AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 11, 1997, Vol.276


HIV-1が細胞に侵入するのを阻止する(Breaking HIV-1 entry into cells)

ヒトの細胞がヒト免疫不全症ウイルス-1型(HIV-1)に感染することが、ケモカイン 受容体であるCXCR4(Fusin)やCCR5によって促進されている。2つの報告が、この CCR5の機能を阻止することによってウイルスに対する抵抗性を達成し、その結果 は治療に役立つであろうと言うことに焦点を当てている。CCR5補助因子を利用し たマクロファージ-栄養性HIV-1に対する抵抗は、CD4+T細胞をCD3とCD28に対する 固定化した抗体によって活性化することによって誘発され得る。Carrolたち(p. 273)は、このような活性化はCXCR4/Fusinの転写を上方制御するが、CCR5に対する 転写物は検出されないことを示した。ケモカインRANTESはCCR5と相互作用をし、 その結果感染を阻止することができるが、効率的と言う訳ではない。Simmonsた ち(p.276)が示したところによれ ば、RANTESのアミノオキシペンタン(aminooxypentane)誘導体はナノ-モル程度の 濃度において(in vitroで)マクロファージとリンパ球のHIV-1感染を阻止するのに 有効である。(Ej,Kj)

酸素が欠乏して(Out of oxygen)

ペルム紀(2億5千万年前)の終りの生命の絶滅は、化石に残された記録の中では最大のものである 。大洋の深部における無酸素状態が、もっともらしい理由として示唆されてきている。しかし、こ の時代の記録である露出岩石の多くは、浅い淵で堆積したものである。Isozaki (p. 235)は 、一つは日本、もう一つはブリティシュコロンビアにおける、深い海洋の堆積物の二つの断面につ いて記述している。それらは、少なくとも、広大な旧太平洋は、深いところでは無酸素状態であり 、従って、生命の絶滅の時代の前後の2千万年に達する期間、旧太平洋は成層化していたことを示 している(つまり、連続して海底にあった)。(Wt)

濡れた溶融物を捕まえる(Trapping wet melts)

珪酸塩の溶融物に水を加えると、その物理化学的特性(その密度や溶融物が冷却するとともに結晶化 する鉱物の順序)は影響を受ける。水の豊富な溶融物について(これは、地球の上 部マントル中の、結晶水を含む部分的な溶融物と同等なものである)、高圧下で実験的にこれらの特 性を研究することは困難であった。Kawamoto と Holloway (p. 240)は、マルチアンビル装置中 の溶融物を捕らえることができた。そして、結晶水を含むマントルの橄欖(かんらん)岩を、11GPaに至る圧力 まで調べた。彼らの結果によると、マントルのマグマのダイナミクスにおいて、水の役割を理解す るのに必要な、ある基本的な相平衡があることが判った。そして、あわせて、彼らは地球のマント ル中の非常に深いところに由来し、また部分的には水和の効果に由来すると推定されている、より まれな塩基性岩石の起源も与えている。(Wt)

3つで十分混雑(Three are crowded)

3重接合部は3つのテクトニックプレートがくっついている場所であるが、この 3重接合部の進化と変化はプレートテクトニクスの幾何学の鍵となる変遷を記し ている。Ligiたち(p.243)は、南大西洋において、現在進行中のこのような変遷を つかまえるために、色々なデータを利用した。この地域においては、大西洋中央 海嶺を犠牲にして南極プレートが拡大している。(Ej)

積木(Building blocks)

生命の起源を理解する上で、炭素がより大きな分子に固定されるための反応と条件を はっきりさせることは重要である。いくつかの実験によって、Huberと Waechtershaeuser(p.245;およびCrabtreeによる展望、p.222)は、鉄ニッケル硫化 物が存在することによって一酸化炭素が炭素-炭素結合反応が触媒作用を受けるこ とを示した。これらの硫化物がセレンを含有していると、典型的な低温熱水系に おいて、COは硫化水素と反応して酢酸を形成する。(Ej,Kj)

強誘電性メモリ(Ferroelectric memories)

強誘電性電界効果型トランジスタ(FET)は、スイッチがオフになっても記憶を保持 できるような能動的デバイスの材料となる可能性がある。このようなデバイスは 1950年代に考えられたが、材料の制約から実用性は制限されていた。Mathewsた ち(p.238)は、最近大きな磁気抵抗効果を示すことが分かった希土類マンガン酸塩 を強誘電性FETの半導体チャンネル成分として利用することで、デバイス性能を向 上させうることを示した。(Ej)

ドーパミンの欠乏したニューロン(Neurons sans dopamine)

パーキンソン病は中脳のドーパミンニューロンの退化に起因する。 Zetterstroemたち(p.248)は、ドーパミン発現がまだはっきりしない発生の極初期 において、オーファン核内受容体Nurr1の発現に依存していることを示した。 Nurr1を欠くマウスは中脳のドーパミンニューロンを作ることが出来ず、活性不全 で、生後すぐに死亡した。Nurr1のリガンドは依然不明のままであるが、Nurr1は、 この重要なニューロンの発生と維持に有意であることの証明になるかも知れない。 (Ej,Kj)

脂質Aの制御(Regulating lipid A)

細菌性病原性遺伝子の発現は、宿主の環境に反応するように制御されている。 Salmonella-typhymuriumのPhoP-PhoQタンパク質は40以上の遺伝子を制御しており、 この内のいくつかは、抗菌性宿主ペプチドに対して防御する。Guoたち(p.250)は 質量分析を利用して、PhoP-PhoQタンパク質が、リポ多糖(LPS)の1成分であ る"脂質A"の構造修飾の制御もすることを示した。この修飾体は、培養された宿主細 胞中でLPSが刺激するサイトカインの発現を変化させる。(Ej,Kj)

骨の処分(Bone disposal)

骨は常に形成されたり再吸収されたりしながら変形する動的な構造体である。ど のようにして大きな多核細胞である破骨細胞が、分解された骨を処理するかにつ いて、2つの顕微鏡による研究報告がなされている(MostovとWerbによる展望、p. 219)。骨に付着している破骨細胞は、波状の縁膜を含む封着されたゾーンを形成 しており、これは酸と消化性酵素を分泌する。NesbittとHorton(p.266)および Saloたち(p.270)は骨蛋白質を標識し、分解されたコラーゲンのような生成物 は波状の縁膜にある小胞中に取り込まれ(エンドサイトーシス)、細胞を 横切って輸送され、そこで細胞外間隙に放出される。このような小胞による輸送は 再吸収プロセスも制御しているのかも知れない。(Ej,Kj)

壮大な規模での自己組織化(Self-assembly on a grand scale)

分子の自己組織化の原理を拡張することによって、即ち、分子の自発性の自己会 合によってミリメートル大の大きさの中規模の対象物を作らせることによって、 Bowdenたち(p.233)は、複雑な2次元パターンを制御しながら自己組織化させた。 これには、異なる性質の表面が持つ水和性と毛細管力の差が利用され、液体-液体 界面にパターンが形成された。つまり、構造のユニットとなるミリメートルサイ ズの部品を分子的メカニズムで作り、次に、これらの部品を、液体界面で次々会 合させて、数10センチメートルサイズの構造体をアセンブルさせる。この原理を 応用して、光バンドギャップ材料、光メモリなどの関連した微細加工物の構造を 作ることができるであろう。(Ej)

系統発生と生物学(Phylogenetics and biology)

現代生物学に影響を与えている系統発生の研究について1つの記事(Hillisによる 展望、p.218)と3つの論文(p.227;p.253,p.256)が報告されている。多様な生物種 におけるゲノムの配列の比較によって、どの系統がどの系統から進化したかの仮 説が立てられ、議論がなされている。この種の解析は、異なる患者のヒト免疫不 全症ウイルス-1型の系統の関連性を実証すると言う法医学的な利用から、そもそ も真核生物がどこから来たのか、と言う古来の疑問にまで応用されている。 HuelsenbeckとRannala(p.227)はこれら分析の概念的の基礎、仮定がテストされる べき統計的検定、そして現在見つかっている多様な応用についてレビューを行っ ている。生物間におけるゲノムDNA配列の比較を用いて、進化中に関連の生物 が群れをつくる過程を解明するために進化の問題に今までは応用されてきた。 これとは異なり、PierceとCrawford(p.256)は、系統発生分析を代謝経路の研究に応用した。 ある種の酵素濃度は、 環境に適応した結果その濃度値を持つと思われているが、ある魚類の解糖系は、 むしろ、種の分化の度合に応じた酵素濃度値を持っている。Becerra(p.253)は、 昆虫と植物の共生におけるホスト植物と昆虫分化について、考察し、植物食性昆 虫によってホスト植物の進化が大きな影響を受けること、昆虫の役割は系統発生 による自然分化の傾向より大きいことが分かった。(Ej)

シナプス小胞のリサイクル(Recycling synaptic vesicles)

ニューロンからの神経伝達物質放出は、原形質膜と共に神経伝達物質を含んでい るシナプス小胞と原形質との融合によって完結する。小胞膜は、次にエンドサイトーシスに よって回収され、これに神経伝達物質が補充され、そして再利用される。 Shupliakovたち(p.259)は、このようなエンドサイトーシスがタンパク質ダイナミ ンによって促進されるメカニズムを探索した。特に、特定の他のタンパク質の配 列(Src相同3、あるいはSH3領域、として知られている)に結合するダイナミンの プロリンに富む領域が、シナプス小胞の再利用には不可欠である。彼らの結果に よれば、クラスリンに覆われた小胞を経由したエンドサイトーシスが、小胞膜の 回収と、それに引き続く神経伝達物質の放出には必要であるように見える。(Ej, Kj)

記憶場所(Memory location)

正常なヒトの脳の機能に対応した画像化法によって、認知神経科学者は、例えば形に 対応して脳のどの場所に記憶されるのか、と言った心理的概念を研究することが 可能になった。過去の研究によると、異なった実験概念のために、身近なものの 検索に使われる領域と、新規なものの記憶に使われる領域とは、時として、矛盾 した結果を示していた。Gablieliたち(p.264)は、以前、記憶に重要な役割を果し ていると言われていた海馬体内の領域を調べた。それによると、検索は海馬台の 活性化に付随しており、記憶は海馬傍回の活性化に付随している。(Ej)

マントルの部分溶融(Partial melt of mantle)

マントルは大部分が固体であるが、ダイヤモンドを含むキンバーライトは、高圧 のマントル内部から、化学的に非平衡の状態のまま急速に上昇して来たと信じら れてきたが、そのメカニズムはよく分かってなかった。KawamotoとHolloway(p. 240)は、H2Oで飽和されたペリドタイトは、5-11ギガパスカルにおいて、1000度C のすぐ上の温度に固相線を持っていることを示した。これは、キンバーライトと 類似の成分であり、このことから、150-300km深部のH2Oに富むマントルにおいて 低温溶融したキンバーライトが上昇して来たものと言えるかも知れない。(Ej)
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