AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 3, 1998, Vol.280


カリウム チャネルの内部からの見方 (Inside view of a potassium channel)

イオン・チャンネルは特定のイオンを細胞の外や内部に迅速に 通過させるタンパク質の門である。この構造については、残念 ながら間接的にであるが、多くは変異原性の研究から得られて いた。 Doyleたち( p. 69; および表紙)はストレプトマイセス属 の細菌(Streptomyces lividans)のカリウムチャンネルのX線 による構造解析結果を示しており、それによると、細孔そのもの の構造がわかり、しかもこれはすべてのカリウムチャンネルに 当てはまる可能性がある( Armstrongによるコメントp.56を参 照)。この細孔はカルボニルの酸素原子の主鎖から出来たリング であり、カリウムを通過させることはできるがナトリウムは通過 させない。膜二重層およびらせん体双極子の中心の細孔にある拡 大チャンバーは、二重層の静電力に逆らってイオンを横切らせる ことが出来る。選択性のフィルタ内部に2つのカリウムイオンが 存在するということから、カリウムと選択性フィルタ間の引力に 打ち勝つために、イオン間の反発力を利用して多くのイオンを高 速に処理していることが推測される。MacKinnon たち(p. 106) は、ストレプトマイセス属 チャネルの細孔前庭に結合するサソリ 毒 (agitoxin2)は、モデル実験から、類似の真核生物のチャネル にも結合することが示された。このことから、原核生物のカリウ ムチャネルは真核生物と同じ細孔構造を持っていることが明らか になった。(Ej,hE)

超音波による機構のイメージング (Mechanical imaging with ultrasound)

物体の機械的特性は、その物体の振動周波数によって決定 できるが、扱われる周波数範囲は、通常聴覚で捉えられる 範囲に限られている。FatemiとGreenleafは、超音波を 用いるテクニックを開発したが、それは、同じ点に周波数 がわずかに異なった二つのビームの焦点を合わせ、物体全 体をスキャンするというものである(p.82)。このビーム同 士の干渉によって超音波エネルギーの正弦波的な変異が生 じ、物体は効率的に振動させられる。そして、この物体の 振動性応答が音響的に記録され、画像に変換される。この 方法は、同一の素材からできているが異なった機械的特性 をもつもの(たとえば異なったピッチに調整された音叉)も、 また柔らかな包含物に埋め込まれた小さな固い物体(ラテッ クスの中のガラスのビーズ)を識別するのに使える。切開 による動脈の画像からは、硬化した部分とそうでない部分 とが明らかになる。(KF,Ng,Nk)

古代の花粉媒介者(Ancient pollinators)

被子植物(顕花植物)の進化は、 Labandeira (p. 57)のコメント にあるように花粉媒介昆虫の進化に関連している。化石の記録に よれば、被子植物の最初の記録はたぶん白亜紀初期(約1億2千 万年前)に見られるが、正確な起源については議論が定まってい ない。最初の花粉媒介昆虫には、ハエやジガバチや甲虫が入る。 Ren (p. 85) は、中国Yixian層群から後期ジュラ紀(約、1億 4500万年前)と思われる岩石中に保存されているいくつかの Brachycerafly(ハエの一種)について報告している。このハエ は、多分、花の蜜を吸うためと思われる長い口器を持っている。 (Ej,hE)

木星の環(A ring around Jupiter)

ガリレオ宇宙探索機にある塵検出器は衝突する粒子を計測 して、個々の粒子の質量と速度を推測することが可能であ る。Colwellたち(p. 88)は、これらの衝突現象を利用して、 木星の周りにあると思われるかすかな環の存在を示した。 この環は、0.5から1.5マイクロメートルの粒子から構成さ れており、ほとんどは木星半径の3から20単位離れた逆行 軌道上にあり、比較的小さい離心率を持つが広範囲の傾斜 角を持っている。彼らは、この塵のほとんどは惑星間の塵 であるが、少量の星間宇宙塵も含んでいると信じている。 また、シューメーカー・レビー9(Shoemaker-Levy 9)彗 星の木星との衝突のようなランダムな現象が、この環に物 質を供給している可能性もある。(Ej,hE)

ウェブを動き回る(Crawling the Web)

World Wide Webは、研究のツールになっただけでなく、 研究のための活動について研究する舞台にもなってきた。 ほとんどのユーザーは、一つ以上の検索エンジンを使って ウェブを動き回るが、そうしたユーティリティは、実際に はウェブのどれだけの部分を対象として扱っているのだろ う。LawrenceとGilesは、よく利用されている検索ツー ルのいくつかについて、それらがカバーしている範囲と情 報の新しさとを分析し、ウェブの3分の1以上について索 引付けしているものは一つとしてないことを見い出した (p. 98)。複数の検索エンジンによる結果を結合する戦略の 方が、はるかに良い結果を生み出すのである。ユーザーは 実際には、どのようにウェブのサーフィンをしているのだ ろう。Hubermanたちは、情報の捕食者がハイパーリンク を有する一つの文書から別の文書へと移動する行動のパタ ーンを研究した(p. 95)。著者らは、サーフィン行動に強い 規則性を見い出したが、これは特定の研究のコミュニティ のためのより良いウェブのデザインというアプリケーショ ンにつながるものかもしれない。(KF)

地球の初期の内部状態 (Earth's initial interior conditions)

マントル対流のモデルは、深度依存性の粘性や、鉱物相変化、 核からの加熱、そして、最も重要と思われるマントルの動きと テクトニックなプレートの動きの相互作用を取り入れることで 改良されてきた。しかし、1億1900万年以前のテクトニック・ プレートの速度や形状を正確には知らないので、時間と共にマ ントル内の対流パターンがどのように変化してきたかをモデル 化することは困難であった。Bungeたち(p.91)は、1億1900万 年から1億年前のプレートの動きからスタートして、初期対流条 件を見つけるために、この対流モデルを20億年分進めた。さら に、現在のプレートの動きとこれら初期対流条件を使って、モ デルを5億年分進め、今日のマントル対流に相当するシミュレー ション結果を得た。彼らの最終の対流モデルは今日の地球規模の 形状に合致しているが、このモデルでは、現在のトモグラフィ (断層影像)で予想されているような核-マントル境界における 大規模で高温の温度異常を作り出すことは出来なかった。これら の差異から、地球規模のトモグラフィモデルの再考をする必要が あるのかも知れない。特に、低速異常によって、熱的、あるいは 化学的異常を核-マントル境界に生じることになるのかどうかを。 (Ej,hE)

刺激の自覚と記憶(Stimuli awareness and memory)

海馬は、宣言的記憶、すなわち事実やイベントについての 意識的な回想においては必要とされるが、古典的条件付け、 すなわち息の一吹きとペアにされたある音が息の一吹きが なくなっても瞬きを誘発する、というような連合性学習の 単純な形には必要とされない。しかしトレース条件付け、 つまり音と息の一吹きとの間に短い(一秒程度の)ポーズ があるような別のパラダイムでは、完全な海馬が必要なこ とが知られている。ClarkとSquireは、この難問を説明す るデータを示したが、それは(海馬にダメージを受けた) 健忘性の患者と健常者の双方の、古典的条件付けおよびト レース条件付けの間の実験の成績と自覚とを調べることに よったものである(p. 77;また、Schacterによる注釈 p.59参照のこと)。彼らは、海馬が刺激同士の関係につい ての意識的な知識を発達させるために必要だということを 発見した。つまり、イベント間の関係を決して学習できな いせいで、患者はトレース条件付けを獲得できないのであ る。(KF)

転写を抑制(Repressing transcription)

遺伝子発現の制御には複数のタンパク質とタンパク質との 相互作用およびタンパク質とDNAとの相互作用が関与する。 ショウジョウバエの初期胚におけるKnirpsとSnailと呼 ぶ2つの短範囲リプレッサによる転写抑制の機構をもっ と理解するために、Nibuたち(p 101)は、試験管内でこの リプレッサと相互作用するタンパク質を同定した。生体 内の遺伝子量の分析によってこの相互作用の説明をさらに 実証した。ここで同定された補抑制物質はヒトCtBPタン パク質の同族体であり、このヒトCtBPタンパク質は、 アデノウイルスE1Aタンパク質との相互作用によって、 E1A仲介の転写活性化と腫瘍形成を抑制する。従って、 ヒトとショウジョウバエにおける保存された転写抑制機構 が発見された。(An)

耐冷性の植物(Cold-hardy plants)

熱ショックと同様に、寒冷ショックが植物の生理学的変化 を誘発し、この変化によって、植物が後のもっと極端的な 温度に耐えるようになる。Jaglo-Ottosenたち(p 104; Pennisiによる記事参考p.36)は、シロイヌナズナ植物に おいて、低い温度による普通の刺激がなくても、CBF1と いう単一の転写制御因子の過剰発現が一そろいの寒冷応答 遺伝子組の発現を誘発することを示している。さらに、 このトランスジェニック植物は、変化していない植物より、 低い温度による被害に抵抗できる。(An)

RasとPKCの情報伝達(Ras and PKC signaling)

タンパク質リン酸化酵素C(PKC)ファミリのメンバーは、 広範な信号に対する細胞応答に寄与し、細胞増殖と分化 を含む複数の細胞過程を制御する。多数のPKC作用は、 分裂促進因子活性化タンパク質(MAP)リン酸化酵素の活 性化によるものである。しかし、PKCがMAPリン酸化酵 素の活性に影響する機構が不明であった。Maraisたち (p 109)は、小さなグアニンヌクレオチド結合タンパク 質Rasがこの過程に必要であることを発見した。プロト オンコジーン(癌原遺伝子)生成物Rasが受容体チロシ ンリン酸化酵素に応答し、MAPリン酸化酵素の活性化を 仲介することが知られているが、著者は、受容体チロシ ンリン酸化酵素によって開始された機構と異なる機構に よって、PKCに応答するRas活性化が発生することを示 している。(An)

少ないは多い(Less means more)

開発途上地域での農業の強化は迅速に進められているが、 管理のやり方は不十分であり、環境への影響も十分検討 されていない。Matsonたちは、メキシコのヤクイ(Yaqui) 谷における無機窒素の適用に関する複数の戦略について、 生物地質化学的、社会経済学的な、また作物の収量に関 するアセスメントを行なった(p.112)。一つのアプローチ、 すなわち典型的な農家のやり方より肥料の添加をより少な くし、しかも作物サイクルのより後の時期に与えるやり方 が勝者となることが証明された。亜硝酸および一酸化窒素 の放出が減らされ、農家にとってはっきりとしたコストの 削減があるのに、作物の収量は、維持されるのである。 (KF)

レンズ 形成(Lens formation)

目が発生するためには、遺伝的カスケードにおいて多数の タンパク質の関与が必要である。目の形成にはいくつかの 転写因子が関与していることが示されてきた。Ogino と Yasuda (p. 115)は、mafプロトオンコジーン(maf proto -oncogene)ファミリーに相同な新規なニワトリの、レン ズ特異的遺伝子を同定した;そのため、L-maf (lens- specific maf)と呼ばれている。L-mafは、レンズ特異性 遺伝子に結合することでレンズの分化を誘発する。目の発 生に関わる他の遺伝子と異なり、L-mafは、ほとんどレン ズの中だけで発現する。(Ej,hE)

波に出会ったコンドルール(Chondrules seeing waves)

コンドルールは、球粒隕石の中に見られる主に珪酸塩鉱物 の球状の集合体である。それらは、ガスとダストからなる原 始惑星系の円盤である太陽系星雲の中で形成されたと考えら れてきた。太陽系星雲中でコンドルールがどのように形成 されたかを説明することは、これまで困難であった。その理 由は、いかなる二個のコンドルールも似てはおらず、また、 どのような形成モデルもこれらの含有物において観測される 化学組成や組織構造の非常な大きな多様性を説明することが できないためである。ConnollyとLoveは、コンドルール の化学的および組織構造的な特性をレビューしている。彼ら は、コンドルールの特徴から推論により、あるいは直接的 に導かれた、推算最高温度、冷却率、大きさ、コンドルー ルの縁、推算酸素逃散能、星雲のガス圧を、太陽系星雲を通 過する一個かそれ以上の平面状の衝撃波という単純化された モデルで、一般的に説明することができることを述べている。 形成の正確なメカニズムは、おそらくはより複雑であろうし、 また、衝撃波の源については未確定のままで残されているが、 このレビューは、現在、我々が観測して得たコンドルールの 特性についての一つの統一的なまとめであり、提案された衝 撃波モデルはコンドルールの特性がどの程度までモデルに適 合するかを示している。(Wt,Nk.Tk)

準粒子と熱伝導度 (Quasiparticles and Thermal Conductivity)

K. Krishana たち (7月4日,p.83のレポート)は、磁界中の 超伝導物質Bi2Sr2CaCu2O8 の励起状態における"準粒子" (quasi-particles QP) の挙動を、熱伝導度を測定することに より研究した。彼らは、"凝縮物質の、QP 電流がゼロとなる 状態(系は超伝導状態に留まっている)への相転移"の証拠を観 測した。 H. Aubin たち(p.11)は、レポートの中の結果を繰り返して、 「高磁界状態での磁界に依存しない熱伝導度は、磁界の印加 のされ方に依存しないか?」と問いかけている。彼らは、単 一の超伝導状態の結晶の熱伝導度を、さまざまな磁界の関数 として調べた。そして、履歴効果すなわち、熱伝導度がいか に磁界の印加方法に依存しているかに焦点を当てた。磁界プ ロファイルはvortex(渦)によるフォノン散乱(phonon scattering)に関係しているので、彼らの結果は、バックグ ラウンドの熱伝導度は、"試料の受ける磁界プロファイルに依 存している"ことを示している。Krishana たちは、返答の中 で、"正しくその履歴性を見るために"追加のデータを提供して いる。彼らは、"そのプラトー特性が、vortexの系の相にある いは試料の磁化の履歴に本質的に依存している"ということは ありそうにないと述べている。(Wt)
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