AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 12, 1996


銅による年代史 (Copper chronicle)

グリーンランドの氷の層は、過去数千年の銅汚染の記録を保存している。Hongたち(p .246;およびNriaguによる「展望」参照p.223)は、古代ローマや中世中国の銅生産を含 む時代別の空中への銅放出総量と、氷中の銅濃度を関連づけることが出来た。初期 の精錬法は極めて非効率で、産業革命以前の銅の総排出量は、それ以後の総排出量を 1桁上回る。(Ej)

大急ぎの中の小さな波 ( Little waves in a big hurry)

大洋のロスビー波は、大陸の東側境界と大洋内部における風力と浮力に対する大きなス ケール での応答の現われである。これらの波は、長い波長でかつ小さな高さ変動(10cm以 下)で 、非常にゆっくりと伝播するため、検出が困難であった。 Chelton and Schlax (p. 234 )は、 TOPEX/POSEIDON衛星高度計を用いて、3年間ロスピー波を観測し、これらの波は予測さ れるよ り早く伝わることを見つけた。これは、大洋は私達が考えていたよりも速く応答するこ とを意 味している。これらの観測は、気候変動の意味を明らかにするために用いられている大 洋循環 のモデルの改良を促すであろう。

ゆっくりとした回復 (A slow recovery)

酸性雨の影響を減らそうとする努力の多くは、二酸化硫黄の排出を減らすことに注が れている。しかし、硫酸塩排出が減少しているにもかかわらず、Likensたち(p.244; およびKaiserによるニュース解説p.198)は、ニューハンプシャーで、蒸気のpHがそれ ほど回復していないことを示す長期に渡る研究データを提示した。カルシウムやマグ ネシウムのような塩基性陽イオンの土壌からの流入は、それ以前の酸性化によって減少 し、空中の粒子を源とする流入も減少している。著者たちは、たとえ1990年改正の米 国空気浄化法の規制による硫黄酸化物の減少があっても、流域の完全な回復には至ら ないであろうと言う。(Ej)

宇宙からのフラーレン? ( Fullerenes from space?)

最も規模が大きく、また最も古い衝突クレーターの一つである、Sudbury の衝突構造に おいて 見つけられたフラーレンは、衝突の事象の前か、それともその最中か、あるいはその後 であっ たのだろうか? Becker et al. (p. 249)は、それらのSudburyのサンプルの一つから、 フラー レン内部のヘリウム(He)を同定した。Heの同位体の比率と、フラーレン内部にガスの閉 じこめ ておく間は、比較的高いHeの蒸気圧が必要なことに基づいて、かれらはこのHeの豊富な フラ ーレンは、衝突の前の火球の中に存在しており、それゆえ地球外に起源を持つものであ ると示 唆している。

個々の励起 ( Individual excitement)

分子の分光は、通常は膨大な個数の分子の個々のスペクトルの平均である。特別の環境 による 単独の分子間の変化は低温かあるいは近傍フィールド用のプローブを用いることによっ て見る ことができる。しかし、その様な方法と条件は、測定そのものを乱す可能性もある。 Ma cklin et al. (p. 255)は、室温の界面における単独の分子の分光を行った。染料の分子はレー ザーに よって励起され、それらの個々の蛍光は暫くの間追跡することができた。放射スペクト ルの分 散と、異なる単独の分子の励起状態における寿命とは、界面に対する相対的な方位と位 置とに 関連付けることが可能であろう。

周波数による反転 (Frequency flip)

液晶の整列を変化させるには外部電場が利用される;この効果がディスプレイ技術に 利用されている。液晶の整列は、ポリマーの物性を制御する手段としても魅力的である 。 Koenerたち(p.252)は、印可するAC電場の周波数変化に反応して、その整列方位が90 度回転するネマチック液晶を開発した。加電した後、分子は整列方位に重合してロック される。(Ej)

非分裂に注目 (Undivided atention)

ネズミ白血病ウイルスのようなRNAウイルスは遺伝子治療に使われるが、それは、 標的遺伝子を宿主のゲノムに組み込むことが、欠陥を永久的に修正する可能性を持って いるからである。しかし、レトロウイルスベクターの組み込みには分裂細胞系が必 要である。ヒトの免疫不全ウイルス(HIV)のようなレンチウイルスは、非分裂細胞の ゲノムに組み込まれるレトロウイルスである。Naldiniたち(p.263;表紙、およびCohe nによるニュース解説p.195)は、非複製HIVベクター(ウイルスコートやその他の鍵と なるタンパク質を生産することが出来ないベクター)を利用して、ヒトの1次培養マ クロファージやラットの脳ニューロンを含む非分裂細胞をトランスフェクションした。( Ej)

老化現象の手がかり (Clues to aging)

ワーナー症候群(WS)患者は常染色体性劣性不全で、加齢に伴う多くの病気を早期に生 じ、これらの患者の細胞の複製寿命は、彼らの歳の割には短い。Yuたち(p.258; およびPennisiによるニュース解説p.193)は、WSの遺伝子をクローン化し、WS患者に4つ の 突然変異を見つけた。この遺伝子は、おそらくDNAヘリカーゼをコードしており、DNA代 謝 の欠陥が病気にかかりやすくしているのであろう。(Ej)

新しい細胞の形成 (Forming new cells)

Saccharomyces cerevisiae (酵母)の細胞は出芽し、これが娘細胞に成長して再 生産する。新しい細胞壁が形成される所は出芽の部位に限定されている。Drogonovaたち (p.277)とQadotaたち(p.279)は、成長中の芽体の先端でアクチンと共に局在している 小さなグアニンヌクレオチド結合タンパク質であるRhoが、β(1→3)glucan synthase の活性を直接規制することで、新しい細胞の形成を制御する行為をしていることを 示した。この酵素は細胞壁の主要成分を生産している。「展望」において、Bussey (p.224)は、この発見と、形態形成の制御との関係について議論している。Rhoは、 哺乳類の細胞にも存在するが、そこでは細胞骨格と細胞膜接着部の細胞外基質と の相互作用を制御する機能を果たしているのかもしれない。(Ej)
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