AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 1, 1997, Vol.277


ヘアピン通過電子(Electrons through hairpins)

DNAを通る電子輸送(Electron transfer ET)はこれまで論争の的 となってきた。ある結果によ ればDNAは有効な「分子電線」であり、また、他の結果はDNAは非常 に蛋白質に類似の絶縁状 態であることを示唆している。Lewis たち(p.673) は、DN Aのヘアピン中の光誘起されたE Tの割合を測定した。このヘアピン中では、スチルベン ジカルボキ シアミド(stilbene dicarboxamide) が二つの連結しているDNAの腕に橋渡しをしている。6 個のAT塩基対のヘア ピンでは、ETはまったく見られなかったが、単一のGC対を導入するこ とにより、距離依存性の ある蛍光消光が生じた。分子電線ではないが、ETは蛋白中よりはより効 果的に働く。(Wt)

蛋白の中のクラスター(Clusters in proteins)

多くの蛋白質は、鉄-硫黄のクラスターを含んでいる。これらは電子 移動反応を促進し、触媒作用の 中心として、また、鉄や酸素のセンサーとして働くことができる。Bei nert たち(p.653) は、 これらの補綴グループ(補欠分子族=prosthetic group)のさまざ まな構造や特性について、私たちが理解していることについてレビ ューしている。このレビューには、モデル化合物の研究やクラスターの蛋 白質の中への取り込みに ついての結果も含まれている。(Wt)

強制分娩(Inducing labor)

アスピリン様薬剤が分娩を遅らせるという観察事実から、プロスタグラン ジン (prostaglandin)が分娩制御に関与している可能性が推測されるが、オキシ トシ ン(oxytocin)の方がより効果的であるように見える。Sugimotoた ち(p.681)は、 これら観察事実を分類した。彼らはプロスタグランジン受容体を欠くノッ クア ウトマウスを使い、黄体を失活させるにはプロスタグラジンF2αが 不可欠であ ることを示した。この失活によって順次血清プロゲステロンのレベルを低 下さ せ、オキシトン受容体を誘導し、続いて分娩、出産となる。(Ej,hE,Kj )

境界効果(Boundary effects)

地球の核とマントルの間の薄い境界はマントル対流と地球磁場の起源と構 造に 重要な役割を果たしている可能性がある(p.646のKelloggに よる展望)。2つ の報告が、この境界の特徴について報告している。EarleとShea rer(p.667)は、 この層中を伝播する地震波の散乱状況を測定し、地震波の散乱は、境界面 上の 300メートルの厚さ、および、約8キロメートル以上の起伏形状 によって説明出来る 可能性がある、と報告している。Revenaugh とMeyer (p. 670)は 、この境界のすぐ 上から反射された地震波を調べた。彼らは、境界に沿って、地震波が顕著 に遅 くなる領域数箇所をプロットすることが出来た。これらのデータから、多 くの 境界には、15km以下の薄い溶融境界が存在することが示されている 。(Na,Fj,Nk)

雪合戦(Snowball fights)

百武彗星は最近地球から0.1 AU 以内を通過した。 Harrisた ち(p. 676; 表紙 参照)はキットピークのWIYN望遠鏡に狭帯域フィルターを付け 、百武彗星の最 近接時、7時間に渡る観測で内部コマ(頭の部分)の構造観測した。 彼らは、氷の微小な粒が彗星周辺のガスとは別に 広がっていることを発見した。それらの氷粒子 は、弧状に伸びたり彗星核よりずっと大きな塊にな っていることを発見した。彼らは、彗星の核の後ろ側(太陽から遠い側)に 、別 の局所的な氷状粒子の源があり、これが、百武彗星で発見された揮発物を 生じ させている可能性がある、と結論づけた。(Na,Nk)

赤ちゃん言葉(Baby talk)

母親は自分の乳児に語りかけるとき、なぜ夫にとは異なった口調になるの だろう。 Kurlたち(p.684)は、英語、ロシア語、あるいはスウェーデン語が堪 能な30人の母 親について様々な文化における研究結果について報告している。それによ れば、乳 児に語りかけるときは母音が強調されている。これは、乳児は正常に発音 する母音 を区別する事が出来るように見えるため、母親は、乳児がしゃべるのを学 ぶような パラメータを強調しているのであろう、と示唆している。Barinaga(p. 641)による ニュースストーリも参照のこと。(Ej,hE)

正しい場所と時間(Right place and time)

エルニーニョの南方振動(El Nino-Southern Oscillation;ENSO)は、 熱帯太平洋の気候を支配し 、全地球的な気候に影響を与えている。しかし、その振動の正確なメカニ ズムは、いまだ十分には 理解されていない。Picaut たち(p.663) は、表面の海水の東 方へと西方への移流についての最 近のデータと、その移流により中央太平洋に海水が収束するという結果に 基づいて、古典的な遅延 作用振動モデルを修正した。これらの特性をENSOの単純モデルに含ま せると、観測とシミュレ ーションとはよく一致するようになる。これはこの特性がENSOメカニ ズムの中心的なものであ ることを示唆している。(Wt)

ストレス信号(Stress signal)

タンパク質キナーゼのJNK (c-Jun amino-terminal kinase)は、細胞 成長や、 細胞外のリガンドやストレスに対する細胞応答に関与している。JNKは 、c-Jun やATF2のような転写因子をリン酸化し、その活性を制御しており、 更にJNK 自身の活性をもリン酸化によって制御されている。DickensたちはJ NKの別の 制御モードの可能性を見つけた。彼らはJNK相互作用タンパク質、 JIP-1を 単離したが、これはJNKの特異的阻害剤として作用する。JIP-1は 、JNKの キナーゼ活性を阻害し、かつ細胞質のキナーゼを保持すると言う両方の作 用 を持っているえいるが、これによって核基質へのアクセスを制限してして い る。 Bcr-Abl癌遺伝子によってトランスフェクションされた細胞中 のJIP-1 のJNK結合領域の発現が、形質転換を阻止した。即ち、JIP-1は 、JNK経路に よる情報伝達を抑制しているように見える。(Ej,hE,Kj)

ライトを消す(Turning off the light)

網膜の光受容体は、ロドプシンと呼ばれるG-タンパク質に結合した 受容体で ある。光がロドプシンを活性化し、活性形に変化させる。引き続く、受容 体 のリン酸化を含んだ情報伝達によって、ロドプシンはアレスチン・タンパ ク 質に結合し、結果として活性化状態ロドプシンが終結する。情報伝達サイ クル を完結するためには、ロドプシンは脱リン酸化されなければならない。V inos たちは、ショウジョウバエの網膜変性C遺伝子 (rdgC)でコー ドされた脱リン 酸酵素が、ロドプシンの脱リン酸化に関与していると報告している。 rdgCの 変異が過リン酸化ロドプシンを生じさせ、光受容体の変性を起こす。同様 な 受容体脱リン酸酵素の変異が、ヒトの網膜の変性と関連しているのであろ う。 (Ej,hE,Kj)

こんがらがったDNA(DNA in knots)

熱力学的平衡状態では、線状のDNAから、閉環状のDNA(超ラ セン、 結び目状のもの、連鎖状のもの)のアイソフォームがある比率で形成され る。 DNAトポイソメラーゼが二つのDNAセグメント間の撚り合わせの過程 を触媒しうるた 結果として、DNAのトポロジーが影響を受けるのである。I型 のDNAトポイソメ ラーゼによって形成されるアイソフォームの比率は、平衡状態で観察され るものに 近づく。しかし、Rybenkovたちは、トポイソメラーゼIIの場 合には、アイソフォー ムの比率が平衡状態での値より低くなることを示した(p. 690)。I I型のトポイソメ ラーゼはアデノシン三リン酸の加水分解エネルギーを利用して結び目や連 鎖の数を 減少させ、トポロジーを単純化するのである。こうした発見は、Pulle yblankが展 望記事(p. 648)で強調しているような深い意味を、DNAの複製 と染色体分離に関し てもっている。(KF)

振動を介して電子を見る(Electrons through vibrations)

電子伝達(ET)は多くの化学的反応や生化学的反応において重要な役 割を演じている が、通常きわめて速く生じるために、研究するのがむずかしい。Itoた ちは、広い 時間幅にわたる分子内伝達反応において電子伝達が生じる割合を、調節す ることが できる一連のモデル化合物を合成した(p. 660)。このシステムによ って、彼らは、 振動性吸収線の形状と電子伝達の動力学とを相関させて見ることが可能に なった。 (KF)

化学プラントとしての植物(Chemical plants)

植物の二次代謝産物は、植物の興味深い香りの一因でもあるが、それ以外 に、昆虫 や微生物病原体を寄せつけないようにするなどの機能をもっている。F reyたちは、 トウモロコシにおいては、一連の5つの酵素があれば、そうした防御 化合物の一つ であるDIBOAをありふれた前駆物質から合成するのに十分であること を発見した (p. 696)。第1の酵素は、トリプトファン合成酵素のサブユニットに 似ているが、 トリプトファン合成へ向かう経路から外れるある岐れ道を表現するものに なってい る。残りの酵素はチトクロムP-450依存的なモノオキシゲナーゼであ る。これら5つ の遺伝子が一緒になって、遺伝子組換え酵母にインドール-3-グリセ リンリン酸 からDIBOAを合成する能力を与えるのである。(KF)

人肉食習慣の再発見(Archaeologists Rediscover Cannibals)

かつて、考古学者が、人類の祖先も人肉食の習慣があったとする説は 疑問視されて来たが、人類化石に残された痕跡を同定する新しい 分類法によって再認識されている。さらに、この習慣が、80万年 も前から、人類の屈強ないとこに当たる、ネアンデルタール人や、 もっと最近のメキシコのアズテックやフィージーのAnasaziにも見ら れると言う強い証拠が現われてきている。(p. 635)(Ej)
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