AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 5, 1996


幼児下痢とロタウイルスワクチン (Infant diarrhea and rotavirus vaccines)

ロタウイルスによる幼児感染は急性下痢を起こし、そのため発展途上国 においては、毎年百万人もの幼児が死亡している。ロタウイルス感染の経口 ワクチンが開発されてはいるが、そのいくつかは全ての人に有効なわけではない (修飾された生の経口ワクチン)か、あるいは4つの主要なロタウイルス血清型 にのみ免疫性を発揮する(Glassたちによる「展望」参照p.46)。毒性に関与する ウイルス遺伝子生成物を同定することによって、新たなワクチン投与戦略が出 てくるかも知れない。Ballたち(p.101)は、ロタウイルスの非構造タンパク質 NSP4がエントロキシンの役目を演じ、若いマウスに下痢を起こさせることを示し ている。Burnsたち(p.104)は、マウスの「背嚢腫瘍(backpack tumor)」から分泌 された抗体の防御効果について研究した。ウイルスの内殻キャプシド タンパク質VP6に対する2つの免疫グロブリンA抗体は、ロタウイルス感染を防ぎ、 症状を治すのに有効であったが、 外殻キャプシドタンパク質VP4に対する抗体は、効果がなかった。(Ej & Kj)

最初の起源 (Earliest origins)

類人猿科(猿、無尾猿、人間を含む霊長目の亜目)は4,500万年から5,000万年前の起源 と 見られるが、初期の祖先と、その発生場所はアフリカかアジアかについては論争が続 いている。議論の一つは、最近中国で単独で発見された歯が、本当に初期 類人猿科のものかどうか、であった。Beardたち(p.82)は、陝西(Shaxi)の始新世 岩石から得られた類人猿の新しい属の完全な下顎について報告している。この化石は、 他の霊長目と異なる、原始的で、かつ、派生的な特徴を示している。 (Ej)

超微細な刻印 (Really fine print)

ナノテクノロジーには、より微細な部品の手順化した製造法が要求される。 商業的に生き残れるナノスケールデバイスの製造に有用な技術であるためには、 低コストで生産性が高く、再生産性がきかなければならない。Chouたち(p.85)は、 熱可塑性ポリマーの圧縮成型を基礎とし、25ナノメートルの明瞭な 形状を製造できる技術を示した。この技術は精巧な装置は必要とせず、大面積を 一度に刻印することで高い生産性を可能にする。(Ej & Kj)

C60の触媒 (C60 catalyst)

C60中の炭素原子によるサッカーボール状パターンはIsolated Pentagon Rule (IPR=5角形構造は隣接しない)に従い、これ以外の可能な異性体構造は熱力学的 には比較的不安定と思われる。高エネルギー型は、炭素結合を再配列して IPRを満足するようになるが、再配列経路はしばしば歪を増加させ、高エネルギー 障壁を持つ。Eggenたち(p.87;およびMintmireによる展望参照p.45)は、炭素が 1つフラレーンに付加することが、どのように(エネルギー)障壁を下げ、大き な再配列を引き起こすのかを説明をしている。(Ej & Kj)

レンチを投げる (Throwing a wrench)

例えば野球のボールを投げる時のように腕を動かす時には、その軌跡や速度を意識的 に計算することはない。これは脳が運動の計算を難なくしているためなのか、 あるいは、腕固有の力学的性質を利用して、連続する筋肉の平衡点問題に帰着 するためなのだろうか? GomiとKawato(p.117;およびPennisi によるニュース解説参照p.32)は、多関節の動きの中での腕の硬さを計る機械 について述べている。かれらは、人間によって作り出された腕の速度は、平衡点 が連続的に連なるように制御されていると仮定したときの計算結果に対応せず、 従って、もっと複雑な動き制御の命令が必要であると結論づけている。(Ej & Kj)

均一化されたNMR (Homogenized NMR)

強い磁場は核磁気共鳴(NMR)スペクトルをより鮮明にする。しかし、磁場は10 億分の1の精度で均一でなければならない。そのためには、通常、挟み込んだ 補助コイルが利用される。非常に強い磁石は、高解像NMRには実用的ではない。 Vathyamたち(p.92)は、溶質分子と隣接する溶媒分子のスペクトルの量子干渉を ゼロにして比較することにより、不均質性を除去する、連続検出装置を作った。 この応用の一つに、タンパク質のNMR構造が考えられる。(Ej)

特別な水素結合はない (No special hydrogen bonds)

最近、水素結合が酵素触媒に特別な働きをしている可能性があると提案されて いる:すなわち、H結合のドナーとアクセプターの酸性度(pKa)を同じにすることに よって遷移状態を安定化させるような、低エネルギー障壁の強いH結合が形成され得る 。 Shanたち(p.97)はこの仮説を確かめるために、一連のフタル酸塩置換体のモノアニオン (phthalate monoanions)を非水性溶液に入れて平衡を研究した。H結合生成の 自由エネルギーは、ドナーとアクセプターのpKa値が同じときでも変化しなかった。(Ej & Kj)

縮むセラミックス(Shrinking ceramics)

鉱物やセラミックスは加熱されると通常膨張する。Maryたち(p.90)は、1000 度K以上の温度差に加熱した時、あるいは、固相=固相の相転移の時でさえ収縮する物質 に ついて報告している。この収縮は、複数の格子ユニットが結合して回転することによっ て起きて おり、その結果、非等方性熱振動をもたらす。この性質を利用して、複合材 として、あるいは格子成分の調整によって、熱膨張率が0の材料が作れるであろう。(Ej & Kj)

DNA鎖の突然変異体 (Stranded mutations)

自然界におけるDNAの突然変異は進化の土台となる。DNAはリーディング鎖上 で連続的に複製され、ラギング鎖上では岡崎フラグメントの合成と接続によって 不連続的に複製されるので、ラギング鎖ではより突然変異が集積しやすいと示唆 されている。Francinoたち(p.107)は、大腸菌とサルモネラ菌の野生株の 複数の遺伝子において、リーディング鎖とラギング鎖上のどちらで突然変異が優勢に なるかを調べた。彼らは、突然変異の割合は、リーディング鎖とラギング鎖 とでは差がない;その代わり、コード鎖は非コード鎖に比べてより 多くのC→T置換があることを見つけた。これらの相違は、転写に伴う修復は、 転写された(非コード)鎖上のDNA損傷を対象にしていることを示唆しているのかも 知れない。(Ej)
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