AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 5, 1998, Vol.280


腫瘍抑制のFAKs(The FAKs of tumor suppression)

推定されているガン抑制遺伝子のPTENは、子宮体ガンとか グリア芽細胞腫とか言ったヒトの広範囲のガンにおいて変質 が生じている。PTENタンパク質はその配列モチーフが細胞 骨格タンパク質であるtensinと類似の配列を持つ脱リン酸酵 素であるが、その細胞機能や基質は分かっていない。繊維芽 細胞(fibroblast)を使った実験によって、Tamuraたち (p.1614)は、野生型PTENは、細胞遊走、伝播、そして接着 を阻害すること、そして、この作用が限局的接着性リン酸化 酵素FAKによって生じるらしいことを示した。このPTENの 細胞表面の役割は、典型的には核の中で機能する他の腫瘍抑 制機能とPTENの区別をすることである。(Ej,hE)

軸索の変性(Axonal degeneration)

プロテオリピドタンパク質(PLP)における変異は、ヒトと マウスにおける神経学的な問題を引き起こす。PLPが中枢 神経系におけるミエリンを安定化するが、髄鞘の産生には 必要ではないと思われている。Griffithsたち(p 1610)は、 PLPを欠乏した加齢マウスにおいて軸索が局所的に変性す ることを報告している。かれらのデータは、有髄化した軸 索を包んでいるオリゴデンドログリア(乏突起神経膠細胞) が軸索の完全性を維持するという今まで考えられなかった 役割を指示している。(An)

遺伝子治療の制御(Therapeutic regulation)

遺伝子治療の一つの問題は、移植された遺伝子が、オリジ ナル遺伝子と同じ細胞制御状態下におかれる必要があるこ とである。この問題は、特に鎌形赤血球貧血の遺伝子治療 を成功させるために必要なグロビン遺伝子の発現が重大と なる。Lanたちは(p.1593)、この問題を、β-グロビンの 転写物自体にターゲットを絞ることで回避した。彼らは、 リボザイムグループIを用い、変異体β-グロビンを血液細 胞中に鎌形赤血球の発生を遅延させるγ-グロビンに転換 した。これらの実験はこの症状を持つ人から単離した赤血 球前駆物質を用いて実施された。実際の患者での効力を調 べるために、更に実験が必要である。(Na)

受容体の化学量論(Receptor stoichiometry)

グルタミン酸受容体は,脳の中で最も大量の神経伝達物質 受容体である。これらの受容体は,例えばてんかんや神経 発作等を含む数多くの神経症で,明らかに機能不全になる。 他のリガンドゲートの受容体からの類似によって,グルタ ミン酸受容体は,5つのサブユニットからなるということ がしばしば推測されていた。Rosenmundたち(p.1596; Millerによる注釈( p.1547)も参照のこと)は,単一チャン ネルの記録,運動分析,電気生理学的な記録そして巧妙な 拮抗物質(antagonist)を適用した実験から,グルタミン 酸受容体は4つのサブユニットから構成されるという証拠 を示した。(TO)

催奇形物質の標的(Teratogen target)

植物の中のあるステロイド性アルカノイドは, 哺乳類の 催奇形物質として分類される。なぜならそれらは,顔面 中方の構造がないことや未分割の前脳によって特徴つけ られる発達の欠損である単眼奇形(cyclopia)を誘発す るからである。Cooperたち(p.1603;Straussによるニュ ース解説も参照, p. 1528)は,cyclopamineやjervine を含むこうした催奇形物質は,ソニックヘッジホッグ (Shh)(これは頭部と脳を形作るときに重要な役割が ある分泌された情報伝達タンパク質である)に対する標 的組織の応答を阻害することを示した。これらの化合物 は,構造的にコレストロールに似ており,コレストロール 生合成を変化させる。しかしとりわけ,それらは,コレ ストロールを必要としさらにソニックヘッジホッグの生 物活性に必須な作用である,ソニックヘッジホッグの自 動タンパク質分解による切断に影響しない。(TO)

結核におけるイソニアジド抵抗性 (Isoniazid-resistance in tuberculosis)

結核薬であるイソニアジドに対する耐性は深刻な問題に なってきた。ある場合には、耐性は2つの遺伝子、katG とinhAの変異によるものであることがわかっているが、 これですべての臨床分離物や感受性に関連している飽和 脂肪酸の蓄積を説明できるわけではない。Mdluliたち (p.1607)は、ミコール酸合成の経路における酵素である β-ケトアシル ACP合成酵素(kasA遺伝子の生成物)が、 イソニアジドによって抑制されていることを見つけた。 この酵素の変異が、他の遺伝子には変化がないのに、イ ソニアジド-耐性である臨床分離物中に見つかった。 (Ej,hE)

共有の入口(Common entry)

Geraghtyたち(p 1618)は、ポリオウイルス受容体関連 タンパク質1(Hve-Cと呼ぶ)は、アルファヘルペスウイル スの宿主細胞への侵入の一般媒介物であることを発見した。 今までに他の補助受容体が発見されているが、今度発見し た補助受容体は、単純ヘルペスウィルスの1型と2型の両 方の侵入の媒介物として初めて発見されたものである。こ のように、2つのとても異なっているウイルス型(ヘルペス ウイルスとピコルナウイルス)が同じ受容体を利用する。 この発見は、粘膜の表面を感染し、ウイルスを神経系に伝 播することを防ぐ治療やワクチンの設計に役にたつかもし れない。(An)

カオス共鳴器による高出力レーザー (High laser output from chaotic resonators)

レーザーの心臓部は共鳴器であり、活性材料の中を光が 何度も往復し、励起発光を起こさせる。最近、光が円筒 状の対称なキャビティの内部に完全に閉じ込められて反 射し「囁き回廊モード」[注1]を示す、マイクロディスク 半導体レーザーが開発された。その小型であることから 素子としての用途には魅力的だが、その出力は小さい。 Gmachlたちは(p.1556、p.1544のGornikによる注釈も 参照)、断面がいびつな共鳴キャビティを持ち、「蝶ネク タイ−共鳴」[注2]によりファーフィールド(フランホー ファー領域)で最大3桁に増大した出力を出す素子を実証 した。これらの高い屈折率の半導体における高い変形での 屈折の効果は光線が共鳴キャビティ内を循環する間にカオ ス的な行動を 起こさせる。(Na)
[注1] 共鳴キャビティの屈折率が大きい場合に、全反射に よって、閉じ込められた光は、トンネル効果で外部に漏れ る以外は全く出なくなる。このような場合、小さな励起エ ネルギーで、発振可能となり、まるで寺院の石造りの回廊 におけるささやき声が遠くまで伝わるようであることから、 whispering gallery modeと言う表現が使われている。 (Ej)
[注2] 蝶ネクタイ共鳴はbow-tie resonanceの訳で、レー ザの発振モードが、キャビティの断面から見て、蝶ネクタ イ形状の強度分布(「*」の形状)をとることから来てい る。(Ej)

ガラスのダイナミクス(Glass dynamics)

乱れた系の力学は、結晶性の材料の力学とは本質的に異なって いる。そして多くの基本的な問題がその実験的限界のゆえに、 未解決のまま残されている。レビュー記事の中で、Setteたち (p.1550) は、第3世代の放射源であるヨーロッパシンクロト ロン放射光施設における最近の進展を検証している。ここでは、 ある範囲のガラス状態を形成する液体に対して、ミリeVのエ ネルギー分解能を有する非弾性X線散乱実験を行なってきた。 この液体は、主にグリセリンである。このデータにより、これ らの材料の微視的な力学、特に短波長における集団的な励起が、 構造的な緩和過程やその他の特性にどのように関係しているか が明らか となった。(Wt)(Og)

膨張する超伝導体(Expanded superconductors)

層状をなす高温超伝導体(高い-Tc) は、別のカチオンによって 分離されたCuO2から成っている。Choyたち (p.1589) は、 Bi2Sr2CuOyとBi2Sr2CaCu2Oyの層がインターカレイション (原子などの挿入)によって、剥離しうることを示している。 このインターカレイションは、最初はHgI2により、そして続い てアルキルピリジニウム沃化物によるものである。このプロセ スは、数十オングストロームの距離までに面が分離されている にもかかわらず、磁化率の測定は、Tcにはほとんどまったく変 化がないことを示している。これらの結果は、層間のカップリ ングの効果は超伝導には決定的ではないことを示唆するもので ある。このような剥離された超伝導体は、また、薄膜としての 用途の可能性があることを示してい る。(Wt)

プルームを切り分ける(Cored plumes)

地球のマントルにおける熱い噴き出し(ホットスポット)の起源 と進化は、地表面近くで採取された岩石に含まれる化学的トレ ーサーや地震波の振る舞いを介して、間接的に検知することが できるだけである。あるモデルによれば、hot spotは、核とマ ントルの境界から上昇流によって生成される。Brandonたちは、 代表的なhot spotであるハワイから生じた溶岩に含まれるオス ミウム同位体の量を測定した(p. 1570)。彼らは、溶岩がオス ミウム186とオスミウム187に富んでいることを発見したが、 これらは現在地球の核に集中して存在しているレニウムおよび 白金同位体の崩壊によって生み出されたものである。このデー タが示唆するのは、ハワイアン・プルームが核とマントルの境 界に起源をもつ、ということである。このように、対となった 同位体の濃縮化を用いて、深い所からの上昇流を浅い上昇流か ら区別することができる可能性がある。(KF)(Og)(Nk)

カリストの層構造(Callisto's layers)

カリストは、木星を回る4つのガリレオ型衛星のうち、もっ とも外側にある。宇宙探査機ガリレオによる1回目の接近 飛行によって、カリストが分化していない(すなわち、それは 表面から中心まで、氷と岩石と金属の均質な混合物である)と いうことを示唆する電波のドップラーデータが得られていた。 このたびAndersonたちは、3回目の接近飛行から得られたよ り正確な電波のドップラ―シフトのデータに基づいて、この モデルに磨きをかけた(p. 1573)。カリストは、氷からなる外 層、岩石と氷からなる中層、岩石と金属からなる核というよ うに部分的に分化している可能性がある。 (KF)

火星における元素の循環(The Mars cycle)

火星には、おそらく、それが形成された直後は表面上を流れる 液体の水があった。火星の物質に含まれる水素と酸素の同位体 の量を測定することは、火星に最初どれだけの水があったか、 どれだけの水が失われたか、凍ったり地表の下に残されたりし ている水はどれだけか、を決定する最善の方法の一つである。 Krasnopolskyたちは、ハッブル宇宙望遠鏡を用いて、水素と 重水素の存在の比を見積もったが、この結果は、5メートルの 厚さの水からなる氷が惑星上を覆っていることから説明しうる (p.1576)。Farquharたちは、火星のいん石ALH 84001に含 まれる炭酸塩粒子の酸素同位体の量を測定し、以前測定されて いるケイ酸塩鉱物とは違って、炭酸塩中の同位体が質量に依存 せず一定の比で存在していることを発見した(p. 1580)。この ことは、酸素がオゾンと二酸化炭素との間で交換された可能性 があることを示唆している。これには、オゾンは大気から、二 酸化炭素は地殻から供給されるための、2つの交換のための貯 蔵所が必要である。本号に掲載のYungとKassによる注解 (p. 1545)で論じられているように、酸素が地殻のどこに存在 しているかは、未解決である。(KF)

リズム機構(Rhythm mechanism)

概日リズムは、一日の明暗サイクルによって、生物体の生理を 維持する。Gekakisたち(p 1564)は哺乳類について、 Darlingtonたち(p 1599)はショウジョウバエについて、概日 時計成分の制御を分子的な側面から詳細に記述している。両方 の報告は、時計成分と転写制御因子サブユニットの相互作用が 他の時計成分をどのように制御するかを説明している。Dunlap (p 1548)による注釈では、どのようにリズムのサイクルを設定 し、維持するかを理解することにとって、この発見が重要であ ることを説明している。(An)

赤外格子による微細パターン (Nanopatterns with infrared gratings)

固体表面にリソグラフィーによるナノスケールのパターンを刻む 1つの方法は、被覆層を化学的に変化させるアルゴンような励起 した準安定な希ガスや他の化合物を用いることであるが、たとえ ば、吸着炭化水素はエッチングに耐性を持つ炭素含有材料を形成 する。通常、パターン形成は、準安定原子をブロックする物理的 マスクが使われたり、原子を格子線上に導く光学格子パターンな どを利用する。Johnsonたち(p.1583)は、これとは異なる赤外線 による光学的格子を使って脱励起遷移させた。原子は格子のノー ド以外のあらゆる所で脱励起するが、格子線上では照射される赤 外線によって準安定な原子の線を形成し、表面にナノメートル幅 (0.1マイクロメートル以下)の線を刻印することができる。 (Ej,hE)

リンを含む大環状配位子(Macrocyclic phosphorus ligands)

リンは遷移金属化学において主要な配位原子の一つである。しかし ながら三価のリンを含む大環状化合物は殆ど知られていない。既知 の化合物は三座配位のリン化合物であり多くは構造異性体の混合物 からなっている。 Avarv-ari等は(p.1587)遷移金属イオンに二座 配位するリン原子を三ないし四箇含む大環状化合物を合成した。 このような大環状配位子は遷移金属を含みその強い還元力から 触媒 作用において重要となるであろう。(KU)
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