AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 17, 1998, Vol.280


T細胞の特異性とカテプシン (T cell specificity and cathepsins)

最終的に体中を循環するCD4+ T細胞の持つレパートリは、 自己反応性や免疫不全を防ぐための慎重な機能選択の結果 に他ならない。この選択プロセスは、胸腺中にある主要組 織適合複合体クラスIIを発現する抗原提示細胞(APC)によっ て開始される。すなわち、皮質上皮の協力的特異性によって T細胞の成熟化が開始され、そして各造血系に由来するAPC が、最終的には死滅することになる自己反応性T細胞を同定 する。Nakagawaたち(p.450およびCreswellによるコメン トp.394)は、システイン・プロテアーゼのカテプシンLは、 クラスIIのインバリアント鎖(Ii)の分解に分解には決定的役割 を演じるが、これは胸腺の皮質上皮中においてだけである。 Iiは、クラスII分子のペプチド結合部位を占めるので、カテプ シンL-欠乏性の皮質上皮は明らかに、発生中のT細胞に対し て適当なペプチドを提示することが出来ない。正の選択信号を 出せないと言うことは、成熟CD4+ T細胞数の減少を招く。色 々なカテプシンファミリーのプロテアーゼの活性は、組織ごと に異なっているから、上の結果は、色々なタイプのAPCによる T細胞の刺激がそれぞれ異なった結果になるのかの説明の一部 を与えているように見える。最終的に提示される一連のペプチ ドがどれになるかは、特定のAPC中でどの活性化カテプシンが 活動状況にあるのかに依存しているのかも知れない。(Ej,hE)

暴風雨銀河団(Stormy clusters)

銀河団は、1%の可視領域で発光する銀河と、15%の銀河団 内部のガスと、84%の見えない物質(ある形態のダークマター であり、銀河団全体を一つに重力で保持している)からなる、巨 大で重力的に束縛された系である。Burns (p.400)は、銀河団が 構造を持つことを示唆する観測とモデリングをレビューしている。 これによると、複雑な形の銀河集団が、不規則なフィラメントや シート状のもの、あるいは壁構造によって作り上げられており、 全体としては巨大な空隙を内部に抱え込んだ蜘蛛の巣状の構造を 作っている(表紙を参照)。非平衡な高温状態や銀河間の大きな相 対速度は、銀河団同士が衝突して銀河団内部の嵐のような状態が よりひどくなっていることを示唆している。銀河団が球状のボー ルになり、ガスがダークマターと平衡状態に落ち着くまで、さら に多くの衝突衝突を必要とするであろう。(Wt,Nk)

ストレンジマター(Strange matter)

ストレンジマターはクォークのスープとして表現することが できる。このクォークは陽子や中性子を作る素粒子である。 Cheng たち(p.407) は、異常な硬X線バースター GRO J1744-28 (コンプトンガンマ線観測衛星によって発見された) に対して、あるストレンジマターの形成を含むようなモデル を作成した。彼らのモデルでは、あまりに大量の物質が星に降 着すると、星の「地殻」が砕けてしまい、放出された物質は ストレンジマターに変換される。その後、これは外側へ膨張 する火の玉を作り出す。相対論的な速度で膨張する火の玉は、 周りを取り囲んでいる星間物質と相互作用して、衝撃波を形 成し、X線放射の爆発を引き起こす。モデリングされたX線 バーストの強度、持続時間、スペクトルは、GRO J1744-28 の最近の観測と一致しており、これは、X線バースターはス トレンジ星と関連している可能性を示している。(Wt,Nk)

難揮発性の包有物:当時はいっしょくたに (Refractory inclusions:All together then)

炭素質コンドライトには、そして、希には普通コンドライトにも カルシウムやアルミニュームに富む包有物(CAI)が見つかるが、 これは、初期の太陽系星雲において最初に出来た固体粒子を代表 しているとされている。炭素質コンドライト中のCAIに含まれる 酸素同位体の存在比率は、太陽系星雲における空間的・時間的な 起源を決定するために利用されてきた。このたび、McKeeganた ち(p.414)は、普通コンドライトから得られた3つのCAI中の酸素 同位体の量を測定した。彼らは、この普通コンドライトのCAI中の 酸素16の濃度が、炭素質コンドライトのそれと類似していること を見つけた。この結果から、すべてのコンドライトのCAIは、太陽 系星雲中の類似環境で、ある定まった領域で形成されたことが推測 できる。今まで普通コンドライトは炭素質コンドライトとは異なる 星雲領域で形成されたと推測されているから、CAIは、太陽系星雲 の色々な場所に不均質に分布していたに違いない。(Ej,hE)

炭酸塩に汚染された隕石(Carbonates tainting meteorites)

Tatahouine隕石は、1931年6月27日南部チュニジアの砂質土壌 に覆われた石灰岩丘稜の斜面に落下した。同日、試料は回収されたが、 1994年にも再び回収された。Barratたち(p.412)は、1994年に 回収された破片中の割れ目に見つかった炭酸塩と、1931年の試料 (これには炭酸塩は見つかってない)とを比べた。その結果、 1994年の破片中の炭酸塩の炭素の同位体は、試料が回収された場 所の砂質土壌によ汚染物質されていることと、同位体データは 整合性のあるものであった。(Ej,hE)

立ち往生した地殻(Stranded crust)

地球上で最も大きな海洋台地であるカーゲルン(ケルゲレン) (Kerguelen)台地は,インドとオーストラリアが南極大陸 から切り離れた時にインド洋が開いている間に形成された. HasslerとShimuzu(p. 418)はオスミウム同位体のデータを 用いて,この台地は先カンブリア時代の大陸の岩石圏の部分 が基盤となっていることを示している.ゴンドワナ大陸の部 分が,切り離されている際にインド洋上で薄く延ばされ立ち 往生したという可能性がある.(TO,Og)

演算子を最適化する(Optimizing operators)

核磁気共鳴(NMR)などのような、干渉性分光学的手法の 多くで、研究者たちはデータ収集プロセスの短時間化の ために観測された信号を最大に出来ることを希望してい る。これらの測定は、純粋状態でなく、量子状態の集合 で行われ、観測されたものには非エルミート演算子と呼 ばれる実数値でない値を持つ演算子の作用に基づく虚の 部分がある。このように、この手法は、エルミート演算 子を最適化していっても一般的には最適な解を導かない。 Glaserたちは(p.421、p.398のWarrenの注釈も参照)、 これらの変換を最適化するために、勾配に基づく手法に ついて述べている。この手順は応用数学やコントロール 理論への応用も可能である。(Na)

太陽電池から発生する水素(Hydrogen from solar cells)

水を太陽光の助けだけで直接水素と酸素に分解することは、 光学電子化学のもっとも重要なゴールの一つである。しか しながら、水素の発生にもっとも適したp型半導体は、しば しば実際に反応を起こせるのに十分な電位差を起こせない。 Khaselev とTurnerは(p.425、p.382のServiceのニュース 解説も参照)、太陽光に、まず、p型のGalnP2層に可視光を 吸収させることで電子化学作用で水素を発生させる、次に、 GaAs接合の間に挟ませ、近赤外光を吸収させp型GalnP2電 極に十分な電位を与える、という二重の役目をおわせた。 著者は12%以上の効率を達成したと報告した。(Na)

消化管に追跡(Tracked in the GI tract)

ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)の感染の直後(数日間から 数週間)に起る現象を理解することが、続いて生じる事象や 発病に至る一連の事象を理解し予防するのに重要であ ろう。Veazeyたち(p 427)は、マカクザルにおけるSIV (サル免疫不全ウイルス)感染を研究し、末梢リンパ組織 (HIV感染の研究でもっとも注目された組織)の変化が現れ る前に、消化管のリンパ組織がSIV複製とCD4+T細胞減少 の主要な部位であることを発見した。(An)

クラスリンとAP3アダプタ複合体 (Clathrin and AP3 adaptor complex)

クラスリン被覆小胞の様々なクラスが細胞表面における受容体 仲介のエンドサイトーシスおよびゴルジ複合体から輸出された 分泌性とリソソームのタンパク質のソーティング(細胞選別) に利用される。アダプタタンパク質は、膜タンパク質のクラス リン被膜へのソーティングを仲介するようである。AP-1と AP-2という2つのアダプタ種類が2つの部位によく知られてい る。AP-3という3つ目のアダプタクラスが、エンドサイトーシ スにおける小胞構造への、信号に仲介されたタンパク質のソー ティングに役割を果たしていると同定されたが、クラスリンと の相互作用はなかったと思われた。Dell'Angelicaたち(p 431) は、ゴルジとエンドソーム関連の被膜において、AP-3複合体 が確かにクラスリンと相互作用することを示した。(An)

ストレスとカリウムチャネル (Stress and potassium channels)

ストレスが多数の生物体の生理学変化を引き起こす。Xieたち (p 443)は、ラットの副腎クロム親和性組織において、ひとつの カリウムチャネルクラスの発現へのストレスホルモンの影響を 検査した。副腎皮質刺激ホルモンというストレス関連ホルモン の濃度減少によって、カルシウム活性化と電位活性化のカリウ ムチャネルをコードするメッセンジャRNAの選択的スプライス 変異体の濃度が変化した。この過程が、クロム親和性細胞の興 奮性質とカテコールアミン分泌を変化させ、さらに心臓などの 多数の器官に影響することが予想される。(An)

土壌と二酸化炭素(Soil and CO2)

Jonesら(p. 441)は,二酸化炭素の増加が地表下の生態系の プロセスや生物相に対して与える影響を報告している.彼らは, Ecotron施設の中で作られたモデル生態系を使い,生物群落 の組成(community composition)の変化を見つけた. そして,例として菌類やトビムシ(collembola)の種における 変化を示し,それは土壌生化学上ではセルロース分解が高まっ たことで表される.この研究は,大気における二酸化炭素の濃 縮が増大すると,長期的に土壌プロセスのフィードバックに重 大な影響を与えうることを示唆している.(TO,Nk)

行ったり来たり(Back and forth)

高等植物の発生は、二倍体と単相体の世代間を交互に 行き来する。Grossniklausたち(p.446)は、シロイヌ ナズナ(Arabidopsis)中に、単相体配偶体の産生に特 別に影響する遺伝性変異体を同定した。この遺伝子の medea(生殖子)はタンパク質のPolycombグループ をコードする遺伝子に類似しており、そのいくつかは ショウジョウバエのホメオな遺伝の発現を制御してい る。(Ej,hE)

北極の掃き出し(Arctic scavenging)

北極海にあるカナダ海盆は、海水の循環が緩慢なせいで 粒子の流れや掃き出し(scavenging)が限られている、氷に覆わ れた孤立した海盆と考えられてきた。Edmondsたちは、その海 盆の大陸棚および氷に覆われたその海盆の中心部の下から採取され た濾過しない海水の試料に含まれるプロトアクチニウム-231と トリウム-230、トリウム-232の量を測定した(p. 405)。これら 3つの同位元素は、海盆における掃き出し(scavenging)、沈降 そして水の入れ替わりの割合のトレーサに用いられる。プロトア クチニウム-231とトリウム-230の量は、他の海盆に見られるの と同様、粒子の流れや掃き出し(scavenging)が高いと見なされる 状態と一致していた。このことから、カナダ海盆は、以前考えられて いたほど水流が緩慢ではない、ということになる。(KF,Og)

細菌による病原性をターゲットにする (Targeting bacterial virulence)

黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は、毒素ショック 症候群や「肉体を蝕む」皮膚感染症、肺炎、髄膜炎そして 心内膜炎など、生命を脅かす感染症の原因になりうる。 その抗生物質への耐性が増すにつれ、こうした感染症に対 する防御や処置のための新しい戦略が求められてきている。 Balabanたちは、病原性の経路において、agr座位にある病 原性遺伝子のスイッチを入れる、早期のイベントを解明した。 この座位にある20以上の遺伝子は、一つのタンパク質RNAIII によるコントロール下にあり、このタンパク質の転写はそれの 活性化因子RAP(RNAIII-活性化タンパク質)に依存しているの である。マウスにRAPをワクチンとして投与すると、マウスは それに続いてブドウ球菌S. aureusに曝されても、感染から守 られる。作り出された抗体は、試験管内では、細菌によるRNAIII の産生を抑制し、生体内では、病変の大きさを小さくすること と相関した。[Straussによるニュース記事p. 379参照のこと]。 (KF)

難問が水に流されて、よい結果が得られた (Comes out in the wash)

川における堆積物の輸送は、河床や川に含まれる 粒子の混合の比率や粒子のサイズだけでなく、流れの特性 にも依存する。この複雑な反応を予測することは、土地の 利用の仕方を変えることによって流域の堆積や侵食にどの ような影響がでるかを評価するために有益である。Wilcock は、河床が砂礫である川における沈降物の輸送は、二つの 粒子のタイプ、砂と礫を仮定することで十分うまくモデル 化できることを示した(p. 410)。この結果は、多くの川で みられる河床の砂礫から砂への急激な遷移への説明になっている。 (KF,Og)

偽結び目構造(Pseudoknot structure)

RNAの偽結び目構造は、構造上のモチーフであって、ヘアピン ループのループ上のヌクレオチドが柄部の外側のヌクレオチド と塩基対を形成するものである。この構造は、各種のRNAに見 い出されているが、植物ウイルスであるカブの黄色モザイク・ ウイルスのゲノムにおいて記述されたのが最初である。Kolkた ちは、このウイルスの44-ヌクレオチドの偽結び目構造を核磁 気共鳴を用いて、詳細に調べた(p. 434)。彼らが発見したのは、 一本鎖と二本鎖との間の相互作用による構造調整で、それによっ て一時的に偽結び目構造のコンフォーメーションがとれるよう になっていることを示唆した。これは、偽結び目高次構造の一 般的な特徴と考えられる。(KF,Kj)

鳥と恐竜の指を数える (Counting the Fingers of Birds and Dinosaurs)

A. C. BurkeとA. Feducciaは、残存している羊膜類(卵を産む 動物)の指と手首の胚性の発生を研究し(24 Oct.の報告 p. 666 参照)、鳥類に見られる3本の指は獣脚亜目(theropod)恐竜の3 本の指とは相同的ではない、と結論づけた。それとともに掲載さ れた展望記事(p. 597)の中で、R. Hinchliffeは、「(共通の起 源によるのではなく)[進化による]収束の方が、獣脚亜目の前 肢の構造と[古代の鳥である]始祖鳥(Archaeopteryx)の翼の 類似をよく説明する」と、彼らを支持して書いた。S.Chatterjee は、いくつかの学問分野における研究をレビューすることで、恐 竜から鳥類が生まれた、というアイディアを防衛している。彼は、 発生過程の胚における指の「組織分布的位置」を記述し、「指の 減少」が進化によって起こりえた(多くの種で、指の数は5から 2または3に減っている)その可能性について論じている。彼は、 「現世生物学的データと古生物学的データ双方の合成」によって 鳥類の起源が恐竜であることが支持される、と結論づけている。 J. P. GarnerとA. L. R. Thomasは、Burkeらの報告で用いられた 「仮定」に疑問を呈し、そこでの発生のデータが実際に「鳥類の 起源が恐竜であることと完全に一貫している」と記述している。 これに応えて、Burke、FeducciaそしてHinchliffeは、批判され たそれぞれの点について論じ、獣脚亜目恐竜の手が、羊膜類にお ける高度に保存された発生のパターンと一致するような流儀で (胚において)非常に似た形で発生したそのありさまについて記 述した。彼らは、恐竜から鳥類が生まれたというアイディアは、 「観察結果および比較発生学の最近の証拠と整合しない」という 主張を維持している。これらのコメントの全文は、
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/280/5362/355a で見ることができる。(KF)
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