肉食動物の集団が滅びてしまうのだ ろう。集団の規模や、ひょっとすると種の密度が要因だろうか? WoodroffeとGinsbergの行なった大規模な調査によると、数が 多くなるというのは確かに重要な要因だが、強い要因ではない (p.2126)。決定的な要因は、暮らす範囲の大きさである。クマや オオカミや野生の犬のように、他の動物より広い範囲で暮らす種 が、局所的に消滅する危険がもっとも高いのである。このことの 単純な説明は、それらは居住地域の端まで来ることがよくあり、 したがって存在への最大の脅威であるところのヒトの活動とぶつ かることになる、というものである。(KF)

岩石表面の年代測定(Dating Rock Surfaces)

Science誌の論文[R. I. Dorn他, Science 231, 830 (1986)]や その他の記事が初めて示唆したのは、放射性炭素年代測定法によ る年代を岩石の表面層に捉えられた有機物から得ることができる ということ、またこの年代を用いて、表面が露出している岩石の 年代を推定することができる、ということであった。このアプロ ーチは、考古学的試料や、岩石に刻まれた線や湖の岸辺の線など の地形学的特徴の年代を推定するためにもっとも多く利用されて きた。W. Beckたちは、彼らの実験室で年代を決定されてきた放 射性炭素の試料の多くが、さまざまな炭素源の混合物であり、放 射性炭素年代測定の結果をあいまいにしている、とコメントして いる(p. 2132)。彼らはまた、それらの野外の試料から類似の炭 素源を抽出することはできなかった、ともコメントしている。こ れに応えて、Dornは、岩石の表面層に年代の異なるさまざまの炭 素源の混合物が存在するということは、すでに以前にも言及され ており、自然に生じることである、と指摘している(Malakoffに よるニュース記事p. 2041参照)。これらのコメントの全文と図は、
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/280/5372/2132 で見ることができる。(KF)
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