AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 13, 1995


ホメオドメイン(高相同性領域)ヘテロ二量体のDNAへの結合 (Binding of homeodomain heterodimers to DNA)

酵母の MAT α2 ホメオドメイン(高相同性領域)タンパク質はDNAを MAT α1 か、ま たは MCM1 に結合することによって転写を制御している。複合体 a1/α2 も α2/MCM1 も、酵母ゲノムの別個のサイトに結合しており、隣接する遺伝子の転写を細胞型に特異 的な 方法で抑制している。Liたち(p.262)およびAndrewsとDonovielによ る解説(p.251)は、DNAに結合するa1/α2ヘテロ二量体の結晶構造を示した。α2 のCOOH 末端は、α2がDNAのみに結合すると構造が乱されるが、三重複合体中では整列してa1ホ メオドメ インと接触する。このような柔軟なタンパク質の認識領域は、その他多 くのヘテロ二量体の転写因子間の接触を仲介する事が出来るのかも知れない。Jinたち (p.209)は、a1/α2 DNA 結合部位間の適正な間隔とα2尾部の長さについて検討した。

量子計算法 (Quantum computation)

より小さな集積回路を作る方法の一つは量子演算法の採用であろう。その場合0,1の 論理は波動関数で、論理演算は量子状態の重畳(superposition)で表されよう。理論 によれば、量子コンピュータはShorの素因数分解などの課題に強力であると言う。 DiVincenzoによるレビュー(p.255)で、量子コンピュータは極めて高い需要が見込ま れるが、そのためには現在の初歩的段階の量子計算法の大規模な発展が必要となると 言う。

磁気抵抗物質 (Magnetoresistive materials)

新物質を高速に探索するとき、多種の物質の組合せをライブラリー化しておき、 この中から可能性のある物質を迅速に合成しふるい分けをすることが可能である。 Bricenoたち(p.273)は、この手法を用 いて、磁気記録ヘッドの小型化のために注目されている強磁気抵抗を示す物質を探 索した。彼らは大きな磁気抵抗を示す酸化コバルトの一群を発見し、さらに、マンガ ン化合物と異なり、磁気抵抗効果がアルカリ土類イオンの含有量の増加に伴って大き くなることを結論づけた。

上昇している山脈 (Lifting mountains)

どんな力が大きな山脈を押し上げているのだろう?Small と Anderson(p.277)はカ リフォルニアのシエラネバダの層群における侵食と隆起の交互作用を調べ、負荷が 減少した結果、アイソスタシー効果(地殻荷重負荷の均衡化)で上昇したと結論づけた 。彼らのモデルによる と、その地域の頂上部に沿った侵食と、グレートバレーの堆積の両方の作用で、そ の地域を西の方向に傾け、見かけ上、東側を上昇させた。過去1,000万年の間に、 この地域の平均標高が減少したが、頂上部の標高は上昇したようだ。

岩脈の追跡 (Rock vein pursuit)

シュードタチライト(偽玄武ガラス;pseudotachylite)は、多くの場合小惑星の衝 突や断層摩擦による溶融岩から出来た岩脈や岩体である。しかし、これが出来る条件 を実験室では作ることは困難なため、その条件はよく解ってない。Fiskeたち(p.281) は、試料とともに変形するようにしたアルミニウム容器を高速で衝突させる実験によ って歪加熱を行い、シュードタチライトを作った。衝突による加熱の補助手段として、 歪加熱法は衝突現象時の岩石を溶融、変質させるために使われるであろう。

グルココルチコイドのメカニズム (Glucocorticoid mechnism)

グルココルチコイドは免疫抑止剤や抗炎症剤として長年使われてきたが、そのメカ ニズムはほとんど知られてない。Scheinmanたち(p.283)やAuphanたち(p.286;ニュース 記事p.232)によれば、核因子(nuclear factor)カッパB(NF-κB)転写因子は免疫応答に 関与する遺伝子の制御剤であるが、これはGCによって抑制される。またGCはNF-κBの 阻害剤であるIκBαの合成を加速する。余分に合成されたIκBαはNF-κBに結合して、 この活動をさらに阻害する。

心臓タンパク質 (Hearty protein)

大きいとはどのくらいのことだろう?タンパク質の、大部分の分子は180から900のア ミノ酸残基を持っている(20,000から100,000 dalton)。Labeit とKolmerer(p.293、 および、Barinagaによるニュース解説p.236)は、ヒト心臓の26,926残基を持つ(3百万 dalton)タンパク質であるタイチン(titin)の分子クローン化と配列を示した。配列領 域の解析や、いろいろな組織でのメッセンジャーRNAのスプライシングのパターン、そ れに、ほかの通常の筋肉タンパク質の構造を整理したところ、タイチンは2つの機能を 持 っているようだ。その第1は、筋肉中の厚いミオシンを含むフィラメントの 全体的な配置を規定しており、第2に、領域を選択的に発現することから、筋肉毎の異 なった弾力性が説明出来る。

過酸化物の通路 (Peroxide pathway)

血小板由来増殖因子(platelet-derived groth factor=PDGF)のその受容体への結合は、 細胞内の様々なシグナル伝達事象を引き起こす。Sundaresanたち(p.296)は、血管平 滑筋細胞をPDGFで処置すると、細胞内の過酸化水素(H(2)O(2))濃度を増加させる、 と報告している。DNA合成や走化性の増強などの細胞のPDGFへの反応は、H(2)O(2) の増加が阻止されると阻害される。従って酸化窒素のようにH(2)O(2)はシグナ ル伝達に機能するのかもしれない。

音声の部品 (Parts of speech)

スピーチは、音韻の周波数分布だけでなく、次の音韻を作り出すタイミングでも情報を 伝えている。Shannonたち(p.303)は、周波数情報が劣化しても高い精度で音声が認識 できることを示した。彼らは発声された単語や音韻にホワイトノイズを加え,時間的な 順序は保存するようにして、周波数を広帯域の数チャンネルに減らした。母音や子音は この変調されたノイズの帯域がたった3つでも正確に認識出来た。この結果は人間の 脳の中でいかに音声が処理されているかを導くだけでなく、補聴器の設計にも有用で ある。
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