AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 11, 1997, Vol.277


コレステロールの不通(Cholesterol traffic tie-up)

ニーマン・ピックC(Niemann-Pick C)C病(NP-C)は、希に見 られる遺伝性の障害で、細胞レベルでは、コレステロールを可動にするこ とが出来ない(従って、代謝不能)ことが特徴的である。NP-Cの患者は、運動失調、てん かん発作、会話不能などの神経性異常が進展し、典型的には子供のときに 死亡する。Carsteaたち(p.228)(Pennisi,p.180による ニュースストーリも参照)は、このNP-Cの原因となるヒトの遺伝子 を同定し、同時にLoftusたち(p.232)もまた、この病気の独立 した2つのマウスモデルにおいて、同じ遺伝子が欠陥を持っていることを 示した。予想されているNPC1タンパク質は10以上の膜貫通領域を 持ち、コレステロールの代謝に関与している他のタンパク質と共通の配列 を持っているらしい。このNPC1の配列から推定すると、NPC1は、 リソソームから他の細胞膜へのコレステロールの輸送に関与しているら しい。(Ej,hE,Kj)

さらなる手掛かりを解読する(Deciphering additional clues)

epi-Olmecとして知られている書記体系は、メソアメリカ研究を行なう研究者た ちに、数多くの重要で論議を呼ぶ謎を提供し続けてきた。 1993年、JustesonとKaufmanは、メキシコのLa Mojarraにある石の遺跡に遺され たepi-Olmecのテキスト群の解読結果を発表した。このたび彼らは、同じ遺跡に 遺されたさらに別のテキストの内容を明らかにした(p. 207)。それは、 epi-Olmecの書記体系に関する利用できる資料を増やすことになっただけでなく、 最初の解読に含まれていた様々な見方を確認するものになっている。(KF)

地球の軌道と気候(Orbit and climate)

歳差運動、黄道傾斜角、地球軌道の離心率の周期的変化などによる太陽エネルギー量と分布の 変動 が氷河期気候の周期を引き起こす、と考えられている。地球軌道の離心率の変動による効果は小さかった 、お よそ100万年前に発生した10万年周期の主要な氷河期周期の原因は何か、という疑問 が残 る。MullerとMacDonaldは(p.215、p.183のKerrのニュースストーリーも参照)、海洋 の気 候の記録を分析し、およそ100万年より前には、黄道傾斜角の周期と主要な気候変動の 周期 はほぼ一致していたことを示した。しかしながら10万年周期のスペクトルの形をうまく説明するには 黄道面に対する地球軌道面の傾斜角の変化の方がより 優れていることが判った。 (Na,Nk)

磁性の起源(Magnetic origins)

合金や薄膜材料の磁気的性質、たとえば容易に磁化する方向などは、成分間の複雑な 相互作用の帰結である可能性がある。その個別の寄与を分析するのは困難である。 Duerrたち (p.213) は、二色性のTM波(transverse magentic)の 円偏光X線を用いて、各元素毎に異なるX線吸収端に基づいて薄膜構造中の コバルトとニッケル層の磁気的な寄与を解明した。 ニッケル層よりはるかに薄いコバルトの被覆層(overlayer)により、フィルム全体 の容易な磁化方向が変化した。(Wt)

視野から外れても心からは外れない(Out of sight but not out of mind)

我々が直接対象物を見ていない時、例えば、部屋の明かりが消されたような時、どのよう にしてその物のある場所をしるのだろうか。Grazianoたちは(p.239、P.190のRizzolatti たちの展望p.190も参照)、猿の運動前野(感覚性と運動機能を統合している部分として知られて いる)の中に、明るい時に見た対象物の存在を記録し、明かりが消された後も活動を継続 するニューロンを見つけ出した。明かりが再度点けら れ、猿は暗い間に対象物が静かに取り除かれていたことを、実際に見て、 初めて、このニューロンは反応することを止める。このように、こ れらのニューロンには、Piaget(物体の持続性について最初に関心を示した研究者)により 発見された、空間的知覚である物体の持続性がコード化されるのである。(Na)

リグニンを困難な方法で作る(Making lignin the hard way)

木材から紙やパルプを作るには、木質植物の細胞膜を安定化させているリ グニンを除去する必要がある。Ralphたち(p.235)は、自然状 態で生じたタエダマツ(loblolly pine)の変異種に、リグニンの生合 成に不可欠な酵素の欠乏するものがあるが、この変異種は、リグニン合成 には通常見られないサブユニットとの協調作業によって、この問題を回避 している。遺伝子工学的にリグニンの少ない植物を作ろうとする努力は、 このような植物の代謝経路の柔軟性によって、複雑なものになるであろう。 (Ej,hE,Kj)

毛細管の創造(Capillary creation)

我々の組織中に、血液を輸送している細い毛細管は,太い血管の内皮細胞の派生物としてまず 発生する。 Lindahlたちは(p. 242)、毛細管へ周皮細胞を補充する次の段階は、 血小板由来成長因子(PDGF)の情報伝達に依存し、 毛細管の構造的安定性のために決定的に重要であることを発見した。 PDGF-B欠損のマウスでは、毛細管が周皮細胞を欠き、 出生の直前、胎児血圧が上がると、数えきれない毛細血管瘤が発生する。 (An)

ストレスをシミュレートする(Simulates stress)

ストレスを受けてない細胞では、熱ショック因子(HSF=Heat Shock Fac tor)は、細胞質中に不活性なモノマーとして存在している。熱ショックを 与えると、この因子は多量化し、核に転位し、遺伝子転写を活性化する。 Kanei-Ishiiたち(p.246)は、細胞ストレスが存在しないときでもH SFが活性型に転換可能であることを示した。HSF3は、非ストレス細 胞内で、直接プロトオンコジーン生成物c-Mybに会合しうる。この複 合体は、HSF3の核への転位を刺激し、引き続く遺伝子の活性化に寄 与する。HSF3とc-Mybの会合は、ストレス応答と増殖制御を結 び付けているのかも知れない。(Ej,hE,Kj)

cAMPなしでやっていく(Manages without cAMP)

胞性粘菌(Dictyostelium)の発生時、細胞内および細胞外において サイクリックアデノシン一リン~酸(cAMP)がシグナルとして利用されている。 細胞外のcAMPが情報伝達経路をトリガーし、それによってcAMPの産生に 関与しているアデニル酸シクラーゼを活性化している。 以前の研究では、細胞外のcAMPは、胞性粘菌の組織形成と形態形成と 端末分化のために決定的であることが示されていた。 WangとKuspaは(p. 251; Guraによる記事p.181を参考)、 細胞外cAMPおよび細胞内cAMPのない細胞においてプロテインキナーゼAが 発現されているとき、正常な胞性粘菌の発生が観察されたことを実証している。 胞性粘菌の発生のために細胞外cAMPが必須ではないことが発見され、 細胞内cAMPすべての情報伝達がプロテインキナーゼAによって仲介された。 (An,SO)

すべての子供に親を与える(Giving parents to every child)

火星と木星の間には、 メインベルト(Main Belt)と称する小惑星が集まっている領域 あり、これが地球に接近する軌道を持つ小惑星や隕石の供給源であると思われている。G ladmanたちは、数値実験によって、小惑星の親天体から衝突破片をメイン ベルトに供給し、軌道の共鳴計算を行い、これら天体の動的な寿命を決定 した。それによると、短期間メインベルトに存在した後、小天体は木星軌 道に交差する軌道に押し出されて消滅するか、太陽に取り込まれる。これ らの結果から、現在観測される小惑星の親天体は、最近破壊され(1億年 よりずっと若い)、この「子供」であるメインベルトの天体は極めて若い ことが推察される。あるいは、火星と交差する軌道の近くにかつて置かれ ていた小惑星は、メインベルトの共鳴軌道に徐々に移動し、「子どもたち」の年齢はもっと大きく見積もられ 太陽系の力学現象は少しばかり静かなものとなる。(Ej,hE,Nk)

臨界的重なり(Critical overlaps)

酵素であるイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(isocitrate dehydrogenase IDH) の 修飾された形態の構造に関する研究により、触媒作用における基質の精密な 整列の果たす役割に対して洞察が得られてきた。Mesecar たち は、 二つの補助因子を修飾した。 Mesecarたちは2つの補因子を修飾した。すなわち、ニコチンアミドアデニン ジヌクレオチド リン酸 (NADP=nicotinamide adenine dinucleotide phosphate) の アデニンをヒポキサンチンに変え(アミノ基を水酸基に変えることにより)、 また、6座配位子として配位することができるマグネシウムイオンを8座配位子となりうる カルシウムに変えた。低温下でトラップされた中間体の結晶学的 研究により、これらの変化は、反応速度では大きな減少を引き起こすのだが、 基質の配向ではほんの小さな変化しかもたらさないことが示されている。 この結果は、これらの反応に触媒が作用する上で、軌道の重なりが重要で あることを図示している。(Wt)

イオウと地球の外核(Sulfur and Earth's outer core)

地球の外核は、主として溶融した鉄からなっているが、外核を通過 する縦波音波についての測定結果が、溶融した鉄の特性に基づいて外挿さ れる結果や実験による結果とは整合しないことから、より軽い合金成分がある程 度の比率で存在しているに違いない。軽い成分の候補はイオウやニッケル、酸素、 水素などだが、それらのどれかを決める明確な方法はない。Nashたちは、この成 分の問題に新しい手掛かりを付け加えた。あるFe-Ni-Sの液体中での音速を超音波 干渉によって測定することで、彼らは、これらの混合物中での速度が、温度の上 昇につれて増大することを発見したのである。彼らは、この特異な現象の原因を イオウに帰し、そうした現象がイオウとそれ以外のコア成分候補とを区別するのに使 えるに違いないと信じている。(KF)

アルカンの終末ゲーム(Alkane end-games)

通常反応性の低いアルカンを制御された方法で活性化するためのいくつかの経路が 知られているが、その化学的過程は非選択的であり、おびただしい異性体を産出する 。 Waltz and Hartwig は、末端の炭素原子上の C-H 結合を選択的に活性化するための 方法を報告している。電気的に正のホウ素原子を持つ遷移金属の錯体は、 アルキルボロン酸エステル(alkylboronate esters) を光化学的に生成する; タングステンの錯体は最も反応性が高いことが判った。(Wt)

活性化補助因子の修飾(Modifying a co-activator)

異なっている細胞型における遺伝子発現の変異が、その組織において異なっている 転写制御因子の存在や活性によって引き起されている。 B細胞において、B細胞特異的遺伝子制御のために、八量体結合タンパク質(Oct)と BOB.1という活性化補助因子を含む複合体が必要である。 B細胞においては、BOB.1が構成的に発現されているが、T細胞においては、 誘導されることができる。 Zwillingたちは、T細胞における組織特異的遺伝子発現もBOB.1を必要とし、 活性化遺伝子発現のためにこの活性化補助因子がリン酸化されていることも必要で あることを示している。 B細胞における構成的遺伝子発現およびT細胞における誘導性遺伝子発現にはいずれも、 BOB.1リン酸化が必要であった。 従って、活性化補助因子の翻訳後修飾がもう一つの転写制御手段となる。 (GraefとCrabtreeによる展望を参考) (An)

移動する腫瘍細胞(Tumor cells on the move)

腫瘍細胞が他の組織を侵略するときは、構造タンパク質と多糖類に富む分 子の複雑な混合物である細胞外マトリックス(ECM)の中を移動しなけ ればならない。この侵入プロセスにはタンパク質分解酵素が必要であるが 、これら酵素は単に物理的障壁を除くだけなのか、あるいは、細胞に信号 を送って移動を始めさせるのか、良く分かってはいない。Giannelliた ちは、後者の証拠を見つけた。彼らによると、マトリックスのメタロプロ テアーゼ2は、ECM成分のラミニン5の部位特異的切断によって乳ガ ン細胞の遊走を誘発している。この切断は、細胞移動を始めさせるラミニ ン5の潜在的部位を露出すると思われている。(Ej,hE,Kj)

脳の運命(Brain fates)

脊椎動物の発生初期において、neurectodermの細胞は、中枢神経系 の最終構造を決定する種々のシグナルを受け取る。WooとFraser は、ゼブラフィッシュにおいて、これらシグナルは2つのカテゴリーに分 類出来ることを示した。原腸形成時、胚形成体(オーガナイザー)である (embryonic shield=胎楯:axial mesendoderm、すなわち原索の発生 する部分)からのシグナルは、外胚葉の関連する部分の全体的な神経 の運命を決定づける。これに対して、germring(nonaxial mese ndoderm、すなわち原索以外のものが発生する部分)からのシグナルは、原 索発生部の場合とは異なり、前神経細胞の、より特異的前後の運命、例え ば、発生中の構造は前脳か後脳か、を決定づける。(Ej,hE,Kj)

生物地球化学的循環(Biogeochemical cycles)

湖水と大気の間の無機炭素の交換に影響を与える要因を調べるため、Schindlerた ちは、初期条件が類似した4つの湖の条件を操作した。人工的な肥沃化を行なうこ とを通じて、栄養分のレベルの役割が評価された---養分が豊富な湖は、生産的に なるにつれて、大気中の炭素を貯える場所となる。食物連鎖の構造も大きな影響 を与える---最上位の補食者、つまり魚を食べる魚、が存在しない場合、生まれる 生物(一次生物、食持つ連鎖の最下位に位置する生物)が増加するために、 湖はより多くの炭素を貯える場所となる。食物連鎖の構 造と一次生物の数、さらに炭素が入り込むことによる養分の増加を結び付け て考えると、人間の活動が生物地球化学的循環にいかに変化を与えるかについて の新しい洞察が得られる。(KF)
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