AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 19, 1998, Vol.280


不可視なパターン(Invisible pattern)

磁気記録に用いられるパターニング媒体の研究は、しばしば、 適当な基板上にデポジションかエッチングを用いて形成された 磁気的なドットあるいはピラー(柱)を利用している。しかしな がら、これらの材料は、平面状ではないため、実際のデバイス に実装する上である種の問題を引き起こす。たとえば、非平面 であるために生成された光学的なコントラストの発生である。 Chappert たち(p.1919) は、イオン照射を用いて、試料の表面 粗さに影響を与えることなく、コバルト-白金多層膜上に磁気的 な性質をパターニングした。形成された特徴パターンのサイズは 現時点では、いくぶん大きくはあるが、試料の光学的な均一性は、 磁性媒体上の滑らかなパターニングの実現を将来的には期待させ るものである。(Wt)

局所的な金属から絶縁物への転移 (A localized metal to insulator transition)

磁気抵抗性材料として興味を引くある種のマンガン酸化物は、 強磁性と反強磁性のスピン秩序に対応する金属から絶縁物へ の転移を示す。ある場合には、この金属相への遷移は光によっ て駆動することができる。そして、Pr0.7Ca0.3MnO3 化合物 では、この遷移が試料中で局所的に発生している証拠が存在 する。Fiebigたち (p.1925; Keimerによるコメント(p.1904) も参照のこと) は、反射率イメージングを行ない、この遷移が 実際に局所的に発生してることを示した。電界中にて薄膜試料 を短い赤外レーザーパルスで照射したとき、電極間に局所的な 導電性のパスが形成されたが、試料の残りの部分は絶縁性のま まであった。同一の試料中に、さまざまな導電性のパスの形成 は可能であろうが、これは光学的なスイッチングの可能性を示 唆するものである。(Wt)

すべてを合わせて用いる(Taken all together)

地球の軌道サイクルの変化に依る太陽の照射量の変化と連結 して,海洋と生物圏の間のフィードバックは,過去と現在の 気候の大局的な気候条件におけるCO2や他の温室効果ガスの 正確な役割を同定することを困難にしている。 Ganopolski たち(p. 1916)は,比較的粗い古気候モデルを使い、約6000 前の大気,海洋,そして植生の相乗効果をシミュレートして きた。当時のCO2濃度は産業革命のちょうど前あたりのCO2 濃度とほとんど同じであったが,気候は著しく異なっていた。 北アフリカはより湿潤であり,北半球の中高緯度地帯は一般 的に、より温暖であった。3つの要因,海洋,大気、生物圏 の全てを同時に考慮した時にだけ,主要な気候特徴を再現す ることができた。(TO)

T細胞内のmRNAを安定化(Stabilizing mRNA in T_cells)

T細胞受容体によって免疫系のT細胞を刺激すると、サイトカ インインターロイキン-2(IL-2)をコードするメッセンジャ RNA(mRNA)合成の増加および通常は不安定なmRNAの安定化 を起こす。Chenたち(p 1945)は、IL-2 mRNAの安定化が c-Junアミノ末端のリン酸化酵素の活性化によって部分的に仲 介され、又その活性化がIL-2遺伝子の転写調節にも寄与するこ とを示す。又かれらは、T細胞の活性化時に発生する複数の信号 に感受性を与えるIL-2転写物の領域を同定した。その領域は、 mRNAの3'と5'の両末端の非翻訳領域にあった。mRNA安定性の 組み合わせ制御は、転写と同様に、別の情報伝達経路に応答する mRNA配列中の複数の領域によって与えられるようである。(An)

カルシウムが植物をナトリウムから救出 (Calcium rescuing plants from sodium)

塩分は、植物の成長を抑制できる重要な侵襲要因である。 突然変異誘発研究によって、これが欠失した場合に、植物の塩分 感受性をさらに増加する特定の遺伝子を同定した。LiuとZhu (p. 1943; Epsteinによる注解参考p. 1906)は、この遺伝子の一 つであるシロイヌナズナのSOS3遺伝子をクローン化した。この 遺伝子がコードするタンパク質の配列がカルシニュリン (calcineurin)の配列と類似しているので、植物が過剰ナトリウム にさらされた時、カルシウムがどのように保護的な効果を与えるか のを示唆する。(An)

魅惑の呼び声(A quality call)

遺伝学においては、「良い遺伝子」の仮説というものがあるが、 これによれば、交尾によってメスはより優れたオスの遺伝子を 選択することが出来、その結果、子孫の適応度が増加する恩恵 を受けるというものである。この仮説は単純であるが論争の多 い理論でもある。Welchたち(p.1928;およびPennisiによる ニュースストーリp.1837)は、gray tree frogを使った実験に よってこの理論再検討した。このカエルは沢山の卵を一度に産 み、しかも体外で受精するため実験動物として適している。 また、このメスは、長い鳴き声のオスを好むことが知られてい る。彼らは、同じメスが、鳴き時間の長いオスと交尾した場合 の子供たちと、鳴き時間が短いオスと交尾して誕生した子供た ちを比較した。その結果、長い鳴き声のオスの子供たちは、短 い鳴き声のオスの子供たちに比べて、より適応度合いが高い傾 向が見られたことから、少なくともこの場合は、オスの求愛行 動は遺伝的な質を宣伝しているように見える。(Ej,hE)

プロトンのポンプ(Proton pump)

バクテリオロドプシンにおける共有結合状態にあるレチナール はフォトンを吸収する。この酵素は、このエネルギーを用いて、 好塩菌の外膜を通して水素イオンを汲み出す。結晶化により、 膜タンパク質構造を解き明かすために最近開発されたアプロー チによれば、2.5オングストロームという分解能でその構造を 決定することが可能であった。Lueckeたちは、2.3オングスト ロームというより高い分解能で構造を見る方法を示しているが (p.1934)、これは、水素イオンの経路について、また輸送反応 やレチナールの励起に結び付く立体配置の変化に関与する水分 子について、より詳細に見ていく方法を提供してくれる。(KF)

宿主に合わせた着替え(Switching coats to suit the host)

再帰熱はヒポクラテスの時代にすでにその存在が記述されている 病気だが、これはマダニに噛まれることでヒトに伝えられるスピ ロヘータ・ボレリア属(spirochete Borrelia)が原因である。こ のスピロヘータは、宿主である哺乳類の体内で間欠的に外側の表 面抗原の一つを別のものに置換するが、これによっておそらく、 免疫応答から逃れることが可能になっているのだ。Borrelia hermsiiの研究において、SchwanとHinnebuschは、このスピロ ヘータが哺乳動物から新たな宿主であるマダニに移る際にも抗原性 の切り替えが起きること、またこの切り替えが温度によって制御さ れているらしいこと、を示している(p.1938)。(KF)

知覚をうまく扱う(Managing perception)

感覚の知覚は、無意識において検出された刺激が閾値を超えて自覚 されるレベルになったものとして説明されてきており、より高次の 視覚処理領域における活動的ニューロンの比率が増加することに等 しいとされてきた。Lumerたちは、機能的脳イメージング法を用い て、知覚における変化を刺激における変化から分離した(p. 1930)。 彼らが見い出したのは、脳の前面および頭頂領域における活動は知 覚における変化とともに変化しているが、視覚処理領域における活 動は刺激の変化とも一緒に変化しているということで、これはトッ プダウンの影響が知覚を仲介していることを示唆している。(KF)

LTP内の情報伝達(Signaling in LTP)

長期増強(LTP)、つまり反復したシナプス活性の後のシナプス接触 の強化、が海馬における学習と記憶に電気生理学的に相関するもの であると思われている。多種のシグナル伝達経路が海馬における成 功したLTPの産生に影響することが示されている。Blitzerたち (p 1940)は、LTP形成時に、内在性ホスファターゼ阻害剤を通る環 状アデノシン一リン酸(サイクリックAMP=cAMP)依存経路がカルシ ウム/カルモジュリンタンパク質リン酸化酵素II依存性情報伝達をゲ ートする役割を示している。(An)

補助受容体に接した、保存されたgp120領域 (Conserved gp120 regions contacting a coreceptor)

HIVタンパク質がTリンパ球に侵入する際に利用される、長年探索 されていたgp120の結晶構造が、今週号のNatureに掲載され、同 じチームが、このScienceに関連論文を載せている。
HIVがどのようにホスト細胞受容体と相互作用をするかということ に関する最近の進歩の中に、CD4との複合体や中和抗体中における HIV gp120コアの結晶構造の解明がある。Rizzutoたち(p.1949; およびBalterによるニュースストーリ,p.1833)は、結晶学的研究に 従事しているいくつかのグループを代表して、gp120と補助受容体 であるCCR5との相互作用に関する生化学的洞察を与えてくれる一連 の変異したgp120を設計するための構造から得られた情報を利用し ている。内側領域と外側領域をつなぐ架橋シートであるgp120の保 存領域が同定され、これがCCR5に結合しており、多様な系統を中和 する抗体によって認識されている可能性がある。この領域はホスト 細胞との相互作用に決定的な役割を演じるが、同時に極めて可変性に 富むことから、gp120をワクチン開発に利用するというアイデアは今 まで制約されていた。(Ej,hE)

危険なHIV行動の減少(Reducing risky HIV behavior)

HIVの薬物治療はかなりの進歩を遂げてきたが,アメリカにおける 若者の感染や異性間伝染の増加は,より効果的な防止策が必要であ ると強調している。国立精神健康研究所(NIMH)(p.1889; Heinによ る注釈を参照, p. 1905)は,1800人以上のハイリスクな人々に7つ のリスク軽減講習会に出席させるというスタディを実施した。そこ では,HIVの感染を被りやすいことの個人の自覚を高めること,コ ンドームの使用のメリットを奨励すること,安全なセックスに必要 なスキルを教えることを基本としている。12ヶ月のフォローアップ 期間中,対照比較グループと比べて,危険な性的振る舞いの自己報 告の著しい減少,コンドームの使用の自己報告の増加,淋病の発生率 の減少があった。(TO)

ペリクレースの弾性 (Perilase pliability)

ペリクレース(MgO)は圧力補正に使用される基本的酸化物であり、 地球の下部マントルの重要な成分である。 Chen等(P. 1913)は 放射光X線(圧力-体積−温度条件をモニターする)と単結晶MgO (8GPaの圧力下)の圧縮、及びせん断弾性係数の温度(1600ケ ルビン以下)上昇の影響を測定する為の超音波干渉計とを結び付け た 多重測定可能な計測器マルチアンビル装置 (Multi-anvil apparatus)を用いた。温度上昇をさせると圧縮弾性 係数は変化するがせん断弾性係数は変わらない。このように 高温で のMgOは異なった圧力下で様々に音速を変える。この異方性は下部 マントルの力学のモデルの中で考慮されるべき性質である。(KU)

煙りはどこへ(深海堆積物の中の黒色炭素) (Where the smoke goes)

生物資源や化石燃料を燃焼すると大量の炭素の微細粒子を生産する。 この黒色炭素は海洋の堆積物中の12-31%を構成する。 MasielloとDruffelは(p.1911、p.1903のKuhlbuschの注釈も参照)、 黒色炭素の放射性炭素年代測定法を用い、2ヶ所の離れた海洋でこの 炭素の起源と海洋への輸送について調査した。これらの地域では、 黒色炭素は他の有機炭素に比べ最大14,000年古く、その殆どは中間 的な貯蔵体、おそらく土の中に蓄積されていたことを示唆する。 (Na,Og)

三葉虫の退場と多様化(Trilobites exiting and diversifying)

三葉虫は5億5000万年から4億4000万年前の海洋で最も大量にいた 殻を持った動物だった。彼らは生命体の種類が最も増加した期間であ るオルドビス紀の生物種の放散によって、そして、約4億4000万年前 のオルドビス紀の終わり頃に起きた大規模な絶滅後、優勢さを失った。 Adrainたちは(p.1922、p.1837のIrionのニュース解説も参照)、三葉 虫の2つの異なるグループを同定出来た。一つは放散に関与しており絶 滅の影響は殆ど受けなかった。もう一つは減退し、絶滅してしまった。 (Na)
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