AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 13, 1997, Vol.276


移植片対宿主病を制御する(Controlling graft-versus-host disease)

完全には合致しないドナーからの同種間骨髄移植は、癌の過酷な治療後の免疫系の 再構築に用いられている。ドナーの骨髄中のT細胞は患者を「異物」として認識す るので、これらのT細胞は元の骨髄移植片から除去されるのが普通である。もしも 癌が再発したときは、効果的な処置としてはドナーのT細胞を注入することである が、この処置によって致死にいたることもある合併症である移植片対宿主病(GvHD) の危険性を頻繁におかすことになる。Boniniたち(p.1719;Wickelgrenによる ニュース記事p.1646を参照のこと)は、T細胞が正常な宿主組織を攻撃しはじめたら、 ドナーT細胞を殺してしまうという戦略を考えついた。彼らは、単純疱疹ウイルス 「自殺ベクター」(チミジンキナーゼ)を培養中のドナーT細胞に移入し、この 遺伝子を発現する細胞を選択し、このような遺伝的に修飾された細胞を12人の 患者に注入した。このとき、ガンシクロビルによって3人の患者においてドナーの リンパ球を除去してGvHDを制御することに成功し、5人の患者では抗腫瘍活性が 見られた。(Ej,hE,Kj)

散乱される天体(Scattered objects)

海王星の軌道の先に彗星の源となっているカイパー(Kuiper)ベルトと呼ばれる物体 の帯がある。Duncan と Levison (p. 1670)は、生まれたばかりの太陽系において、 そのような物体が海王星による摂動を受けた後に、いくつかはカイパー(Kuiper) ベルトとは別の散乱した氷状の物体のディスクを形成したことをシミュレーションで 見付け出した。最近になって見つかった異常な軌道を持った二つの物体はこの古代の ディスクに属しているのかもしれない。このようなディスクが存在するなら、木星に よってその軌道をコントロールされている短命な彗星群の源となっているのかもしれ ない。(Ht)

ネバダを引き上げる(Raising Nevada)

合衆国の西部の盆地・山脈地帯(ベースンアンドレンジ)の大半は最近(過去500万年の間)ずっと 隆起が続いていると考えられていた。Wolfeたち(p.1672)は、ネバダで収集した 木の葉の化石データの分析から、原始標高を推定できると説明している。従来の データと異なり、約1500万年前のこの部分のベースンアンドレンジは海抜 およそ3km の高さから、約1300万年前には沈下が始まり現在の平均標高 1.0〜1.5km に下がってきたことを示している。(Ht,Og)

気難しい表面(Picky surface)

気相の化学反応は、個々の原子に非常に特有な場合がある;例えば、重水素原子と 塩化ヨウ素のとの反応は、DClはDIより安定であるにもかかわらず、DClの 3倍のDIを生成する。表面との類似の反応は、多数の可能な反応サイトが存在す るため、はるかに非選択的であると考えられている。しかし、Liu たち (p. 1681) は、シリコンの(111)-(7x7)の再構成表面と、IClの分子線との反応は、ヨウ素 の豊富な表面層を形成することを示している。塩素の気相への選択的放出は、エネ ルギー的にもっとも都合の悪い結果ではあるが(さまざまな可能な反応のうち最少 エネルギーの発熱反応)、ヨウ素の末端を表面に向けてIClの分子を整列する 反応によるもののように見える。(Wt)

成長ホルモンと失明の関係(Growth hormone and blindness)

不治の失明の多くは、酸素欠乏により網膜内に新しい血管が異常に成長することによ る場 合が多い。血管内皮の成長因子(VEGF)がこの新血管新生に関与していると考えられて いた が、他の因子の関与も考えられる。Smithたちは(p.1706)マウスモデルによる実験で 低酸 素により誘発される網膜新血管新生には成長ホルモン(GH)と下流のエフェクターの一 つで あるインシュリン様の成長因子-1(IGF-I)の作用を必要とすることを示した。これら の結 果は、GH又はIGF-I(又は両方)の阻害薬が、特定の形態の失明の防止に有用であるこ とを 証明しているものと示唆している。(Na)

Friedreich運動失調における鉄のリンク(Iron link in Friedreich's ataxia)

Friedreich運動失調は神経系と心臓に影響する変性疾患である。 遺伝子産物frataxinの変異はこの病と関連しているが、 frataxinの機能に対する洞察がfrataxinの配列から得られていなかった。 Babcockたちは(p. 1709)、frataxinと高い類似の配列をもつ酵母遺伝子は、 鉄の恒常性とミトコンドリアの機能の制御に関与しているミトコンドリア タンパク質をコードしていることを発見した。 ヒトのfrataxinもミトコンドリアのタンパク質であることが示された。 Friedreich運動失調に異常な鉄の蓄積が以前から観察されていたため、 この結果が観察した病理学のメカニズムを示唆している。(An)

血小板産生の増強(Enhancing platelet production)

トロンボポエチンは、骨髄において血小板を将来生じうる細胞である巨核球の増殖を 促進するサイトカインである。 Cwirlaたちは(p. 1696)、いくつかの精巧スクリーニングを利用し、 トロンボポエチン受容体と強力に結合して活性化する小ペプチドを選択した。 トロンボポエチンには、このペプチドの配列がないのに、 ひとつの二量体化した14-アミノ酸ペプチドには、天然の332-アミノ酸サイトカインと 本質的に同量の100pM平均有効濃度(EC50) があった。 Thrombocytopeniaと呼ぶ血液に循環している血小板の不足は、 化学療法あるいは骨髄移植の後に現れてくる。 (An)

2つの王国の間で(Between two kingdoms)

転移因子は個々のユニットとしてゲノムの中を動き回るDNA単位である。この移 動は、Gueiros-FilhoとBeverly(p.1716;Hartlによる展望p.1659を参照)が2つの 異種ゲノム間でも起こりうることを実証するまでは、ごく近縁の種間でのみ観察さ れていた。ショウジョウバエの転移因子であるmarinerは、致死病であるレーシュ マニア症の原因となる原虫のLeishmania majorの遺伝子を失活したりトラップす ることが示された。この発見は、レーシュマニアの遺伝的分析を容易にするととも に、marinerが他の真核生物の研究の強力な遺伝プローブとなりうることを示して いる。(Ej,hE,Kj)

酵素の起源と抗体の形成(Enzyme origin and antibody formation)

触媒性抗体とその生殖系前駆体の結晶構造の比較によって、触媒活性の進化につい ての見通しが得られてきた。Wedemayerたち(p.1665)は、ハプテンが生殖系列抗体に結合す るときに、結合部位の立体配置に大きな変化が生じることを見つけたが、このハプ テンが成熟した触媒性抗体に結合する様子は、ちょうど酵素の「鍵」と「鍵穴」の 関係のように進行する。よりよい合致を生じさせるきっかけとなる突然変異は結合 ハプテンから最大15オングストローム離れた所まで生じる。(Joyceによる記事とPerspective(p.1658)を参考) (An,hE)

小さな氷の立方体(Tiny ice cubes)

理論的研究によると、水の8量体の最低エネルギー構造は三配位の水分子によって 形成される立方体であると予測されている。このような構造は、液体と固体の氷の 表面に存在する三配位水分子に対する最少のモデルを表現しているのであろう。 それは、また、より大きな水のクラスターのビルディングブロックとしても予想さ れている。Gruenloh たち(p.1678) は、ベンゼンと複合した水の8量体の分光学的研究を 行ない、このような立方体の構造が形成されており、ベンゼンによる変形はほんの わずかであることを示している。水素結合の幾何構造のみが異なる二種類の異性体 が観測された。(Wt)

溶媒和効果(Solvation effects)

溶媒和は化学動力学においては重要な役割を果たすが、実験的研究では、溶質分子を 取り囲む溶媒のケージのすばやい変化と競争しなければならない。一つの重要な モデルとなる系は、いくつかのアルゴン数原子からなる溶媒のクラスター中のヨウ素 アニオン(I2-)の光解離である。Greenblattet たち(p.1675) は、フェムト秒のタイムスケール の光電子分光を用いて、様々なクラスターサイズが反応の結果にどう影響するかを 追跡した。小さなクラスター [I2-(Ar)6]に対しては、反応は裸の分子と同じ時間で 完了した(200フェムト秒)。より大きなクラスター[I2-(Ar)20]では、ヨウ素と ヨウ素生成物の断片はケージで囲われ、基底状態かあるいは励起状態の経路に沿って 、 それぞれ200ピコ秒および35ピコ秒のタイムスケールで再結合する。 [Parson and Faeder による展望記事を参照のこと](Wt)

溶解中での特殊化(Specializing in lysis)

細胞溶解性Tリンパ球(CTL)の役割は、感染した宿主組織を破壊することであ るが、CTLの仲介による破壊のメカニズムについて、独立した2件の別個の報告 が知られている。Stengerたち(p.1684)は,この2つのメカニズムは異なるCTLの亜集団 (subpopulation)によって仲介されていることを見つけた。すなわち、Fas-Fas リガンドシステムは、CD8マーカーを発現するCTLによって操作されており、 他方、顆粒依存性溶解は、CD8を発現しているのでもCD4を発現しているの でもない“ダブルネガティブ”細胞として知られている細胞によって仲介されてい る。どちらのCTL型も結核菌に感染した標的を溶解できるが、ダブルネガティブ 細胞のみが細菌を殺す。これらのほとんどの仕事は、T細胞の最近発見された CD1制限集団を使って行われたが、予備的証拠によれば、同じ役割分担が古典的 な主要組織適合複合体(MHC)クラス−1制限CTLにも当てはまることを 示している。(Ej,hE,Kj)

細胞中のカルシウム制御(Calcium control in cells)

細胞表面の多数の受容体は、細胞内のCa2+([Ca2+]i)濃度を変化させることに よって、細胞内プロセスを制御している。[Ca2+]iを制御するメカニズムの1 つは、細胞内のCa2+貯蔵所で受容体と結合するイノシトール1,4,5−三リ ン酸(InsP3)の産生である。InsP3受容体は、InsP3に結合したときにCa2+を放 出するチャネルに他ならない。[Ca2+]iが細胞全体にわたって増加することも あり得るが、[Ca2+]iの局所的な増加が特定のイベントを制御している可能性 もある。HornとMeyer(p.1690)は、細胞内のCa2+放出をイメージ化する改良方法を開発 し、いくつかのInsP3によって開閉されているCa2+チャネルの解放を表してい るように見える、基本的なカルシウム放出現象を観察した。このような[Ca2+]i の放出部位での濃度の大幅な上昇はCa2+に依存する局在化した制御を生じさせ る。このような事象の同調現象によって、多数の刺激に応答してCa2+が全体と して増加することを説明できるかもしれない。(An,hE)

古い友人たちの起源(Origins of an old friend)

Vila たち(p.1687)によるミトコンドリアのDNA配列の分析によれば、人と犬は少なくとも 10万年前から一緒に暮らしていた。犬は人による育種選択と野性の狼との異系 交配の反復との組み合わせにより進化をしてきた。コヨーテやその他の犬属の種は 家畜化された犬の進化に対して明らかな貢献をしていない。27の異なる個体群の 狼と67の異なる品種の犬が分析された。同様にコヨーテとジャッカルも分析され た。(Ht)

ボールの上の眼球(Eye on the ball)

実験室の研究で、個々のニューロンが眼球運動と誤差の見積もりのために別々に プログラムされ、ターゲットに対する視覚的焦点の微調整が行われていることが 分かっている、しかし、頭部や体も動いているような自然の状態でどのように多 様な運動を協調させているのだろうか。Krauzilsたち(p.1693)は、ターゲットに対するス ムーズな追従と段階的で断続的な移動という2つのタイプの眼球運動中の誤差をプ ログラムしているニューロンの検査を行うことで、この問題へのアプローチを開 始した。これらのニューロンは異なる運動性の中心を提供し、全ての部分が協調 しながら運動することを可能とする、より広範な誤差の情報源を代表している、 という考えである。(Na)

脳のグルタミン酸を制御する(Controlling glutamate in the brain)

興奮生神経伝達物質であるグルタミン酸(Glu)は、脳の最重要物質の1つである が、過剰な場合は細胞死を起こすし、過剰刺激はてんかんを起こす。細胞外間隙 におけるGluの濃度は、合成され放出される量と代謝によってニューロンとグリ アに取り込まれる量の差し引き合算の寄与によって決定される。4つのGlu取り 込み輸送体(ニューロン2つ、グリア2つ)の相対的寄与の大きさを決めるため には、各々の選択的な阻害剤が必要である。しかし、そのようなものは得られて いない。Tanakaたち(p.1699)は、広範なアストロサイトのグルタミン酸輸送体である GLT―1欠乏性のマウスにおけるてんかんと細胞死に対する感受性について 調べた。これらの動物では、海馬において、自発性致死てんかん症や広範な細 胞死が見られたが、このことは,GTL−1が脳内グルタミン酸濃度の生理的 濃度維持に決定的であることを示している。散在性筋萎縮性側索硬化症の場合 には、この分子の欠損があるのかも知れない。(Ej,hE,Kj)

交配ストレス?(Mating stress ?)

多くの生物学的プロセスは、真核生物細胞では、マイトジェン活性化タンパク 質キナーゼ(MAPK)ファミリーによって制御されている。MAPKは、一連の キナーゼ、MAPKキナーゼ(MAPKK)、及びMAPKKキナーゼ(MAPKKK)の 連続的なリン酸化と活性化によって制御されている。では、どのようにして このような共通の情報伝達成分を活性化させるシグナルが特定の生物学的反応 を生成できるのかについてはまだよくわかっていない。実際、酵母では、 PosasとSaito(p.1702)の発見によれば、カスケードの他の成分は異なっていても、 同一のMAPKKK酵素が、交尾のためのフェロモンに対する応答と「浸透圧性 ストレス」に対する応答の両方に使われていた。この特異性は、適当なパート ナーによる物理的相互作用によって確保されている。浸透圧性ストレス経路の MAPKKは、適当なMAPK、MAPKKK、さらに浸透圧受容器自身と結合する 選択的骨格として作用する。このようにして、浸透圧ストレスによって活性化 されるMAPKKKは、ストレス経路のMAPKKとMAPKのみを活性化し、フェロ モン応答をする経路には関与しない。(Ej,hE,Kj)

生命のスプライス(The splice of life)

メッセンジャーRNAの核前駆体(pre-mRNA)をスプライシングする第2の 段階であるエキソン連結のための配列と因子を分析する新しいアプローチによって、 ヒトのスプライセオソームにおけるこのプロセスには、枝分かれ部位に 3'スプライス部位の共有結合性の付着が必要ではないことを明らかにした。 AndersonとMoore(p.1712)は、3'スプライス部位もなく、哺乳類における枝分かれ部位を 定義しているピリミジンに豊む領域の3'に配列を持たないpre-mRNAでこのプロセスを 研究した。スプライシング中間体が蓄積され、その後3'スプライス部位を含むRNAと 反応できるようになった。 生体内では、この二分子付着が全長基質によって抑制することになりがちであるが、 この結果は、共有結合性に付着したポリピリミジン管 又は特異的3'エキソン配列の必要性が絶対的ではないことを示している。(An)

アメリカ地球物理学会(春期)での話題

今や、アメリカ地球物理学会(AGU)は地震から進化にまで話題が広がっているが、その中で 惑星探索衛星の議論に焦点を当ててみる。木星の4つの大きな衛星の中でどうも Gallistoだけは他と異なる奇妙な性質をもっている。Kerrによる記事(p.p.1648)によれば、 Gallistoだけがかつて内部が高温になったことがないらしい。その第1の理由は 磁場を全く持ってないこと、つまり金属核をもってないらしいと言う。また、 もし、過去に内部が溶融したことがあれば地表から内部へと密度が上昇する はずであるが、衛星に近接して過去7回通過したガリレオ衛星による重力分布測定 によれば、その変化は検出できなかった。つまり、層状構造が見つからなかった。 これは極めて生じにくい現象と考えられる;つまり、木星の近くで潮汐力による 加熱もなく、隕石などの衝突による加熱もなく、内部に多少は存在する放射性 元素による崩壊加熱もなかった。これは理論家に残された大きな課題と思われる。(Ej)
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