AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 5, 1997, Vol.277


清掃隊(Cleanup squad)

ニューロンは、細胞間のシナプス間隙と呼ばれる特別なすきまに、神経伝 達物質を放出することによって、互いに情報伝達をする。間隙の反対側の 細胞が応答した後、輸送体は、間隙の余分な神経伝達物質を取り除く。 小脳ニューロンのシナプスの詳細な電気生理学的分析によって、Otisたち (p.1515)は、神経伝達物質グルタミン酸の輸送体が、グルタミン酸の受容体の 近くのシナプス後細胞の中に濃集しており、その割合は、各AMPAグル タミン酸受容体に対して少なくとも15個の輸送体であることを発見した。 これによって、開口分泌事象毎に、少なくとも850個の輸送体と結合する ことによって、シナプス間隙からシナプス後細胞へと、急速にグルタミン 酸を除去することが保証される。(Ej,hE,Kj)

遺伝子をとき分ける(Combing through genes)

多数の疾病が決定的な遺伝子における小さな欠失に関連している。 このミクロ欠失を検出するのは困難であり、多くの時間を要することである。 Michaletたち(p.1518)は、DNAの長い部分を伸展するいわゆるコームする手法を紹介 している。蛍光標識化によって、数千塩基程度の間隙の検出が簡単にできた。 この手法は、ヒトのゲノム配列の決定に重要である地図の作成と評価を促進 するであろう。(An)

Cdc25と細胞周期(Cdc25 and the cell cycle)

細胞分裂周期は、細胞が損傷したDNAを持っている場合には静止する。 この損傷DNAのチェックポイントの不良が、癌性細胞を生む原因に なっているのかも知れない。脱リン酸酵素Cdc25は、サイクリン依存 性キナーゼCdc2の脱リン酸と活性化をする、細胞周期の決定的な 制御装置となっている。DNA損傷に応答して惹起されるシグナルが、 Cdc25のリン酸化と不活性化を起こすことによって細胞分割を阻止する と言う証拠が3件の報告に紹介されている(Weinert,p.1450による 展望記事を参照)。Furnariたち(p.1495)は、照射された分裂酵母 の細胞周期が静止するためにはCdc25が必要であることを研究し、 Cdc25をリン酸化する酵素としてタンパク質キナーゼChklを示唆した。 Pengたち(p.1501)は、ヒトのCdc25は、特異的なセリン残基のリン酸化 によって制御されていることを見つけた。このセリン残基を欠く突然変異体 は14-3-3タンパク質(これはCdc25活性の制御に寄与しているらしい)に 結合しなかった。そして、過剰発現された場合は、DNA損傷に応答して 細胞が細胞周期の静止から免れる(つまり、静止しない)。Sanchezたち (p.1497)はヒトのChk1タンパク質キナーゼをクローン化した。彼らは、 Chk1がヒトのCdc25の直接のリン酸化を仲介しており、それによって 細胞が有糸分裂に入るのを阻止しているらしいことを示した。(E,hE,Kj)

過剰なX線(Excess x-rays)

若い恒星状天体(YSOs)は、より進化した太陽のような若い恒星よりずっと多くの X線を放射している。Shuたち(p.1475) は、YSOの磁気圏と周りの降着円盤との 時間的に変動する相互作用によって過剰なX線がいかに発生するかについて議論 している。彼らはこの相互作用に関する彼らの"X風"(訳注1)モデルを修正して、YSOと 降着円盤とを結ぶ磁場中で生ずる揺らぎを含むようにした。この揺らぎはYSOと 降着円盤との回転速度が異なることによる。このようなプロセスは、X線フレアを 強めるであろう。そして、コンドリュール(訳注2)の形成(それには粒子の溶融と冷却の サイクルを繰り返すことが必要である)と、短寿命の放射性元素(X線の照射に より作られる)の量を説明するのに役立つであろう。(Wt,Nk)
(訳注1)元の英語は、x-windであるが、これは磁場と回転のある星から吹き出る 粒子の流れが赤道付近で強力な加速を受ける風のような振る舞いをするが、これを extraordinary windおよび、発生するX線の両方にかけてこのように呼んでいる。
(訳注2)コンドリュールとは細粒の球状珪酸塩鉱物(主に橄欖石と輝石)であり、 コンドライト(球状隕石)に含まれている。

金属の上の電子(Electrons over metals)

鏡像ポテンシャル状態は、金属表面上の励起された電子状態である。これらは 比較的長寿命の弱く結合した電子である。Herたち(p.1480; Plummerによる 展望記事(p.1447)を参照のこと) は、フェムト秒時間オーダーの2光子放射分光を 用いて、これらの電子状態の周期的運動が実時間で観測できることを示した。 観測されたダイナミックスは低い量子状態の孤立した量子状態を反映しており、 より高い量子状態へ向けていくつかの状態が同時に励起されることにより、 コヒーレントな現象が生ずる。これらにより高い量子状態では、800フェムト秒の 周期の振動が観測された。そして、電子は表面から200オングストローム離れた ところまで動くことができた。(Wt)

イオウの繊維(Sulfur strands)

細菌は近年、鉱化においてとくに重要な役割を果たしている、と認められて きている。TaylorとWirsenが、このたび、純粋なイオウからなる長い繊維を 産生する細菌について記述している(p. 1483)。こうした繊維による付着によって、 その細菌は液体が流れ出していくような場所にとどまり続けられるのであろう。 この繊維はまた、熱水性の火道から放出される大量のイオウ粒子や、イオウの マットの起源について、説明してくれるかもしれない。(KF)

小さな天体の大きなクレーター(Big craters on little bodies)

ベスタは、地球軌道と交わる小惑星の中で最も明るく大きいものの一つである。 その明るさは、ペスタが小惑星としては独特の組成であることに関係している。 ベスタの表面は玄武岩からできており、玄武岩からなるエイコンドライト(アコンドライト)隕石 (howardites, eucrites, diogenitesのようなもの)の源としては最も有力な 候補である。Thomasたち(p.1492; 表紙も参照)は、ハッブル望遠鏡を用いて、 ベスタを1996年の地球最接近の間、観測した。そして、南極近くにその小惑星 ベスタ自身の直径と同程度の大きさの巨大な衝突クレーターを発見した。この巨大 クレーターは、恐らくは玄武岩からなるエイコンドライト(アコンドライト)の源であり、玄武岩から なる一連の小さな小惑星の源である可能性がある。後者は衝突による大きな噴出物 の破片と思われる。加えて、ベスタのこれらの映像によると、我々の太陽系の中の 比較的小さな天体でも、かなり大規模な衝突に対して生き残ることができることを 示している。(Wt)
[訳注]エイコンドライト(アコンドライト)とは無球状隕石とも呼ばれ、コンドリュールを含まない。 Excess x-rays の訳注を参照のこと。

腫瘍の発生における条件的突然変異誘発遺伝子(Conditional mutators in tumor development)

ヒトのガンの中には、ミスマッチ修復(MMR)タンパク質をコードする遺伝 子が欠けているサブセットがある。この欠失が、腫瘍の発生に必要となる突然 変異の蓄積を駆り立てることとなる突然変異誘発遺伝子の表現型を産生する、 という仮説が従来立てられてきた。MMR-欠失性の腫瘍細胞株で研究を続けて きたRichardsたちは、細胞が高い密度で存在している場合には、非常に高い 頻度で突然変異の蓄積が生じること、しかし培養条件が迅速な細胞の増殖を許 す場合にはそうならないこと、を発見した(p. 1523;Loebによる展望記事 p.1449を参照のこと)。この「条件的突然変異誘発」表現型が、微小環境によっ てしばしば細胞増殖が制限されることがある完全な(欠失体でない)腫瘍に おいても重要であるのかもしれない。(KF)

エストロゲンに対する反応(Responses to estrogen)

エストロゲン治療は閉経期の症状を軽減するために幅広く行われている。 しかし、ホルモン置換により乳癌にかかるチャンスの増加との関連性が 議論されていた。いくつかの抗エストロゲン剤は乳癌の治療に使用されて いるが、この物質は他の癌にかかるチャンスを増加させることがある。 エストロゲン情報伝達理解の研究の過程で、研究者たちはERアルファと ERベータの 2つのエストロゲン受容体のトランス活性化特性を研究した。 Paechたちは(p.1508、p.1439のPennisiのニュースストーリーも参照)、 これらの2つの受容体はリガンドまたはプロモータ応答エレメントにより 異なる信号を発することを報告した。この相違なる作用により、受容体は 異なる制御パスに関与することを示唆しており、将来の薬理学的研究の 可能性を示している。(Na)

シナプスを横切る非対称(Asymmetry across the synapse)

PSD-95タンパク質が、ニューロン間の細胞と細胞の通信ポートである シナプス後(受信側)側に見つかった。PDZ領域であるタンパク質の3つ の部分がシナプスにある他の分子を保持している。カリウムチャンネル、 N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体、および一酸化窒素合成酵素は PDZの2つの領域に結合している。Irieたち(p.1511)は、3個目のPDZ領域は、 膜貫通タンパク質で、この細胞外の部分が、もう1つ別の他の細胞(neurexin) 上にある膜貫通タンパク質に結合していることを示した。このような相互作用に よってシナプスの非対称的接合の基礎が作られているらしい。(Ej,hE,Kj)

完全な大腸菌配列(The complete sequence of E. coli)

大腸菌という細菌が1922年にはじめて単離され、生化学遺伝学、分子生物学と 生物工学における主要なモデルシステムになった。 Blattnerたち(p.1432)は、大腸菌のある株の4.6メガ塩基(Mbase)ゲノムを完全に決定した ことを報告し、推定また確定された遺伝子、オペロン、プロモータとタンパク質 結合部位の遺伝子マップ中における配置を本誌の付録として提供した。他のゲノムとの比較によれば、 広く分布された遺伝子ファミリを示唆している。同定された遺伝子の三分の一以上 の機能が不明である。この全配列決定は、生物学的進化と生物学的機能の研究を 促進するであろう。(Pennisiによる記事参考p.1433) (An)

光を放つ夜空(The glowing night sky)

外宇宙から旅をしてきて、大気を通って大地に到達する光(結果としてそれは いわゆる地上性の夜光となる)は、入ってくる光に応じてそれを吸収したり、 光を放射したりする大気中の化合物によって影響を受けている。入ってくる光に 対する大気の影響を正確に知るのは、以前の研究がスペクトルの分解能や感度に おいて不十分だったため、難しいことであった。Slangerたち(p.1485)は、Keck望遠鏡に よる高分解能のデータによって、夜光スペクトル中の水酸化ラジカルや分子酸素 による放射と吸収に関する洞察が得られることを示している。(KF)

ヘリウムの豊富なヘールボップ彗星(Helium-rich Hale-Bopp)

Krasnopolskyたち(p.1488)による極紫外線探査衛星によるヘールボップ彗星の 分光学的研究で、彗星にはヘリウムが含まれているが、ネオンはそれほど 含まれていないことが示され、軟X線を放射していることを確認した。 大量のネオンが含まれていないということは、彗星の誕生の際の温度が 25K以上だったか、その後25K以上に加熱されたことを示唆する。 ヘリウムにしろ、軟X線の放射にしろ、その起源は彗星と太陽風との 相互作用による可能性がある。(Na)

光感(A sense of light)

多種の植物において、フィトクロムが光受容器として働く。 Yehたち(p.1505)は、藍藻類におけるフィトクロムが光の状況変化に応答する方法は、 フィトクロム遺伝子に隣接している遺伝子によってコードされたタンパク質を リン酸化することであることを示した。 この2つのタンパク質は一緒になって1つのシステムを形成するが、これは 細菌性2成分の信号伝達機構との面白い類似をもつ機構である。 この機構の側面は、高等植物フィトクロムの光応答性情報伝達機構についても 説明しているのかもしれない。(An)
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