AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 2, 1998, Vol.279


分子メモリー(Molecular memory)

もし、分子や分子集合体を非常に制御された方法で異なる状態間を スイッチッングでき、かつ二つの状態において異なる光学的あるい は磁気的応答が可能ならば、それらを情報の単一のビットとして用 いることが可能である。KahnとMartinez(p.44) は、どのようにし たら低スピンの電子状態と高スピンの状態との間で協調的な遷移を 示すような化合物をデザインすることができるかをレビューしてい る。その化合物は有機金属クラスターの重合鎖であり、その重合鎖 におけるユニット間の協調的な相互作用により、切り離されたクラ スター化合物に比べて応答は増強される。遷移温度は組成を変化さ せることにより調節可能である。これらのスピン遷移を起こす高分 子は、温度センサーやディスプレイの素子として、あるいは情報の 記録と検索などに応用できる可能性がある。(Wt)

謎めいた発生と吸収(Mysterious sources and sinks)

水素ラジカルであるOHとHO2は、対流圏全体にわたり大気化学の 決定的なオキシダント(強酸化性物質)である。しかしながら、それ らは比較的低濃度であるため、大気中での直接的な測定は極めて困 難である。Wennberg たち(p.49) は、上層大気圏において、OHと HO2を含めある範囲の化合物の航空機による測定を行った。詳細な モデルを用いた研究により、既に知られているすべての発生源や吸 収源では測定結果を説明することができず、なんらかの付加的な発 生源が存在するはずであることが示さている。この結果はまた上層 大気圏のオゾン化学にも影響を与える。オゾンの生成は大気圏にお いて以前考えられていたものよりも速く、NOが注入されると(たと えば、航空機運行によって)、オゾン濃度に対して予想されていた 以上の大きな影響があるであろう。(Wt)

ポリマーによるイメージング(Imaging with polymers)

光屈折性の物質は、適切な波長の光を照射されることで屈折率を 変えるので、たとえば、情報を光学的に3次元で記録するために 使われる。とくに、赤外光に反応して屈折率を変えるポリマーは、 医療画像処理のために望まれているものである。Kippelenたちは、 最近提案された分子設計のガイドラインに従って、近赤外領域の 光に反応して屈折率を変える分子を合成によって実現した(p.54; またServiceによるニュース記事参照のこと。p.33)。その物質は、 全体として、生体組織に適合した透明度を有するような波長で散 乱される物質を通したイメージングを可能にする、という性能を もっている。(KF)

極性をもった膜(Polar films)

安定した極性の秩序をもつきわめて薄い(ultrathin)分子層は、 電子または電子-光機器への応用の可能性をもっているが、大 きな永続的な分極(双極子が向きを揃えること)の獲得を達 成することは難しい場合がある。Jaworekたちは、平坦なア ルミニウムの表面にらせん状のポリグルタミン酸 (polyglutamates)を接合して形成したポリマー膜の電気力学 的な特性を測定した(p.57)。極性を後で与える必要のない、大 きな永続的な分極を有するきわめて薄いポリペプチドの層が形 成されていた。この膜は、さまざまの電極や柔軟なサブストレ イトの上に直接成長させることが可能である。(KF)

安定した、磁気を帯びた核(A stable, magnetic core)

地球の磁場は、鉄を豊富に含む、流動性の外核(outer core)の 運動によって制御されていると考えられているが、数値シミュ レーションによれば、鉄を豊富に含む固体的な内核(inner core) が外核と伝導によって結合しており、これが磁場の安定を助けて いるということも示されている。GilderとGlenは、六方晶の最 密充填の鉄に、摂氏260度で16.9ギガパスカルまで圧力をかけ、 その磁気特性を決定した(p.72)。この特性を、内核の状態である より高い圧力と温度まで外挿できるとすると、彼らの研究結果は、 内核が常磁性である可能性を示唆することになる。この特性が、 必要とされる安定化の仕組みを提供していることで、外核の短期 的な変動によって磁場の逆転が起きないように保っているのかも しれない。(KF)

拡張された結果(Extended consequences)

合衆国西部のBasinおよびRange地域は、地球の地殻の拡張を研究 するのにキーとなる地域である。過去5千万年の間、地殻は、幾つ かの例では100%以上の割合で横方向に伸ばされている。多くの場 所で、地殻の伸びは、謎のような低角度の正断層を伴っており、火 山活動と関係付けられている。GansとBohrsonは、火山活動は、 地殻の伸びによって促進されるのではなく、むしろ急速な伸びが始 まるときに突然いくつかの地域で弱まるということを、逆説的に示 している(p.66)。MorrisonとAndersonは、Whipple Mountains という地域について、断層が生じることで、冷たい表面の水が流入 することになり、それが断層の下側にある低いほうの地殻の上部を 冷やすということを示している(p.63)。(KF,Nk)

マントル山の形成(Mantle mountain building)

多くの地域で、地殻プレートの動きとマントル対流循環を直接的に 関連付けることは困難である。Silverたちは(p.60)、マントルの流 れに誘発される地表の変形とプレート速度モデルの詳細な研究を行 い、南アメリカプレートとアフリカプレートの動きを異常なマント ルの湧出と関連付けた。この関連する動きに誘発されるプレー ト速度の変化は、およそ3000万年前の、アンデス山脈とアルプス・ ヒマラヤ山脈地帯の形成を説明つけることが出来る。(Na)

移動する惑星(Migrating planets)

他の太陽系において中心恒星に近い軌道を回る木星級の質量を 持つ惑星が発見されたことで、太陽系外の惑星が最初に中心恒 星の近くに形成される手段が知られていないため、どのように してこのような巨大なガスの固まりが中心恒星の近くに集まっ たのかという疑問を投げかけた。Murrayたち(p.69)は、巨大な 惑星は最初その太陽系の外側の軌道で形成され、その後中心に 向かって移動することを示唆した。惑星は、ガスの殆どが惑星 形成で消費された後にもディスク状で残る微惑星体により引き 起こされた不安定性により中心恒星に向かって押されてゆくの である。(Na)

塩味の大気(Salted atmosphere)

ハロゲン原子(例えば、塩素や臭素)は地球大気における重要な 反応物質である可能性があり、対流圏のオゾン量への影響が大 きいと考えられるが、ハロゲン原子の供給源と思われている海 水塩からの塩素ガス生成の量や過程はよくわかっていなかった。 Oumたち(p.74)は、海水塩の存在下でオゾンの光分解によって Cl(2)が生成されることを示した。これらの結果から、塩素の有 力な発生源は海洋であると思われる。(Ej,hE)

ウイルスタンパク質中のセレニウム (Selenium in a viral protein)

ポックスウイルス伝染性軟属腫(子どもによく見られるいぼ) (poxvirus molluscum contagiosum)はしばしば子供に 皮膚癌を発生させると共にAIDS患者に日和見感染を起こす。 このウイルスは組織培養で増殖せず、動物モデルでも最小限 増殖するだけであり、研究対象としては難しかった。Shisler たち(p.102;およびMcFaddenによるコメント,p.40)はセレニ ウムを含むタンパク質であるグルタチオンペルオキシダーゼ (glutathione peroxidase)の翻訳を可能とするセレノシス テイン(selenocysteine)挿入配列をコードするウイルスの オープンリーディングフレームを見つけた。セレノプロテイン も、このような翻訳制御型も、どちらもウイルス中に見られな かったものである。セレノプロテインをヒトの角化細胞 (ケラチノサイト)にトランスフェックションするとき、紫外 線照射と過酸化水素による細胞障害性効果を回避することが可 能であった。このウイルス性グルタチオンペルオキシダーゼは、 炎症反応中に宿主の免疫系によって誘導される酸化ストレスを 感染した細胞が受けることから防御しているのかも知れない。 (Ej,hE,Kj)

潜在的非依存性鎮痛剤 (Potent, nonaddictive analgesic)

モルヒネのような鎮痛剤は激痛を抑圧することが出来るが、 薬物依存症や禁断症候群と言った副作用を伴うため、医療 現場で使う場面がしばしば制限される。Bannonたち (p.77;およびStraussによるニュースストーリ,p.32)は、 独立した痛みの動物モデルを使って、潜在的にはモルヒネの 沈痛効果と同様な働きをするが薬物依存症や禁断症候群が 生じないように見える化合物について述べている。(Ej,hE)

ガイドを無視して(Ignore the guide)

発生中の軸索に対して胚正中に向かって伸びるようにという 化学誘引シグナルが出された場合に、この同じ軸索はどのよ うにして正中を離れて別の側に向かって行くのだろうか。 Shirasakiたち(p.105)は、脊椎動物の脊髄床板(floor plate) を横切るように運命づけられている軸索は、いったん床板の 細胞に到達すると化学誘引物質に対する感受性を失ってしまう ことを示した。複雑な経路を通る軸策の誘導にとっては、 様々なシグナルに対する感受性を制御しながら変化させる ことが必要なのであろう。(hE)

最も原始的な夢(In our wildest dreams)

多くの人はレム(REM)睡眠中に夢を経験する。Braun(p.91)は レム睡眠中の視覚処理経路中の活動パターンを調べるため機能 部位の画像化の研究を実施した。最も初期の段階(線条体皮質)、 そして最高度の処理中枢(前頭葉前方皮質)が休止状態の時、 中間にある線条体外領域や辺縁系は活動状態にあり、これは 常識的に我々が感じる夢と一致している。(Ej,hE)

まず初めに(In the beginning)

酵母の研究によって、染色体DNA複製に至る特定の分子間 相互作用が明らかになってきた。BielinskyとGerbi(p.95)は、 酵母のARS1複製起点でDNA複製が開始する開始部位を正確 にマッピングした。複製開始点のマッピングを用いることによ り、連続的DNA複製と不連続的DNA複製が出会う位置を同 定した。この位置は起点認識複合体への結合部位に隣接してい る。(hE)

結核薬の標的(Tuberculosis drug target)

イソニアジド(イソニコチン酸ヒドラジド)は結核菌に対して 最もよく使われている薬剤である。この薬剤の活性形はその標 的であるInhAを阻害するが、InhAはニコチンアミドアデニンジ ヌクレオチド(NADH)を補助因子として用いるエノール− アシルキャリアタンパク質還元酵素である。Rozwarskiたち (p.98)は、マススペクトルと結晶学的研究を行い、これによると この薬剤の活性形は、酵素の活性部位で結合したNADHのニコ チンアミド環と共有結合する。この研究によって、薬剤耐性で示 唆されたカタラーゼ−ペルオキシダーゼ(KatG)による活性化を迂 回する薬剤の開発が可能になるかも知れない。(hE)

転写におけるカラーテスト (Color test for transcription)

細菌のTEM-1-ラクタマーゼ遺伝子によってトランスフェクション された生きた単一哺乳動物細胞の転写現象のリアルタイム映像に よる検出がZlokarnikたち(p.84;および表紙)によって行われた。 彼らは、ラクタマーゼによって切断されるとき、蛍光がブルーから グリーンに変化する細胞浸透性基質を設計した。この系の感度は高く、 肉眼で色の変化が見えるためにはラクタマーゼ100分子以下の発現で 足りる。従って、プロモーターによる修飾がなくても内在性遺伝子の 発現研究に利用できる。(Ej,hE)

うろつき回る極とカンブリア紀についてのコメントのまとめ (Technical Comment Summaries Polar Wander and the Cambrian)

J. F.Kirschvinkたち(7月25日号p.541)は、カンブリア紀の鍵と なる大陸移動は、地球のモーメントの慣性テンソルの交換作用に よって引き起こされている(つまり、これが真の極のふらつき=TPW) と提案したが、T.H.Torsvikたちは、このTPWのアイデアは興味ある ものであるが、いくつかの研究によって得られた地磁気の試料から 得られた「より完全なデータ」によれば、現在のプレートテクトニック の体系によく整合している。この意見に応じて、Kirschvinkとその同 僚たち(Evansたち)は、彼らの仮説は「より信頼性の高いデータ」に基 づいており、これは、初期カンブリア紀の地質学の記録の多くの特徴を うまく説明できると述べている。これに関する全文は、以下を参照 (Ej,hE)。
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