AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 27, 1998, Vol.279


オーキシン経路の中(Inside the auxin pathways)

オーキシンという植物ホルモンは、植物の生長と発生に重要 である。いくつかの遺伝子がオーキシン応答に重要であるが、 オーキシン処理によって発現を変化する核のタンパク質が生 化学研究によって同定された。しかし、この2つの研究方法 の繋がりは、今まで不明であった。Rouseたち(p. 1371)は、 オーキシン応答を制御する遺伝子のひとつをクローン化し、 この遺伝子によってコードされるタンパク質がオーキシンに 応答して誘発されたタンパク質と類似することを示している。 このように、AA17/AXR3遺伝子は、オーキシン情報伝達経 路の初期におけるリンクの役割をはたしている。(An)

決定的な役割のカンジダ遺伝子(Critaical Candida gene)

真菌であるカンジダ・アルビカンスによる感染は、未成熟な 乳幼児、糖尿病患者、外科手術を受けている患者、および、 免疫無防備状態の個人には致命的となり得る。この、カンジ ダ・アルビカンスが細胞に接着する能力や、糸状に変化する 能力は、その病原性に関係している。Galeたち(p.1355)は、 INT1と言う1つの遺伝子が、接着性にも糸状への変化にも 必要であるだけでなく、マウスを殺す能力があることを明ら かにした。この遺伝子の活性を破壊することが薬物療法に とって重要と思われる。(Ej,hE)

Srcと長期増強(Src and long-term potentiation)

チロシンのリン酸化が神経細胞の効力を強化すると言う長期 増強(LTP)の誘導に必要であり、学習や記憶のモデルと考え られていることは、すでに確立した考えである。Luたち (p.1363)は、この機能にはどのキナーゼが有効である可能性 が高いのか、そして、海馬のLTPを誘導する必要十分なもの として、非受容体タンパク質のチロシンキナーゼSrcを同定 した。(Ej,hE)

夜の光(Night light)

概日性リズムは脊椎動物の昼と夜のサイクルを維持し、夜間 のメラトニン循環レベルの増加を反映している。Gastelたち は(p.1358)、夜間に少しの光を当てることでメラトニン生産 に必要な酵素の一つである松果体のセロトニンN-アセチル基 転移酵素の活性を劇的に減少させることを示した。この制御 は酵素を急速に破壊するプロテアソームの分解により生ずる。 (Na)

惨事のからの再生(Recovering from disaster)

白亜紀と第三紀の境界で起きた恐竜や他の多くの種の絶滅の 後、海生および陸生生物の生物群は、全地球的規模で急速に 回復した。Jablonski (p.1327; Erwin による解説(p.1324) も参照のこと) は、北アメリカのメキシコ湾岸、北ヨーロッパ、 北アフリカ、パキスタン-北インドの4つの地方における絶滅 事件直前直後の海生軟体動物相の進化上の多様性について調べ た。彼は、軟体動物は、北アメリカでは他の3つの地方に比べ て速く回復したことを見出した。彼は、この異常な回復は、メ キシコ湾岸地方が、現在主張されている小惑星衝突の起きた チクシュラブ(Chicxulub)のユカタン半島に最も近いことと直 接的な関係があるとの仮説を立てている。この小惑星衝突こそ 大量の絶滅を引き起こしたのである。これらの結果は、チクシュ ラブ衝突事件を支持するのみならず、偶発的な事件が生物多様 性と生物地理学との関連を複雑なものにする可能性を示唆して いる。(Wt,Tk)

気候がどうであれ、急変 (Abrupt shifts whatever the climate)

最近の詳細な掘削氷柱コアや深海の掘削コアの研究によって、 この50、000年から100、000年の間に、気温と気候の急変が 数千年間隔で生じていることが明らかになってきた。このパタ ーンは最新の氷河後退期や完新世に渡って続いていることから、 このような気候パターンは、大規模な氷床の存在とは無関係の ように見える。この気候パターンが、更新世初期を特徴づける ものか、あるいは、最終氷期だけに発達したものであるかは良 く分かっていなかった。Oppoたち(p.1335; Kerrによるニュー スストーリ,p.1304)は、このような千年単位の気候周期が北大 西洋の掘削コアに300、000年から540、000年前に渡って記 録されていること、および、この周期が海面温度や深海の海洋 循環に影響を及ぼしていることを示した。この記録は極度の氷 河期から温暖な間氷期をカバーしている。このことから、千年 単位の気候変動は、少なくとも過去500、000年の間、ほぼ一 定間隔で継続しており、これは地球規模の気候には依存してい ない。しかし、海洋循環には深く関わっている。(Ej,hE,Nk)

変動した収支決算(A perturved budget)

亜酸化窒素(N2O)は温室効果ガスの重要な一員である。これには 天然と人工の発生源があり、この大気の収支に寄与している。も し、我々が今世紀のN2O濃度の増加を理解し、排出を制御しよう とするなら、地球全体のN2O濃度に対するこれらの寄与分を同定 することは必要なことである。N2Oの排出量を観測することは困 難であるため、化学的モデルを利用して人類起源と天然ガスの起 源の分を推測した。Prather(p.1339)は、どのようにして、N2O と成層圏のオゾンの光化学的カップリング反応が、人間活動に起 因するN2O源による大気中の変動原因を突き止めることが出来る かの、1次元の垂直拡散モデル(カップリングは、成層圏、対流圏、 海面との境界層で生じる)を示している。この変動は、地球全体 のN2Oの大気中での寿命より、10−15%早く減衰する。このよ うな、より早い減衰は、化学モデルによる人類起源のガス発生源 の推論に影響を及ぼすであろう。(Ej,hE,Nk)

氷の掘削コアの同位体と地球磁場 (Ice core isotopes and geomagnetism)

地球磁場は宇宙線から地球を保護している。このため、 過去の地球磁場変動に関する一つの詳細な記録は、氷 の掘削コア中の宇宙線によって生ずる同位体量によって 与えられる可能性がある。Baumgartnerたち(p.1330) は、グリーンランドの GRIP アイスコア(氷の掘削コア) からの塩素36の記録が、海洋堆積物からの古地磁気の データに基いて再構成された地球磁場から推測される 生成率と良く一致することを示している。この GRIP アイスコアはおよそ10万年前の過去まで及んでいる。 そのデータは、磁場はおよそ3万8千年過去において 特に弱かったという推定を支持している。(Wt)

冷えた熱帯(Cool tropics)

およそ21,000年前、最終氷期最盛期には地球の気温は 今日よりも低かった、しかし、熱帯地方、特に熱帯性海 洋の正確な冷却の程度には議論のあるところである。気 候モデルでは、過去の熱帯性の海洋表面の温度は中程度 の冷却しか示さない。BushとPhilanderは(p.1341)、 海洋と大気間の重要なフィードバックを考慮に入れた、 より現実的な大気-海洋モデルにより、最終氷期最盛期に はかなりの冷却が起きていたことを示した。この分析は、 海洋表面の温度冷却が同様の規模だったという、いくつ かの古気候データの解釈に支持を与える。(Na)

炭酸の化学(Carbonic acid chemistry)

炭酸、すなわちH2CO3は、二酸化炭素や水、および炭酸 水素塩や炭酸塩のイオンが関係する多くの化学反応におい てキーとなる中間生成物である。宇宙物理学的な、あるい は惑星の環境のほとんどにおいては、炭酸はあまりに急速 に二酸化炭素と水に分解するので、検出できるほど十分な 量が存在できないと考えれらてきた。Hageたちは、実験室 実験と熱力学的な計算の結果を報告している(p. 1332)が、 それによると、炭酸は昇華し、分解することなく再凝結す ることができるとされる。炭酸は、こうして、彗星、火星 の氷冠、地球の大気の上層、そして氷の惑星で観察される スペクトル特徴の幾つかに存在し、それを説明することが できるのである。こうした環境のうちのいくつかでは、水 と二酸化炭素の氷の高エネルギー照射によって、直接アモ ルファスな炭酸の形成が行われうるのである。(KF)

分子の擬態と自己免疫疾患 (Molecular mimicry and autoimmune disease)

米国におけるヒトの失明の主要な原因は疱疹間質性角膜炎 であるが、これには自己免疫性が関与していると考えられ ている。Zhaoたちは、マウスのモデルを用いて、角膜組織 の破壊を仲介するT細胞が、単純疱疹ウイルス-1型(HSV-1) のコートタンパク質の抗原決定基の認識もするということを 示した(p. 1344;Dickmanによるニュース記事p. 1305参照)。 ウイルスがこの抗原決定基を発現しないようにできている場 合には、そのウイルスはもはや疱疹間質性角膜炎を誘発する ことはない。こうして、失明についてのマウスのモデルの詳 細な検討が、その病気の病原性についての洞察を与え、ウイ ルスによって引き起こされる自己免疫疾患において分子擬態 (形が似ていること)が重要であることの証拠を与えてくれ るのである。(KF)

作業記憶の場所(A place for working memory)

作業記憶、すなわち即時の利用のための情報の貯蔵を 仲介する脳の領域の存在とその場所がどこであるかに関して、 サルの脳については一般に合意ができているが、ヒト の脳については論議が続いてきた。機能イメージング法 によって、Courtneyたちは、そのような領域が存在 すること、しかも予期せぬ位置にあることの証拠を示 した(p.1347)。上前頭葉溝(superior frontal sulcus) のある領域が、顔の作業記憶などと区別される空間的な 位置の作業記憶に特化しており、眼の運動に役立つ隣接 する脳の領域(前頭葉の眼の場:frontal eye field) とは区別されることが発ゥされた。ヒトの作業記憶領域 と前頭葉の眼の場の関係は、サルの場合と同様だが、こ の領域はサルの作業記憶領域と比較して、脳全体に対し てより上側かつ後側に位置している。(KF)

脳波のモデリング(Modeling brain waves)

興奮性ニューロンの結合性は、離散刺激に応答して、 細胞のネットワークに素早く波及する脱分極の波を生 み出す。脳のスライスについての電気生理学的研究の 最近の結果は、抑制性ニューロンもそのような同期的 活性のトリガーとなることを示している。Rinzelたち は、そうしたネットワークのモデルを構成し、ニュー ロンの波的な漸強を再現した(p. 1351)。彼らは、逆転 電位などの細胞の特性が、伝播の速度や頻度、空間パタ ーンに与える影響を探索していくことにしている。(KF)

花の季節(A time for flowers)

植物は、発生的な合図と季節変化に伴う日光の長さに 応答し、栄養生長期から開花期へ移行する。Guoたち (p 1360;Suarez-Lopezによる注解参考 p 1323)は、 青色光受容器と赤色光受容器が共同して開花開始を制 御することを発見した。シロイヌナズナにおける青色 光受容器をコードする遺伝子CRY2は、遅開花変異体 fhaにおける変異遺伝子と同じである。光受容器は、 CONSTANS遺伝子を共に制御し、生殖相への移行を させる。(An)

シナプスの特殊化(Synaptic specialization)

一つの神経は、別の標的を狙うシナプスの別々の型を 形成できるのか。解剖学的には、明らかにできるので ある。Maccaferriたち(p 1368)は、海馬の苔状線維 において、錐体細胞のあるシナプスが介在ニューロン で形成したシナプスと異なっている生化学的および電 気生理学的の特徴を持つことを示している。従って、 一つのニューロンの標的が同一の刺激に差動的に応答 するが、それによって、海馬の計算的の性質に影響さ れる。(An)
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