AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 4, 1997, Vol.276


インテグラーゼの構造から見たシスとトランスの機能(Structural clues to cis and trans integrase function)

部位特異的組み替え酵素は、DNA鎖の交換の触媒をする。この 酵素ファミリーが提示している疑問点の1つに、2つのDNA鎖と4つのリコンビナー ゼモノマーの複合体の形成時において、ある種のインテグラーゼは隣接部位(シ ス)のリン酸に作用するのに、別のインテグラーゼは対向位置にある(トランス) リン酸に作用する、ということがある。Kwonたち(p.126)によって報告されたλイ ンテグラーゼの触媒コアの結晶構造によると、折り畳み構造が 保存されており、 攻撃性ヌクレオファイル(求核体)のチロシン-342は、他の触媒性残基を含ん でいる塩基性の溝の対向位置から20オングストローム離れたフレキシブルなループ上に 存在している。展望記事においてJayaran(p.49)は、ループ長が異なることによっ て、どうしてリン酸のシス部位やトランス部位の攻撃パターンを説明出来るか、 を示すことのできるモデルの結果にいて議論している。(Ej,Kj)

異常物質(Abnormal matter)

最も古い星は何歳だろうか? Visser(p.88) は、古典的な一般相対論から導かれるエネルギー条件 と、現在受け入れられているハッブルパラメータ(宇宙において距離とともにその膨張速度が変化 する割合)の値と、古い星の観測を用いて、この疑問に答えようと試みている。かれは、正常な物 質のいかなる組み合わせも受け入れられているハッブルパラメータの値の範囲とは両立し得ないと 結論している。大量の異常物質か、初期の宇宙の構造を記述する理論の根本的な変更が求められて いる可能性がある。(Wt)

熱く波打つ逸出圏(Hot, wavy exospheres)

ボイジャーを送り込むことにより、巨大な外惑星の逸出圏は、何らかの太陽によるメカニズムによ って説明できないほどに熱いことが決定できた。ガリレオ探査機から得られた上層大気の熱的なプ ロファイルは、熱い木星の逸出圏の存在を確証した。探査機のデータの品質をさらに向上させて、 Seiff たち(p.102) は、圏界面(対流圏と成層圏との界面)上では、木星の熱的なプロファイル 中に波状の振動が持続していることを示した。二つのレポートは、木星の逸出圏の波と高温に対し て説明を与えている。この現象は、他の外惑星では直接的な観測はほとんど無いが、これらにもま た適応できる可能性がある。Waite たち(p.104) は、ROSAT衛星により観測された赤道上のX線放射は、重イオンの突入によって引 き起こされていることを示唆している。これは、また高温化のメカニズムをも与えていることとな る。Young たち(p.108) は、観測された探査機の振動は重力波とつじつまがあっており、これ らの波の粘性による散逸が過剰な熱を産み出すことを示唆しいる。(Wt)

エアロゾルとスモッグ(Aerosols and smog)

ガソリン蒸気から出る有機物分子は、都市のスモッグの本質的要因である有機物 エアロゾルの形成に重要な影響を及 ぼしているが、今日まで有機混合物の 潜在的エアロゾル形成能に関する知 見は限られていた。Odumたち(p.96;およびKaiserによるニュース解説p.33)は、色々 な混合物からなるスモッグのチャンバーを太陽光線で照射し、このエアロゾル形 成能力を分析した。その結果、ガソリン蒸気からの芳香族成分の総和がエアロゾ ル形成の潜在力として寄与することがわかった。これらの結果は、モデルを考え る助けになるであろうし、都市のスモッグの因子を理解する上で役立つであろう。 (Ej,Kj)

深海の混合(Deep ocean mixing)

深海における海水混合の規模とパターンは、化学物質や栄養分のリサイクル、そ して熱の流れを考える上で影響があるが、これらのプロセスの詳細なデータは希 にしかない。Polzinたち(p.93)は、南大西洋のブラジル海盆における深海の混合 について調べるために大規模な調査を行い、これを報告している。それによると、 中央大西洋海嶺(Ridge)のような海底地形を有する場所では、海水の混合は増強 されているが、海深の変化が大きい海底地形の上での混合は小さい。(Ej,Nk)

アルカン物質(Alkane metathesis)

反応系の分子間で化学グループの交換を含むようなメタセシス(metathesis)反応は、ア ルケンやアルキンにおいてよく知られている。Vidalたち(p.99)は、より反応性が 低いアルカンにおいても、このメタセシス反応が生じることを示した。彼らは、 穏やかな条件のもとで、遷移金属水素化物触媒を用いて直線状や分岐状アルカン を、より低次や、より高次のアルカンに変換した。このような反応は、比較的豊 富な低次アルカンを高分子量の炭化水素に変換するのに使えるであろう。(Ej,Kj)

TRAILの上は熱い(Hot on the TRAIL)

腫瘍壊死因子(TNF)のようなある種のサイトカインは、 アポトーシス、つまり、プログラムされた細 胞死を促進させる。ガン化細胞系に死をもたらすが、ヒトの多くの正常組織に は毒性を持たないように見えるこのTNFファミリーの1つであるTRAILは、癌治療に利用できる かも知れないと言うことで注目を集めている。Panたち(p.111)は、このTRAILの受 容体を同定したことを報告している。これは、他のTNF受容体ファミリーメンバー と類似点を持っているが、別の機構によって細胞死を促進させるらしい。(Ej, Kj)

生物学的な目盛り(Biological scale)

生物学においては、例えば、エネルギー消費率、細胞代謝、心拍、胚成長、個体 数増加、寿命などの様に体重との間に「べき法則(power law)」が成り立つような、 スケール則がいくつか知られている。しかし、これらの物理的な原因については 殆ど分かってない。Westたち(p.122;およびWilliamsによるニュース解説,p.34)は、 非比例的目盛り則(allometric scaling law)の汎用的モデルとなりうる、生物 学的なプロセスの記述方法を開発した。彼らはこの手法を脊椎動物の心血管系に 当てはめてみたが、他の多様な系についても当てはまることが予測される。この モデルは分岐チューブのフラクタルネットワーク理論に基づいており、エネルギー 消費最小則の仮定から成り立っている。(Ej)

保存された鉱物(Preserved minerals)

地殻の中のSiO2の一般的な形は石英であるが、非常に高い圧力の元では、それはコーサイトに転位 する。表面に現在露出している変成岩中で、コーサイトが微量に含まれていることが見出された。 そして、このことは、これらの岩石がかつては100kmかそれ以上の深さに埋没していたことを示し ている(Liou たち による展望(p.48)を参照のこと)。Darling たち (p.91) は、高圧下で存 在する変成岩中に、Si02の低圧で高温時の形態であるクリストバル石が存在することについて述べ ている。この鉱物は、補足されたメルトから形成される可能性がある。そしてそれが保存されてい ることから考えると、ほんの僅かな水分が混じり込むだけで十分であるように見える。(Wt,Og,Nk)

制御して、進めたり遅らせたり(Regulated up and down)

昆虫の変態はエクジソン(ecdysone)ホルモンによって制御されており、時間と共 に慎重に制御された一連の発生イベントに依存している。Whiteたち(p.114)は、 この制御の基礎となる分子レベルのイベントを分析した。ホルモンに誘発された オーファン核内受容体と、これらが制御する遺伝子は、複雑で入り組んだ相互作 用体系を作り、その中で、受容体はある時は正の、また別の時は負の制御装置と して働く。その結果は、よく整合の取れ、詳細に調整された、遺伝子の一連で連 続した発現となる。(Ej,Kj)

フェロモン経路(Feromone pathways)

接合フェロモンに応答して、酵母細胞は細胞骨格(cytoskeleton)の大きな構造的 再編成を受ける。フェロモン受容体からのシグナルは、Cdc42pを含む、小グアノ シントリフォスファターゼのRhoファミリーのメンバーを通じて伝達される。しか し、このCdc42pによって制御されているタンパク質が何であるかは知られていな い。Evangelistaたち(p.118)は、このCdc42pの標的であろうと思われるBni1pと呼 ばれるタンパク質を同定した。Bni1pは、Cdc42p, 代表的な構造タンパク質であるアクチン , および2つの別のアクチン関連タンパク質と相互作用をすることが分かった。 このようなタンパク質複合体は接合 突起の先端に存在しているが、フェロモンによって活性化された情報伝達経路を アクチン細胞骨格の 再編成へと連結するのに役立っているのであろう。(Ej,Kj)

NMRによって決定した膜を貫通する構造(Transmembrane NMR structure)

MacKenzieたち(p.131)は、NMR(核磁気共鳴)法によって、グリコホリンAタンパ ク質の膜貫通領域の構造を決定した。この40-残基ペプチドは、水性の界面活性剤 ミセルに可溶化された。このモノマーは、 らせんを形成能の低いアミノ酸 を数多く有するにもかかわらず、αらせん体を形成し、そのモノマー間の界面は、 水素結合ではなく、ファンデアワールス相互作用によって安定化されている。( Ej,Kj)

銀河の生成(Formation of Galaxy)

アインシュタイン重力(古典的一般相対論)のエネルギー条件は、特定の状態 方程式に固定することを求めてはいない。フリードマン、ロバートソン、ウォルカー 宇宙においては、宇宙流体の状態方程式は不定であるが、エネルギー条件から は赤方変移の簡単な関数となる。現状の観測から考えると、「強いエネルギー条件」 は銀河形成時以降のあるときに破られている可能性がある、と、Visser(p.88)は 報告している。つまり、通常物質では、どんなに組み合わせても観測データを満足 しないようである(Ej)。
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