AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 7, 1997, Vol.278


海氷の減少と拡大(Ins and outs of sea ice)

北極の氷山の範囲は減少しつつあると認識されていた、しかし、 南極の傾向はより不確かである。Cavalieriたち(p.1104)は、 人工衛星からのデータを使い1978年から1996年までの両極の 傾向について分析した。結果は、北極の氷山の範囲が減少した ことを確認したが、南極においてはわずかに拡大したことを 示した。この傾向は大気中の二酸化炭素レベルが増加した場合 の地球規模の気候モデルの一つと一致した。(Na)

ちょっぴりの熱でルピーを変化させる (Transforming ruby with a little heat)

ルビー(クロムがドープされた酸化アルミニウム)は、ダイヤ モンドアンビルのセルの圧力校正として利用される。これら の実験はより高い圧力(数百GPa に達するまで)に到達する よう続けられている。このため、ルビーの構造がこのような 条件下においても明瞭に定義されることを確かめることは 重要である。最近の理論的成果は、およそ 70 から 90 GPa の間で構造的変化があることを示している。Funamori と Jeanloz (p.1109)は、70 から 100 GPa の間でダイヤ モンドアンビルのセルを熱した状態でのルビーの構造的変化、 おそらくは Rh2O3 (II)構造への変化を実験的に確認した。 試料を加熱することにより、非加熱では運動論的には禁止 されている相変化を誘発している可能性がある。そして、 この日常的に用いられる圧力校正であるルビーの高圧高温下 での構造変化を理解するためには、さらに多くの実験が必要 であろう。(Wt)

損失が損失を生み出す(Loss begets loss)

雨林の部分的な伐採により取り残された森の断片は、その他 の森全体に対してどのような影響を与えているのだろうか? Lauranceたち(p.1117)は,アマゾンでの断片化された森 (fragmented forest)では,かなりの地上の生物量が 失われること,そしてある森ではそれが最大3分の1になる ことを報告している。断片化された森の端において急激に 高まる樹木の枯死率は,微気候(局地気候)の変化や風の 流れの乱れが原因となると思われる.この長期にわたる 調査は,この損失は新たな樹木の補充では埋め合わせられ ないことを指摘している (Williamsによるニュースストーリを参照のこと)。(TO)

タンパク質のつぎ当て(Protein patching)

タンパク質とその受容体のようなタンパク質インターフェース には、それがなかったり変異したら結合が成り立たなくなる ような不可欠のアミノ酸が存在する。Atwellたちは(p.1125)、 そのように結合を破壊されたタンパク質でも回復可能な方法を 示した。ヒト成長ホルモンの受容体から、不可欠なトリプト ファン残基を除き、次にこれのライブラリーを作り、さらに 活性を回復させるような変異体をスクリーニングした。その 結果5つの新しい変異体を見つけ、これのX線構造解析の結果、 かさ張るトリプトファン残基が除かれたときに出来た大きな 空孔を、この変異が埋めていることを示した。(Ej,hE,Kj)

脂質によるスイッチ・オン(Turned on by lipids)

多くの細胞表面受容体は、その信号を細胞内に送るのに、 ヘテロ三量体のグアニンヌクレオチド結合タンパク質 (Gタンパク=G proteins)との相互作用を利用している。 Gタンパク質は可逆的にパルミトイル化されるが、この ような脂質修飾の機能的効果はわかっていなかった。 Tuたち(p.1132)は、Gタンパク質Gzのサブユニットが パルミトイル化することが、このタンパク質による情報 伝達を延長させているのであろうと報告している。 Gタンパク質の活性型はグアノシン 三リン酸 (GTP)結合 を持っており、GTP からGDPへの加水分解が、シグナルを 不活性化させる。パルミトイル化は、Gαzの Gz GAP あるいはGAIPへの応答を減少させるが、この Gz GAP または GAIPは、正常状態ではGazのGTP加水分解酵素活性 を増強しているタンパク質である。従って、パルミトイル化 の主要な機能は、GTP加水分解酵素活性化タンパク質による Gタンパク質の感度を不活性化するように制御することに あるように見える。(Ej,hE,Kj)

視覚情報を追跡する(Tracking visual information)

空間認識と対象識別を仲介する視覚プロセスの流れは, 脳の後にある一次視覚野から背側経路と腹側経路を通って 前頭葉前部へと伝えられる。これら2つの経路がこの 脳領域で合流し始めるという提案とともに,Scalaidhe たち(p.1135)は,視覚情報のこうした側面,即ち通常 “どの位置に”とか“何が”として知られる2つの側面 は大局的には分離されたままであるという見方の新たな 証拠を示す.彼らは,対象識別機能の見本として,サル の前頭葉前部にある顔に反応する神経の配置をマップし, それらが凸状部の内側に限定されていることを明らかにした。 そして,知覚入力の再合成と“どの位置に”と“何が”と の統合が,どこか別のところで起こっていることも示唆 している。(TO)

リボゾームの計測 (Taking the measure of the ribosome)

翻訳の間、転移RNA(tRNA)は、アンチコドンのある ステムループを介してメッセンジャーRNAのコドンへに 結合するが、リボゾームRNA(rRNA)そのものもtRNA結合 にかかわっている。Joseph たち(p. 1093)は、切断法を 利用して、tRNA結合部位近くのrRNA領域のマッピングを 行った。ステムループと、RNAの4から33塩基対とから なるRNAプローブを作製し、RNAらせん体末端に付いて いるFe(II)イオンを用いて、rRNA近傍を切断する水酸化 ラジカルを生成した。そして、A、P部位近傍のrRNAの 3次元構造をモデル化するために切断されたパターンを 利用した。(Ej,hE,Kj)

月の年代(Lunar time)

月は、一般には、火星程度の大きさの小型惑星が原始地球へ 衝突した後、これに続いて形成されたと考えられてきた。 Lee たち(p.1098) は、多くの月の試料中の タングステン−ハフニウムの同位体を測定することにより、 この原始惑星系の歴史を研究している。この同位体系は、 タングステン-182 は短い半減期(およそ 900万年)を有して おり、タングステンはそれが形成される時は金属核の中へ 凝集される傾向があるため、原始惑星系の進化を 評価するのに有用である。このデータによると、月はおよそ 45億年前に形成された。(Wt,Og,Tk)

よく並んで(Good alignment)

核磁気共鳴(NMR)による巨大分子の結合距離と結合角度の 直接測定がTjandra と Bax (p. 1111; Serviceによるニュースストーリ参照; p. 1015) によって報告されている。彼らはディスコチックネマティク 液晶と磁性粒子を含む希釈水溶液に巨大分子を溶解した。 磁場が加わっているときは、液晶媒体は整列しやすく、その 結果巨大分子(ここではユビキチンタンパク質)も整列しや すい。整列しない双極子は、拡散によって、カップリングの 平均値はゼロとなるが、このように整列した場合は核間の 双極子カップリングがゼロにならず、これを測定することが 可能になる。こうして得られたユビキチンの構造は、X線 構造解析で得られたものとすばらしい合致を示す。 この方法は、溶液NMRによって研究可能な分子径の範囲を 広げるであろう。(Ej,hE,Kj)

ユーラシア大陸の気候の記録(Eurasian climate record)

およそ百万年以上前までさかのぼることが出来る大陸気候の 長期的な記録は南極と中国の黄土の堆積から入手できる。 Williamsたちは(p.1114)、ユーラシア大陸中心のバイカル湖 の500万年前までさかのぼる記録を記述した。記録の分析 (主なものは生体起源シリカの蓄積である)によると、ユーラシア 大陸内部の軌道変動に対する気候の応答は長期間にわたり、 大洋のものと類似であることがほのめかされる。(Na)

土壌中のセレン(Selenium in soil)

セレンは多くの川の流域や土壌に含まれる主要な混入物の 一つであるが、その移動性は、それ自身の酸化状態に依存 している。多くの土壌と沈降物は、緑色の錆(green rust) と呼ばれる鉄の酸化物も含んでいる。Myneniたちは、緑色 の錆をもその過程に含む一連の非生物的反応が、沈降物中 のセレンを還元させ、その結果セレンの循環や、おそらくは 土壌中の他の微量物質の循環にも影響を与えていることを 示している(p. 1106)。(KF)

慣例に従う(Follows convention)

低バリア水素結合(LBHBs)は、2つの原子に同等に共有 された陽子によって構成される。LBHBは、気相に存在 することが知られているが、それは酵素の活性化部位に も存在していて、遷移状態を安定化するのを助け、結果 として反応を加速している、という見方も提案されてい る。Ashたちは、核磁気共鳴分光学を用い、触媒性のア ミノ酸の小さな分子モデルだけでなく、セリンプロテ アーゼの触媒三つ組残基にも適用することで、この課題 の検証を行なっている(p. 1128)。アスパラギン酸-ヒス チジン二分子によって形成される水素結合は、従来ある とされていた種類のものであって、LBHB的なものでは ないようにみえる。(KF)

冷たい舌(Cold tongue)

クジラのような温血動物が、非常に栄養豊かな高緯度の 水の中で繁栄するには、それらはかなり大きな潜在的な 制約、すなわち舌からの熱の損失に打ち勝たなければ ならない。ヒゲクジラ(baleen whales)の舌は、とりわ け大きく、皮膚と違って厚い脂肪の層で覆われることも ない。HeyningとMeadは、コククジラ(gray whale)の 舌が大きな向流熱交換体をもっていることを示している (p. 1138)。生きたコククジラの口腔の温度測定によって、 この熱交換体は、冷たい極地の海や極に近い海で餌をと る場合の熱損失をかなり減少させることができることが 示唆される。(KF)

クラス識別(Class distinctions)

tRNA合成酵素(アミノアシルtRNA合成酵素)はアミノ酸 を(ATPによって)活性化させ、それをtRNAに結合させる 酵素(RSというtRNA合成酵素)であるが、全ての生物体に おいて、2つのクラスに分布しているとみられている。 しかし、特定のArchaea種 (メタン生成菌)においては、リジルRSというクラスII RSが 同定されることがなかった。Ibbaたち(p. 1119)は、この酵 素をひとつの生物体から精製し、対応する遺伝子をクローン 化した。この遺伝子が2つの他のメタン生成菌においてまだ 割り当てられていなかった読み枠に対応していることを発見 した。配列によれば、このリシルRSが実際にクラスIに属し ていることが示唆されたが、RSの進化について疑問をおこ す。(An)

皮だけの応答(Skin-deep response)

肢運動の制御には感覚神経と運動神経と筋肉との間の複雑な 相互作用が関与している。Viana Di Priscoたち (p.1122;Grillnerによる展望参考p.1087)は、ヤツメウナギ において皮膚からの感覚入力がどのようにして尾部運動に翻 訳されるかを研究した。特定の刺激閾値において、網様体脊 髄ニューロンへの入力が運動指令へ変換される。(An)

襲撃を回避(Evading attack)

病原細菌は病原タンパク質を分泌することによって、宿主の 自衛によって病原細菌が殺されるのをまぬがれる。適切な分 泌系を標的にするこのようなタンパク質の特質、例えばアミ ノ酸配列など、の同定が今までできなかった。Andersonと Schneewind (p. 1140; Silhavyによる展望参考 p. 1085) は、ヒトと動物に感染するエルシニアエンテロコリチカ菌 (Yersinia enterocolitica)において、病原因子の翻訳と 分泌が密接なつながりを持つと思われることを報告している。 さらに、決定的な領域のアミノ酸配列を完全に変化させる フレームシフト変異があっても、適切な分泌があった。 このように、翻訳中のメッセンジャーRNAの本質的性質が 分泌信号を提供するとみられる。(An)
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