AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 24, 1998, Vol.280


核の上に目が(Eyes on the nucleus)

DNAが合成、修復、転写され、あるいはRNAがプロセシングされる 部位として、核は細胞活性の仮想中枢である。これらの核プロセス のどれくらいの数が空間的にも時間的にも組織化されているのかは ほとんど知られていない。Feminoたち(p.585;および表紙)は、 細胞内部の個々のRNA分子の活性をモニター出来る、定量的蛍光イ ンサイチュハイブリッド(in situ hybrid)形成法(FISH)を開発した。 この手法を利用して、血清によって刺激された線維芽細胞中の単一 のβ-アクチン対立遺伝子上での、個々の転写事象(開始、伸長、 終結およびメッセンジャーRNA輸送)の動力学的なプロフィールを 作った。Nelmsたち(p.590)は超軟X線で、ヒトの線維芽細の特定 の亜核領域のDNAの二本鎖の切断を誘発させ、損傷DNAと特定の修 復タンパク質の相対的な位置を径時的に画像化した。他の核プロセ スと異なり、修復には核を通ってのDNAの移動を伴わないように見 える。むしろ、修復タンパク質がDNA損傷の部位に直接再集結して くる。LemondとEarnshaw(p.547)は今回の、多様な細胞プロセス のなかでの特別な核の構造の役割についての証拠をレビューしてい る。(Ej,hE)

ハリケーンの内部(Inside a hurricane)

ハリケーンから受ける被害は,数十から数百メートルの間で大きく 異なることがある.このことは,ハリケーンの強さがこうした短い スケールで変ることを示している.ハリケーンの動力学を被害パタ ーンに結び付けることを観測的に明らかにすることは困難である. なぜなら動的な特性を収集ができるほど十分な空間の分解能で測定 がほとんどできないからである.WurmanとWinslow(p. 555)は 高分解能な移動可能な気象レーダを使い,1996年にハリケーンFran を調べた.そして,激しいキロメートルスケール以下の境界層が, 流れに運ばれて地表面近くの風速度や極端な突風に変化を与えてい ることを示ている.(TO)

階層的な切り替え(Hierarchical switching)

ポリマー物質の自己組織化が起きると、ラメラ(互層)や柱状構造 のような特異な層が出来ることがある。この構造を特徴付けている 長さの単位(互層の厚さやチューブ長さや径)は組成や温度などの 様々なパラメータに依存する。異なる相の間を切り換ると、その物 質の物理特性が変化する。Ruokolainenたち(p.557)は、適当なジ ブロック(diblock)の共重合体を使い、そして、このブロック共重 合体の片方の相の化学組成に化合物を追加させて、これを変化させ ることによって、1つは5ナノメートル、他方は約30ナノメート ルと言う2つの異なる長さに渡って相変化を起こさせることが出来 た。この物質の電気伝導度は温度に依存することから、相の変化が、 次元の変化を伴っており(例えば、柱状の1次元構造からラメラの ような2次元構造への変化)、これが電気伝導度の異方性をもたら していることが示唆される。(Ej,hE)

原子における近藤効果(Atomic Kondo effects)

単独の磁気的な不純物が非磁性金属中に取り込まれると、十分に 低温の状態ではホストの電子は、多体問題的な意味で基底状態を 形成する。この状態は、その局所的なスピンを遮蔽する。この遮 蔽効果のある電子雲は、近藤共鳴として知られている高密度な低 エネルギー励起状態を示す。Madhavan たち (p.567) は、金の 表面上に単独で存在するコバルト原子が近藤共鳴状態にある証拠 を与えている。極低温下の走査トンネル顕微鏡によって得られた スペクトルには、コバルト原子上に局在化した狭い共鳴状態が現 れている。この共鳴を、著者たちは近藤共鳴として説明している。 (Wt) [注]近藤効果:スピン磁気能率をもつ、Fe, Mn のような不純 物を含む Cu,Ag などの希薄合金は、金属中の伝導電子と局在スピ ンとの交換相互作用によって極低温で電気的・磁気的性質に温度の 対数関数で表される異常を示す。これは、近藤淳(1964)によって 理論的に導かれた。(岩波理化学辞典第3版より)

乾燥した陸地への上陸(Dry landings)

消滅した植民地の運命,すなわちイギリスの北アメリカへの最初の 植民の試み,については不確かであった.1年目は移住者の多くは 生存したが,二度と再び植民地からの便りはなかった.最近になっ て,キプロスツリー(サイプラス、cyprus trees)から導かれた 年輪気候指数を用いて,Stahleら(p. 564)は,その地域で過去800 年で最悪といえる干ばつの一つが起こる直前に,植民者が訪れたこ とを示している.1607年のJamestownへの次の植民は,かろうじ て成功した.108人の植民者の中で38人だけが最初の年に生き残っ た.年輪の記録によれば,7年間に及ぶ干ばつの初期近くに, Jamestownが植民されたことを示している.(TO,Nk)

メタンの直接酸化活性化 (Direct oxidative activation of methane)

メタンなどの低分子量のアルカンをメタノールのような液体へ 転換することは、蓄積された天然ガスを代替石油燃料や化学原 原油の代用として利用することを可能とするだろう。これらの 化合物の炭素-水素結合はきわめて不活性であり、直接液化する ための酸化の過程でCOやCO2などの生産を防がなくてはならな い。Perianaたちは(P.560、P.525のServiceのニュース解説 も参照)、窒素配位子を持つ白金化合物であるジクロル(エータ 2-2,2’-ビピリジル)白金(II)を使って摂氏220度の濃硫酸中で SO3をオキシダントとしてメタンをメチル重硫酸塩とSO3へ転 換した、と報告した。一回のメタン反応の歩留まりは72%であり、 生産物は加水分解でメタノールへ転換出来る。(Na,Nk)

性別のバイアス(Gender bias)

言葉のさまざまな様相の単語は、会話の中でどのように検索される のだろうか? Van Turennout たち (p.572) は、事象に関連する ポテンシャルと二段階のタスクを用いて、文章構成上の特徴(名詞の 性)は、音韻体系(名詞の最初の音素)の検索に先立っておよそ40ミリ 秒ほど前に脳から検索されることを示唆している。(Wt)
[注]この実験は、名詞に対応する絵を披験者に見せて、オランダ語 の単語を発声してもらうが、このとき、冠詞の性も同時に発声してもらう。 性を表す冠詞は名詞に先だって発声されるが、そのときの様子を脳の 電位の変化から観察している。(Ej)

心臓の受容体(Heart receptors)

心臓に大きな負担をかけ、最終的には心室不全に至るようなヒト 疾患では心筋の肥大が起きる。Gqクラスのヘテロ三量体グアニン ヌクレオチド結合タンパク質(Gタンパク質)と結合するα−ア ドレナリン作動性受容体やアンジオテンシンII受容体のような様々 な細胞表面受容体が心筋肥大に寄与している可能性がある。Akhter たち(p.574)は、Gqαサブユニットの断片を心臓組織で特異的 に発現するトランスジェニックマウスを作製したところ、このペ プチドはGqと結合する全ての受容体によって情報伝達が妨げられ た。このトランスジェニックマウスに心臓の圧力過負荷を起こさ せる手術を施すと、Gqペプチドを発現するマウスは対照マウスに 較べて心室肥大が少なかった。この結果は、Gqを介して情報伝達 する複数の受容体の阻害が、心筋肥大から心不全への進行を防ぐ 有効な戦略となりうるかも知れないことを示す。(hE)

首を突っ込む(Making a commitment)

細胞分裂周期の制御において鍵を握る側面は、各細胞周期中で1回、 たった1回だけ起きるDNA合成の適切な開始である。Zouたち(p.593) は、発芽酵母では、このような制御は、DNA複製起点においてタン パク質Cdc45が染色質に制御されながら結合することによって仲介 されていることを示した。Cdc45の結合は、S期促進因子(SPF)と して知られているサイクリン-サイクリン-依存性リン酸化酵素複合 体の活性に依存することが示された。Cdc45は、複製前複合体の一 部としてDNAに付随するその他のタンパク質(Cdc6p及びMcm2p) と相互作用する。Cdc45が複製起点にのることが、SPF活性がDNA 複製の開始をもたらすための決定的な出来事であるらしい。(hE)

分泌の構造(Secretory architecture)

サルモノラ菌は、ホスト細胞にタンパク質を搬入させる特殊な分泌 システム(III型)を進化させた多様な細菌性病原菌の1つである。 Kuboriたち(p.602)は、この分泌性複合体を電子顕微鏡で可視化し た。この複合体は、細菌膜の内側と外側の両方にまたがり、べん毛 の付け根に似た円筒状の基礎と、細胞の表面から外に向かって飛び 出している細くて針のような領域とから成っている。(Ej,hE)

天王星の雲(Clouds on Uranus)

数多い画像から、天王星はソフトな青い球体だが、その大気の動きに ついてはほんの少ししか知られてない。Karkoschkaは(p.570)、 1997年7月から10月に撮影されたハッブル宇宙望遠鏡からの天王星の 近赤外光画像を使い、大気に対して高いコントラストを持つ10個の雲 を観測した。これらの雲の動きを追跡し、さらに、1986年のボイジャ ー2号の画像と比較し、南半球の雲の回転率は1986年から1997年の間 に殆ど変化がないと結論付けた。更に、北半球の雲は南半球の雲よりも 遅い速度で惑星上を回転している。(Na)

B細胞の生存(B cell survival)

Bリンパ球は抗体分泌血しょう細胞になるためには、抗原に結合し、 脾臓の胚中心(GC)に近付くことが出来るようになる必要がある。 Fischerたち(p.582)は、高い親和性をもつ抗原だけではGC中で生 き延びることは保証されないことを観察した。2型補体受容体(Cr2) を遺伝的に欠くマウスを使って、GCの生存信号は、活性化補体の断 片がCr2と結合することによって得られることを決定した。このシ ステムによって、自己反応性B細胞からの防御を可能にしているのか も知れない。感染したり炎症を起こしたりした場合は、補体の活性 型はもともと豊富であるから、B細胞は生存出来ない。(Ej,hE)

アミノ酸の選り分け(Sorting amino acids)

アミノ酸をその転移RNA(tRNA)に正確に付加することは、 遺伝情報の解読にとって必須のステップである。この反応 は、当該のアミノ酸の認識と活性化、さらにそれに引き続 いて生じる、適切なtRNAの認識とそれへの付着、という2 段階からなる。Nurekiたちは、イソロイシル(isoleucyl)- tRNA合成酵素の構造と、それがどのようにしてこの2段階 の篩分けの機構を提供しているかを、記述している(p. 578; また、Fershtによる注釈 p. 541参照のこと)。第1に、イソ ロイシン(isoleucine)より大きいあるいはより極性の強いア ミノ酸は、アミノ酸認識部位によって拒絶される。第2に、 イソロイシンより小さいアミノ酸を含むアミノアシル (aminoacyl)-tRNAが、アスパラギン酸タンパク質分解酵素 を想い起こさせるある種の加水分解性モジュールを利用する らしい修正部位に入り込んで加水分解されるのである。 (KF) (SO)

Conductinとwntによる情報伝達 (Conductin and wnt signaling)

wntによる情報伝達は、細胞の運命の決定と形態生成とを 含む多様な発生過程に関与している。タンパク質β-カテ ニンは、wntによる情報伝達に応答して遺伝子の発現を調 節する。Behrensたちは、癌抑制遺伝子生成物APC (adenomatous polyposis coli)と複合体を形成してβ-カ テニンの分解を指示する、マウスのaxinの相同体である conductinを同定したと報告している(p. 596)。conductin がβ-カテニンの安定性を制御していることが明らかになった。 このように、conductinは、wntによる情報伝達、すなわち 発生と発癌の双方に関連する一つの経路を調節する、新たに 同定されたタンパク質を代表しているのである。(KF)

遺伝子の捕獲(Gene capture)

コレラ菌(Vibrio cholerae)の反復配列(VCRs)と、以前から 抗生物質耐性と関連付けられてきた移動性の遺伝的要素 (integrons)のあるクラスとの、構造的および機能的な関係が、 Mazelたちによって見い出された(p. 605)。VCRは、ビブリオ の進化の過程で、非相同的遺伝子を獲得するための「遺伝子捕 獲」システムとして振る舞っていたのかもしれない。(KF)

チェックポイントとしてのp38の役割 (Checkpoint role for p38)

細胞分裂でのエラーを防ぐため、細胞には、紡錘体(染色 体が娘細胞に移動するための機構)が適切に組み立てられて いるかをモニターするチェックポイント機構がある。もし、 すべてがうまくいっていなければ、細胞分裂の過程の進行 を阻む信号が送られるのである。アフリカツメガエル (Xenopus)の卵細胞の減数分裂サイクルでは、紡錘体チェック ポイントが適切に機能するのに、分裂促進因子によって活 性化されるタンパク質(MAP)リン酸化酵素が必要である。 Takenakaたちは、体細胞性細胞の有糸分裂サイクルでは、 MAPリン酸化酵素ファミリーのこれとは別のメンバーであ るp38がチェックポイント機能のために必要であること、 またこれが、紡錘体の欠陥がない条件の下でM期にある細胞を 停止させることができることを報告している(p. 599)。この 結果は、多様なストレス性の刺激にさらされた細胞において 活性化されることが知られていたp38タンパク質のさらなる 役割を明らかにするものである。(KF)
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