AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science September 6, 1996, Vol.273


秩序を持つように作られた (Made to order)

Hollingsworth たち(p.1355)は、結晶成長を研究するために、封入された混合物を調べた。こ れらの中では、ゲスト分子はホストの結晶の細孔または層の中に閉じこめられている。かれらは、 尿素の結晶中のn-alkanones か alkanediones は、尿素の格子への適合性に依存して、1次元的 (チャンネルの中で)あるいは3次元的(隣接するチャネルの間で)秩序を持つ超構造を形成する 可能性があることを見出した。平均以上に秩序だった構造では、平板状の付加的な層が成長するが 、秩序の欠けている層では、突出したゲスト分子の、長い六角形の針が成長する傾向にある。(Wt)

マントルの粘性(Mantle viscosity)

最後の氷河期以来、氷河に覆われた地域の地表が、氷が無くなることによって反発し て上昇しているが、この反発の大きさは、深さ方向に変化する地球のマントルの粘性 と氷床の両方に依存している。これら2つの効果 のどちらであるかを推論するには、2つを分けて考えなければならない。Peltie r(p.1359)は、変形する地球の数学的モデルに基づく解析結果を示し、海岸線の上昇 あるいは沈降記録と突き合わせた。解析結果からは、上部マントルから下部マントル への粘性の増加は、以前信じられていたより小さいことが推察される。(Ej,Fj)

コアの問題(Core problem)

ある種の鉄隕石は、小惑星からの金属コアのサンプルであると想定されている。Olsen たち (p. 1365)は、IIIA 鉄隕石内の比較的にまれな珪酸塩含有物を研究した。これは、このクラスのも のの起源について、主要な相の鉄-ニッケルメタル相だけの研究に比べ、より詳細な情報をを与えて くれる。鉱物種の組み合わせと同位体比は、その含有物が下部のマントルのサンプルであるか、あ るいは、多量の鉄が小惑星の下部マントル部分に濃集されていた可能性のあることを示唆してい る。(Wt)

火山性揮発物質(Volcanic volatiles)

活発な火山活動がある地域のマグマ起源の揮発性物質の分布を検出することは、今ま で難しかった。なぜなら、多くの場合、マグマ起源流体は、活発な熱水系において、 大量の天水に浸されてしまうからである。RoseとDavidson(p.1367)は、 炭素同位元素を使って 南Cascade地方の熱水泉を調査結果を示している。マグマ起源の水は古く 、基本的には炭素14を含んでいないため、炭素同位体によって識別できるためである。 Mount Lassenの近くの解析結果によると、マグ マ起源の二酸化炭素が存在する地域は熱水系に広く分布している。(Ej,Fj)

C60 で見る(Seeing with C60)

理論的研究によると、グラファイト表面の点欠陥は、異常な3重対称な電子散乱パターンを示すで あろうことを予言しているが、通常の金属チップの走査型トンネル効果顕微鏡(STM)を用いた研究 では、これは示されてはいない。Kelly たち(p. 1371) は、このパターンは、STMチップに一 つのC60分子を吸収させることにより、チップの状態密度を変化させれば観察できるであろうことを 示している。(Wt)

腸の発生(Gut development)

哺乳類の腸は、多様な外来性植物相、つまり共生細菌の宿主としての役目を果たす。 では、これら腸内の微生物は宿主に何らかの寄与をしているのだろうか? Bryたち (p.1380)は、無菌状態で育てられたマウスは、通常の状態で育てられたものに比べて 、異常な腸上皮性糖鎖形成が見られることを示した。ミクロフローラの単一成分であ るBacteriodes thetaiotaomicronを導入することで、正常状態に戻るだけでなく、フ コースで成長出来ないこの細菌の突然変異株は複合糖質の正常なパターンを回復しない 。従って、常在性細菌相は、腸の上皮細胞分化の完了に必須であるように見える。 (Ej,Kj)

腫瘍形成プロセスを逆にする(Reversing tumorigenesis)

腫瘍の発生は、細胞が形質転換状態を維持することを助ける一連の遺伝的変化を蓄積 したときに起きると思われている。Ewaldたち(p.1384)は、SV40 T 抗原遺伝子を発現 させることが出来たり、させなく出来たりするトランスジェニックマウスモデルでの 腫瘍形成の可逆性を研究してこの仮説をテストした。マウスの顎下腺でのT抗原の発 現によって、腫瘍生成に先立つ特徴的な細胞変化が見られた。これらの変化は、T抗 原を発現後4カ月で取り除いたときには逆転させることが出来たが、発現後7カ月では そうは行かなかった。これらの結果から、初期の形質転換する刺激が取り除かれた後 も、細胞は形質転換状態を逆転させないような変化を獲得する、と言う、時間依存的 腫瘍形成モデルが支持される。(Ej,Kj)

小荷物受容体(Cargo receptors)

細胞内では、輸送小胞を発芽させたり融合させたりしながら、多様な細胞小器官が内 容物を交換している。例えば、このような輸送が、小胞体からゴルジ複合体へ、ある いは、その逆へと起きているかもしれない。この小胞の管腔内にパッケージされてい る物を制御する機構については解っていない。Fiedlerとその同僚たち(p.1396)は、 輸送小胞膜の荷物受容体(cargo receptor)は、分泌性経路を通って、輸送を前向きに 進めるか後ろ向きにするかを決めるために、特別の皮膜成分と相互作用している、と 言う証拠を示した。(Ej,Kj)

シナプス再造形(Synapse remodeling)

神経はシナプスで互いに相互作用をしている。シナプスの強さは、学習や記憶で役割 を演じていると思われているシナプス可塑性として知られているプロセスによって変 わり得る。神経栄養性因子はシナプスの可塑性を誘発する。KangとSchuman(p.1402) は、ニューロトロフィン誘発性シナプス可塑性を仲介する機構は、他の可塑性と異な り、関与するニューロン内で新しいタンパク質が合成されて、これにより 特別のシナプスを再造形することが必要であることを示した。(Ej,Kj)

コヒーレントな励起子波(Coherent exiton waves)

励起子は、励起した電子とホールの対からなる中性の量子であるが、これは、10 オングストロームの穴でも通過できる。そのためトンネル効果顕微鏡などに応用され ているが、その動きは弾道軌道を基本としていた。ところが、フランスのPalaiseauチーム とカナダのオタワ大学チームの共同で、この励起子をコヒーレント化することに成功 した、と言う。David Snoke(p.1351)の解説記事によれば、固体(Cu2O)の1方から 波長532nmのレーザー光を当てて励起子を発生させ、これに直交する方向から、波長 604nmのレーザー光で、励起子を増幅かつコヒーレント化させることに成功した。 励起子は質量を持つ数少ないコヒーレント波の1つであり、かつ極めて狭い穴を 通過できることから、今までにない応用が期待されている。(Ej)
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