AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 18, 1996, Vol.274


木星のガリレオ(Galileo at Jupiter)

本誌の特別の節(p. 377から始まる)では、ガリレオオービターによる木星とその衛星であるイオ 、エウロパ、ガニメデの観測結果に焦点をあてている(Kerr による解説記事p. 341を参照のこと) 。リモートセンシングを預かるチーム(Belton たち, Carlson たち, および Orton たち )は、いくつかの波長で得られた画像を用いて、次のことを示唆している:(i)大赤斑は大気の 浅い所の嵐であること、(ii)イオは活発に噴火していること、(iii)ガニメデは、表層の地下に存 在するであろう流体層に関係するような割れ目を伴う、氷の薄い層によって覆われていること、 (iv)エウロパは、その氷の表面下からのガスを大量に含む岩石からなる混合物の脱気あるいは噴気 に関連している可能性のあるいくつかの割れ目を有しいること。磁力計による測定(Kivelson たち ),粒子およびプラズマ波に関する実験(Frank たち, Gurnett たち, Garrard たち, および Williams たち), そして塵探知器による観測(Grun たち)は、イオと木星の間の複雑 な電磁的相互作用に焦点を当てている。(Wt)

木星の光(Jupiter's lights)

空間的および時間的分解能を有する木星の南北のオーロラの紫外光の像が、ハッブル望遠鏡と国際 紫外探査機によってもたらされた。 Clarke たち(p. 404) と Ballester たち (p. 409) は、主要なオーロラは、地球のオーロラとは異なり、非常に変化しやすいことを見出した。これは 、木星の磁気圏は木星の回転により駆動されており、オーロラの形態をコントロールしているを示 している。この形態は太陽風により支配されている卵形体をしたオーロラ圏とは異なっている。 Clarke たちは、木星の月であるイオからの痕跡である放射は、オーロラの像の中では不変であ ることに注目している。これは、イオには木星のオーロラにその刻印を残すような磁気コアがある とする考えを支持している。(Wt)

抗腫瘍性ウイルス(Anti-tumor virus)

ヒトのアデノウイルスは、宿主がコードする腫瘍抑圧タンパク質p53に結合し失活 させるタンパク質(E1B 55K)をコードするが、これは効率的にウイルスを複製する ためには必須の相互作用である。多くのヒトの腫瘍にはp53が欠失しているが、 Bischoffたち(p.373;およびPennisiによる解説p.342)は、このp53欠失を利用した 治療戦略を開発した。E1B 55K の生産をしない突然変異のアデノウイルスは、 p53欠失の腫瘍細胞に感染することにより、機能的なp53を持っている正常細胞に 比べてこれを100倍も効率的に殺すことが出来る。マウスで増殖させたp53欠失 ヒト腫瘍に突然変異体ウイルスを注射すると、腫瘍の大きさが激減し、時には完 全に腫瘍から回復する。この結果は、突然変異体アデノウイルスはある種のヒト の腫瘍の治療に有用であるを示す。(Ej,Kj)

お仕事中の原子(Atoms at work)

自動車の排気装置用触媒は、多くの工業用の触媒と同様、アルミナのような絶縁材料上を担体とす る遷移金属からなっており、通常、粗くまた複雑な不均一表面を有している。これらの特性は、触 媒の詳細なキャラクタリゼーションを非常に困難なものにしてきた。未解決の問題の一つは、金属 原子の正確な配置と担体物質との相互作用である。 Nellist と Pennycook (p. 413; Jeffersonによる展望記事p. 369を参照のこと)は、ある種の走査型である透過型電子顕微鏡のひと つである、Z-contrast顕微鏡を用いて、アルミナ担体上の白金二量体や三量体、また、小さな浮氷 状のロジウムの原子配置を解明した。このような情報は、担体上に不均一な触媒の反応性を理解す る上では決定的なものである。(Wt)

p53はタバコのガンか?(p53-the smoking gun?)

たばこの煙の成分の1つであるベンゾ[a]ピレンは、知られている中で最も強力な 突然変異誘発物質で発癌物質の1つである。培養ヒト細胞による研究で Denissenkoたち(p.430)は、p53に対するBPDE(ベンゾ[a]ピレン(benzo[a]pyrene) の発癌性代謝産物)の効果を調べた。このp53は、ヒトの肺癌の約60%において 突然変異を受けている癌抑制遺伝子である。p53でのBPDAに誘発された損傷は、肺 癌で突然変異が最も起き易いヌクレオチドで選択的に生じている。この研究によっ て、タバコの特定された発癌性物質とヒト癌の突然変異の直接の関係が解った。 (Ej,Kj)

応答欠如(Response LACKing)

レーシュマニア(Leishmania major)に感染したマウスのある系統は急速な防御反 応を起こすが、別の系統は重症で究極的には致死に至る感染を起こす。Juliaた ち(p.421)は、感染初期のT細胞応答が感染結果に対して決定的な役割を演じてい ることを示した。感受性の高い系統では、応答は1つの抗原(LACK(=Leishmania homolog of receptors for activated C kinase)として知られている)によって 支配されている。この応答はTH2細胞によって仲介されており、マウスは屈服して 感染に至る。感受性の高いマウスの免疫系をLACK抗原に対してブラインドにす る(LACK応答性T細胞が発生しないように、胸腺でLACKを発現させることにより) と、TH1応答は他のLeishmania抗原に対して発生し、感受性の高いマウスから治療 可能な表現型に転換する。(Ej,Kj)

待ち行列に反応して(Reacting on cue)

刺激に対して我々はどのようにして反応しているのであろうか?ヘルムホルツ以 来知られていることによれば、反応時間は長く、しかも変動すること、また、ニュ ーロンの伝導速度が時間の長さや変動に寄与している訳ではないことである。 HanesとSchall(p.427;およびBarinagaによる解説p.344)は、サルの眼球の動作開 始を決定するときのニューロンの発火頻度の変化を調べ、反応時間による変化モ デルに対する神経生理学的な証拠を見つけた。このモデルによれば、反応時間の 変動は、発火頻度が、動作を開始する或る決まった「いき値」にどれだけ早く到 達出来るかに依存しているらしい。また、サルが発火頻度を順次増加させながら 撤回命令の指示を受けるような別の実験では、発火頻度がこの「いき値」を越え ない限り、行動は開始されなかった。(Ej)
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