AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 6, 1998, Vol.279


早期の訓練の回復(Recovering their early training)

フクロウは,聴覚と視覚と,聴覚間の時間差と視覚的受容野の 位置の情報を統合して彼らの環境の空間的マップに受像する. 若いフクロウは,実験者たちは、フクロウの目にプリズムを取 り付けて,受容野において位置を右方向にずらせると,これを 補正する方向に目をずらせて再適応することがある.この特殊 な適応能力は,成育した鳥類では,著しく減少するかまたは存 在しない.Knudsen (p. 1531; Barinaによる解説記事(p.1451) を参照のこと ) は,若いときに一時期プリズムの影響を受けた ことのある成育したフクロウは,こうした出来事の痕跡を残し ており,生育したときに同じプリズムで置き換えられても適合 できる.さらに,こうした痕跡は一生の早期の出来事において 特有である.なぜなら左方向にシフトさせる新たなプリズムは 適応性を誘発しないからである.(TO,SO)

金星の熱的変化(Thermal evolution of Venus)

金星の表面の外殻(地核)は、広大な火山の多い平原と、いく つかの火山による隆起と、大部分を占める高原とによって占め られている。外殻の多くは10億年と5億年の間の古さのよう である。Phillips と Hansen (p.1492) は、これらのさまざま な地形学的な変形がいつ起きたかという関係を示す最近の研究 を集めて熱的進化に関するモデルを提案している。高原領域は 熱い外殻の初期の伸長を記録しているように見える。後期の変 形と火山活動は、高原領域の地殻が時とともに冷却し厚くなる ことと整合している。かれらは、これらのことやその他の特徴 は、熱いマントルプルーム上における外殻の高原の初期形成と、 時間とともに惑星が冷えるにつれて、マントル中での対流の様 式変化に関係している可能性があると示唆している。(Wt,Tk)

下沈み込むスラブによって持ち上げられるオーストラリア (Uplifting Australia with a downgoing slab)

白亜紀に,海面上昇が最大になった海進期に他の蝸、は水浸し になったにもかかわらずオーストラリアの大部分は高く持ち 上げられ乾燥していた.白亜紀のオーストラリア下のマント ルは冷却しているという一見矛盾した現象を示す異常な地球 化学上のデータを説明するため,Gurnisら(p. 1499)は,オ ーストリア下のマントル対流を,当時のプレートの推測され た動きも加味して,今から1億3千万年前までをモデル化した. これらのモデルは,白亜紀間にオーストリラアは,その大陸 の下に沈み込んで行ったスラブ(subducting slab)によっ て持ち上げられ,現在も南東インド中央海嶺によって支えら れていることを示唆している.モデルが観測とよく適合して いることは,マントルと地殻とのカップリング (mantle-crustal coupling)が,未解決な構造地形学上の 変則を説明するために,重要な要因であることをしめしている. (TO,Og)

小さなイオの上の大きな傾斜の崩壊 (Big slope failure on little Io)

イオは、ガリレオ衛星の中でもっとも小さいものであるが、 その活発な火山活動で注目されている。この火山活動は、 外殻表面の変形を知る手がかりと、内部のダイナミックス との関係とを与えてくれる。Schenk と Bulmer (p.1514; Irionによる解説記事(p.1457)を参照のこと) は、これとは 別の構造である イオの南半球にある Euboea Montes にお ける大きな質量移動について研究した。平滑で変形してい ない平原上に位置して急降下しているこの大規模な地滑り 隗は、おそらくこの領域の下部のイオ内部での隆起と圧縮 に関連した地滑りを表している。このような変形の特徴点 を認識し、詳細に研究することには、この小さなしかし活 発な衛星の力学的進化を理解することに資するであろう。 (Wt,Og)

加圧下での拡大(Expansion under pressure)

ほとんどの物質は、加圧下に置かれた場合、すべての方向 に対して(方位によらず)収縮する。しかし、いくつかの 例外的な物質は、加圧下で一つないし二つの特定な方向に 伸張することがある。リニアな圧縮に逆行する性質を示す、 そのような物質の例には、ランタン・ニオブ酸塩やセレン やテルルのある種の相がある。Baughmanたちは、そうし た物質を同定し、物質の方位を適切に選べば、全体の体積 は増えないにしても表面積を増やすことができることを示 した(p. 1522)。このような性質を利用した加圧下で圧縮さ れない、あるいは全体として伸張するものとして、ネット ワーク状の物質(たとえば、図示したらせん状の鎖のよう な物質)が提案された。圧縮への逆行性は、蠕虫らに見ら れる筋肉のhydrostats(水位調節機構)とも関連している 可能性がある。(KF)

時を経た粘土と上昇する海洋 (Aging clays and rising seas)

海底にたまった堆積物の年代測定は、通常、粘土に含まれる 鉱物の大量の試料に対して、カリウム-アルゴンまたはルビ ジウム-ストロンチウムの同位元素系を用いて行なう。そう した測定は、長い期間にわたって形成された一連の粘土中の 鉱物に対して行われるため、得られた年代には大きな違いが 生じうる。Smithたちは、ナノメータ・サイズのglauconite の粒からなる単一の粒子の年代測定を行なうために、アルゴン -40-アルゴン-39に対するレーザ・プローブ法を開発したが、 これは与えられた堆積物の試料についてより正確で均質な年代 を与えるものである(p. 1517)。この、年代に関する分解能の より高い方法で、彼らは、堆積物の一連の配列に反映されてい る地球上の海面の高さのありうる変化を明らかにすることが できたし、地球規模の変化に関する有益で詳細なトレーサを提 供しているのである。(KF,Og)

風化についての見方の変化(Change in the weathering)

鉱山からの酸性廃液の流出は、硫化物を豊富に含む鉱物が酸化 や風化によって硫酸に変わることによって大きな問題を引き起 こしている。石炭や金属の鉱業は、反応性の鉱物を地表近くで 濃縮したり、鉱石を地上の水にさらしたりすることで、この問 題および関連する重金属汚染を悪化させてきた。風化は微生物 によって非常に強められたり、触媒作用の影響を受けたりする。 風化に影響を及ぼす主要な細菌は、硫黄菌属の一種である Thiobacillus ferrooxidansだと考えられており、この種はほ とんどの研究室実験で使われてきたが、例によって、この細菌 の実際の環境での働きについて明らかにすることは難しかった。 Schrenkたちは、分子法を用いて、カリフォルニア州アイアン ・マウンテンにある鉱山での微生物の実際の環境下での分布を 調査した(p. 1519)。データは Thiobacillus ferrooxidansよ りはむしろLeptospirillumferrooxidansが鉱山の酸形成領域 において優勢であることを示している。(KF)

交差点にて(At the crossroads)

物質が転位する際の運動と相互作用は、たとえばその物質の可 塑性に大きな影響を与えるが、そうしたプロセスについてリア ルタイムに実験的観察を行なうことは、プロセスが複雑だった り進行速度が速かったりするせいで、むずかしい。だから、そ うした機構は、通常プロセス終了後に得られる情報、たとえば 電子顕微鏡で得られる情報によって推測されることになる。 Zhouたちは、銅における転位の交差について、大規模な分子動 力学的シミュレーションを実施した(p. 1525;また、Gumbsch による注釈p. 1489を参照のこと)。接合部の形成から、複雑な 段階をいくつも経て、単位長さのジョッグ(jog)が形成された。 この最終状態は、実験で観察されるものと同様のものであった。 (KF)

DNAのストレス開放を助ける酵素 (Enzymes that help DNA relieve stress)

トポイソメラーゼは、一時的にDNA鎖を切断して、結果として DNA二重らせんの構造を変化させる酵素である。この中で、真 核生物のトポイソメラーゼ1型は一本鎖を切断し、これによっ てらせん体の巻き付け過剰やねじれ不足で蓄積している歪み エネルギーを開放する。これらの歪みはDNAの複製中や転写中、 そして、染色質の組み立て中に導入されている可能性がある。 Redinboたち(p.1504)、および、Stewartたち(p.1534)は、 ヒトのトポイソメラーゼ1型がDNAと非共有結合、および共有 結合の複合体を形成するときの3つの結晶構造を示し、ねじれの 歪みエネルギーを減少させるための制御された回転メカニズムと 抗ガン薬のカンプトセシンに結合するメカニズムを明らかにした。 (Nashによるコメントを参照;p.1490)(Ej,hE,SO)

骨髄から筋肉(Muscle from bone marrow)

筋ジストロフィーの治療のひとつとして、変性筋肉を新しい 筋肉で置換することが考えられる。Ferrariたち(p. 1528; Pennisiによる記事参考 p. 1456)は、骨髄における筋細胞 前駆物質の到達できる出所を発見した。骨髄細胞が酵素で遺 伝的に標識され、細胞が筋肉系列に分化する時だけに、この 酵素が活性化される。変性が化学的に誘発されたマウスにお いて、変性筋肉に標識した細胞を注射したり、骨髄を標識し た骨髄で置換したりした。いずれの場合にも、標識した細胞 は、損傷部位において多核筋線維に分化した。この結果は、 骨髄における細胞が生体内で成熱横紋筋に分化できることと、 遺伝的に修飾した骨髄細胞が遺伝子を発現し、筋肉に生存で きることを示している。この方法を用い、遺伝性の筋肉障害 の治療の選択肢を探索できる。(An)

天然CD1d1リガンド(Natural CD1d1 ligand)

マウスCD1d1は、主要組織適合性様の抗原であり、ナチュラ ルキラーT細胞という特別なリンパ球サブセットの標的である が、CD1d1がどの天然リガンドをナチュラルキラーT細胞に 提示するか。Joyceたち(p 1541)は、細胞性のグリコシルホス ファチジルイノシトール(GPI)を溶出し、質量分析を用い、 GPIを同定した。この分子は、CD1の結晶構造において、以前 に同定されている疎水性ポケットにあてはまる。リガンドがわ かると、ナチュラルキラーT細胞の成熱および免疫応答におけ る役割を明かになるかもしれない。(An)

光を見る(See the light)

生体時計は、視交差上核と呼ばれる、脳内の小さい原始的な 核の中に存在する。日が長くなったり、短くなったりするに つれ、体内時計は網膜から来る光によりリセットされる。今、 Morrisたちは(p.1544)、どのようにしてこのリセットが起 きるかのパズルに一つの解決を与えた。相補的DNAサブトラ クション法で、彼らは光により、視交差上核内に、早期応答 要素のc-fos、nur77とegr-3といったいくつかの転写因子 を生じさせることを実証した。これらはZnフィンガー転写制 御因子であり、脳のこの領域では従来発見されていなかった ものである。(Na,SO)

悪のパートナー(Partner in crime)

急性前骨髄球性白血病(acute promylocytic leukemia: APL) では、レチノイン酸受容体(RARα)をコードしている遺伝子と 未知の機能の遺伝子PMLとを融合する染色体の転位と関連して いることが多い。PMLの欠乏しているマウスを研究し、Wangた ちは(p.1547)、この遺伝子は造血細胞前駆体の分化を制御し、 レチノイン酸の細胞増殖抑制作用と分化誘導作用に必須であるこ とを示した。レチノイン酸は遺伝子発現の自然発生的レギュレー タであり、APLの臨床治療薬として用いらている。このように、 PMLはRAR遺伝子との無害な組み換えのパートナーでなく、それ 自身で腫瘍形成に重要な役割を果たしていると思われる。(Na)

内外の情報伝達(Signaling inside and out)

膜スフィンゴ脂質代謝産物であるスフィンゴシン-1-リン酸 (SPP)は、細胞内のメッセンジャーであり、多様な細胞外の信 号に応答して生成され、細胞における情報伝達経路を調節する。 Leeたち(p 1552)は、血清中にも大量に存在するSPPは、ヘテ ロ三量体のグアニンヌクレオチド結合タンパク質(Gタンパク質) に結合するオーファン受容体EDG-1のリガンドであることを報 告している。EDG-1は、内皮細胞の分化に関与するが、結合の 相手は未知であった。SPPの結合によるEDG-1の活性化は、カ ドヘリン発現の増加および分化した内皮細胞の特徴である接着 結合複合体の形成をさせ、分裂促進因子によって活性化される タンパク質リン酸化酵素ERK-2と小さなグアニンヌクレオチド 結合タンパク質Rhoを活性化した。このように、SPPが細胞内 と細胞外の情報伝達の役割を果しているようである。(An,SO)
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