AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 15, 1997, Vol.277


M細胞を作る(Making M cells)

哺乳類の免疫系の大部分は、血流やそれて結び付いたリンパ節には存在せず、 むしろ腸と密接に結び付いて存在している。この組織と接触している腸の 領域には、M細胞と呼ばれる特殊化したトランスポート細胞が含まれている。 Kerneis たち(p. 949;表紙、および、 Madaraによる展望記事参照, p. 910) は、リンパ細胞、とくにB細胞との共培養によって腸の上皮をM細胞に転換す る試験管内での培養システムを確立した。(KF)

痛みの位置を知る(Pinpointing pain)

我々は痛みをどうやって感じるのだろう?Rainville たち (p. 968)は、機能的 脳イメージング法を用いて、熱湯にさらされた場合の、物理的な反応と情動性 の応答とを分離してモニターした。体性感覚皮膚が変化しない条件のもとでは、 前側帯状皮膚の活性化が催眠性示唆によって変調され、これによって痛み に対する情動性反応への前頭葉経路がつながのである。(KF)

テロメラーゼ ファミリーの樹(Telomerase family tree)

リボ核タンパク酵素であるテロメラーゼは、テロメアと呼ばれる染色体の 末端部分を 複製する。最近繊毛性酵母やパン酵母中に同定された触媒性タンパク質の サブユニットは逆転写酵素 (RT)のモチーフを含んでいる。Nakamuraたち (p.955;およびEickbushによる展望記事参照p.911)は、このサブユニットは 分裂酵母にも、ヒトにも保存されていることを示した。彼らは、進化樹を作 ることによって、テロメラーゼは独立したRTの亜群を形成しており、古代に その起源を発しているであろうと結論づけている。(Ej,hE,Kj)

暴力をくい止める(Stemming violence)

社会、特に都会で発生する暴力を減らすのに効果の高い要素は何だろうか。 Sampsonたち(p.918)は、シカゴの343の近隣に住む8000人以上の住民を対象とした 調査を行い、様々な人口統計、暴力データに関する分析を行った。調査の 結果は、近隣地区から暴力を減らすための重要な要素の一つは、協力的な 社会活動と隣人との結束であることを示唆している。(Na)

エルニーニョとモンスーンをつなぐもの(Connecting El Nino and monsoons)

海洋と大気間の気候性相互作用の中で最も重要なものの2つは、インド洋 に発生するアジアモンスーンと、太平洋に発生するエルニーニョ南方振動 (ElNino-Southern Oscillation (ENSO))である。両者をモデル化し、予測 するためには、このつながりを理解することが重要であるため、これら 2つの現象に対するいくつかの気象的な関連が提唱されている。Charles たち(p.925)は、インド洋西部の珊瑚礁から採取した酸素同位体組成(これは 主に海面温度を反映している)が、これら両方の気候に応答している 可能性を示した。150年前まで溯ったデータによって、これらの現象は 様々な変動、特にENSOの発生頻度の変動があるにも関わらず、両者に 関連があることが示唆された。(Na)

核にはキセノンがない(No xenon in the core)

地球の大気からは、隕石や太陽には豊富に存在することが知られている キセノンが使い果たされ、これが「消えたキセノンの謎」となっている。 研究者の中には、消えた、化学的に高度に不活性なキセノンは、鉄との 合金として地球の核に存在していると考えている者もいるが、そのような 極端な高圧、高温のもとでのキセノンあるいはそうした合金の性質に ついてはほとんど何もわかっていない。Caldwell たち(p.930)は、レーザーで 熱したダイヤモンド・アンヴィル・セルによる実験と、熱力学的計算の 外挿とにより、キセノンは、少なくとも100ないし、150ギガパスカル という圧力では、鉄との合金を作りそうにない、という結論を得た。 これにより、キセノンが地球の内部のどこかに存在するためには、キセノン を結合させる(使う)別の材料、または仕組みが必要だ、ということに なる。(KF)

膜のない輸送(Transport sans membranes)

小胞体の膜を通過するタンパク質の輸送には、膜貫通Sec複合体と、アデノシン トリホスファターゼであるKar2pタンパク質の両方が必要である。 Matlackたち(p.938)は、不純物を除いた成分を使った完全に可溶化した系を作り、 この転位(Sec複合体のサイトゾル表面から、内腔表面へのタンパク質の 移動)には、Kar2pが不可欠であること、しかし、膜そのものの存在には 依存していないことを示した。(Ej,hE,Kj)

認知欠陥の動物モデル(Animal models of cognitive deficits)

身体的な病気の動物モデルは色々と利用可能であるが、精神病については それほど多くはない。フェンシクリジン(PCP)のようなある種の薬剤は、 ヒトの精神分裂を症状を誘発することが知られている。Jentschたち(p.953)は、 ベルベット・モンキーに繰り返しPCPを投与することによって、認知 機能に関連する領域である前頭葉前部の 皮質機能の機能障害を起こすことを示している。即ち、背外側前頭葉 前部皮質においてドーパミンの利用が減少し、モンキーによる前頭葉 皮質の活動に関連する課題の達成が不十分であった。これら薬物の影響は 薬物投与を中止した後、長い間継続したことから、この欠陥はPCPによる 直接の影響によるものではないことを示唆している。(Ej,hE,Kj)

遺伝子増幅と乳癌(Gene amplification and breast cancer)

乳癌では、染色体20の領域を含む、いくつかの染色体領域が増幅されている。 Anzickたち(p.965)は、この領域の染色体顕微解剖を使い、ハイブリッド選択手法 によって、コピー数が増加とき生じる遺伝子(AIB1)の同定を行い、原発性 乳癌試料中に転写が増加することを示した。この遺伝子によってコード されたタンパク質はエストロゲン受容体と相互作用をし、試験管内での エストロゲン依存性転写を増強した。AIB1の過剰発現はシグナル伝達経路 に影響を及ぼし、その結果、根元的に腫瘍の成長に関連した 調節不全に関与しているのでのであろう。(Ej,hE,Kj)

量子ドットを結ぶ(Connect the quantum dots)

半導体素子は電子の流れをスイッチするのにトランジスターを利用するが、 漏れ電流による困難さのため、電界効果型トランジスター(FET)でさえも その究極のサイズが制限 される。量子力学的なアプローチとは、連結された量子ドット(量子ドット セルラーオートマトン、あるいはQCA)上に、個々の電子を置く位置によって 論理状態をコード付けすることである。Orlovたち(p.928;およびGlanz によるニュースストーリp.898)は、4つのアルミニウム量子ドットによる 基礎的なQCAセルを実験的に作った。各ペアはトンネル障壁によって結ばれて おり、2対はキャパシターによって結び付けられている。入力ドットペア 間の電子の移動が、出力ドットペア上の電子の位置をスイッチングする。(Ej)

海洋の水深測量(Ocean plumbing)

地球の気候の鍵となる制御機構は海流とその混合のパターンである。過去に おいて、この混合パターンがどう変化していたかを理解することは、過去の気候 変化の原因を解釈する上で極めて重要である。 Christensen たち (p. 913 ; Alberedeによる展望記事参照, p. 908)は、太平洋にあった2 つの鉄マンガンのクラストから得られた、5千万年前にまで溯る、海洋に おける鉛の同位元素の詳細な記録を提示した。鉛同位元素値の変化は有孔虫の 酸素同位元素成分(これは、気候の変化を反映している)の幅広い変化に 対応しているように見えるし、海洋水混合パターンやその強さを反映して いるかも知れない。(Ej)

微細なガスシリンダー(Tiny gas cylinders)

稀ガス原子を捕獲するようなフラレーンを合成することが出来る。高圧高温 下のカーボン繊維もまた、不可逆的に不活性ガスを捕獲することが出来る。 Gadd たち (p. 933)は、高圧で、適当な温度条件下に置かれたアルゴンガス 中のチューブ状カーボン繊維は、ガスが入った後チューブを封鎖する。 その後、外部の圧力が大気圧に戻っても、ガスは高圧のままチューブに 捕獲されたままである。 外径寸法が約0.1マイクロメートルのこれら繊維は、このようにして 微小高圧ガスシリンダーとなる。(Ej,hE)

簡単に分離・解決するキラル化合物(Readily resolving chiral compounds)

純粋に鏡像異性の化合物(同じ分子であるが、完全に右手体かまたは 左手体になっているもの)は、有機合成においては重要な建設材料である。 しかし、多くの合成法では、両方の形状を合成し、これらを分離する ことに時間や材料を浪費してしまう。Tokunaga たち (p. 936) は、重要な化合物の1つである末端エポキシドの、鏡像異性体 を分離する触媒作用を利用した方法について報告している。再利用が 可能なキラル・コバルトの触媒が利用されて、これらのラセミの混合物 を分離して、ほとんど一方の掌系のみのエポキシドと1,2-diolに変えた( 通常、98%以上の分離)。消費されたただ1つの試薬は水であった。(Ej,hE)

虫の中のインシュリンに似た情報(Insulin-like signals in worms)

線虫(C.elegans)において、環境が厳しい場合、虫は正常な生殖性発生を中止 し、休止状態、すなわち、休眠状態に入る。このプロセスは、DAFファミリー の遺伝子からなる神経内分泌経路によって制御されている。これらの 遺伝子に変異があると異常休眠が形成され、あるいは、場合によっては、 長寿となる。Kimuraたち (p. 942; Roushによるニュースストーリ参照, p. 897) は、daf遺伝子の1つであるdaf-2は、インシュリン受容体に類似した 分子であることを示した。以前、このような相同性は、虫においては観察 されたことはなかったが、このインシュリン様の情報伝達経路は、 他のdaf経路(トランスフォーミング成長因子-β様情報伝達経路) と協力して、このような基本的な発生プロセスを制御している。(Ej,hE,Kj)

隠れ場所がない(No place to hide)

魚の個体数を制御している因子が何であるかを同定することは難しいことが 分かっているが、その理由の1つは、正確な漁獲データが得られないことに ある。Hixon と Carr (p. 946)は、この疑問に対して、実験的な方法で 解決を試みた。彼らは生きた珊瑚礁の魚の群れを、32の類似した生息地 に移住させた。これらは異なる生息密度のdamselfish(スズメダイ科の魚 の総称)から成っており、珊瑚礁に住む捕食者と、一過性の捕食者の 2つのタイプの魚の捕食者にさらし、死亡率を評価した。 どちらの場合も、1つだけの捕食者がいる場合は、その死亡率は 生息密度には依存しないが、両方の捕食者が同時にいる場合は、死亡率 は、密度に依存する。一過性の捕食者は、珊瑚礁の上から攻撃するが、 住んでいる捕食者は珊瑚礁の構造の中で攻撃する。(Ej)

遺伝学とエイズ(Genetics and AIDS)

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)研究の中で、HIV-1に感染後、 10年、20年と病気に抵抗している何人かの「長期生存者」の存在を許す メカニズムとか、HIV-1にさらされたにもかかわらず感染しない人がいる メカニズムを発見することに主要な努力が払われてきた。 ケモカイン受容体分子CCR5と、ある種のヒト白血球抗原のハプロタイプ (アロタイプ)の欠失 が、生存と関連しているが、これは、原因のわずかな部分しか説明 していない。Smith たち (p. 959)は、もうひとつ別のケモカイン受容体 であるCCR2に変異を見つけたが、CCR5の欠失と一緒に考えると、これはエイズ を回避している長期生存者の内の25%を説明する。(Ej,hE,Kj)
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