Main content

外部記事

暗闇から全天球で浮かび上がる、鎌倉の人工洞窟内部 古来の人工洞窟内をVRで探索

Written by Quartz 翻訳:高野みどり

エジプトの王家の谷からイタリアのポンペイまで、世界中の考古学者の熱心な働きによって崩壊から救われた重要遺跡がある反面、遠隔地であることや補修費の問題、さらには単に知られていないというだけで、存在が危ぶまれる遺跡も数多くある。

ただ、望みがないわけではない。デジタルアーカイブのおかげで、未来の世代も、鎌倉にある地底伽藍、田谷の洞窟の中を探索することができるだろう。田谷の洞窟では、近年の気候変動による洞内の環境の変化で劣化が進み、何世紀も前に彫られた壁面彫刻の多くは風化あるいは酸化し始めている。しかし、保存には、多額の維持費を要するため、田谷の洞窟保存実行委員会は、VR撮影で洞窟内を記録し、より広くその存在を知らしめようと考えた。パートナーには株式会社リコーを選び、360°カメラ、RICOH THETAを使ったプロジェクトに乗り出した。

田谷の洞窟にいざ入洞

横浜市栄区田谷町の真言宗大覚寺派田谷山定泉寺境内にある正式名、田谷山瑜伽洞(たやさんゆがどう)は、12世紀から18世紀にかけて真言密教の修行僧たちによって作られたと言われる。しかし、鎌倉観光のルートからは少し離れた場所にあり、ガイドブックにもあまり載ることのない知られざる名所である。定泉寺境内にある洞窟への入口は、下の360°写真で見ることができる。

全長約570メートルの洞窟には、ドーム型の空間がいくつかある。その1つの写真を下に載せてみた。内壁には修行僧が苦労して彫り上げた細かな模様がはっきりと見える。暑い夏にはひんやりとして心地の良い洞窟内の照明は薄暗く、行く先が見えるよう参拝客にはろうそくが配られる。下を見ると、壁面から染み出る水の水路として溝が足元に掘られている。気象庁の資料によれば、1時間の降水量が50mm以上の降雨の年間の発生回数がこの10年間で約20倍も増加しており、洞窟の深刻な浸食につながっている。

洞窟内の撮影は一般には禁止されている。それもこのプロジェクトが重要な理由の1つだ。下の空間の端には、壁面の表象の下に文字が彫られている。ズームインすれば、漢字と梵字の両方で彫られているのが見て取れる。

このように詳細わたって歴史的価値のある文化遺産を撮影することにより、委員会とリコーは、有名な観光スポットと比べるとアクセスの良くない田谷の洞窟の認知度向上に寄与したいと考えている。リコーの担当者は、「2015年の国連の持続可能な開発目標(SDGs)の採択時、国際社会が対応すべきいくつかの課題が浮き彫りになりました。これに対応すべく、リコーでは、サステナビリティの確保に向けたいくつかのイニシアチブに取り組んできました。リコーの環境スローガン、「Driving Sustainability for Our Future 」プロジェクトにおいても、従来のオフィスに特化した戦略からより幅広く社会に貢献する分野へと事業を拡大しています」と話した。

同社では、未来の世代に向けて、日本各地の、観光ルートに含まれないものの、重要な史跡の記録を文書化し、認知度の向上に役立てる活動を計画している。

関連記事